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雑誌目次

論文

精神医学55巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

巻頭言

現代医療の課題と方向

著者: 久保千春

ページ範囲:P.4 - P.5

 現在の日本の政治,経済,社会の状況や医学の進歩は医療制度,病気の種類,治療に大きく影響を及ぼしています。医療における課題や方向について述べてみたいと思います。

現代医療の課題

 現在の日本社会は国際化,情報化,高齢化,少子化,格差社会や人間関係の希薄化などにより,政治,経済,社会が非常に不安定になっています。すなわち,さまざまなストレスの増加がみられています。その結果,14年間続けて年間3万人以上もの自殺者があり,失業率や引きこもり,犯罪の増加などがマスコミで報道されています。現在,日本は世界の中で長寿国ですがその地位はあやしくなると思われます。

展望

双極性障害概念のこれまでとこれから

著者: 仁王進太郎

ページ範囲:P.7 - P.19

“Wovon man nicht sprechen kann, daruber muss man schweigen”

「語り得ないことについては,沈黙するほかない」

 L. Wittgenstein(1889-1951)

研究と報告

統合失調症における疾病管理とリカバリー(Illness Management and Recovery;IMR)の有効性

著者: 藤田英美 ,   加藤大慈 ,   内山繁樹 ,   渡辺厚彦 ,   武井寛道 ,   星竜平 ,   水野直武 ,   中村亮 ,   中村正子 ,   佐伯隆史 ,   河西千秋 ,   平安良雄

ページ範囲:P.21 - P.28

抄録

 疾病管理とリカバリー(Illness Management and Recovery;IMR)の有効性を検討した。統合失調症患者81名を対象にIMRを実施し,機能の全体的評価(GAF),簡易精神症状評価尺度(BPRS),精神の健康管理への積極性評価尺度(PAM13-MH),SF-36健康調査票(SF-36),生活満足度スケール(LSS),地域生活に対する自己効力感尺度(SECL),利用者満足度調査票(CSQ-8)を用いて評価を行った。その結果,GAF,BPRS,PAM13-MH,SF-36の「日常役割機能(身体)」「社会生活機能」,LSS,SECLの「対人関係」と「合計得点」で有意な改善を認め,プログラム満足度も高いことが明らかにされた。IMRは,日本の統合失調症患者に有効であることが示唆された。

短報

小児摂食障害の転帰調査

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.29 - P.32

抄録

 初診後4~10年経過した摂食障害(ED)患者を,14歳以下で発症した小児ED 47人と15歳以上で発症した成人ED 176人とに分類し,転帰結果を比較した。小児EDの転帰は回復62%,部分回復11%,未回復21%,死亡6%で,成人EDの転帰は回復52%,部分回復18%,未回復21%,死亡8%であった。両群で転帰に有意差はなかった。両群で病型が異なったので,病型別に比較したが転帰に有意差はなかった。入院歴の有無で転帰に成人EDは差があったが,小児EDは差がなかった。

修正型電気けいれん療法施行後に心室頻拍を呈し回復が困難だった1例

著者: 野口剛志 ,   高崎英気

ページ範囲:P.33 - P.35

はじめに

 近年わが国では,静脈麻酔薬,筋弛緩薬,酸素化を用いた修正型電気けいれん療法(以下m-ECT)が総合病院を中心に普及しつつある。m-ECTは麻酔科医により呼吸循環の管理が行われることから,きわめて安全な治療と考えられている。今回,我々はm-ECT施行後に心室頻拍を呈し,麻酔科医の迅速な対応にもかかわらず回復が困難だった症例を経験したので報告する。

資料

ひきこもり大学生に対するデイケア参加の意義に関する検討―保健管理センターでの支援事例へのインタビューを通して

著者: 川乗賀也 ,   山本朗 ,   宮西照夫

ページ範囲:P.37 - P.43

抄録

 和歌山大学保健管理センターでは,大学生のひきこもり事例に対し,2002年に「ひきこもり回復支援システム」を構築し,2010年には学内にデイケア室を設け,支援を行ってきた。今回,デイケア室を利用し,ひきこもりが改善した4事例を対象にインタビューを行った。その結果,ひきこもりに至る要因として全員に対人関係の困難が想定されるなどし,社会的スキルを伸ばす場所としてのデイケアの意義が再確認された。また,デイケア室が大学内に存在するため,デイケア利用により大学に仲間ができ,本人の孤立感軽減や仲間からの具体的支援を受けやすいこと,自らの回復過程がイメージしやすいことなどの利点も想定された。

都立松沢病院夜間休日救急入院患者の精神科診断の21年間(1986~2006年)の変化―性比および自殺関連行動,暴力の変化との関連性に着目して

著者: 林直樹 ,   厚東知成 ,   高濱三穂子 ,   今井淳司 ,   崎川典子 ,   大澤達哉 ,   石井秀宗 ,   岡崎祐士

ページ範囲:P.45 - P.55

はじめに

 時代によって精神障害の現れ方が変化することは,社会,文化の時代変化と結び付けられて盛んに論じられてきているテーマである。しかし,精神障害の時代変化についてのデータに基づく研究では,そこに内在する方法論的問題のために,これまでに十分な知見が蓄積されているとは言い難い状況がある。その問題とは,①時期・時代によって臨床統計の基礎となる診療体制が変化すること,②時期・時代による変化を確認するため基礎となるのは臨床診断であるが,その信頼性が高くないこと,と考えられる。

 本報告において我々は,都立松沢病院(以下,松沢病院と略)の東京都精神科夜間休日救急診療(以下,夜間休日救急診療と略)における入院患者を対象とする診療録調査に基づいて,精神障害の時期による変化についての検討を行う。この診療体制は,夜間休日に緊急に入院治療を必要とする患者を主な対象として1978年11月から稼働してきたものである6)。そこにおける松沢病院の役割には,現在に至るまで大きな変更は加えられていない。それゆえこれは,一般化可能性にやや問題があるものの,①の問題をある程度まで回避することができる研究フィールドであると考えられる。

 本報告では,1986年から2006年の21年間に松沢病院の夜間休日救急診療にて入院した患者の精神科診断の時期による変化を明らかにし,それに対して精神障害の疾病構造の変化の視点から検討を加える。特にここでは,この21年間の顕著な変化として認められた,入院患者の性比の変化や入院時問題行動である自殺関連行動と暴力の変動と,精神科診断の増減との関連性に着目することにする。性比や問題行動の比率の変化は,この期間中における疾病構造の変化を示唆するものであり,もしもそれらが精神科診断の比率の変化と関連付けられるとすれば,②の方法論的な問題を補って精神障害の比率の変化(疾病構造の変化)の所見を実態のあるものと捉える可能性が高まるだろう。

“Schizophrenie”(統合失調症:E. Bleuler, 1911)より100年(2011)―20世紀以後の精神医学における受容を中心に

著者: 濱中淑彦

ページ範囲:P.57 - P.74

抄録

 2011年はEugen Bleuler(1857~1939)の主著「早発性デメンチア:統合失調症群」(1911)において,精神医学の主要疾患の一つ「統合失調症Schizophrenie」の概念が「早発性デメンチア」(E. Kraepelin:1893~1913)を改訂したものとして提案されて以来,100年にあたる記念の年であったので,国内外で行われた記念事業を紹介し,Bleulerの略伝に触れた後,本邦精神医学黎明期と20~21世紀初頭の欧米精神医学における概念受容の歴史と現況(特に統合失調症の「脱構築/名称変更」問題など)を展望した。

紹介

大人の発達障害入院治療プログラムの試み―2週間の短期入院で行う心理検査と集中的疾患教育

著者: 枝雅俊 ,   長沼睦雄

ページ範囲:P.75 - P.77

はじめに

 成人の発達障害は精神科臨床における大きな課題となっている。我々は最近,2週間の短期入院で,知能・心理検査,疾患教育,ピアカウンセリング,生活訓練などを集中的に行う「大人の発達障害入院治療プログラム」を開発した。これは施行に専門的資格を要せず,特別な設備も必要ないため,全国の一般精神科病院において実施可能と思われる。具体的症例を示し,考察を加えて報告する。なお症例の詳細はプライバシーに配慮して一部改変した。

私のカルテから

DuloxetineとMirtazapineの併用によって躁状態および軽躁状態を呈した2症例

著者: 多田幸司

ページ範囲:P.79 - P.82

はじめに

 うつ病に対し最初に用いる抗うつ薬が有効な割合は決して高くない。最初の抗うつ薬が無効であった場合,次のステップとして抗うつ薬の変更,増強,併存療法などが試みられる。合理的な治療継続アルゴリズムを検証するStarD研究プロジェクト8)では,レベル4としてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor;SNRI)であるvenlafaxineとmirtazapine(MRT)の併用療法が紹介されている。この2剤の併用は,venlafaxineによるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込み抑制作用と,MRTによるセロトニンおよびノルアドレナリン神経に存在する抑制性α2受容体遮断の相乗作用が期待される9)。異なった作用機序を有する抗うつ薬の併用は,抗うつ薬変更による中断症候群や効果発現の遅れといった欠点を補う注目すべき方法である。しかし,モノアミン神経伝達の著しい促進は,(軽)躁状態の発現といった注意すべき副作用を引き起こす可能性がある。

 Duloxetine(DLX)はvenlafaxineと同様SNRIであるが,セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害作用はvenlafaxineに比較してきわめて強力である2)

 今回,筆者は,DLXとMRTの併用により(軽)躁状態を呈した症例を2例経験した。この2症例について報告しDLXとMRT併用療法に対する注意を喚起したい。

Perospirone投与後に強迫症状が改善した統合失調症患者の1例

著者: 山本暢朋

ページ範囲:P.83 - P.85

はじめに

 統合失調症の薬物療法において,第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics;SGA)が果たす役割は大きくなっているが,各種SGAの位置づけや使い分けには議論が残されている。本邦で開発されたSGAであるperospirone(以下PRP)は,欧米各国においてほとんど使用できないこともあり,海外で作成された主要な治療ガイドライン・アルゴリズムでの言及がなされておらず,薬物療法上の位置づけについても共通したコンセンサスが得られているとは必ずしも言いがたい状況が存在する。筆者は,PRP投与後に統合失調症の強迫症状が改善した症例を報告しているが11),Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale日本語版(以下JY-BOCS)のような評価尺度を用いたものではなかった。

 今回,PRP投与後に強迫症状が改善した統合失調症患者について,JY-BOCSを用いて強迫症状を評価した1例を経験したので,若干の文献的考察を用いてこれを報告し,統合失調症薬物療法上におけるPRPの位置づけについても簡単に触れたい。

胎児性アルコールスペクトラム障害が疑われる1男児の臨床的発達評価

著者: 中山浩

ページ範囲:P.86 - P.88

はじめに

 胎児性アルコール症候群(fetal alcohol syndrome;FAS)は,母親のアルコール摂取による胎児への影響として1973年にJonesによって提唱された症候群である。母親の飲酒歴,顔面の小奇形,身体発育不全,脳発達の障害が特徴とされている。近年,妊娠中にアルコール摂取歴があるが,奇形を伴わず,主として認知面,行動面の問題をもつ幅広い概念が注目され,胎児性アルコールスペクトラム障害(fetal alcohol spectrum disorder;FASD)という名前が提唱されている。今回筆者は,FASDに該当すると考えられる児童の評価と対応の方針決定にかかわった。FASやFASDの児童は行動面で注意欠如/多動性障害(ADHD)の特性を持つことが多いとされているが,近年アルコールが原因ではないADHDの児童の特徴との認知行動面の違いも検討されてきている。本児童の特徴をこれらの報告と比較検討し,日本におけるFASやFASDの児童の支援に向けた検討への資料としたい。なお本報告については,保護者から口頭での承諾を得ており,またプライバシーの保護のため,趣旨を損なわない範囲で変更を加えている。

連載 東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・1【新連載】

連載開始にあたって

著者: 丹羽真一

ページ範囲:P.89 - P.91

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災と大津波,および3月12日から起きた福島第一原発事故から,いま2回目の春を迎えようとしている。津波被害の大きな地域が復興のために新たな土地へ移住するかの選択,放射能に汚染された土や瓦礫の中間貯蔵施設の確保,避難先から帰還するかの判断など,被災した人々は深刻な悩みの中で復興2年目を迎えている。この2年間,全国の精神科医は,ある時は一人の一般人として,そして専門家として被災地の支援にさまざまな形で関わってきている。被災地の人間の一人として寄せられた支援に私は心から感謝を申し上げたい。同時に,被災地の人々が抱える悩みは十年あるいは数十年と続くものと思われるだけに,引き続きご支援をお寄せいただけるようお願いしたい。

 東日本大震災と福島第一原発事故は歴史上かつてない災害となっただけに,そこからの復興に精神科医がいかに関わっていたか,関わっていけたかを記録することは重要である。その記録が同時代の精神科医が互いに励まし学びあうことを促進することになれば素晴らしいし,また検証できるものとして後の世代へと引き継ぐものとなれば学術的価値のあるものとなるであろう。そのような目的で,大震災からの復興に向けて精神科医がどれだけ関わって行けているかの実践活動を継続的に報告するものとして本連載「東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割」を開始したい。

書評

―水野雅文 編 野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集―これからの退院支援・地域移行

著者: 羽藤邦利

ページ範囲:P.92 - P.93

 本書には,長期入院患者の「退院促進・地域定着支援」の実践報告がたくさん収載されている。精神科病院8施設,精神科診療所2施設,社会福祉法人1施設,就労継続A事業所1施設からの報告である。

 「退院促進・地域移行」と言うと,厚生労働省が2003年から始めた「精神障害者退院促進支援事業(精神障害者地域移行・地域定着支援事業)」(通称“退促”事業)を思い浮かべる人が多いと思う。“退促”事業は,社会的入院72,000人を10年間で解消することを目標に,都道府県ごとに相談事業所(ほとんどが地域活動支援センターを併設)を主な実施主体として取り組まれたものである。2003~2009年の7年間では,事業対象者数7,903名,退院患者数2,825名であった。実績数は少ない。しかし,数には表せない大きな成果があったと言われている。相談支援事業所の職員が精神科病院に出向き,病院職員と一緒に対象患者に働きかけ,「退院する気がない」患者を退院する気にさせ,退院準備,退院,地域定着に至る。地域定着までには,どのケースも1~2年掛かっている。その間,病院,家族,地域の関係者を巻き込んだ波乱万丈のドラマがあったと聞く。“退促”事業を通して,相談支援事業所の職員はとても力を付けた。さらに,相談支援事業所を核にして,精神科病院,診療所,保健所,福祉事務所など地域の社会資源のつながりがつくられた。実績数は少なくても,“退促”事業は精神障害者を地域で支える基盤をつくった。

学会告知板

第13回日本外来臨床精神医学会(JCOP)学術大会(2013)

ページ範囲:P.56 - P.56

会期 2013年2月17日(日)10:00~17:00(受付開始9:30より)

会場 東京医科歯科大学5号館特別講堂(東京都文京区湯島1-5-45)

第11回世界生物学的精神医学会国際会議

ページ範囲:P.74 - P.74

会期 2013年6月23日(日)~27日(木)

会場 国立京都国際会館(〠606-0001 京都市左京区岩倉大鷺町422)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.91 - P.91

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.94 - P.94

次号予告

ページ範囲:P.93 - P.93

投稿規定

ページ範囲:P.95 - P.96

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.97 - P.97

編集後記

著者:

ページ範囲:P.98 - P.98

 今月号から13回にわたって連載される「東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割」が始まります。本号ではご企画いただいた福島県立医大の丹羽真一先生による「連載開始にあたって」が掲載されました。丹羽先生がお書きになっているように,歴史上かつてない災害を経験し,その復興に精神科医がいかに関わっていたか,関わっていけたかを記録し,その実践を検証できるものとして後の世代に引き継ぐことが連載の目的です。このような臨床的にも学術的にもきわめて重要な課題を本誌で扱うことができ,しかも編集委員として多少なりともその作業に関わることができることを誇りに思います。未だ現在進行形の被災者の方々の日々と,復興にさまざまな形で携わった精神科医の先生方の活動に思いをめぐらしながら拝読していきたいと思います。つづいて資料欄に掲載された濱中淑彦先生の「“Schizophrenie”(統合失調症:E. Bleuler, 1911)より100年(2011)」は重厚な論文です。統合失調症概念について,現在までの100年あまりの変遷をBleulerを軸に詳細に記述されています。精神病理学や力動精神医学,神経心理学などに,現代の生物学的視点を加えて網羅しながら,非常に多角的に統合失調症概念の変遷を俯瞰しています。特に中堅から若手の精神科医の方々にはじっくり読んでいただきたい論文です。

 展望では仁王先生が双極性障害概念の変遷について解説され,読者が双極性障害について改めて整理する良い機会を与えてくれています。濱中先生の統合失調症と合わせると,本号だけで精神科の2大疾患の概説が掲載されていることになります。資料欄に掲載された,都立松沢病院の夜間休日救急入院患者の21年間の変化に関する論文も臨床的に貴重な資料です。その他,研究と報告,短報,資料,私のカルテから,と読み応えのある論文が揃っています。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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