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雑誌目次

論文

精神医学54巻12号

2012年12月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科を受診する人への生活支援

著者: 池淵恵美

ページ範囲:P.1176 - P.1177

 精神科を受診される方々の話を聞いていると,診断をつけて治療についての説明を行い,精神療法を行って投薬するという,診察室の中の営為だけでは不十分であると痛感することがしばしばある。狭義の医学的治療だけでは,精神症状はよくならないと感じるのである。それは職場や家庭の中にさまざまな困難がみられて,患者さんが変わりうるであろう潜在的な力をも,その困難が圧倒していると感じる場合であり,患者さんがよくなっていくことを実際の生活の場で支援しなければうまくいかないであろうと感じるときである。たとえば最近受診された年配の母親は,長年孤立無援の中で障碍を持つ子どもの介護を行っており,その中でさまざまな体感幻覚が発症してきていた。苦痛からさまざまな身体科を受診したが,首をひねられるだけで,ほかの科を紹介されるということが続いていた。もちろんこれまで子どものための介護サービスはいろいろ利用しており,福祉の面でサポートしてくれる専門家は存在した。問題は年を取っていく中でだんだん支えきれなくなってきている現実の困難とともに,その女性自身のこれまでの疲れやさみしさが大きく影を落としていると感じられた。その人の生活の中に入って行って,一緒に生活を見つめて,何とか少しでも負担を減らす工夫を考えていく支援が必要だろうと感じられた。制度の利用ということを超えたそうした支援があれば,体感幻覚の治療も実を結ぶように感じられるのである。

 精神障碍者の生活の質はまだまだ貧しく,その面でも生活支援は必要である。みんなねっと(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会)と協力して行った,全国の家族会に参加している1,492名の調査でも,当事者の平均年齢は42.9歳だが,8割以上の者が原家族と生活しており,1人暮らししている者は12%に過ぎない。調査時点で結婚している人は8%しかおらず,子どもがいる人でも自身で育てているのは4割未満である。何らかの形で仕事や学校に参画できている人は11%である。過去の平均再発回数は4.9回を数え,陽性症状・陰性症状・認知機能障害それぞれの症状によって幅があるが,現在何らかの形で困難を感じている人は3~5割前後となっている。生活の質も,精神症状の面でもまだまだ不十分であるといえる。家族会を通した調査であるので,すぐに回復した人やすでに家族から自立した人は含まれない可能性はあるものの,思った以上に厳しい数値であった。家族の皆さんが「親亡き後」を問題にするのは故なきことではない。精神科の治療と並行して生活支援を行って,「薬を飲んで入院はしていないものの,それ以外のことはできていない」貧しい現実を変えていく必要があると思う。

研究と報告

非定型精神病像を伴う気分障害(DSM)の1例における精神病理学的検討―器質力動論(Ey)と構造力動論(Janzarik)に力点をおいて

著者: 井上弘寿 ,   加藤敏 ,   塩田勝利

ページ範囲:P.1179 - P.1189

抄録

 非定型精神病の多彩で浮動的な病態を包括的に把握するには,操作的診断基準では難しく,Eyの器質力動論が有用である。提示症例の病態変遷はおおむねEyの意識野の構造解体の序列に従ったが,構造水準の〈臨床的飛び越え〉に留意する必要があった。Eyの夢幻様状態に近縁の体験と考えられるJacksonの夢様状態に特有の時間意識の逆転が本症例で確認されたことから,意識野の構造解体の過程で夢様状態の一様態である「死の切迫感」が生じうることが示唆される。また,Janzarikの構造力動論の見地から,EyやJacksonの理論には欠ける発症機転の側面に光を当てることができる。このような見方により,非定型精神病において希死念慮が生じるまでの病態変遷を大局的に把握することができる。

意味性認知症の1例における常同行動の変遷の検討

著者: 和泉美和子 ,   小森憲治郎 ,   池内健 ,   田中弘 ,   田中政春 ,   今村徹 ,   池田学

ページ範囲:P.1191 - P.1199

抄録

 常同行動は,意味性認知症の早期から高頻度にみられる症状である。意味性認知症例が呈した多様な常同行動およびその変遷について検討した。側頭葉前方部を主体とする萎縮を呈した時期には,外出時の特定色の服装という比較的複雑な常同行動や滞続言語を認めた。進行に伴い前頭葉ならびに尾状核の萎縮が顕著となった時期には,手回しや拍手,食物咀嚼などの単純な反復行動に推移し,滞続言語は単純化し無力性同音声palilaliaを伴った。神経学的にはパーキンソニズムと把握反射を認め,運動無視を伴った。本例の経過から,意味性認知症の進行に伴う常同行動の単純化には,大脳皮質と基底核・視床を結ぶ回路のバランスの崩れが影響している可能性が示唆された。

統合失調症退院患者の再入院に関わる因子の検討

著者: 内山直樹 ,   池野敬 ,   栗原竜也 ,   馬屋原健 ,   松本善郎 ,   平川淳一 ,   伊藤弘人 ,   木内祐二

ページ範囲:P.1201 - P.1207

抄録

 本研究の目的は,わが国での統合失調症患者の再入院に寄与する因子を明らかにすることである。対象は統合失調症退院患者3,706名であり,性別,年齢,発症年齢,罹病期間,入院歴,退院時GAFなどを調査した。ロジスティック回帰分析の結果,罹病期間(OR, 1.11;CI, 1.045-1.187),複数回の入院歴(OR, 2.01;CI, 1.694-2.377),退院時GAF(OR, 0.83;CI, 0.787-0.864)が再入院に関連していた。本研究結果は,長い経過をたどる頻回入院患者で退院時の機能レベルが低い際は,退院前後に再入院を予防する支援を実施する必要があることを示している。

慢性期病棟の入院患者の特性―BADO(患者基本記録)を用いた急性期病棟との比較

著者: 岩井一正 ,   森脇久視 ,   平川淳一 ,   伊藤卓 ,   大森徹郎 ,   堀内智博 ,   鹿島直之 ,   津崎佳世子 ,   今井桂子 ,   古谷圭吾 ,   真島智 ,   遠藤希世 ,   椎名貴恵 ,   佐藤晃子

ページ範囲:P.1209 - P.1218

抄録

 慢性期病棟の長期在院者の実態把握を目的に,1施設の急性期との病棟比較を,ドイツ精神心理神経学会が主導する患者基本記録Basic Documentation(BADO)によるルーチンデータを用いて行った。急性期病棟75例,慢性期病棟115例のうち,特に統合失調症圏について,背景因子,疾病関連因子,転帰を検討した。その結果,回復性の転帰に向かって流れる急性期病棟と,非回復性に停滞する慢性期病棟のコントラストが浮き彫りになった。後者は,病床削減に向けて喧伝されている「社会的入院」とは異なり,生物学的,心理的,社会的次元にわたる深刻な障害が主体であった。今後の慢性期入院医療は,「慢性重症性」を標語として解決をさぐる準備が必要と思われる。

短報

広汎性発達障害にみられる睡眠障害に対するラメルテオンの有用性について

著者: 館農幸恵 ,   館農勝 ,   齋藤利和

ページ範囲:P.1221 - P.1223

抄録

 広汎性発達障害では,しばしば,入眠困難などの睡眠障害がみられる。今回,児童思春期の広汎性発達障害における睡眠障害に対するメラトニン受容体作動薬・ラメルテオンの有用性について検討を行った。対象は,自閉性障害24名,アスペルガー障害6名,特定不能の広汎性発達障害30名の計60名で,平均年齢は10.3±5.8歳であった。臨床的全般改善度(CGI-I)を用いて7段階で判定したところ(非常に良い=1,非常に悪い=7),2週間時点の平均CGI-Iは2.4±1.1(n=59)で,4週間後の平均CGI-Iは1.9±1.2(n=53)であった。明らかな副作用は認めなかった。

資料

精神保健福祉サービスにおける医療経済評価のための調査ツール―日本版クライエントサービス受給票の開発の試み

著者: 山口創生 ,   下平美智代 ,   吉田光爾 ,   佐藤さやか ,   高原優美子 ,   前田恵子 ,   市川健 ,   泉田信行 ,   伊藤順一郎

ページ範囲:P.1225 - P.1236

抄録

 日本の精神保健福祉領域における経済評価の発展のため,本研究は研究対象者が利用する社会保障制度を調査する日本版クライエントサービス受給票(CSRI-J)を開発することを目的とした。翻訳されたCSRI原版を参考に,研究員,臨床スタッフ,行政職員など多分野の専門家によるエキスパート・コンセンサスのもと日本の制度にあった項目を作成した。具体的には,本研究で開発されたCSRI-Jは,1)就労,2)所得と所得保障制度,3)障害者自立支援法におけるサービス,4)精神障害者がよく使用するその他のサービス,5)カルテ/レセプト・データを得にくい機関での医療サービスに関する項目を内包した。

地域の精神科医療における薬剤師業務について―精神科神経科診療所へのアンケート調査から

著者: 三和千德 ,   橋本保彦

ページ範囲:P.1237 - P.1242

抄録

 チーム医療の推進や自殺,過量服薬の対策として,地域の精神科医と薬剤師のパートナーシップが重要となる。筆者らは地域の精神科神経科診療所における薬剤師業務の現状を調査することを目的に,薬剤師の「疑義照会」,「処方協議・処方提案」の実態調査を行った。対象は兵庫県の精神科神経科診療所167か所で,40か所(24%)から回答を得た。精神科医の全員が疑義照会を受け,その必要性を感じていた。しかし確認が必要と医師が感じているのは投与禁忌,併用注意,添付文書の内容など薬剤の基本事項で,実際にもそれらが確認されていた。処方協議・処方提案はほとんど行われておらず,薬剤師が「治療者」と認識されていない現状が窺われた。

無床総合病院精神科におけるうつ病治療の現状―CGIを用いた治療成績

著者: 渡邊友弥 ,   忽滑谷和孝 ,   中山和彦

ページ範囲:P.1243 - P.1247

はじめに

 近年精神科を受診するうつ病患者が増え,副作用の少ない新規抵うつ薬の普及により治療成績が向上していると言われている1,5,14)。しかし,実際の臨床場面でのうつ病の治療成績についての報告は多くはない。そこで我々は無床の総合病院精神科におけるうつ病治療の現状を把握し,その治療成績について調査したので報告する。

私のカルテから

昏迷と錐体外路症状への過敏性を呈し,修正型電気けいれん療法が奏効したレビー小体型認知症の1例

著者: 倉田明子 ,   藤田康孝 ,   出本吉彦 ,   岩崎庸子 ,   佐藤悟朗

ページ範囲:P.1249 - P.1252

はじめに

 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は認知症,幻視,パーキンソン症状,意識の明晰性の動揺などを特徴とする変性疾患であり4),アルツハイマー型認知症,血管性認知症とともに3大認知症と言われる。DLBでは幻視のほか妄想や不安・焦燥,抑うつなど多彩な精神症状が出現しうる一方で,薬剤性の錐体外路症状に過敏で薬物療法が難航する場合がある。

 我々は,幻視や抑うつから昏迷に至るも種々の薬剤に過敏で錐体外路症状を呈し,修正型電気けいれん療法(modified electroconvulsive therapy;mECT)が奏効した症例を経験した。DLBの治療を考える上で貴重な症例と考え,ここに報告する。なお,症例提示においては匿名性に配慮し症例理解に影響しない範囲で一部内容を改変し,報告に関して本人および家族に同意を得た。

入院中の集中的疾患教育が症状緩和と社会復帰に役立った成人アスペルガー症候群の1例

著者: 枝雅俊 ,   林公人 ,   東端憲仁

ページ範囲:P.1253 - P.1255

はじめに

 成人の発達障害は,精神科臨床における大きな治療的課題となっている。我々は今回,難治性うつ病として入退院を繰り返したが,後にアスペルガー症候群と診断され,入院中の集中的疾患教育を契機に病状改善し,社会復帰に至った1症例を経験したので,考察を加えて報告する。なおプライバシーに配慮して一部を改変した。

Benzodiazepine系薬物により奇異反応を呈したうつ病の1例

著者: 武田隆綱

ページ範囲:P.1257 - P.1259

はじめに

 Benzodiazepine系薬物(以下BZ系薬物と略す)は,抗不安作用,鎮静・催眠作用,抗けいれん作用および筋弛緩作用を持つ臨床的に有用な薬物で,不安障害,睡眠障害だけでなく,多くの精神疾患の治療に用いられている。BZ系薬物の奇異反応とは,薬物の効果として期待される作用とは反対の反応を言い,具体的には,不安,焦燥,気分易変性,攻撃性,敵意,興奮,幻覚,妄想などを呈することである2)。筆者は,clonazepam,nitrazepam,lorazepam投与中には問題なかったが,etizolamおよびtriazolamの追加投与により奇異反応を呈したうつ病の1例を経験したので報告し,考察を加える。なお,報告にあたって患者に口頭で説明し,同意を得ている。また患者が特定されないようにするため,文脈を損なわない範囲内で一部改変して記載している。

書評

―青木省三,村上伸治 編,野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集―《精神科臨床エキスパート》専門医から学ぶ―児童・青年期患者の診方と対応

著者: 尾崎紀夫

ページ範囲:P.1219 - P.1220

 精神科研修を開始した1984年から数年間,腎臓移植のリエゾン精神医学にかかわり,レシピエントである患児と接する機会を得た。移植腎を,「お母さんの腎臓さんが頑張ってくれている」と長期間語り,自己の腎臓として受け入れる過程が進まなかった11歳の女児は,その後,何度も尿量を確認せざるを得ない強い不安を呈した。13歳の男子は拒絶反応が生じた際,「お父さんが自分のお腹を切って,僕にくれた腎臓を駄目にしてしまって申し訳ない」と強い自責感を示す抑うつ状態に陥った。両親から受け取った「掛け替えのない腎臓」を,患児が心身両面で統合する過程にかかわることは,彼らの回復する力を目の当たりする一方,慢性疾患を抱えた患者・家族が医療に対して持つ両価感情,副腎皮質ホルモンや腎不全の脳機能への影響も含め,私の精神医療観に大きなインパクトを残した。

 当時,このリエゾン活動の指導者であった成田善弘先生はもちろん,周囲の児童精神科医の方々からいろいろな教えを受けたが,加えて「児童青年期患者の診方と対応」に関する何か良い書物はないかと探した。青年期はまだしも,児童期となると,「これは」と思える書物には行き当たらなかったように記憶している。

―伊勢田堯,小川一夫,長谷川憲一 編著―生活臨床の基本―統合失調症患者の希望にこたえる支援

著者: 江畑敬介

ページ範囲:P.1261 - P.1261

 私は本書を一読した時,L. Ciompiの統合失調症の長期経過報告(1976年)を想起した。それによると,自己の将来に希望をもっていた患者の経過は良好であった。私は希望を持つという心情的要因が経過に影響を与えることに驚嘆した。本書に描かれた生活臨床においては,その理念から臨床技法に至るまで,患者および家族に対して,希望を見つけ,それを育み,その達成を支援するという姿勢が貫かれている。この生活臨床の治療を受けた患者の長期経過によると,98例のうち35例が5年以上の自立安定状態に至り,そのうち25例は服薬を含めて治療を終結していたという驚くべき良好な結果を得ている。

 生活臨床の理念は,「重度の精神障害者であっても,他の身体疾患と同様に普通の環境で普通に治療し,そして病院ではなく地域で普通の生活ができるようにする時代を到来させようというビジョン・夢を大胆に掲げ,それらを実現する技術開発・サービスシステム開発によって新しい時代を切り開くことを使命として,生活臨床は取り組まれた。」としている。これは近年精神障害者のリハビリテーションの先進国において取り入れられている理念と同一であり,その理念に基づく臨床活動が1958年に群馬大学ですでに始まっていたのである。その理論は,統合失調症は脳の生物学的な障害の上に,何らかの生活上の出来事を引き金に発症するという仮説に立っている。これは,1977年にJ. Zubinが提唱した脆弱性―ストレス理論と同一であるが,それよりも20年近く前のクレペリン精神医学が全盛時代に著者らによって懐胎されていた概念であったことに驚愕を感じる。

学会告知板

第5回日本不安障害学会学術大会

ページ範囲:P.1236 - P.1236

テーマ 現在(いま)を生き抜くための知恵

会期 2013年2月2日(土)・3日(日)

会場 札幌コンベンションセンター

   (〠003-0006 札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)

集団認知行動療法研究会 第7回基礎研修会

ページ範囲:P.1252 - P.1252

会期 2013年3月10日(日)9:30~16:30

会場 東北文化学園大学

   (〠981-8551 仙台市青葉区国見6-45-1。仙台駅よりJRで15分の「国見」駅より徒歩1分)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.1189 - P.1189

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.1260 - P.1260

次号予告

ページ範囲:P.1262 - P.1262

投稿規定

ページ範囲:P.1263 - P.1264

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1265 - P.1265

編集後記

著者:

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 本号の巻頭言において,池淵先生は精神障碍者のQOLについてふれられ,その中で,QOLの数字を挙げられています。家族会を通しての調査というバイアスはありますが,再発を繰り返しながら慢性に経過するような一群の患者(平均約43歳)の実態調査では,“一人暮らし”,“結婚”,“仕事や学校への参画”などは,10%前後程度しか実現できていないという厳しい現実のあることがわかります。着実に社会心理療法と薬物療法が進歩し,ケアマネージメントをはじめアウトリーチ医療や多職種チーム医療といった濃厚な治療手法も導入されつつあります。欧米ではそうした取り組みが進んでいるにもかかわらず,その恩恵が全ての障碍者には行き渡っていないという現実があると聞きます。わが国では“入院中心の医療から地域生活中心”とうたわれて久しいのですが,人口あたりの精神科病床数や在院期間といった数字をみると,“長寿大国日本”としてはまだまだ足元が覚束ないように思います。

 近年,回復(リカバリー)をより科学的に捉えようという研究が増えてきました。回復概念には,個人の自立意識や自己決定という視点での“個人的経験モデル”がありますが,一方で,症状寛解と機能寛解から定量的に規定しようという“臨床的回復モデル”があります。後者において,症状寛解は症状評価尺度を使用できるし,機能寛解は自己ケア,家事,パートナー関係,家族関係,仲間関係,地域とのかかわり,学業・職業を総合的に評価するWHOの社会機能障害尺度などが活用できます。この臨床的回復モデルを使用してオランダで行われたMESIFOS研究(Wunderinkら,2009年)によると,精神病の初回エピソード者での2年後の転帰は,心理社会療法を十分に行ったにもかかわらず,症状寛解に至った者が約半数,機能寛解に至った者が約4分の1で,その両方が達成できた(“回復”)者は,20%弱でした(統合失調症に限定すると10%以下)。少なくとも臨床的回復モデルでの回復率を高める努力がまだまだ求められており,こうした寛解の指標は治療研究のみならず,日常臨床でも患者および家族との治療目標の設定に関する話し合いにも役立てることが可能で,これは個別化医療の原点となるものかもしれません。

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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