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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻2号

2012年02月発行

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

セネストパチー

著者: 矢部辰一郎1 飯森眞喜雄1

所属機関: 1東京医科大学病院メンタルヘルス科

ページ範囲:P.218 - P.220

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はじめに

 セネストパチー(cenesthopathy:体感症)とは,身体疾患や医学的異常所見がないにもかかわらず「内臓に穴があいている」「頭の中がネトネトする」などといった奇妙な体感(cenesthesie)の異常を訴える病態像を表すものとされ,1907年にフランスのDupréとCamusが症例報告に用いたのが始まりである。他に特記するような症状もなく,セネストパチーという病名以外には適合するような疾患が考えられず,慢性に経過する患者がいる一方で,さまざまな精神疾患の一症候として同様の体感異常を呈することも多い。本邦では,体感異常のみを呈するものを「狭義のセネストパチー」,統合失調症や気分障害などの患者で体感異常を訴えるものを「広義のセネストパチー」とする保崎12)の分類が一般的で広く受け入れられている。

 しかし実際には,セネストパチーを検討する時には,それを狭義にとるのか広義にとるのかという線引きの問題や,皮膚寄生虫妄想症などの近似の概念との区別の難しさがあり,体感異常というテーマをめぐって複雑な議論がなされてきた。そこでそれらの見解を整理して考えてみたい。

参考文献

1) 麻生和友,秋元辰雄:体感異常の研究.精神医学 10:443-447, 1968
2) 遠藤俊吉,山本裕水,中西昭憲,他:セネストパチーに対する一考察.精神医学 17:475-484, 1975
3) Glatzel J, Huber G:Zur Phänomenologie eines Types endogener juvenil-asthenischer Versagenssyndrome. Psychiatr Clin 1:15-31, 1968
4) Huber G:Die coenästhetische Schizophrenie. Fortschr Neurol Psychiatr 25:491-520, 1957
5) 小池淳,工藤義雄:セネストパチーについて.精神医学 10:1009-1012, 1968
6) 小見山稔:セネストパチーと体感幻覚.臨精医 増刊5:1683-1689, 1976
7) 中安信夫:初期分裂病.星和書店,1990
8) Reilly TM:Monosymptomatic hypocondriacal psychosis;presentation and treatment. Proc Roy Soc Med 70:39-43, 1977
9) 高橋徹,高橋徹:セネストパチーの原典.臨床精神病理 29:345-358, 2008
10) 吉松和哉:セネストパチーの研究.金剛出版,1985
11) 吉松和哉:体感異常性統合失調症.精神科治療学 25:471-477, 2010
12) 保崎秀夫:セネストパチーとその周辺.精神医学 2:325-332, 1960

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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