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編集後記
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ページ範囲:P.342 - P.342
文献購入ページに移動 疾患の軌跡trajectoryということばをよく目にするようになった。様々なコホートで10年,20年という単位の長期追跡研究が公表されるようになり,精神疾患の発症前から発症後までの全容がわかりつつある。それに伴って,これまでの常識が常識でなくなることがある。古くは,統合失調症を不治の病としてとらえていたが,多くの縦断研究によって経過良好な群も相当数みられることがわかり,今や教科書の記述も変更された。従来の悲観論から,“回復”や“エンパワーメント”と前向きの考えが治療論の中にも入ってきたことは,治療者のみならず患者やその家族にも様々な恩恵を与えてきた。
一方で,楽観論が過ぎると弊害も起こる。抗精神病薬が次々と登場してその有効性が誇張されてきたが,米国で行われた大規模試験によって新規の抗精神病薬の限界を思い知らされた。しかし,創薬の領域では現在の抗精神病薬では効果の乏しい陰性症状や認知障害を改善する治療薬の開発が活発になった。また,“うつ病は治る病”として啓発し適切な医療を提供できるようにすることには何の異論もないが,今の医療レベルでは治らないこともあることを一般の方々に公平に伝えることも必要だろう。うつ病発症後約10年の経過において完全に無症状の時期は平均で5年未満であるというデータもあり,うつ病が挿間性の疾患であるということを疑問視する声もある。また,抗うつ薬の抗うつ効果はかなり限定されたものであるという指摘もある。こうして楽観論と悲観論のジレンマに陥る。身体疾患でよく用いられる,疾患のリスク状態,前駆期,発症後の経過を何段階かに分ける臨床病期モデルclinical staging modelは,病態や治療における誤解を防ぎ,さらに楽観論にも悲観論にも偏らない各臨床病期に応じた治療法の開発を促進することが期待される。この概念は精神病性障害や気分障害の領域で発展がみられる。
一方で,楽観論が過ぎると弊害も起こる。抗精神病薬が次々と登場してその有効性が誇張されてきたが,米国で行われた大規模試験によって新規の抗精神病薬の限界を思い知らされた。しかし,創薬の領域では現在の抗精神病薬では効果の乏しい陰性症状や認知障害を改善する治療薬の開発が活発になった。また,“うつ病は治る病”として啓発し適切な医療を提供できるようにすることには何の異論もないが,今の医療レベルでは治らないこともあることを一般の方々に公平に伝えることも必要だろう。うつ病発症後約10年の経過において完全に無症状の時期は平均で5年未満であるというデータもあり,うつ病が挿間性の疾患であるということを疑問視する声もある。また,抗うつ薬の抗うつ効果はかなり限定されたものであるという指摘もある。こうして楽観論と悲観論のジレンマに陥る。身体疾患でよく用いられる,疾患のリスク状態,前駆期,発症後の経過を何段階かに分ける臨床病期モデルclinical staging modelは,病態や治療における誤解を防ぎ,さらに楽観論にも悲観論にも偏らない各臨床病期に応じた治療法の開発を促進することが期待される。この概念は精神病性障害や気分障害の領域で発展がみられる。
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