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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻11号

2012年11月発行

文献概要

特集 アルコール・薬物関連障害

災害とアルコール問題―被災地における中長期的なメンタルヘルス問題

著者: 野田哲朗1

所属機関: 1大阪府立精神医療センター

ページ範囲:P.1079 - P.1085

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はじめに

 2011年3月11日,東日本沿岸部を主として襲った地震は,津波,火災により,あまりにも多くの死者と行方不明者を発生させてしまった。そして,世界を深閑とさせる福島第一原発事故は,今なお放射性物質を飛散させており,県内外を含め多くの福島県民が避難を余儀なくさせられている現実が,災害後(post disaster)という用語を使用しづらくしている。

 我々は,1995年に未曾有の被害と形容された阪神・淡路大震災を経験しているが,遺憾ながら東日本大震災はその被害を凌駕し,被害の様相を大きく異るものとしてしまった(表)。心的トラウマからくるメンタルヘルスの悪化は疑いようがなく,コーピングとして,飲酒が用いられやすく3),今災害の被災地は,飲酒習慣の根付いた漁師町が多く含まれていることからもアルコール問題の重篤化が危惧されるところである。

 震災当初,阪神・淡路大震災の経験が活かされ,避難所には支援物資にアルコール飲料が含まれず,また,流通もストップしたため禁酒による振戦せん妄などの離脱症状が認められたが,総じてアルコール問題の顕在化は少なかったようだ。しかし,仮設住宅に被災者が移り始めた5月,6月頃より,自由に飲酒ができるようになり,アルコール問題が顕在化し始めている。

 震災から1年半を過ぎ,被災者の心理は幻滅期にあることは疑いようなく,中長期にわたるアルコール問題を含めた被災者のメンタルヘルスについて論じる。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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