文献詳細
資料
都立松沢病院夜間休日救急入院患者の精神科診断の21年間(1986~2006年)の変化―性比および自殺関連行動,暴力の変化との関連性に着目して
著者: 林直樹1234 厚東知成1 高濱三穂子1 今井淳司1 崎川典子1 大澤達哉1 石井秀宗5 岡崎祐士126
所属機関: 1都立松沢病院精神科 2東京都医学総合研究所統合失調症・うつ病の原因究明と治療法プロジェクト 3東京医科歯科大学医学部 4国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所老人精神保健部 5名古屋大学大学院教育発達科学研究科 6厚生会道ノ尾病院
ページ範囲:P.45 - P.55
文献概要
時代によって精神障害の現れ方が変化することは,社会,文化の時代変化と結び付けられて盛んに論じられてきているテーマである。しかし,精神障害の時代変化についてのデータに基づく研究では,そこに内在する方法論的問題のために,これまでに十分な知見が蓄積されているとは言い難い状況がある。その問題とは,①時期・時代によって臨床統計の基礎となる診療体制が変化すること,②時期・時代による変化を確認するため基礎となるのは臨床診断であるが,その信頼性が高くないこと,と考えられる。
本報告において我々は,都立松沢病院(以下,松沢病院と略)の東京都精神科夜間休日救急診療(以下,夜間休日救急診療と略)における入院患者を対象とする診療録調査に基づいて,精神障害の時期による変化についての検討を行う。この診療体制は,夜間休日に緊急に入院治療を必要とする患者を主な対象として1978年11月から稼働してきたものである6)。そこにおける松沢病院の役割には,現在に至るまで大きな変更は加えられていない。それゆえこれは,一般化可能性にやや問題があるものの,①の問題をある程度まで回避することができる研究フィールドであると考えられる。
本報告では,1986年から2006年の21年間に松沢病院の夜間休日救急診療にて入院した患者の精神科診断の時期による変化を明らかにし,それに対して精神障害の疾病構造の変化の視点から検討を加える。特にここでは,この21年間の顕著な変化として認められた,入院患者の性比の変化や入院時問題行動である自殺関連行動と暴力の変動と,精神科診断の増減との関連性に着目することにする。性比や問題行動の比率の変化は,この期間中における疾病構造の変化を示唆するものであり,もしもそれらが精神科診断の比率の変化と関連付けられるとすれば,②の方法論的な問題を補って精神障害の比率の変化(疾病構造の変化)の所見を実態のあるものと捉える可能性が高まるだろう。
参考文献
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