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文献詳細

雑誌文献

精神医学54巻8号

2012年08月発行

文献概要

私のカルテから

Quetiapineへの切り替え後に社会機能の改善がみられた慢性期統合失調症の2例―精神障害者社会生活評価尺度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill;LASMI)を用いて

著者: 河邉憲太郎13 栗林達也2 福原竜治3 細田能希1 上野修一3

所属機関: 1医療法人佑心会堀江病院 2医療法人佑心会堀江病院看護部 3愛媛大学大学院医学系研究科脳・神経病態制御医学講座脳とこころの医学

ページ範囲:P.847 - P.852

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はじめに

 統合失調症は,発病前期・前駆期・進行期・安定期の経過をたどる10)が,安定期では疾病水準が固定化し,抗精神病薬による治療効果は限局的である6)とされる。一方,近年,非定型抗精神病薬が用いられるようになり,統合失調症の寛解(remission)が可能になるに従い,単に疾患からの回復(recovery)を目指すだけでなく,社会復帰が指向されるようになりつつある3)。すなわち,陽性症状の改善に加え,陰性症状・認知機能障害などが関与する社会機能やquality of life(QOL)の改善を目指すことが重要視されるようになった。提示する慢性期統合失調症2症例は,幻覚や妄想などの陽性症状が表出されず内在する一方で,疎通性の不良などのコミュニケーション障害が目立つため,隔離室を中心とした入院治療が必要であったが,抗精神病薬を整理し,quetiapineを中心とした薬物療法に変更したところ,疎通性の改善や活動性の向上を認め,退院までには至らないものの,最終的に行動制限の改善が可能となった。今回,精神症状の評価に簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale;BPRS)日本語版8)(各項目別スコア,合計スコア,クラスター別スコア2))に加え,日常生活・社会生活の評価として精神障害者社会生活評価尺度(Life Assessment Scale for the Mentally Ill;LASMI)4)を用い評価した。なお,症例報告に関しては家族の同意を得て,個人情報保護の観点から,本質に支障のない程度に症例の内容を変更している。

参考文献

1) Buckley PF:Efficacy of quetiapine for the treatment of schizophrenia:A combined analysis of three placebo-controlled trials. Curr Med Res Opin 20:1357-1363, 2004
2) Guy W:ECDEU assessment manual for psychopharmacology Revised. pp166-169, U.S. Department of health, education, and welfare, Marylamd, 1976
3) Harvey PD, Bellack AS:Toward a terminology for functional recovery in schizophrenia:is functional remission a viable concept? Schizophr Bull 35:300-306, 2009
4) 岩崎晋也,宮内勝,大島巌,他:精神障害者社会生活評価尺度の開発 信頼性の検討(第1報).精神医学36:1139-1151, 1994
5) 小出浩之:残遺概念と治療―陰性症状に焦点を当てて.精神科治療学14:607-613, 1999
6) Lieberman JA, Perkins D, Belger A, et al:The early stages of schizophrenia:Speculations on pathogenesis, pathophysiology, and therapeutic approaches. Biol Psychiatry 50:884-897, 2001
7) 松岡洋夫:統合失調症における機能障害の病態と治療.精神医学53:111-117, 2011
8) 宮田量治,藤井康男,稲垣 中,他:Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)日本語版の信頼性の検討.臨床評価23:357-367, 1995
9) 大山 勉:精神症状や生活技能が精神障害者の就労に与える影響についての研究―簡易精神症状評価尺度(BPRS)と精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)による調査から.東海学院大学紀要3:33-40, 2009
10) 佐藤光源,丹羽真一,井上新平:統合失調症治療ガイドライン第2版.医学書院,2008
11) Seeman, P:Atypical antipsychotics:Mechanism of action. Can J Psychiatry 47:27-38, 2002
12) Woodward ND, Purdon SE, Meltzer HY, et al:A meta-analysis of neuropsychological change to clozapine, olanzapine, quetiapine, and risperidone in schizophrenia. Int J Neuropsychopharmacol 8:457-472, 2005
13) 山口直彦:5.残遺型(残遺)統合失調症.精神科治療学20:104-105, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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