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雑誌目次

論文

精神医学54巻5号

2012年05月発行

雑誌目次

巻頭言

子どもの精神保健ネットワークの課題と今後の展望

著者: 山崎透

ページ範囲:P.452 - P.453

はじめに

 児童虐待やいじめをはじめとした現代社会のさまざまなストレスを背景として,不登校,ひきこもり,トラウマ反応,うつ病,自傷・自殺,発達障害児の二次障害,性的逸脱行動,反社会的行動など,子どもの情緒や行動の問題は深刻化・多様化している。少子化によって一般小児科の受診者数が減少しているのに対し,児童精神科を標榜する医療機関を受診する子どもの数は増加しており,近年では初診までの待機日数の長期化が常態化している。また,児童相談所や教育相談センターなどの相談機関においても,深刻な情緒や行動の問題を持つ子どもの相談が増え,その対応に苦慮している。こうした子どもたちが適切な支援や治療を受け,回復し,地域社会で健やかに生活していくためには,医療のみならず,福祉・教育・保健・司法などを含む関係領域が連携し,包括的な支援を行うことが重要であり,地域におけるネットワークを構築していかなければならない。

 しかし,こうした子どもの精神保健に関するネットワークを整備していくためには,ネットワークの中核となる医療機関の整備,一次医療機関の整備,専門医などの人材育成,医療従事者のネットワーク活動に対する理解と評価,縦割り行政の解消など,さまざまな課題が山積している。

 本稿では,子どもの精神保健ネットワークを整備するための医療側の課題や今後の展望について述べてみたい

展望

ヒトの社会行動の脳神経基盤―自閉症研究への示唆

著者: 山末英典

ページ範囲:P.454 - P.464

はじめに

 ヒトの脳は,駆け引きや欺き,あるいはそれに対する防衛など,社会的な対人交渉のためにこそ言語機能も獲得し,他の霊長類の追従を許さないほど巨大に発達したのだという主張がある12)。実際,日常生活でも対人相互作用などを行う社会的場面では,知覚,認知,情動,意欲などの精神機能を統合し,瞬時にして膨大な情報処理能力が要求されていると思われる。たとえば,我々は日常的に何気なく他者の意図を推測して自らの行動を調節しているが,これについても表情認知,視線の処理,情動制御,共感などの高次の精神機能を統合して実現していると思われる。こうした社会機能を支える共感や道徳性さらには愛他性などの高次の感情は,人間特有で,高度に組織化された人間社会の基盤を成すと考えられてきた。

 一方で,伝統的な脳科学の領域では,対人的な要素を排除した純粋な知覚処理など,狭義の認知機能の脳神経基盤の解明に焦点が当てられ,社会・対人的な情報の脳神経基盤については比較的近年になって関心が向けられてきたところである1)。そして,最近10年間でこの領域の研究は飛躍的に増加した42)。本稿では,共感や他者の意図の理解などの社会認知の脳基盤についての近年の研究成果を概観する。その際に,男女差,神経ペプチド,自閉症スペクトラム障害における社会性の障害の脳基盤といった観点から知見を整理し,今後のこの領域の研究が向かうべき方向を浮かび上がらせるべく試みたい。

研究と報告

統合失調症における嚥下障害―CP換算量,年齢および日常生活自立度との関連

著者: 斎藤徹 ,   五十嵐伸江 ,   小池早苗 ,   小澤照史

ページ範囲:P.465 - P.471

抄録

 統合失調症の嚥下障害者174症例を対象として,嚥下障害の程度と服用抗精神病薬のchlorpromazine(CP)換算量,年齢および日常生活自立度(ADL)との関連を検索した。ADLの評価は,「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」に準じた。また,嚥下障害の程度は藤島のGrade分類により評価し,重症(Grade 1~3),中等度(Grade 4~6),軽症(Grade 7~9)に分類した。

 嚥下機能評価時のCP換算量の平均は重症症例:346mg,中等度症例:390mg,軽症症例:551mgであり,軽症症例でCP換算量が高い傾向が認められたが,重症,中等度および軽症症例の間でCP換算量に有意差はなかった。また,80歳以上では嚥下障害のGradeの平均が5.0と,59歳以下(6.4)と比較して有意(p<0.05)に低下(嚥下障害が重症化)していたが,59歳以下,60歳代,70歳代の各年代間でGradeに有意差は認められなかった。

 他方,ADLの低下に伴い嚥下障害のGradeは低下し,Gradeの平均はランクB(5.5)およびランクC(4.3)ではランクJ(7.2)と比較して有意(J vs. B:p<0.005,J vs. C:p<0.0001)に低かった。

 以上の結果より,統合失調症の嚥下障害の程度はADLと密接に関連するものの,嚥下機能評価時のCP換算量とは関連しないことが示唆された。

強度行動障害における自閉性障害との関連性―日本自閉症協会評定尺度(PARS)短縮版による分析

著者: 井上雅彦 ,   岡田涼 ,   野村和代 ,   安達潤 ,   辻井正次 ,   大塚晃 ,   市川宏伸

ページ範囲:P.473 - P.481

抄録

 本研究では,知的障害者入所更生施設の利用者および知的障害特別支援学校の児童生徒合わせて618名を対象に,強度行動障害判定基準表(旧法),行動援護基準(新法),日本自閉症協会評定尺度(PARS)短縮版を用いて調査し,旧法基準および新法基準による強度行動障害の程度とPARS得点や下位項目との関連,さらに知的発達の程度との関連について分析を行った。結果,強度行動障害に対しては,知的障害の程度だけでなくPARS短縮版の得点の高さが強く影響していることが明らかにされた。特に行動障害に関連するPARS項目としては対人面に関係するものが多く,知的障害が軽度であったとしても,有する自閉性障害が対人関係面で重篤であれば強度行動障害のリスクが大きくなることが示された。強度行動障害判定基準表(旧法)と行動援護基準(新法)の関係については,尺度的な相関の高さが示された。しかし先行研究と同様,各法的基準で定められた得点に含まれる加算対象者の不一致が示され,知的障害を伴わない発達障害を持つ対象者も含めた評定項目の分析や再検討の必要性が示唆された。

統合失調症の多飲症に対してquetiapineが奏効した2症例

著者: 長友慶子 ,   武田龍一郎 ,   牧田昌平 ,   木村佳代 ,   湯地博幸 ,   米良誠剛 ,   倉山茂樹 ,   石田康

ページ範囲:P.483 - P.489

抄録

 精神科病院に長期入院の患者の多飲症はしばしば認められる。しかし,多飲症は飲水制限以外に有効な治療法がなく,長期にわたる隔離や身体的拘束を要することもあり,治療に難渋することが多い。今回,多飲症が遷延した統合失調症患者にquetiapineを投与することにより改善した2症例を経験した。非定型抗精神病薬による多飲症の改善に関する報告は少なく,quetiapineの多飲症治療における有用性に関し,若干の考察を加えて報告する。

医療観察法による通院医療患者に対する訪問看護ステーションからの訪問看護の実態―多職種カンファレンス実施率とその内容の特徴

著者: 萱間真美 ,   瀬戸屋希 ,   角田秋 ,   佐藤茂樹 ,   松原三郎 ,   立森久照 ,   大串悦子 ,   仲野栄 ,   上野桂子 ,   小川忍

ページ範囲:P.491 - P.499

抄録

 本研究では,訪問看護ステーションからの精神科訪問看護を利用している医療観察法の対象者71名とそれ以外の訪問看護対象者477名について,対象者の特徴とカンファレンス実施の状況について比較した。

 医療観察法の対象者では,気分障害の割合が高く,単身生活者が多く,ホームヘルプ利用が少なかった。またカンファレンスを実施している割合が高く,そのコーディネートを担当しているのは主に社会復帰調整官であった。医療観察法による訪問看護では,制度の特徴からカンファレンスで情報共有や診立てを丁寧に実施しやすいと考えられた。一方で,さまざまな社会資源とつながりにくくサービス提供に困難を生じやすい実態が明らかとなり,福祉サービスとの連携やサービス担当者のサポート機能の充実など今後検討が必要であると考える。

3地域における認知症家族介護基盤の比較検討―専門外来を受診する患者の初診時同居者・同伴者に注目して

著者: 品川俊一郎 ,   今村徹 ,   矢田部裕介 ,   橋本衛 ,   中山和彦 ,   池田学

ページ範囲:P.501 - P.507

抄録

 認知症患者を取り巻く家族介護基盤に関する現状把握と地域差比較を行う目的で,認知症専門外来を受診する認知症患者の居住形態と初診時同居者・同伴者を,大都市拠点病院,地方都市拠点病院,地方都市地域病院の3施設で比較検討した。初診時同居者は,大都市拠点病院で「配偶者のみ」や「独居」が多かったのに対し,地方都市拠点病院では「配偶者のみ」,「配偶者および子ども世帯」が多く,地方都市地域病院では「子ども世帯」が多く施設間で差があった。初診時同伴者は,大都市拠点病院で「配偶者以外の家族」>「配偶者」>「単身」であったのに対し,地方都市の両病院では「配偶者以外の家族」>「配偶者」>「配偶者と他の家族」であり単独受診はまれであった。地域によって家族介護基盤が異なるため,それに応じた対処が必要であることが示唆された。

短報

夕方の高照度光療法が大うつ病エピソードに有効であった双極II型障害の1例

著者: 三浦淳 ,   佐々木春喜

ページ範囲:P.509 - P.512

はじめに

 高照度光療法は,季節性感情障害,非季節性うつ病,概日リズム睡眠障害などに対して有効であるといわれている6)。具体的には,2,500ルクスの光を2時間,または10,000ルクスの光を30分間照射する6)。作用機序としては,生体リズムの位相変位作用2),セロトニン神経系への賦活作用5),覚醒作用などが想定されている4)。光照射は起床直後に施行されることが多く,夕方の光照射が有効とされる疾患は,睡眠相前進症候群などに限られる2)。今回我々は,季節性の特徴を呈した双極Ⅱ型障害の大うつ病エピソードに対し,発光ダイオード(LED)を用いた光照射を行った。起床直後の光照射は無効であったが,夕方の光照射により寛解状態に至った症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

Milnacipranとmirtazapineの併用が効果的であったうつ病の1例

著者: 山下功一 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.513 - P.516

はじめに

 Milnacipranとmirtazapineの併用が効果的であったうつ病の1例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

資料

大学病院精神科外来を受診した成人期広汎性発達障害の後方視的検討―児童青年期症例との比較を通して

著者: 河邉憲太郎 ,   堀内史枝 ,   長谷川芙美 ,   安部賢郎 ,   小森憲治郎 ,   上野修一

ページ範囲:P.517 - P.522

はじめに

 広汎性発達障害(pervasive developmental disorder;PDD)とは,対人相互反応の質的な障害,意思伝達の質的な障害,活動と興味の限局を3主徴とする発達障害であるが,現在のところ根治的治療は存在せず,早期介入,および支援体制の必要性が重要視されている。2005年に施行された「発達障害者支援法」により,早期介入の支援体制は各地域で整いつつある一方で,幼児期・学童期は大きな問題を指摘されずに過ごし,青年期や成人期に何らかの理由で精神科の受診に至り,PDDと診断されるケースも少なくない。牛島は,発達障害者が成人になって精神医学的症状を携えて援助を求めることは少なくなく,ただ単に子どもの大人版ではないことを指摘している13)。また,統合失調症や強迫性障害と診断されているケースや,気分障害の存在だけが認識され,根底にあるPDDの存在が見逃されるケースでは,その後の支援を考慮した支援計画を立てるうえでも成人期にPDDを診断することは重要である12)。しかしながら,成人期になって初診する症例では精神症状,発達障害像ともに非定型で,診断の見極めが非常に困難であることや,最近の風潮として過剰診断の問題もあり,どのような診断指針を策定すべきかは,緊急に検討すべき課題である13,14)

 愛媛大学医学部附属病院精神科(以下,当科)は,愛媛県中予地区で児童青年期専門外来を有する唯一の基幹病院である。児童青年期専門外来の初診児童のうち,PDDと診断し得る患者の割合は約32%にのぼるが,成人になって初診するPDDの患者数も増加傾向にある。今回我々は,18歳までに初診したPDD群と18歳を越えて初診したPDD群の比較を行うことで,PDDの実態を把握することを目的として検討を行った。本研究は,既存資料を用いた後方視的な検討であるが,個人情報を保護するため,解析は数値化し匿名で行い,個々の症例についての個人を特定する言及や検討を避け,個人情報には最大限配慮している。

紹介

バイロン・ケイティのワーク

著者: 関沢洋一 ,   田中麻里 ,   清水栄司

ページ範囲:P.523 - P.529

はじめに

 長引く不況などを背景として強い抑うつや不安を感じて心のケアを必要とする人々は近年増加しているように思われ,また,東日本大震災後にみられたように,心のケアへのニーズが急に高まることもある。しかし,このようなニーズの増加に対して,適切な心のケアを行えるセラピストの数を急増させることは難しく,心のケアを必要としているにもかかわらず十分な手当を受けられない人々が多くなることが懸念される。

 このような問題への対応として,従来型の1対1のカウンセリング方式によるセラピーに加えて,抑うつと不安を軽減させるメソッドで,多数の人々に同時に教えることができ,いったん習得すれば自分自身で行えるものを開発し普及させることができれば望ましい。さらに,こうしたメソッドが,読書療法のように独学でも習得できるものであり,かつ,現在は強い抑うつや不安を抱えていない人であっても予防的に活用できるものであれば,いっそう望ましい。

 「バイロン・ケイティのワーク(The Work of Byron Katie)」4,5)は,このような要請を満たすメソッドかもしれない。このメソッドは,うつ病患者だったバイロン・ケイティ(Byron Katie)というアメリカ人女性が作りだしたもので,やり方がパターン化されていて,多数の人々に同時に教えやすく,ケイティの著書を読むことによって独学で学ぶことも可能であり,テレビなどを通じて教えることも可能である。このため,震災後のように,心のケアに対する需要が急増した場合でも対応しやすいというメリットがある。

「精神医学」への手紙

自殺既遂の症例研究

著者: 吉田勝也

ページ範囲:P.531 - P.532

 精神科医が最も恐れるのは,患者の自殺であろう。主治医にとって,その衝撃は大きい。斉藤ら2)は,患者を失った後の喪の作業として,主治医にとって有益だったこととして,上司や同僚との議論,スタッフとのカンファレンス,関連した文献を読むことを挙げている。

 筆者は以前,出向を契機に仕事上の目標を喪い,うつ病を発症し,焼身自殺を遂げた症例(Aさん)を報告した3)。Aさんは筆者にとって,自殺を遂げた初めての患者さんである。症例報告は,筆者の喪の作業として,非常に役立ったと感じている。同時に,書いても,書いても書き尽くせない何かがあると思った。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

35年目の「逃避型抑うつ」

著者: 広瀬徹也

ページ範囲:P.534 - P.536

はじめに

 昨今,「逃避型抑うつ」を諸家の論文中に見出す場合,いわゆる新型うつ病論の導入として,ないしはそのはしりとして名称だけが記されているものがほとんどである。そしてメインとなる記述は「ディスチミア親和型うつ病」となる。「逃避型抑うつ」2)が35年前の1977年の登場なのに対して「ディスチミア親和型うつ病」が2005年と新しいこと,登場と同時に無条件承認のように多くの人々に受け入れられたことを考えると,その差も当然かという気もする。

 しかし,逃避型抑うつとディスチミア親和型うつ病では多くの点で対照的であるうえ5),逃避型抑うつは経済状況の厳しい昨今でも一定の頻度でみられることから,上記のような引用は厳密には正当とはいえないであろう。そこで,今やディスチミア親和型うつ病の陰に隠れた逃避型抑うつのエッセンスの紹介と,以前の論文以降の補足を加えることにする。

書評

―青木省三,村上伸治 責任編集―専門医のための精神科臨床リュミエール23―成人期の広汎性発達障害

著者: 田中康雄

ページ範囲:P.539 - P.540

 本書は,『専門医のための精神科臨床リュミエール』第3期の1冊として上梓された。そもそもこのシリーズは,現代精神科臨床のなかで従来の教科書では看過されやすいテーマを最新かつ多面的な視点により掘り下げて論じることで,精神科医としての知と技に一層の磨きをかけることを目的としている。

 結論を先取りすると,本書はこの目的を遙かに凌駕したと評者は断言する。

―ハーモニー(就労継続支援B型事業所) 編著―幻聴妄想かるた―解説冊子+CD『市原悦子の読み札音声』+DVD『幻聴妄想かるたが生まれた場所』付

著者: 原田誠一

ページ範囲:P.541 - P.541

 本書は当事者の皆さんが,①自分の幻聴妄想体験を「かるた」の読み札,絵札という形で表現し,②解説冊子で生育歴,治療やハーモニー(=今回の企画の主体となったリハビリ施設)への感想,かるたへの想いなどを率直に綴り,③DVDにも出演して読者へのメッセージを発信するという,誠に独創的で先駆的な内容となっている。さらには,女優・市原悦子さんが読み札を語る素敵なCDもついていて,ユニークな魅力満載の快著と感じ入りました。本書を楽しみ味わう中で評者は新鮮な懐かしさを満喫するとともに,一精神科医として複雑なほろ苦さも体験しました。以下,その内実を記して本書の紹介とさせていただきます。

 まずは「新鮮な懐かしさ」から。四半世紀にわたって精神科医をやってきた評者にとって,かるたで表現されている内容自体は馴染み深いもので,しみじみ「懐かしさ」を感じました。一方の「新鮮さ」は,(1)かるたという形式で幻聴妄想体験が言語的・絵画的に生き生きと表現されていて,(2)解説冊子とDVDで当事者の皆さんが堂々と想いのたけを語る様子に感銘を受け,(3)市原悦子さんの見事な朗読を通して,皆さんの心象風景が髣髴としてくる経験に驚嘆したことによります。加えて,診療で心理教育を行う際にかるたを早速使ってみたところ,良い手応えがみられたことも新鮮な体験でした。

―Jesse HW,Donna MS,Douglas T,Michael ET 著,大野 裕 訳―認知行動療法トレーニングブック―短時間の外来診療編[DVD付]

著者: 坪井康次

ページ範囲:P.542 - P.542

 今や認知行動療法(CBT)は,一般にもよく知られるようになり,その適応疾患はうつ病だけでなく各種の精神疾患にも広げられ,さらに一般身体疾患の管理の問題にも応用され効果を上げている。また,認知行動療法は,薬物療法と併用されると,より良好な経過や再発予防効果が得られることもわかってきている。

 一方で,認知行動療法に習熟した治療者が不足しており,誰でもがこの治療を受けられる状況にはない。このことはわが国ばかりでなく欧米においても同様で,英国などでも治療者の養成が計画されている。より多くの患者に本治療の効果を届ける方法についての検討が課題となっている。

学会告知板

日本行動療法学会第38回大会認知行動療法の「今」

ページ範囲:P.532 - P.532

大会長 杉山雅彦

事務局 日本行動療法学会 理事長

会 期 2012年9月21日(金)~23日(日)

会 場 立命館大学 衣笠キャンパス

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.507 - P.507

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.537 - P.537

次号予告

ページ範囲:P.489 - P.489

投稿規定

ページ範囲:P.543 - P.544

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.545 - P.545

編集後記

著者:

ページ範囲:P.546 - P.546

 周知のように,厚生労働省は昨年,精神疾患を医療計画に記載すべき疾患に追加し,2013年度以降の医療計画に反映させることを決めた。これにより,従来からの癌・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の「4疾病」と救急・災害・僻地・周産期・小児の「5事業」で構成してきた地域医療の必須要素は「5疾病5事業」となった。精神疾患は患者数(08年調査)が323万人と癌の2倍に達し,現行4疾病で最も多い糖尿病の237万人をも上回っている。精神疾患が加わった背景には,職域におけるうつ病や高齢化に伴う認知症の増加などがあり,さらに年間3万人を超える自殺者の大半が何らかの精神疾患に罹っていたのではないかという推定もあって,もはや精神疾患は国民全般に無縁なものではないという現実の追認がある。ようやくという感もあるが,これに携わる我々にその用意が十分にあるかというと,心もとないというのが正直なところであろう。

 精神疾患は身体疾患と違い,発生予防(一次予防)の方策がとられにくいし(ちなみに癌の“原因”を一元的にタバコのせいにする行政サイドからの魔女狩りのようなキャンペーンをみていると,身体疾患でも一次予防の道は険しいとスモーカーは考えてしまうのだが…),三次予防も社会資源がまだまだ不十分なままである。二次予防の早期発見・治療に関しては一般人への知識の啓蒙や産業医・プライマリケア医の積極的関与などにより,偏見の強かった時代に比べ雲泥の差がある。しかし,たとえば小児についてみると,ちょうど本号の「巻頭言」で山崎先生が述べておれるように,ネットワークの中核となる医療機関の整備不足,マンパワーの不足など,我々の努力が足りない部分も大きい。むろん行政の努力も足りないが,我々の中に担い手がいなかったらどうすることもできない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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