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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻5号

2012年05月発行

資料

大学病院精神科外来を受診した成人期広汎性発達障害の後方視的検討―児童青年期症例との比較を通して

著者: 河邉憲太郎12 堀内史枝1 長谷川芙美1 安部賢郎1 小森憲治郎1 上野修一1

所属機関: 1愛媛大学大学院医学系研究科脳・神経病態制御医学講座脳とこころの医学 2医療法人佑心会堀江病院

ページ範囲:P.517 - P.522

文献概要

はじめに

 広汎性発達障害(pervasive developmental disorder;PDD)とは,対人相互反応の質的な障害,意思伝達の質的な障害,活動と興味の限局を3主徴とする発達障害であるが,現在のところ根治的治療は存在せず,早期介入,および支援体制の必要性が重要視されている。2005年に施行された「発達障害者支援法」により,早期介入の支援体制は各地域で整いつつある一方で,幼児期・学童期は大きな問題を指摘されずに過ごし,青年期や成人期に何らかの理由で精神科の受診に至り,PDDと診断されるケースも少なくない。牛島は,発達障害者が成人になって精神医学的症状を携えて援助を求めることは少なくなく,ただ単に子どもの大人版ではないことを指摘している13)。また,統合失調症や強迫性障害と診断されているケースや,気分障害の存在だけが認識され,根底にあるPDDの存在が見逃されるケースでは,その後の支援を考慮した支援計画を立てるうえでも成人期にPDDを診断することは重要である12)。しかしながら,成人期になって初診する症例では精神症状,発達障害像ともに非定型で,診断の見極めが非常に困難であることや,最近の風潮として過剰診断の問題もあり,どのような診断指針を策定すべきかは,緊急に検討すべき課題である13,14)

 愛媛大学医学部附属病院精神科(以下,当科)は,愛媛県中予地区で児童青年期専門外来を有する唯一の基幹病院である。児童青年期専門外来の初診児童のうち,PDDと診断し得る患者の割合は約32%にのぼるが,成人になって初診するPDDの患者数も増加傾向にある。今回我々は,18歳までに初診したPDD群と18歳を越えて初診したPDD群の比較を行うことで,PDDの実態を把握することを目的として検討を行った。本研究は,既存資料を用いた後方視的な検討であるが,個人情報を保護するため,解析は数値化し匿名で行い,個々の症例についての個人を特定する言及や検討を避け,個人情報には最大限配慮している。

参考文献

1) 土岐淑子,中島洋子:高機能広汎性発達障害の就労支援.児童青年精神医学とその近接領域 50:122-132, 2009
2) 堀内史枝,松本光央,中塚哲三,他:児童青年期精神科診療の現状と展望.愛媛医学 23:74-78, 2004
3) 門眞一郎:自閉症スペクトラムにみられる「視覚優位」.精神科治療学 25:1619-1626, 2010
4) 笠原麻里:発達障害者支援のこれから―自閉症とアスペルガー症候群を中心に―広汎性発達障害の女性における妊娠・出産・育児.精神科治療学 24:1225-1229, 2009
5) 河邉憲太郎,堀内史枝,長谷川芙美,他:入院を契機にアスペルガー障害と確定診断され治療が奏効した成人2症例.精神科 17:559-566, 2010
6) 黒田美保,吉田友子,内山登紀夫,他:広汎性発達障害臨床におけるWISC-Ⅲ活用の新たな試み―3症例の回答内容の分析を通して.児童青年精神医学とその近接領域 48:48-60, 2007
7) 小川浩:発達障害者支援法ガイドブック.市川宏伸(統括):発達障害に関わる実態把握と効果的な発達支援手法の開発に関する研究.河出書房新社,2005
8) 齊藤万比古:発達障害が引き起こす二次障害へのケアとサポート.学研,pp12-53, 2009
9) 障害者職業総合センター:発達障害者の就労支援の課題に関する研究.調査研究報告書No.88:2009
10) Siegel DJ, Minshew NJ, Goldstein G:Wechsler IQ profiles in diagnosis of high-functioning autism. J Autism Dev Disord 26:389-406, 1996
11) 内山登紀夫:トピックス:成人期の広汎性発達障害.精神科治療学 23増刊号:201-202, 2008
12) 内山登紀夫:成人期の自閉症スペクトラム―診断と鑑別診断.そだちの科学 13:26-31, 2009
13) 牛島定信:精神医学の臨床現場で見る成人の発達障害.臨精医 39:1239-1243, 2010
14) 山崎晃資:成人期のアスペルガー症候群の診断上の問題.精神医学 50:641-650, 2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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