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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻12号

2012年12月発行

文献概要

研究と報告

非定型精神病像を伴う気分障害(DSM)の1例における精神病理学的検討―器質力動論(Ey)と構造力動論(Janzarik)に力点をおいて

著者: 井上弘寿1 加藤敏1 塩田勝利1

所属機関: 1自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.1179 - P.1189

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抄録

 非定型精神病の多彩で浮動的な病態を包括的に把握するには,操作的診断基準では難しく,Eyの器質力動論が有用である。提示症例の病態変遷はおおむねEyの意識野の構造解体の序列に従ったが,構造水準の〈臨床的飛び越え〉に留意する必要があった。Eyの夢幻様状態に近縁の体験と考えられるJacksonの夢様状態に特有の時間意識の逆転が本症例で確認されたことから,意識野の構造解体の過程で夢様状態の一様態である「死の切迫感」が生じうることが示唆される。また,Janzarikの構造力動論の見地から,EyやJacksonの理論には欠ける発症機転の側面に光を当てることができる。このような見方により,非定型精神病において希死念慮が生じるまでの病態変遷を大局的に把握することができる。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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