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特集 障害者権利条約批准に係る国内法の整備:今後の精神科医療改革への萌芽
精神保健福祉法と民法714条―責任無能力者の監督義務,責任
著者: 久保野恵美子1
所属機関: 1東北大学大学院法学研究科
ページ範囲:P.137 - P.143
文献購入ページに移動加害行為をめぐる損害賠償責任の基本的枠組み
1.加害者本人が責任を負うという原則
意図的にまたは不注意によって誰かに損害を生じさせてしまったときには,損害を生じさせる直接の加害行為を行った本人(以下,「加害者」という)が,生じた損害について賠償責任を負うのが原則である(民法709条に基づく不法行為責任)。加害者以外の者(以下,「第三者」という)が責任を負う可能性もないわけではない。被害者が,ある第三者について,加害者の行為を具体的に予見し,それを防止すべき義務を負っていたにもかかわらずそれを怠ったということを主張,立証することに成功すれば,当該第三者の不法行為責任を追及できる(以下,「第三者の一般的な不法行為責任」という)。しかし,ある加害行為によって損害が発生するのは,いつでも周囲の誰かがそれを阻止しなかった帰結であるともいえることからわかるように,被害者が第三者について具体的な予見可能性および加害行為の防止義務の懈怠を主張,立証できるのは,例外的な場合に限られる。
1.加害者本人が責任を負うという原則
意図的にまたは不注意によって誰かに損害を生じさせてしまったときには,損害を生じさせる直接の加害行為を行った本人(以下,「加害者」という)が,生じた損害について賠償責任を負うのが原則である(民法709条に基づく不法行為責任)。加害者以外の者(以下,「第三者」という)が責任を負う可能性もないわけではない。被害者が,ある第三者について,加害者の行為を具体的に予見し,それを防止すべき義務を負っていたにもかかわらずそれを怠ったということを主張,立証することに成功すれば,当該第三者の不法行為責任を追及できる(以下,「第三者の一般的な不法行為責任」という)。しかし,ある加害行為によって損害が発生するのは,いつでも周囲の誰かがそれを阻止しなかった帰結であるともいえることからわかるように,被害者が第三者について具体的な予見可能性および加害行為の防止義務の懈怠を主張,立証できるのは,例外的な場合に限られる。
参考文献
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2) 上山泰:成年後見人等と民法714条の監督者責任―精神保健福祉法との関連も含めて―.家族〈社会と法〉 20:58-80, 2004
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7) 辻伸行:精神障害者の他害行為と近親者の損害賠償責任―福岡高裁平成18年10月19日判決の検討を中心にして.中谷陽二 編集代表:精神科医療と法.弘文堂,pp241-254, 2008
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