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文献詳細

雑誌文献

精神医学55巻11号

2013年11月発行

特集 アンチスティグマ活動の新しい転機Ⅱ

精神科病院づくりから街づくりへ―スティグマ,アンチスティグマ

著者: 堀川公平1 松下航2

所属機関: 1医療法人コミュノテ風と虹 のぞえ総合心療病院 2医療法人コミュノテ風と虹 障害者地域生活支援センターのぞえの杜

ページ範囲:P.1041 - P.1045

文献概要

はじめに

 平均在院日数2,156.7日,平均入院期間12年という数字が示すごとく,当院もかつては社会防衛という要請に応え,「危険な患者から地域社会を守る」という側面があったことは否めない。それゆえ,当院は長期収容型の閉鎖的な「精神病院」(以下,短期入院治療型の病院は「精神科病院」とする)として長年存在してきた。開設後30年目となる1994年8月,こうした状況を変えるべく,米国メニンガークリニックをモデルとした治療共同体に基づく多職種による力動精神医学的チーム医療(以下,力動的チーム医療)を導入した。そして「患者を社会復帰させようとするならば,まずは病院そのものの社会復帰が必要」というシステム論的理解の下,「すべての入院患者を1度は退院させる」という目標を掲げ,病院改革を始めた。それから19年後の現在,平均在院日数は50日を切るまでになり,目標は達せられた。

 当然のごとく,改革開始当初,外来患者は日に数人と少なく,当院近くで患者の姿を見ることは稀であった。また,地域住民でさえ当院の存在を知る者は少なかった。当院は,地域で息を潜めていることで存在が許されているような病院であった。皮肉にも,地域住民や家族はむろん,病院スタッフの「患者は危険な存在」という共有した「スティグマ」の存在が当院を存続させる力になっていた。

 したがって,当院の改革の成功の鍵は,病院に始まり,家族や地域に存在する「スティグマ」をいかに解消できるかにあったといえる。しかし,当院の医療改革による「病院づくり」において,病院スタッフにも,さらには家族にも,地域住民に対しても「スティグマ」という言葉を用い,ことを為そうとしたことはない。あるとすればパラドクス的効果を狙い,退院に踏み切れない患者に対し「それはあなた自らのスティグマではないか?」と問うてみたり,「これは自分の中のスタッフ,患者,家族,地域社会に対するスティグマではないのか?」との自問自答であった。端的に言えば,「スティグマ」といった道徳的観念で非難することはせず,「力動的チーム医療」という手法を用い改革を行ったことで,当院の「病院づくり」は成功し,「街づくり」への道が開けたようにも思う。

 とは言え,「スティグマ」,さらにはそれといかに向き合うかは精神医療のみならず人間社会における永遠の課題と思われる。そこで以下,当院がいかにして「病院づくり」を成し遂げ,いかなる経緯で「街づくり」という発想に至り,現在,どのような方法で「街づくり」を行っているかを報告し,当院における「スティグマ」,「アンチスティグマ」の考え方を示せればと思う。

参考文献

1) 堀川公平:治療共同体に基づく力動的チーム医療.井上新平,安西信雄,池淵恵美編,精神科退院支援ハンドブック.医学書院,pp188-200, 2011
2) 堀川公平:地域ケアの展開と精神科病院の役割―病院中心の地域からケアから地域中心の地域ケアへ.Schizophrenia Frontier 12-2:96-100, 2011
3) 堀川公平:長期入院患者の退院と地域生活支援―「治療共同体」から「生活共同体」へ.小野雅文編,〈精神科臨床エキスパート〉これからの退院支援・地域移行.医学書院,45-58, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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