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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻2号

2012年02月発行

文献概要

特集 障害者権利条約批准に係る国内法の整備:今後の精神科医療改革への萌芽

障害者権利条約と精神医療

著者: 伊藤哲寛1

所属機関: 1北見赤十字病院

ページ範囲:P.125 - P.135

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はじめに

 2006年の国連総会において「障害者の権利に関する条約」(以下,障害者権利条約)が採択され,2008年に発効した。2011年9月の時点で105か国が批准している。日本政府も批准に向けて,障害当事者の意見を取り入れながら,障害関連法の点検と見直しを行っている。

 わが国では,長い間,保護と収容を優先させる精神保健医療福祉施策を続けてきた。その結果,精神障害者の地域からの疎外,精神病床の過剰,低水準の医療,貧しい療養環境での社会的入院,地域資源の未成熟など,容易に改善しがたい状況を招いてしまった。1987年に精神衛生法が精神保健法に改められ,入院精神障害者の人権に関する条項が取り入れられ,医療従事者の人権認識も深まった。しかし,現実には精神障害者の同意なしの入院患者数は減らず,その入院環境や処遇の改善は十分でない。また地域においても差別されることなく他の人々と同等な条件で質の高い生活を送ることができるようになっているわけではない。

 当事者の権利保障という視点を抜きにして進められてきたこれまでの精神保健医療福祉施策が,障害者権利条約の批准を契機に,大きく転換されることが期待される。

 本稿では,「障害者権利条約」の成立の背景,条約の意義,条約の内容を述べたうえで,この条約が精神障害に関連する国内法制度,特に非自発入院制度に及ぼす影響に焦点を当てて考察する。

参考文献

1) 池原毅和:精神障害法.三省堂,2011
2) 伊藤哲寛:精神医療改革のための道筋と最終到達点.病院・地域精神医学 53:244-249, 2011
3) 伊藤哲寛:なぜ医療観察法は廃止しなければならないか.精神医学 50, 1061-1066, 2008
4) 川島聡,東俊裕:障害者の権利条約の成立.長瀬修,東俊裕,川島聡 編:障害者の権利条約と日本.生活書院,pp11-34, 2008
5) 長瀬修,東俊裕,川島聡 編:障害者の権利条約と日本.生活書院,pp207-297, 2008
6) 新津久美子:ヨーロッパ拷問防止委員会の活動.村井敏邦,今井直 監修:拷問等禁止条約を巡る世界と日本の人権.pp129-141,明石書店,2007
7) 日本弁護士連合会人権擁護委員会 編:障害のある人の人権と差別禁止法.明石書店,2002
8) 滝本シゲ子:日本の精神医療と拷問禁止条約.村井敏邦,今井直 監修:拷問等禁止条約を巡る世界と日本の人権.pp239-255,明石書店,2007
9) 富田三樹生:精神病院の改革に向けて―医療観察法批判と精神医療.青弓社,2011
10) 山本真理:強制医療・強制収容.長瀬修,東俊裕,川島聡 編:障害者の権利条約と日本.生活書院,pp73-84, 2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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