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Autism Diagnostic Observation Schedule(自閉症診断観察検査)日本語版の開発状況と今後の課題
著者: 黒田美保12 稲田尚子2
所属機関: 1淑徳大学総合福祉学部実践心理学科 2(独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部
ページ範囲:P.427 - P.433
文献購入ページに移動自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorders;ASD)は,①対人的相互作用の質的障害,②コミュニケーションの質的障害,③反復的,常同的な行動様式や興味の限局,の3領域の主兆候によって特徴づけられる障害である。近年,その有病率は1~2%と報告されており,決してまれな障害ではない2,3)。
ASD診断においては,現在,操作的診断基準として,DSM-Ⅳ-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版-TR)1)およびICD-10(国際疾病分類第10版)15)が世界的に使われている。前述の3兆候があり,かつ症状の発現が3歳以前であれば「自閉性障害(autistic disorder;DSM-Ⅳ)」もしくは「(小児)自閉症(childhood autism;ICD-10)」と診断される。また,自閉症を含む障害群を広汎性発達障害と呼び,アスペルガー障害(ICD-10ではアスペルガー症候群),特定不能の広汎性発達障害などが含まれる。しかしながら,近年,これらの診断基準に用いられているカテゴリー概念に基づく広汎性発達障害という名称よりも,ASDという用語がよく使用されている。それは,自閉症を中核群とする障害のスペクトラム状の連続性が指摘されているからである13)。このように,90年代に入って,自閉症を含む障害群の概念が整理され,その診断基準がグローバルワイドに使用されるようになった。そして,標準化された診断に対応するための診断・評価ツールが相次いで開発されてきている。
現在,診断のためのASDの生物学的指標は確立しておらず,ASD診断を行う上で検討すべき点は,発達歴や日常生活の様子および実際に観察可能な行動となっている。発達歴や日常生活の行動については養育者からの聞き取りによらなければならないが,このためのツールとして,The Autism Diagnostic Interview-Revised(ADI-R)8)やThe Diagnostic Interview for Social and Communication Disorders(DISCO)14)がある。一方,ASD児・者本人の行動観察もまた不可欠であるが,このために開発されたのがAutism Diagnostic Observation Schedule-Generic(ADOS-G)10)である。聞き取りのためのツールも行動観察のためのツールもともに,日本語版は開発の途上であり,現在,臨床では使用することはできない。アジアだけをみても,ADOS中国語版・ADOS韓国語版はすでに使用されており,日本のグローバル化の遅れが顕著である。本稿では,ADOSの概要と日本語版作成のプロセスについて紹介する。
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