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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻7号

2012年07月発行

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

単純型・寡症状性統合失調症

著者: 田中伸一郎1

所属機関: 1杏林大学医学部精神神経科学教室

ページ範囲:P.734 - P.737

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はじめに

 統合失調症のサブタイプのうち,単純型と寡症状性とは似て非なるものである。まずは,これらの概念の出自が異なることを確認しておこう。

 単純型統合失調症は,20世紀初頭にスイスの精神科医Bleulerが統合失調症概念を確立した際に取り上げた,破瓜型,緊張型,妄想型に続く,第4の臨床類型である。

 一方,寡症状性(symptomarmないしsymptomkarg)は,うつ病や統合失調症の軽症化に伴って,20世紀半ば以後のドイツ語論文において頻用された言葉である。わが国でもこの潮流にしたがって,明確な幻覚,妄想,緊張病症候群といった特異的な症状を欠き,ゆるやかな経過をとる破瓜型と単純型を併せたものを「寡症状性統合失調症」と呼ぶようになった。

 本稿では,まずは単純型統合失調症の,次いで寡症状性統合失調症の,病像や臨床症状をまとめたが,いわゆる「内省型」については,単純型統合失調症の理念型とはむしろ対極をなす病像が特徴的であるため,寡症状性に含めることとした。

参考文献

1) Binswanger L:Schizophrenie. Günther Nelske, Pfullingen, 1957(新海安彦,宮本忠雄,木村敏訳:精神分裂病Ⅰ,Ⅱ.みすず書房,1960/1961)
2) Blankenburg W:Der Verlust der natürlichen Selbstverständlichkeit. Ein Beitrag zur Psychopathologie symptomarmer Schizophrenien. Enke, Stuttgart, 1971(木村敏,岡本進,島弘嗣訳:自明性の喪失―分裂病の現象学.みすず書房,1978)
3) Diem O:Die einfach demente Form der Dementia praecox. Archiv f Psychiatr 37:111-187, 1903
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6) 長井真理:内省の構造―病的な「過剰内省」について.村上靖彦編,分裂病の精神病理12.東京大学出版会,pp189-211, 1983
7) 中安信夫:初期分裂病.星和書店,1990
8) 田中伸一郎:統合失調症のノーマライゼーションとポストモダン―いわゆる輪郭不鮮明型の精神病理についての一試論.精神科治療学27:489-498, 2012
9) 内海健:単純型分裂病再考.永田俊彦編,分裂病の精神病理と治療5.星和書店,pp33-71, 1994
10) Wyrsch J:Über die Psychopathologie einfacher Schizophrenien. Monatschr Psychiatr Neurol 102:75-106, 1940

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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