文献詳細
特集 アンチスティグマ活動の新しい転機Ⅱ
文献概要
はじめに
学校における教育制度の原則は,1947年3月に制定された学校教育法(最終改正2011年6月3日)に明記されているという。中学校教育については,同法第45条に「小学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,義務教育として行われる普通教育を施すことを目的とする」とあり,高等学校にあっては第50条に「中学校における教育の基礎の上に,心身の発達および進路に応じて,高度な普通教育および専門教育を施すことを目的とする」とある。義務教育である中学校の場合,達成されるべき目標が第21条のいくつかの項でさらに細かく規定されていて,その第8項には「健康,安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに,運動を通じて体力を養い,心身の調和的発達を図ること」となっている。高校では第51条に「1.義務教育として行われる普通教育の成果をさらに発展拡充させて,豊かな人間性,創造性および健やかな身体を養い,国家および社会の形成者として必要な資質を養うこと。2.略,3.個性の確立に努めるとともに,社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,社会の発展に寄与する態度を養うこと」のように,その表現は中学校よりいくらか柔らかいものとなっている。
さらに,学校教育法施行規則(1947年文部省令第11号)第53条で必修教科・選択教科などが列記され,第54条の2などに則る中学校学習指導要領に規定された内容の教育がなされるようにとされた。高等学校についても,同じく学校教育法施行規則にならって教科などが規定される。
こうした経緯を前提に,学校教育教科として,国語・理科・社会などとともに,体育,保健体育などのあることはすでに周知のことであり,保健体育は体育と保健に大きく別れていて,後者がいわゆる保健にかかる知識や理解,さらには態度について教育するところとなる。ただ,高等学校では教科「公民」に倫理が含まれており,そこではさまざまな障害(障害者)への対応における倫理的側面が話題になっているはずである。
中学校および高等学校で保健体育などに関する教育がなされるというとき,その資料は教科書である。その教科書が学童生徒の手許に届くまでには,教科書会社による制作,そしてそれが文部科学省管轄の「教科用図書検定調査審議会」による審査(文部科学省HP,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyouを参照)に申請され,審査を合格した上で供給されるということになる。ただ,その前提は,その時々に実施されている最新の「学習指導要領」に合致していることであり,それはその「解説」とともに公刊されている。これまで,1948年以来,約10年に1回改訂されてきており,たとえば「中学校学習指導要領解説 保健体育編」(2008年7月,東山書房,2012年から実施)3)や「高等学校学習指導要領解説 保健体育編・体育編」(2009年7月,東山書房,2013年から実施)4)などが最新のものである。最近の教科書検定実施の結果について文部科学省の発表(上記HP参照)によると,2010年度に中学校教科書4点が審査されすべて合格,高等学校については2011年度に3点の審査そしてすべて合格になっている。
本稿ではこのようなシステムをふまえながら,学校教育での精神保健に関する正しい知識の提供および普及啓発がなされているかを考えてみたい。
学校における教育制度の原則は,1947年3月に制定された学校教育法(最終改正2011年6月3日)に明記されているという。中学校教育については,同法第45条に「小学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,義務教育として行われる普通教育を施すことを目的とする」とあり,高等学校にあっては第50条に「中学校における教育の基礎の上に,心身の発達および進路に応じて,高度な普通教育および専門教育を施すことを目的とする」とある。義務教育である中学校の場合,達成されるべき目標が第21条のいくつかの項でさらに細かく規定されていて,その第8項には「健康,安全で幸福な生活のために必要な習慣を養うとともに,運動を通じて体力を養い,心身の調和的発達を図ること」となっている。高校では第51条に「1.義務教育として行われる普通教育の成果をさらに発展拡充させて,豊かな人間性,創造性および健やかな身体を養い,国家および社会の形成者として必要な資質を養うこと。2.略,3.個性の確立に努めるとともに,社会について,広く深い理解と健全な批判力を養い,社会の発展に寄与する態度を養うこと」のように,その表現は中学校よりいくらか柔らかいものとなっている。
さらに,学校教育法施行規則(1947年文部省令第11号)第53条で必修教科・選択教科などが列記され,第54条の2などに則る中学校学習指導要領に規定された内容の教育がなされるようにとされた。高等学校についても,同じく学校教育法施行規則にならって教科などが規定される。
こうした経緯を前提に,学校教育教科として,国語・理科・社会などとともに,体育,保健体育などのあることはすでに周知のことであり,保健体育は体育と保健に大きく別れていて,後者がいわゆる保健にかかる知識や理解,さらには態度について教育するところとなる。ただ,高等学校では教科「公民」に倫理が含まれており,そこではさまざまな障害(障害者)への対応における倫理的側面が話題になっているはずである。
中学校および高等学校で保健体育などに関する教育がなされるというとき,その資料は教科書である。その教科書が学童生徒の手許に届くまでには,教科書会社による制作,そしてそれが文部科学省管轄の「教科用図書検定調査審議会」による審査(文部科学省HP,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyouを参照)に申請され,審査を合格した上で供給されるということになる。ただ,その前提は,その時々に実施されている最新の「学習指導要領」に合致していることであり,それはその「解説」とともに公刊されている。これまで,1948年以来,約10年に1回改訂されてきており,たとえば「中学校学習指導要領解説 保健体育編」(2008年7月,東山書房,2012年から実施)3)や「高等学校学習指導要領解説 保健体育編・体育編」(2009年7月,東山書房,2013年から実施)4)などが最新のものである。最近の教科書検定実施の結果について文部科学省の発表(上記HP参照)によると,2010年度に中学校教科書4点が審査されすべて合格,高等学校については2011年度に3点の審査そしてすべて合格になっている。
本稿ではこのようなシステムをふまえながら,学校教育での精神保健に関する正しい知識の提供および普及啓発がなされているかを考えてみたい。
参考文献
1) 赤澤彩織,木下裕久,中根秀之:メンタルヘルスリテラシーと精神保健教育・啓発(特集 こころの健康とその政策的課題―こころの健康政策構想会議の提言を踏まえて).保健の科学53:590-595, 2011
2) 影山隆之,近藤卓,津川律子,他:青少年の自殺予防対策のあり方に関する精神保健的研究,平成16年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究」分担研究報告書,2005
3) 文部科学省:中学校学習指導要領解説保健体育編.東山書房,2008
4) 文部科学省:高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編.東山書房,2009
5) 中根允文,三根真理子:精神障害に係るAnti-stigmaの研究―教科書に見るメンタルヘルス教育―中学校・高等学校の教科書における記載を通して―(1950~2002年までの「保健体育」教科書調査から).日社精医会誌,次号掲載予定
6) 中根允文,吉岡久美子,中根秀之:こころのバリアフリーを目指して―日本人にとってのうつ病,統合失調症.勁草書房,2010
7) 国立教育政策研究所:保健のカリキュラムの改善に関する研究―諸外国の動向,研究課題;各教科等のカリキュラムの改善に関する研究,「教科等の構成と開発に関する調査研究」研究成果報告書(研究代表者:小田豊)(17).2004
8) 日本生物学的精神医学会,日本うつ病学会,日本心身医学会:うつ病対策の総合的提言,2009年7月,2010年11月改訂,2010.日生物精神医会21:155-182, 2010
9) 西川潤子:学校教育で精神障害者について取りあげられなくなった背景に関する研究―教科書改訂の要求運動から.北海道ソーシャルワーカー協会ニュース58:3-10, 2009
10) 佐藤光源,菅原里江,小岩真澄美:精神障害に対する偏見の是正:統合失調症を中心に.東北福祉大学大学院研究論文集2:27-33, 2004
11) 菅原里江,中鉢皓大,佐藤光源:仙台市精神保健福祉審議会報告書―資料3「精神疾患に関わる早期支援―『学校教育を通じたこころの病に関する適正な知識の普及啓発』の調査報告」.pp1-29, 2006
12) 日本学術会議精神医学研究連絡委員会:精神医学研究連絡会報告「こころのバリアフリーを目指して―精神疾患・精神障害の正しい知識の普及のために」(代表責任者:高橋清久,鹿島晴雄,幹事:中根允文).2005
13) 李載徳,篁宗一,大島巌:中学校におけるメンタルヘルスリテラシー教育プログラム.心と社会149:82-88, 2012
14) 吉岡久美子:海外におけるメンタルヘルスリテラシー教育―コミュニティを対象とした教育に焦点を当てて.精神科22:7-11, 2013
15) Yoshioka K, Reavey N, Hart L, et al:Stigmatising attitudes towards people with mental disorders:Results from a survey of Japanese high school students. Psychiatry Research(submitted), 2013
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