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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻2号

2012年02月発行

文献概要

資料

エッセン精神科病棟風土 評価スキーマ 日本語版(EssenCES-JPN)の心理測定学的特徴の検討

著者: 野田寿恵1 杉山直也2 松本佳子3 辻脇邦彦4 長谷川利夫5 伊藤弘人1

所属機関: 1国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所社会精神保健研究部 2財団法人復康会沼津中央病院 3日本赤十字看護大学 4医療法人社団翠会成増厚生病院 5杏林大学保健学部

ページ範囲:P.211 - P.217

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はじめに

 1960年代のアメリカの精神科医療では入院治療中心の収容主義から脱施設化がはじまり,病棟内では,心理社会的プログラムを行い,患者自身が自分の感情や問題を理解し,自発性を持って治療に取り組むという働きかけが重視されるようになった。このような変化の中で心理社会的働きかけについて,入院患者や病棟スタッフがどのように認識しているのかを評価するための,病棟環境を測定するための尺度がいくつか開発された11,12)

 その中の1つとして,1968年にMoosらによって病棟の心理社会的環境の尺度としてWard Atmosphere Scale(WAS)が開発された12)。WASは10の領域(治療プログラムへの活発な参加,スタッフや他患者からのサポート,オープンな感情表現,自己決断,自身の感情や問題の気づき,議論の推奨と怒りの表出,明確で活発なプログラムなど)について,「はい」ないし「いいえ」で回答する10個の質問項目からなる。各領域が0~10点で配点され,得点の高いほど病棟環境がよいと評価していることになる。その後MoosらはWASを用いて,アメリカ国内で大規模な調査を行い,病棟の病床数が多いこと,スタッフ患者比が低いことがWAS得点を低くさせるという結果を報告し10),さらに,WASをイギリスに適応しアメリカと実質的に同様の結果を得たとした11)。その後WASは,病棟環境を評価する標準的な尺度として各国にてしばしば用いられてきている3,9)。その1つとして,KlassらはWASを用いて患者アウトカムとの関連も調査し,WASの中で「怒りや攻撃性」(患者やスタッフと議論することが許されかつ推奨され,時には怒りを表出できる)および,「治療プログラムの整備」(活動プログラムの重要性が評価され,整備されている)の領域の得点が高いことと,退院後の在宅期間が長いことの関連性を見出したと報告している6)。また,病棟環境に対する認識は,入院患者とスタッフ間で相違があり,スタッフのほうが入院患者よりもポジティブに評価することも指摘されてきている1,11,15)

 しかしながら,WASは100個の質問で構成されているため,回答に時間を要する上に欠損値が発生しやすく,また1960年代に開発されているため,現在にとって,そぐわない項目も含まれることになった。Schalastは,WASをもとにドイツの触法病棟に適した構成概念を再検討し,信頼性・妥当性の検討を重ね,3因子からなる15項目に2項目を加えた17項目からなるエッセン精神科病棟風土 評価スキーマ(Essen Climate Evaluation Schema;EssenCES)の開発に至った。EssenCESの3つの因子「治療的な関心(Therapeutic hold)」「安全性への実感(Experienced safety)」「患者間の仲間意識・相互サポート(Patients’ cohesion and mutual support)」それぞれは,0.7以上のCronbach's α係数が得られ,かつWASおよびGood Milieu Index(GMI)2)と十分な相関も得られた16)。次いで,イギリスの触法病棟を対象とした調査も行われており,そこでもEssenCESの信頼性・妥当性が得られている5)

 なお,GMIはMoosによって開発された病棟満足度を示す尺度で5項目からなり,「全くそう思わない」から「とてもそう思う」の5段階で評価し,合計得点が5~25点で配点される。点数の高いほど病棟満足度が高いことを示す。WASの改訂版の開発に際して,基準となる尺度としてしばしば用いられてきているものである13,14,19)

 EssenCESは現在,英語版をはじめ,オランダ語,フィンランド語,韓国語版が作成されており20),普及する可能性が高い。また精神科病棟において,医療ケアの質を改善させるような取り組みを行った際,その前後での変化をみる指標としてEssenCESは期待できると考えられる。現在,日本において病棟風土に関する既存の質問票がないといえることから,本研究では,EssenCES 日本語版を開発し,その心理測定学的特徴を検討することを目的とした。

参考文献

1) Friis S:Measurements of the perceived ward milieu:a reevaluation of the Ward Atmosphere Scale. Acta Psychiatr Scand 73:589-599, 1986
2) Friis S:Characteristics of a good ward atmosphere. Acta Psychiatr Scand 74:469-473, 1986
3) Hawthorne WB, Green EE, Folsom D, et al:A randomized study comparing the treatment environment in alternative and hospital-based acute psychiatric care. Psychiatr Serv 60:1239-1244, 2009
4) 平林直次:心神喪失者等医療観察法における指定入院医療機関の役割 厚生労働省ガイドラインから.日本精神科病院協会雑誌 24:324-328, 2005
5) Howells K, Tonkin M, Milburn C, et al:The EssenCES measure of social climate:a preliminary validation and normative data in UK high secure hospital settings. Crim Behav Ment Health 19:308-320, 2009
6) Klass DB, Growe GA, Strizich M:Ward treatment milieu and posthospital functioning. Arch Gen Psychiatry 34:1047-1052, 1977
7) 町野朔,中谷陽二,山本輝之 編:触法精神障害者の処遇.新山社,2005
8) 三澤史斉,樽谷精一郎,森裕,他:統合失調症急性期後のトラウマ反応に関する研究1.精神・神経疾患研究開発費「「地域中心の精神保健医療福祉」を推進するための精神科救急及び急性期医療のあり方に関する研究」(主任研究者 伊藤順一郎).pp31-34, 2011
9) Mistral W, Hall A, McKee P:Using therapeutic community principles to improve the functioning of a high care psychiatric ward in the UK. Int J Ment Health Nurs 11:10-17, 2002
10) Moos R:Size, staffing, and psychiatric ward treatment environments. Arch Gen Psychiatry 26:414-418, 1972
11) Moos RH:British psychiatric ward treatment environments. Br J Psychiatry 120:635-643, 1972
12) Moos RH, Houts PS:Assessment of the social atmospheres of psychiatric wards. J Abnorm Psychol 73:595-604, 1968
13) Rossberg JI, Friis S:A suggested revision of the Ward Atmosphere Scale. Acta Psychiatr Scand 108:374-380, 2003
14) Rossberg JI, Friis S:Do the Spontaneity and Anger and Aggression subscales of the Ward Atmosphere Scale form homogeneous dimensions? A cross-sectional study of 54 wards for psychotic patients. Acta Psychiatr Scand 107:118-123, 2003
15) Rossberg JI, Friis S:Patients' and staff's perceptions of the psychiatric ward environment. Psychiatr Serv 55:798-803, 2004
16) Schalast N, Redies M, Collins M, et al:EssenCES, a short questionnaire for assessing the social climate of forensic psychiatric wards. Crim Behav Ment Health 18:49-58, 2008
17) 立森久照,伊藤弘人:日本語版Client Satisfaction Questionnaire 8項目版の信頼性及び妥当性の検討.精神医学 41:711-717, 1999
18) 田中美由紀:職務満足感とストレス反応との関連の検討.産業ストレス研究 5:72-81, 1998
19) Tuvesson H, Wann-Hansson C, Eklund M:A revised Swedish version of the Ward Atmosphere Scale:usability and psychometrics. Nord J Psychiatry 64:303-309, 2010
20) University of Euisburg-Essen:Essen Climate Evaluation Schema. http://www.uni-due.de/rke-forensik/EssenerStationsklimafragebogenEssenCes.shtml, 2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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