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雑誌目次

雑誌文献

精神医学54巻11号

2012年11月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科と一般科

著者: 吉住昭

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 精神科の医師は,誇りあるいは自虐(?)を込めて,精神科と身体科あるいは,精神科と一般科と自らの立ち位置を語ることがある。内科医あるいは外科医が,一般科と内科,もしくは外科と一般科と語るのを聞いたことはない。いわゆるマイナーと称される科でも同様である。そこには,脳とこころという問題だけではなく多くのことが隠されているようにも思えてならない。以下,人,場,時間という切り口から,一般科と精神科をもう一度見直してみたいと思う。

 まず人である。これは,精神科医に一風変わった人間が多いということではない。その昔精神科ジャルゴンとの言葉があり,精神科の医師は独特の表現でよく分からぬことを話す人たちの集まりと語られることもあった。しかし,最近の若い医師と話していると,スラスラと薬物療法,心理教育,多職種チーム医療などと一般的な言葉で話す人が増えてはきている。一方,それに物足りなさや味気なさを感じているベテランの精神科医もいるとは思うが…。人ということを人員という点からみてみる。そこで,一般科と違いになると,精神科特例が登場する。精神科特例は,1958(昭和33)年10月2日の厚生事務次官通達(発医第132号)で,「精神病院を特殊病院と規定し,医師の数は一般病院の3分の1,看護婦数は3分2を可」としたもので,同年10月6日厚生省医務局長通知(発医第809号)では,「医師の確保が困難な場合暫定的にこれを考慮し運用することも可」というものである。具体的には,一般病床の場合に医師は,患者16人に1人(16:1)必要であるが,精神病床(大学病院などを除く)の場合は48:1で可とするものである。50年前のしかも暫定的とされたものが,未だに生き続けている。いったんできたものは,変えるのに大きな困難が伴うということであろうか。最近流行の精神科医師の求人広告をみていると,「当院は受け持ち患者は多いのですが…」に続き,「問題のない患者が多いので」との記載がその後にあった。何やらやりきれない気になってしまう。

特集 アルコール・薬物関連障害

アルコール健康障害対策基本法(仮称)の制定を目指して

著者: 猪野亜朗 ,   長徹二

ページ範囲:P.1069 - P.1077

はじめに

 2006年8月,福岡市職員による飲酒運転が3人の子どもの命を奪ったことをきっかけに,飲酒運転への厳罰化の動きが強まり,酒気帯び運転で検挙された公務員などの解雇が続いた。これに危機感を持ったアルコール関連の3学会は,飲酒運転対策プロジェクト2)を立ち上げて,海外を含めたエビデンスをまとめて,治療と教育の必要性を報告した。また近年,自殺の背景にアルコール問題が潜むことが多いことが明らかになり1),精神科医として日常診療で「アルコール」を見過ごすことが許されなくなってきている。そのほかにも大学生の急性アルコール中毒死などさまざまな社会問題にアルコールは関連している。同様に身体疾患や精神疾患にもアルコールが大きく関連していることが分かってきた。

 アルコールに関連する問題は生活・診療の中でありふれたものであるが,あまり焦点を当ててこられなかった経緯がある。だが,2010年英国薬物関連独立科学委員会が最も深刻な影響をもたらしている精神作用物質は,ニコチンでも覚せい剤でもなく,アルコールであることを明らかにした13)。今こそcommon diseaseとしてアルコール関連問題を振り返り,その課題に向き合うべき時が来たと考える。

 本稿では,アルコール健康障害対策基本法(2012年8月30日時点での仮称:以下基本法)の制定につながる流れや基本法の概略を説明し,精神科医療の現場にどのように影響するかを述べる。

災害とアルコール問題―被災地における中長期的なメンタルヘルス問題

著者: 野田哲朗

ページ範囲:P.1079 - P.1085

はじめに

 2011年3月11日,東日本沿岸部を主として襲った地震は,津波,火災により,あまりにも多くの死者と行方不明者を発生させてしまった。そして,世界を深閑とさせる福島第一原発事故は,今なお放射性物質を飛散させており,県内外を含め多くの福島県民が避難を余儀なくさせられている現実が,災害後(post disaster)という用語を使用しづらくしている。

 我々は,1995年に未曾有の被害と形容された阪神・淡路大震災を経験しているが,遺憾ながら東日本大震災はその被害を凌駕し,被害の様相を大きく異るものとしてしまった(表)。心的トラウマからくるメンタルヘルスの悪化は疑いようがなく,コーピングとして,飲酒が用いられやすく3),今災害の被災地は,飲酒習慣の根付いた漁師町が多く含まれていることからもアルコール問題の重篤化が危惧されるところである。

 震災当初,阪神・淡路大震災の経験が活かされ,避難所には支援物資にアルコール飲料が含まれず,また,流通もストップしたため禁酒による振戦せん妄などの離脱症状が認められたが,総じてアルコール問題の顕在化は少なかったようだ。しかし,仮設住宅に被災者が移り始めた5月,6月頃より,自由に飲酒ができるようになり,アルコール問題が顕在化し始めている。

 震災から1年半を過ぎ,被災者の心理は幻滅期にあることは疑いようなく,中長期にわたるアルコール問題を含めた被災者のメンタルヘルスについて論じる。

自殺予防におけるアルコール対策―アルコールとうつ,自殺

著者: 松下幸生 ,   樋口進

ページ範囲:P.1087 - P.1095

はじめに

 アルコールと自殺および自殺企図などの行動との関連については海外では数多くの文献が発表されており,アルコール乱用や依存症はうつ病と並んで自殺対策の主要な問題であることは当然のこととして扱われる。一方,わが国ではかねてより自殺対策はうつ病一辺倒であったが,2008年の自殺対策加速化プランの中でようやくうつ病以外の自殺に関連する精神疾患としてアルコール依存症にも言及がなされたものの,未だに具体的な施策にはなっていない。いずれにせよ,自殺が深刻な社会問題となっている今日,アルコールと自殺の関係について知識を整理することは今後の対策を検討する上でも必須であることから総説として紹介する。

 アルコールと自殺の関係は単純なものではなく,自殺直前の飲酒,慢性的な飲酒による自殺リスクの上昇,アルコール依存症とうつ病・自殺,アルコール依存症の合併症など多岐に及ぶ。したがって本稿ではまずアルコールとうつ病の関係について紹介し,慢性的な多量飲酒と自殺,自殺直前の飲酒(自殺の手段の一部としての飲酒),アルコール乱用および依存症(アルコール使用障害と総称)と自殺企図・自殺既遂に整理して紹介する。

いわゆる「パーソナリティ障害」症例におけるアルコール・薬物問題をどのように認識し,対応するか―Khantzianの「自己治療仮説」と「信頼障害」という観点から

著者: 小林桜児

ページ範囲:P.1097 - P.1102

はじめに

 精神科臨床の現場で「パーソナリティ障害」という単語は,しばしば「境界性パーソナリティ障害」(以下BPD)の同義語として用いられることが多い。さらにBPDの診断基準に「自己を傷つける可能性のある衝動性…例:物質乱用」(DSM-Ⅳ-TR)1)と記載されているとおり,アルコールや薬物の問題を合併することも少なくなく,実際,海外ではBPDにおける物質乱用の併存率は35%に達すると報告されている3)。しかしBPD患者が呈する慢性的なアルコール乱用や向精神薬の過量服薬は単なる「振り回し」としかみなされず,物質使用障害という観点が援助者の側に欠けていることもまれではない。BPD患者が物質乱用を併存すると自殺の危険性が高まることも指摘されており9),BPD患者における物質乱用の問題の有無について早期に確認し,病態を理解した上で適切に対処していくことは,依存症を専門とする臨床家ならずとも切実な課題といってよい。

 本稿では,いわゆる「パーソナリティ障害」,すなわちBPDにおけるアルコール・薬物問題の理解の仕方について,一つの切り口を呈示し,一般の精神科外来でも可能な対処の原則について論じてみたい。

薬物依存症に対する新たな治療プログラム「SMARPP」―司法・医療・地域における継続した支援体制の構築を目指して

著者: 松本俊彦

ページ範囲:P.1103 - P.1110

はじめに~治療プログラムの必要性
 わが国は,覚せい剤の乱用問題が,第二次大戦後から60年近くもの長きにわたって続いているという,国際的にみても稀有な国だ。それにもかかわらず,わが国の多くの精神科医療関係者にとって,薬物関連精神障害の臨床とは,幻覚や妄想といった中毒性精神病の治療でしかなく,薬物関連精神障害の根本的問題である依存症―「薬物を使わないではいられない」という使用コントロールの喪失―は,単なる「犯罪」でしかない。残念ながら,「薬物依存症は医療ではなく司法で」,あるいは「治療ではなく取り締まりを」と考える者も少なくない。

 そうした見解を反映してか,わが国には,薬物依存症の治療を引き受ける医療機関がきわめて少ないのが現状である。しかも,その数少ない医療機関に,常に薬物依存症の治療プログラムがあるとはかぎらない。仮に入院治療プログラムがあったとしても,外来治療プログラムを持つ施設はきわめてまれである。これでは,入院治療プログラムによる介入効果を維持することが難しい。いかに優れた入院治療を提供したとしても,それだけでは地域生活におけるクリーン(薬物を使っていない状態)は約束されないのである。

 なかには,筆者のこうした見解に異を唱え,「いや,うちの病院では外来治療プログラムをやっている」と主張する精神科医療機関があるかもしれない。しかし,そのような施設でさえも,よくよく話を聞いてみると,アルコール依存症の外来治療プログラムで代用し,たとえば,通院治療のなかで薬物依存症患者が「また覚せい剤を使ってしまいました」と告白した場合には,警察に自首することを提案するといった,いわば「本人の根性だけが頼みの綱」といった治療を行っていたりする。これでは,再使用した依存者は,司法的対応を危惧して外来治療を中断し,結果的に「再使用」という絶好のチャンスを治療に生かすことができないであろう。

 なるほど,外来治療プログラムの代用として,薬物依存症患者をN.A.(Narcotics Anonymous)やダルク(Drug Addiction Rehabilitation Center;DARC)につなげる方法もある。だが,ダルクにつなげば,それで問題解決とはかぎらない。近年では,統合失調症や気分障害,あるいは摂食障害や外傷後ストレス障害を併存する,医療的支援を要する薬物依存患者が安易にダルクに丸投げされ,その結果,当事者スタッフの疲弊を招いている現実もある。また,「ハイヤー・パワー」や「神」といった宗教的な表現が多い12ステッププログラムに抵抗感を抱いて,N.A.やダルクを利用したがらない薬物依存症患者もいる。こうした者に対して,精神科医療者が,「まだ底をついていない」,「否認が強い」と判断し,援助から切り捨ててしまう事態もないとはいえない2)。本来であれば,地域に12ステップ以外の治療プログラムがあってしかるべきだが,現状では,薬物依存症患者の多様なニーズに答える選択肢がないのである。

医療観察法におけるアルコール・薬物問題

著者: 今村扶美

ページ範囲:P.1111 - P.1118

はじめに

 心神喪失者等医療観察法(以下,医療観察法)が施行されてから,7年余りの年月が経過した。この法律は,精神疾患の影響下で重大な他害行為におよび,心神喪失もしくは耗弱と判断された人に対して,裁判所の判断ならびに保護観察所の観察下で専門的な精神科医療を受けさせ,再び同様の行為に至ることを防ぐとともに,社会復帰を支援することを目的としたものである。対象疾患としては,主に統合失調症を想定していたこともあり,当初,物質使用障害は本法の対象とはなりにくいであろうと考えられていた。しかしながら,そうした想定に反し,この間,統合失調症や気分障害などの精神障害に併存する形でアルコールや薬物の問題を抱えた対象者が指定入院医療機関に数多く入院してくることとなった。

 司法精神医学領域の研究においては,かねてより物質使用障害と暴力との間に密接な関係があることが報告されてきた。たとえば,一般人口を対象としたコホート調査によれば,物質使用障害が存在することで暴力のリスクが男性で5.9~8.7倍,女性で10.2~15.1倍に高まる4),あるいは,物質使用障害は男性の暴力のリスクを9.5倍に高め,女性では55.7倍に高まると報告20)されている。

 統合失調症などの精神障害が重複して併存する場合には,物質使用はより一層暴力との結びつきを強くする。精神障害者がアルコールや薬物を1回摂取するだけでも暴力のリスクは2倍に,乱用・依存水準の者では16倍に高まる19),さらには,物質使用障害を伴う統合失調症患者では,暴力全般のリスクが18.8倍,殺人に限定した場合には28.8倍にもなるという報告20)がある。また,このような重複障害患者では,暴力のリスクが高いだけでなく,地域内処遇における服薬のコンプライアンスや治療へのアドヒアランスが悪いことも指摘されている17)

 このような知見からは,医療観察法の対象者,すなわち,他害行為を起こした精神障害者の中に物質使用の問題を抱えた者が多く含まれているのは至極当然のことと言える。そして,医療観察法において,対象者の再他害行為を防ぎ,社会復帰を支援する上で,物質使用の問題に介入することが非常に重要な治療課題の一つであることを意味している。本稿では,独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院(以下,センター病院)医療観察法入院処遇における物質使用障害の実態を報告するとともに,入院処遇中に実施されている治療プログラムについて紹介を行いたい。

薬物依存における新たな動向―多様化する乱用薬物

著者: 嶋根卓也

ページ範囲:P.1119 - P.1126

はじめに

 近年の薬物依存臨床におけるキーワードの一つは「多様化」であろう。現在,「合法ハーブ」,「アロマリキッド」などの俗称で呼ばれる違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)が流行しており,乱用による影響が疑われる意識障害,自動車事故,死亡事例などの報道は後を絶たない。薬物依存臨床には,こうした違法ドラッグを主たる使用薬物とする患者が登場するようになった。

 違法ドラッグとは「麻薬・向精神薬には指定されておらず,それらと類似の有害性が疑われる物質であって,人に乱用させることを目的として販売などがされるもの」と定義される。違法ドラッグという言葉から,法律で規制される麻薬や覚せい剤を連想する方も多いが,違法ドラッグには使用や所持に関する罰則規定がなく,麻薬や覚せい剤とは法的に大きく異なる物質である。なお,人の手によって構造式の一部を変え,法規制を逃れている様を表す言葉としては「違法」よりも「脱法」のほうが実情に近く,本稿では違法ドラッグのことを「脱法ドラッグ」と表記する。

 脱法ドラッグのうち,中枢神経系の興奮もしくは抑制作用または幻覚作用を有する物質であることが確認できれば指定薬物として製造・販売などの流通を規制することが可能であり,依存性評価などのデータが揃えば,麻薬指定が可能である。しかし,こうした規制にもかかわらず,化学構造式の一部を変えた新たな脱法ドラッグが次々と登場し,市場に出回る状況が続いている。

 一方,精神科医により身近な問題として,睡眠薬・抗不安薬(主にベンゾジアゼピン系薬剤,以降BZ系薬剤と表記)といった向精神薬を主たる使用薬物とする薬物依存患者の増加が報告されている。睡眠薬・抗不安薬を主たる使用薬物とする患者は,今や覚せい剤に次いで2番目に多いグループとなった。こうした患者は,気分障害や睡眠障害の原疾患があり,精神科医療などで治療を受けているケースが多い。つまり,快楽を求めて乱用しているという臨床像よりも,不眠・不安などの症状を緩和するために自己判断で増量するうちに服用量が増え,結果として薬物依存に至っているという臨床像のほうが実情に近いと考えられる。また,特定の薬剤を手に入れるために複数の医療機関を多重受診するケースや,処方箋を偽造するケースも報告されている。さらに,向精神薬の過量服薬が自殺の背景となっている可能性も指摘されていることから,向精神薬の適正処方・適正使用が求められているところである。

 本稿では,多様化する乱用薬物として「脱法ドラッグ」と「向精神薬」を取り上げる。筆者は精神科医ではなく,薬物依存の疫学研究を行う薬学出身の研究者であるため,薬物依存の診断や治療について詳細に論じることはできない。そこで本稿では,「脱法ドラッグ」と「向精神薬」に関する疫学研究をもとに,多様化する乱用薬物の動向を概観し,乱用者の心理社会的な背景を論じることで,多くの精神科医と薬物依存に関する新たな情報を共有したい。

HIV診療における薬物乱用問題―総合病院精神科は何をすべきなのか?

著者: 今村顕史

ページ範囲:P.1127 - P.1132

はじめに

 HIV(human immunodeficiency virus)感染症は,かつては「AIDS(acquired immune deficiency syndrome)=死」というイメージの致死的疾患であった。しかし,抗HIV薬による治療のめざましい進歩によって,現在は早期に診断すればコントロール可能な慢性疾患となっている。

 近年,わが国の診療現場においても,HIV陽性者における違法あるいは脱法の薬物乱用が急増してきている。長期療養を続けていく中で起こってくる薬物乱用は,安定した抗HIV療法を妨げる要因となってしまう。したがって,HIV診療に関わる多くのスタッフが,薬物乱用を診療現場で向き合っていかなければならない大きな課題と考えるようになってきた。

 HIV感染症は,早期診断,早期治療が重要な疾患である。同じように薬物乱用も,早期に発見し,早期に対応していくことが必要だろう。HIV診療の現場では,医療スタッフが意識して接するようになったことで,患者の薬物使用をより早期に発見する機会が増えてきている。しかし,せっかく早期に薬物使用について知ることができても,それをサポートする診療体制が整っていなければ対応することはできない。HIVの専門医師である筆者が今切実に願っているのは,もっと多くの精神科医師に,早期の段階から薬物依存症に関わってもらいたいということである。

研究と報告

広汎性発達障害児の母親が経験する育児ストレス―児童の知的水準との関連をめぐって

著者: 鈴村俊介

ページ範囲:P.1135 - P.1143

抄録

 広汎性発達障害(PDD)児とりわけ高機能のPDD児を養育する親は高いストレスを経験するとされる。本研究の目的は,1)PDD児の母親が経験するストレスの高さを測定し,2)児童の知能水準がそのストレスに与える影響を評価することにある。PDD児(3~6歳)60名の母親と療育担当スタッフに対し,育児ストレスや児童の行動特徴に関する質問紙への記入を依頼した。母親のストレス度は標準値と較べて極めて高かった。全体を高機能群27名と低・中機能群33名に分け,児童の月齢および自閉症特性と母親の年齢を調整して解析したところ,母親のストレス度と高機能群への所属に有意な相関が認められた。PDD児の知能水準と母親のストレスの関係につき若干の考察を加えた。

クロザピンの有効性とその臨床的意義

著者: 木田直也 ,   大鶴卓 ,   福田貴博 ,   福治康秀 ,   村上優

ページ範囲:P.1145 - P.1150

抄録

 クロザピン(CLZ)は,治療抵抗性統合失調症の適応を持つ唯一の抗精神病薬であり,陽性症状に効果が高いことは過去にも報告されている。ただ,その具体的な標的症状を示す報告は本邦ではなく,それを明らかにすることを目的とした。CLZ投与は,早期から陽性症状に特に効果的であった。その標的症状としては,幻覚・妄想に最も効果的で,猜疑心・敵意・非協調性にも十分な効果が期待できることがわかった。陰性症状や神経症様症状は,観察した期間での改善は限定的であった。CLZの効果は,最低でも6~12か月投与継続した後に判定することが望ましいと思われた。維持量の平均400mg/日は,過去の報告と同様の結果であった。

資料

うつ病の身体症状と精神症状の関連について

著者: 乾真美 ,   山本賢司 ,   宮地英雄 ,   宮地伸吾 ,   山本宏明 ,   飯田諭宜 ,   湯川泰一 ,   宮岡等

ページ範囲:P.1151 - P.1158

抄録

 うつ病患者の多くは,さまざまな身体的自覚症状を有するために精神科以外の科を受診することが多いといわれている。しかし,うつ病患者の身体的自覚症状についての研究報告は少ない。本調査の目的は,CMIを用いてうつ病患者に認められる身体的自覚症状と精神的自覚症状の関連を明らかにすることである。20~64歳のうつ病患者2,605名に,初診時にCMIを施行し,そのスコアを性差,年齢群で統計学的に比較検討を行った。その結果,女性が男性より有意にCMIのスコアが高く,成人期群が初老期群より有意に身体症状の訴えが多い傾向にあることが明らかとなった。これらの結果は,プライマリケア医や内科医に対するうつ病の啓発に役立つものと考えられた。

私のカルテから

抗うつ薬による薬剤性盗汗に対して防已黄耆湯が奏効した1例

著者: 加藤悦史 ,   山﨑仁美 ,   馬場大介 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.1159 - P.1161

はじめに

 一般的に盗汗は注目されることが少ない臨床症状である3,9)。特に抗うつ薬による薬剤性盗汗の報告3,6,10)はまれであるが,服薬アドヒアランスの観点では注意すべき副作用であろう。今回我々は抗うつ薬による薬剤性盗汗に対して防已黄耆湯が奏効した1例を経験した。若干の考察を加えて報告する。なお匿名性保持のため論旨に影響のない範囲で改変を施し,症例報告に際し本人より同意を得ている。

前頭側頭型認知症と誤診しそうになったアルツハイマー病を合併した躁病の1例

著者: 平山啓介 ,   寺田整司

ページ範囲:P.1163 - P.1165

はじめに

 精神疾患の鑑別診断をするにあたっては,まず患者の訴えを問診によって適切に症状として評価し,その症状と他覚的所見から鑑別診断を考えていくことが基本である。前頭側頭型認知症fronto-temporal demetia(FTD)は特徴的な行動障害を認める認知症である。今回,その特徴的症状を疑わせる家族の言葉に引きずられて,FTDと誤診をしそうになった1例を経験したので報告する。なお,患者と家族より匿名であることを条件に論文掲載の同意を得ている。

書評

―神尾陽子 編―成人期の自閉症スペクトラム診療実践マニュアル

著者: 内海健

ページ範囲:P.1078 - P.1078

 編者の神尾陽子さんは,私にとって自閉症の師匠である。

 精神科の一般外来で「広汎性発達障害」という診断名を意識するようになったのは,ほんの十年ほど前である。それが見る間に主要な関心事となった。いわゆる「アスペルガー障害」はそのサブカテゴリーである。また発達障害の中にはADHDや学習障害も含まれる。いささか錯綜した分類であるが,最近では自閉症をコアとしたスペクトラムを「自閉症スペクトラム(ASD)」とすることによって,すっきりと整理された観がある。

―加藤 敏 編著―レジリアンス・文化・創造

著者: 野口正行

ページ範囲:P.1167 - P.1167

 本書は2009年に出版された加藤敏,八木剛平編「レジリアンス:現代精神医学の新しいパラダイム」の第二弾である。前著が精神医学内部におけるレジリアンスの意味を主に取り扱ったのに比べて,本書ではレジリアンスを人文社会科学の広大な土地に解き放つ。ここでは,文化,災害,移民,語り,戦争トラウマ,芸術,音楽などのさまざまなテーマが取り扱われ,レジリアンスも個人から社会へ,そして生物学的メカニズムから語り,神話,霊的体験にも広がってゆく。著者も精神医学のみならず,哲学,音楽など人文社会科学や芸術を含んだ多彩な顔ぶれとなっている。

 もともと精神医学では精神疾患というマイナスに思われていた状態が創造性の発露と関係する,という逆説的な事態に病跡学が光を当てていた。そして本書はそこから一歩進める。職業としての芸術家,よく知られている芸術家に創造性の概念をとどめるのではなく,日常生活を生きるすべての人々の日々の営みにも創造性を見ようとする。病むことが,単に「健康になり損ねた敗北」を意味するのではなく,逆境とそれをなんとか乗り越えようとする個人の懸命の努力でもあること,逆境そのものは変えられないとしても,その意味を変えようとする試みでもあること,その試みの成功の度合いと方向性にはさまざまなものがあるにしても,すべて創造的な試みと見なせることを,本書はすくいとろうとする。

学会告知板

第6回世界精神医学会アンチスティグマ分科会国際会議

ページ範囲:P.1132 - P.1132

 アンチスティグマ(精神障害者に対する偏見是正活動)を真正面からとりあげる国際会議が日本で初めて開催されます。アンチスティグマにご関心のある方どなたでもご参加いただけます。

テーマ こころの絆 わたしたちのリカバリー

会期 2013年2月12日(火),13日(水),14日(木)

会場 砂防会館(東京都千代田区平河町2-7-5 地下鉄永田町駅徒歩1分)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.1077 - P.1077

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.1168 - P.1168

投稿規定

ページ範囲:P.1169 - P.1170

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1171 - P.1171

編集後記

著者:

ページ範囲:P.1172 - P.1172

 今月号の特集では,アルコール・薬物関連障害という古くて新しい問題が扱われた。多くの精神科医師がこ問題の深刻さや治療の難しさを漠然と知ってはいても,あるいは知っているからこそ積極的に関わろうとはしない。というのは,この問題の本質的な難しさは,急性期のいわば解毒療法にあるのではなく,「またやってしまった」,「使わないではいられない」という依存の病理にあるからだ。そしてこれに対する治療の試みは,実に虚しい結果に終わりがちである。

 けれどもそのような厳しい医療に挑戦し努力し続けてきた医師もいる。このような医師たちが,時代の変遷の中で新たな直面している課題の実態を報告するとともに,その対応法を提示されたところに本特集の新しさがある。日常このような患者さんには接することが少ない私にとっても,脱法ドラッグ・向精神薬,アルコール・薬物問題を抱えた医療観察法病棟の統合失調症患者,パーソナリティ障害とアルコール・薬物乱用などのテーマはどれも興味深い。また災害とアルコール問題は,旬の話題であるだけでなく,今後の大型自然災害に備えて精読する価値が大いにある。このような状況において,新たな治療プログラムができているのを知って,大いに心強い思いになれた。さらに飲酒運転,自殺とアルコール問題の関係を振り返ると「アルコール健康障害対策基本法」の制定という考えが出てくるのももっともである。このように本特集では現代社会のアルコール・薬物関連問題がコンパクトに整理されている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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