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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻3号

2012年03月発行

文献概要

資料

総合病院での臨床心理士の役割―臨床心理士の専門性と多職種チーム満足の両立をめざして

著者: 田山未和1 上川英樹2 加来洋一3

所属機関: 1トワーム小江戸病院臨床心理室 2敬愛会中頭病院精神科 3山口県立こころの医療センター精神科

ページ範囲:P.309 - P.316

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はじめに

 近年,医療法上の病院の区分が,精神科などの診療科設置の有無ではなく,地域における病院機能によって決定されるようになり,地域医療支援病院―いわゆる総合病院―に求められる精神保健上のニーズは拡大しつつある。たとえば,自殺対策の一環であるうつ病の早期発見について,未治療のうつ病患者の初診が身体科で多い現状のなかで,総合病院の果たす役割は小さくない。また,本格的な高齢化社会を迎え,総合病院における認知症やせん妄の症例の増加は確実である。その他,小児科での取り組みが広まっている発達障害児への支援,がん対策に関連した緩和ケアについても総合病院への期待は高まりを見せている。

 臨床心理士(以下,心理士)に代表される心理臨床家は,病院など医療の領域では精神保健の一領域である心理学の専門職とみなされている。鑪も,心理臨床家とは,大学や大学院で心理学その他関連科学を学び,心理学的手法を使って精神病院や児童相談所など社会の心理学的・福祉領域で働いている人たちであると定義している14)。しかし,心理士が病院で業務を行うとき,その活動が保険診療報酬として認められていないことや,心理士への医学的教育が不十分なことなどの種々の制約,国家資格でない心理士の地位の不安定さなどによって,心理の専門家としてのアイデンティティーが危機にさらされることがある11)。さらに,鑪の定義に「精神病院や児童相談所など」とあるように,従来の心理臨床家の教育や業務では総合病院は必ずしも重視されてきたわけではないことがうかがわれる14)

 そこで,医療に関わる心理士も国家資格化が検討されており,病院での心理士の役割が議論されている。医療側からは,「患者と心理士が1対1でカウンセリングルームにこもり,他の専門職とのチームの一員として行動しようとしない」「心理学用語を用いて,難解な心理学的解釈をする」というネガティブなイメージがあることが指摘されている。心理士側からも,既存の心理士資格のような医療,教育や産業保健分野にも共通したオールマイティーな資格ではなく,医療心理に限定した職能心理士資格では教育,司法,産業における専門性が失われたり,診療報酬の保険点数にその待遇が左右されやすくなるといった,心理士の専門家としてのアイデンティティーが担保されないことを危惧する意見もある2,10,15)。このように,心理士が総合病院で働く際には,どのようにして心理の専門家としてのアイデンティティーを確保しながら,いかに心理士の業務に対する病院多職種チーム側の満足度を高めていくかという課題が存在する。

 我々は,すでに総合病院において増大する精神保健サービス需要に対してどのようにして供給を充足させる体制を構築するかについて報告している6)。本稿では,2つの事例を通じて,総合病院における心理士の具体的業務の一部について報告する。我々は総合病院の精神保健サービス提供の担い手として,心理士自身が組織の中から患者以外のクライエントを設定し,クライエントを中心として多職種チームの問題解決能力を引き出した。それによって,心理士が総合病院で働く場合に生じる専門家としてのアイデンティティーの危機を克服し,心理士の専門性を発揮できる機会を広げる試みについて考察する。

参考文献

1) 田亮介,田辺英,渡邉衡一郎:精神医学におけるレジリアンス概念の歴史.精神経誌 110:757-763, 2008
2) 羽藤邦利:医療心理師の国家資格化を早急に実現してほしい.精神経誌 111:1268-1273, 2009
3) 保坂隆:全科に役立つメンタルナーシング.学研,pp2-5, 2002
4) 加来洋一,和田憲明,今井佳子,他:総合病院の病院運営におけるリフレイミングの応用について.家族療研 19:237-242, 2002
5) 上別府圭子:総合病院における臨床心理士―コンサルテーション・リエゾン活動に焦点を当てて.臨心理 6:14-19, 2006
6) 上川英樹,田山未和,島袋恭子,他:機会損失の視点から見た総合病院における精神保健サービスの供給について.精神医学 53:671-677, 2011
7) 菊池浩光:心理士の資格化を課題について―市民に貢献できる心理業務を模索してきた22年間の総括から.心身医学 45:63-66, 2005
8) 児島達美:臨床心理士による心理学的リエゾン機能について.心身医学 33:251-257, 1993
9) 町田いづみ,保坂隆,中嶋義文:リエゾン心理士 臨床心理士の新しい役割.星和書店,2001
10) 宮脇稔:国家資格はなぜ必要か.精神医学 46:21-24, 2004
11) 永田法子:スクールカウンセリングと病院臨床の接点―コンサルテーション・リエゾンの視点から.臨心研 19:77-82, 2001
12) 三條美紀,久保田友子,富岡直,他:総合病院におけるリエゾン心理士の専門性と独自性をめぐって―本院における過去2年間のコンサルテーション・リエゾン活動をとおして.総病精医 14:17-22, 2002
13) 郷久絵里香,長谷川有子,志賀満江,他:総合病院において心理士に期待される役割―患者,看護職へのアンケート結果から.総病精医 14:23-30, 2002
14) 鑪幹八郎,名島潤慈:心理臨床家の手引.誠信書房,pp1-11, 2000
15) 利島保:学術会議からの要望―医療領域に従事する「職能心理士(医療心理)」の国家資格法制の確立を.精神経誌 111:1274-1279, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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