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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻1号

2012年01月発行

文献概要

紹介

周辺住民の精神健康に対するチェルノブイリ原子力発電所事故の長期的影響

著者: 北村秀明12 染矢俊幸123

所属機関: 1新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野 2新潟大学災害・復興科学研究所災害医療分野 3新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンター

ページ範囲:P.81 - P.85

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はじめに

 1986年6月26日,旧ソ連ウクライナ共和国(現ウクライナ)の首都キエフの北方130キロメートルにあるチェルノブイリ発電所4号機で,原子力史上最悪といわれる事故(以下,チェルノブイリ原発事故)が発生した。ソ連政府の発表によると,放射線の急性被曝で運転員・消防士あわせて31名が死亡し,発電所の半径30キロメートル以内の住民13万5,000人が避難した。事故後の原子炉は石棺処理されたが,20年以上もの間に石棺の腐食が進行し,今後,100年以上耐えられる新しいシェルターを建造し,既存の石棺を覆う計画だという。国際原子力事象評価尺度ではレベル7(深刻な事故,放射性物質の重大な外部放出)とされ,米国に対抗する超大国,ソビエト社会主義共和国連邦の崩壊の引き金になったといわれる。

 それから四半世紀が経過し,小児甲状腺がんの増加など,周辺住民への健康被害も明らかになりつつある。一方,精神健康への影響が最大の公衆衛生上の問題であると,チェルノブイリ20周年フォーラムなどで明言されていることは,わが国の一般の精神医療従事者の間では十分知られていないように思われる。事故後25周年にあたる今年は,Clinical Oncology誌のチェルノブイリ原発事故特集が組まれており,心理学的影響について論じられていることからも5),関心の高さがうかがわれる。

 原子爆弾による唯一の被爆国として,わが国では原爆被災者の精神健康問題について地道な調査研究12,17,19)が続けられたことは特筆すべきことではあるが,戦争との二重被災という点で,放射線災害とは異なる点がある。単独の放射線事故としては,1999年に核燃料加工施設のJCO東海事務所で2名の方が亡くなる臨界事故が起き,周辺住民の精神健康への影響も心配されたが,事故自体が短期に収束したこともあり,せいぜい事故後1年くらいまでの調査にとどまった2,13~15)

 そのような理由で,今回の福島第1原子力発電所事故が及ぼす周辺住民の精神健康への影響を考える場合,今年事故後25年を迎えたチェルノブイリ原発事故が最も類似した原子力災害となる。そこで本稿では今後の方策立案に参考になればと考えて,このテーマに関連するチェルノブイリ原発事故の疫学研究を概説する。なお,多くのロシア語圏の研究論文が存在すると思われるが,今回紹介するのは,他の総説でもしばしば引用される表に示した英語論文である。チェルノブイリ原発事故発生から調査までの期間の点から,①事故後4年,②事故7年前後,③事故後10年以上の3つに大別できる。

参考文献

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15) 中島聡美,辰野文理:【PTSD研究のフロントライン】東海村臨界事故が周辺住民に与えた精神的影響について 大学生を対象とした事故後1ヵ月時点での質問票調査の結果から.精神保健研究 15:5-10, 2002
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18) Viinamaki H, Kumpusalo E, Myllykangas M, et al:The Chernobyl accident and mental wellbeing--a population study. Acta Psychiatr Scand 91:396-401, 1995
19) Yamada M, Izumi S:Psychiatric sequelae in atomic bomb survivors in Hiroshima and Nagasaki two decades after the explosions. Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol 37:409-415, 2002

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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