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文献詳細

雑誌文献

精神医学55巻10号

2013年10月発行

文献概要

連載 東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・9

大災害後の支援者支援

著者: 加藤寛1

所属機関: 1兵庫県こころのケアセンター

ページ範囲:P.1011 - P.1016

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はじめに

 大災害が発生すると,直後から始まる救助・捜索活動,救急医療活動,避難所などでの支援活動に,さまざまな立場で多くの人々が参加することになる。その中には,消防士,警察官,自衛隊員,海上保安官などの職業的災害救援者や,DMATに代表される救急医療関係者などのように訓練された支援者もいれば,ボランティアで瓦礫の撤去にあたる人々のように背景も経験もバラバラの集団もある。また,復興期に入ると生活復興のための行政的業務,生活再建を促進するためのきめ細かな支援活動,被災者の健康を維持するための保健活動などに,多くのマンパワーが長期に必要になる。

 これらの支援者は,活動を通してさまざまな精神健康上のリスクに晒されることになる。直後の救援活動では,長時間の過酷な状況下での活動,悲惨な現場を見ること,自分自身が生命の危機に直面すること,同僚が死亡したり負傷すること,遺体,とりわけ子どもの遺体を扱うこと,十分な救助活動ができないことなどが大きなリスク要因となることが知られており,惨事ストレス(critical incident stress;CIS)とよばれている4)。また,被災者の体験や表出される感情に触れること,成果の出にくい業務に長時間従事すること,被災者やメディアから批判されることなどがストレス要因となって精神的に疲弊してしまうことは,代理受傷(vicarious trauma)や共感疲労(compassion fatigue)と呼ばれている。

 本稿では,支援者が受ける心理的影響について,わが国ではどのように認知され,対策が立てられてきたのかを概観した後に,東日本大震災での現状と対策を筆者が関わった活動を中心にまとめる。

参考文献

1) 林みづ穂:大災害後のメンタルヘルス対策―仙台市の経験より.日社精医誌21:308-314, 2012
2) 飯塚訓:墜落遺体-御巣鷹山の日航機123便.講談社プラスアルファ文庫,2001
3) 石井光太:遺体-震災,津波の果てに.新潮社,2011
4) 加藤寛:消防士を救え―災害救援者のための惨事ストレス対策講座,東京法令出版,2009
5) 加藤寛,飛鳥井望:災害救援者の心理的影響―阪神・淡路大震災で活動した消防隊員の大規模調査から.トラウマティック・ストレス2:51-59, 2004
6) 小西聖子:東日本大震災:孤立する福島・双葉消防に支援を.2011年6月30日付毎日新聞夕刊
7) 神戸市消防局「雪」編集部他:阪神大震災-消防隊員死闘の記.労働旬報社,1995
8) 水口勲,廣川進:海上保安庁における惨事ストレス対策-この10年の歩みと今後の展望.第12回日本トラウマティック・ストレス学会 シンポジウム「惨事ストレス対策の方略-東日本大震災における各省庁の惨事ストレス対策の比較検討から今後の展望へ」.2013年5月
9) 総務省消防庁:大規模災害時等に係わる惨事ストレス対策研究会報告書.2013
10) Shigemura J, Tanigawa T, Saito I, et al:Psychological distress in workers at the Fukushima nuclear power plants. JAMA 308:667-669, 2012
11) 佐々淳行:連合赤軍「あさま山荘」事件.文藝春秋,1996
12) 高橋葉子:東日本大震災後の支援者支援-支援者であり被災者である人達を支えるということ.Psychiatry 67:114-120, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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