精神医学55巻2号

2013年02月発行

研究と報告

Aripiprazoleが奏効した周期性精神病の1例

著者： 田川亮¹ 山田恒² 後藤彩子¹ 岩本行生² 橋本博史¹ 井上幸紀¹

所属機関： ¹大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学教室 ²兵庫医科大学精神科神経科学

ページ範囲：P.113 - P.119

抄録

　周期性精神病は，月経周期に一致して周期性経過をとる精神病症状が発現する疾患である。抗精神病薬は効果に乏しく経過を遷延させる可能性があり，未だ治療法は確立されていない。今回我々は周期性精神病と診断し，aripiprazoleが奏効した症例を経験した。症例は20歳，女性。19歳時「借金取りが家に来て殺される」という妄想や支離滅裂な言動にて発症した。周期的に症状の増悪，寛解がみられ，症状増悪期に必ず月経を認めた。当院に転院しaripiprazole開始後早期に症状は軽快し，その後2年間症状の再燃なく経過した。Aripiprazoleはその特異な受容体作用から周期性精神病にも効果がある可能性が示唆された。

参考文献

1) Sakai A, Otsuka K, Okudera O, et al：Oral contraceptive administration prevents relapse of periodic psychosis with hyperprolactinemia. Psychiatry Clin Neurosci 61：127-128, 2007

2) Häfner H, Behrens S, De Vry J, et al：Oestradiol enhances the vulnerabilitythreshold for schizophrenia in women by an early effect on dopaminergic neurotransmission. Evidence from an epidemiological study and from animal experiments. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 241：65-68, 1991

3) 林拓二，米田博：専門医のための精神科臨床リュミエール3　操作的診断VS従来診断―非定型精神病とうつ病をめぐって．中山書店，pp95-105, 2008

4) 勝瀬大海，都甲崇：向精神薬(抗うつ薬を除く)による性ホルモン異常と性機能の障害，その対策．精神科治療学22：1271-1277, 2007

5) 川村諭，吉崎陽，大塚耕太郎，他：周期性精神病の臨床的位置づけと低用量ピルによる治療効果．臨精医32：423-434, 2003

6) 川村諭：内分泌精神症候群と人格障害．精神経誌106：226-231, 2004

7) 菊地哲朗，廣瀬毅，中井哲：ドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト―新規抗精神病薬アリピプラゾール．臨精医34：461-468, 2005

8) 森田紗千，上野千穂，高瀬勝教，他：脳波異常を伴った若年周期精神病の一症例．大阪てんかん研究会雑誌18：11-15, 2008

9) 鍋島俊隆：アリピプラゾールの薬理作用．臨精医35：377-386, 2006

10) 長嶺敬彦：高プロラクチン血症と性機能障害．精神科10：51-56, 2007

11) 中山和彦：月経周期と精神医学的問題．精神科10：400-408, 2007

12) 中山和彦：女性の精神医学　非定型精神病と月経関連症候群．精神医学49：1216-1228, 2007

13) 野口剛志，福嶋隆一：月経周期に一致して精神症状が反復して出現しbromocriptineの単剤療法が奏効した1例．旭厚医誌13：119-126, 2003

14) 岡田俊，扇谷明：若年周期精神病に対するバルプロ酸の単剤治療効果．精神科治療学15：1277-1282, 2000

15) 岡田俊：思春期における周期性精神病：診断概念とその病態．臨精医37：293-296, 2008

16) 高木隆郎：青年期の周期性精神病．Modern Medicine 10：70-71, 1990

17) 山下格：若年周期精神病．金剛出版，pp19-81, 153-196, 1989

18) 山下格：若年周期精神病．精神科治療学20：120-121, 2005

19) 山下達久，石川雅裕，山野純弘，他：思春期周期精神病における前頭葉機能―近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)による経時的評価．精神科8：247-252, 2006