文献詳細
展望
文献概要
はじめに
大変厄介な世の中になったものである。長生きすることがどうやら迷惑で,世の中のためにならない,国のためにならない超高齢化の時代を迎える戦中派,戦後派の人々は早く死んでもらうほうが良いのだという風に世論が傾いている。日本人というものは良くも悪くもポピュリズムで皆が良いという方向にどっと向かってしまう。あれだけ自民党政治はもうこりごりだと政権を変えることを選択したのに,その民主党政権がマスコミに一斉に煽られると,途端にまた元の自民党が大好きになり,さらに右翼思想の政党まで加わって,時あたかも世界経済復興の気運に乗ってアメリカも世界も日本も同時株高となった。2回目の安倍首相の人気はうなぎのぼりで自民党支持率も以前に増してものすごい勢いで世の中が復活してきている。それはあまりにも民主党政権がひどい状態だったにせよ,時計の振り子の揺れが極端ではないか。一度「ダメ首相」とこき下ろした病弱首相を今度は持ち上げるだけ持ち上げている。今度はまたその反動が恐ろしいくらいである。安倍首相の心配をしてあげなければならないかもしれない。この上は1年ごとの首相交代でなく,しっかりと4年は最低やってもらうほうがよいだろう。
これが本当に日本人の本質なのだろうか。長生きすると病気の人が増え,その治療のために莫大な税金が費やされるとして,尊厳死や平穏死など「ある程度の年齢になればもう治療なんかしなくてよいではないか」と考える人もいる。またターミナルの定義がどんどん前倒しされ,今や85歳という年齢だけで,もうターミナルと言われる。まして老衰の人は治療せずに穏やかに死んでもらおうとまで主張する人がいる。果たして老衰か病気かは誰が判断するのであろう。
また,口から食べなくなったらもう人間としてお終いだから静かに逝かせてあげようとまで言われる。しかし問題はその食べたくなくなった原因ではないか。風邪をひいたり腰痛で薬を処方されて真面目に服用したために消化器症状を呈したのかもしれないし,あるいはインフルエンザや肺炎になったり,転倒したショックや肉親の不幸のショックなどで食欲不振になっているかもしれないのではないか。それなら原因を取り除いたり治療をすれば治るものである。人工呼吸器は外せば即死亡するのであまり言われないが,胃瘻までして生きたくないでしょうと今は元気な高齢者に聞けば,それはまあみんなイエスと答えるだろう。しかし意識があれば人間の尊厳はともかく,動物としては生命を長らえたいという願望は本能的なものである。そのターゲットに先ず挙げられているのは認知症である。「認知症があるのにかわいそうに胃に穴を開けられて,無理やり生かされて。」などという感情論が優先する。では認知症は駄目だというならば統合失調症はどうか。食道癌はよいけれど脳血管障害による嚥下障害には胃瘻をしてはいけないのか。嚥下障害は第9脳神経の舌咽神経,第10脳神経の迷走神経,第11脳神経の舌下神経などの神経損傷であり,巣症状である。その点では片麻痺と全く同じであり,片麻痺なら1日3時間でも積極的にリハビリテーション(以下,リハビリ)を推奨するのに対して嚥下障害に対してはまともなリハビリはほとんど行われていない。リハビリをしなければ神経麻痺は回復しない。だから脳卒中になれば一時も早く胃瘻をして安全に嚥下リハビリ訓練を十分にすることにより目覚しい回復をみせることだろう。
どうやら鼻から管をぶら下げている経鼻経管の無様な格好が感情論的に否定されているのではないか。財務省としては高齢者の医療費の増大を何とか防ぐためには先ず胃瘻を否定し,次に認知症の長期治療を否定し,重度の高齢者の治療を否定し制限する世論形成をしゃかりきに行っているとしかみえない。
それにしても認知症はそんなにも困った存在なのだろうか。平均寿命が上がれば上がるほど組織の老化は進むし,早く走れないし,重いものは持てないし,早口にも話せない。脳組織も衰えてくるのが当たり前である。平均寿命が短いときには,脳細胞の老化より肉体内臓の老化が早く到来して認知症になる前に肉体年齢を終えていた人が多かったに過ぎない。
大変厄介な世の中になったものである。長生きすることがどうやら迷惑で,世の中のためにならない,国のためにならない超高齢化の時代を迎える戦中派,戦後派の人々は早く死んでもらうほうが良いのだという風に世論が傾いている。日本人というものは良くも悪くもポピュリズムで皆が良いという方向にどっと向かってしまう。あれだけ自民党政治はもうこりごりだと政権を変えることを選択したのに,その民主党政権がマスコミに一斉に煽られると,途端にまた元の自民党が大好きになり,さらに右翼思想の政党まで加わって,時あたかも世界経済復興の気運に乗ってアメリカも世界も日本も同時株高となった。2回目の安倍首相の人気はうなぎのぼりで自民党支持率も以前に増してものすごい勢いで世の中が復活してきている。それはあまりにも民主党政権がひどい状態だったにせよ,時計の振り子の揺れが極端ではないか。一度「ダメ首相」とこき下ろした病弱首相を今度は持ち上げるだけ持ち上げている。今度はまたその反動が恐ろしいくらいである。安倍首相の心配をしてあげなければならないかもしれない。この上は1年ごとの首相交代でなく,しっかりと4年は最低やってもらうほうがよいだろう。
これが本当に日本人の本質なのだろうか。長生きすると病気の人が増え,その治療のために莫大な税金が費やされるとして,尊厳死や平穏死など「ある程度の年齢になればもう治療なんかしなくてよいではないか」と考える人もいる。またターミナルの定義がどんどん前倒しされ,今や85歳という年齢だけで,もうターミナルと言われる。まして老衰の人は治療せずに穏やかに死んでもらおうとまで主張する人がいる。果たして老衰か病気かは誰が判断するのであろう。
また,口から食べなくなったらもう人間としてお終いだから静かに逝かせてあげようとまで言われる。しかし問題はその食べたくなくなった原因ではないか。風邪をひいたり腰痛で薬を処方されて真面目に服用したために消化器症状を呈したのかもしれないし,あるいはインフルエンザや肺炎になったり,転倒したショックや肉親の不幸のショックなどで食欲不振になっているかもしれないのではないか。それなら原因を取り除いたり治療をすれば治るものである。人工呼吸器は外せば即死亡するのであまり言われないが,胃瘻までして生きたくないでしょうと今は元気な高齢者に聞けば,それはまあみんなイエスと答えるだろう。しかし意識があれば人間の尊厳はともかく,動物としては生命を長らえたいという願望は本能的なものである。そのターゲットに先ず挙げられているのは認知症である。「認知症があるのにかわいそうに胃に穴を開けられて,無理やり生かされて。」などという感情論が優先する。では認知症は駄目だというならば統合失調症はどうか。食道癌はよいけれど脳血管障害による嚥下障害には胃瘻をしてはいけないのか。嚥下障害は第9脳神経の舌咽神経,第10脳神経の迷走神経,第11脳神経の舌下神経などの神経損傷であり,巣症状である。その点では片麻痺と全く同じであり,片麻痺なら1日3時間でも積極的にリハビリテーション(以下,リハビリ)を推奨するのに対して嚥下障害に対してはまともなリハビリはほとんど行われていない。リハビリをしなければ神経麻痺は回復しない。だから脳卒中になれば一時も早く胃瘻をして安全に嚥下リハビリ訓練を十分にすることにより目覚しい回復をみせることだろう。
どうやら鼻から管をぶら下げている経鼻経管の無様な格好が感情論的に否定されているのではないか。財務省としては高齢者の医療費の増大を何とか防ぐためには先ず胃瘻を否定し,次に認知症の長期治療を否定し,重度の高齢者の治療を否定し制限する世論形成をしゃかりきに行っているとしかみえない。
それにしても認知症はそんなにも困った存在なのだろうか。平均寿命が上がれば上がるほど組織の老化は進むし,早く走れないし,重いものは持てないし,早口にも話せない。脳組織も衰えてくるのが当たり前である。平均寿命が短いときには,脳細胞の老化より肉体内臓の老化が早く到来して認知症になる前に肉体年齢を終えていた人が多かったに過ぎない。
参考文献
1) 有吉佐和子:恍惚の人.新潮社,1972
2) 池端幸彦:慢性期病態別診療報酬試案の調査結果を受けて.日本慢性期医療協会雑誌JMC 74:50-61, 2011
3) 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム:今後の認知症施策の方向性について資料より
4) 厚生労働省:認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)(平成25年度から29年度までの計画)より
5) 宮崎和加子:認知症の人の歴史を学びませんか.中央法規,2011
6) 中條和志,佐藤琢磨,荒井啓行,他:電解質異常による痴呆様症状.内科 95:847-851, 2005
7) 新村拓:痴呆老人の歴史―揺れる老いのかたち.法政大学出版部,pp1-18, 2002
8) 大熊一夫:ルポ・精神病棟.朝日新聞社,1973
9) 大西利夫:高齢者の脱水の特徴とその反応.JIM 5:496-498, 1996
10) 社会保障国民会議:2025年の医療・介護サービスの需要と供給(一日当たりの利用者数等)のシミュレーション.社会保障国民会議サービス保障分科会資料,2009
11) 武久洋三:在宅療養のすすめ改訂版.株式会社メディス,2003
12) 武久洋三:超高齢社会を迎える医療・介護体制は! 日本病院会誌 56:72, 2009
13) 武久洋三:慢性期病態別診療報酬試案の基本的な考え方.日本慢性期医療協会雑誌JMC 72:42-51, 2010
14) 武久洋三:慢性期医療と地域連携―総論.日本慢性期医療協会雑誌JMC 76:7-14, 2011
15) 武久洋三:慢性期医療と在宅診療の新たな連携.医学のあゆみ 239:541-546, 2011
16) 武久洋三,武久敬洋,大和薫,他:血管内脱水に対する間歇的補液療法の効果:経消化管補液の単独および併用療法について.日老医会誌 49:107-113, 2012
17) 武久洋三:よい慢性期病院を選ぼう.株式会社メディス,2012
18) 鳥羽研二:脱水.日医師会誌 118:195-198, 1997
19) 鳥羽研二,秋下雅弘:痴呆老人と脱水・栄養障害.老年精医誌 11:1101-1106, 2000
20) 認知症サポート医の活動支援のあり方と養成および断続研修事業に関する調査研究委員会:pp2-3, 2012:かかりつけ医認知症対応力向上養成研修テキスト.
21) 大和薫,倉本悦子,武久洋三,他:高齢者の血管内脱水の治療~間歇性低張液投与療法について.日本慢性期医療協会雑誌JMC 64:78-84, 2009
22) 矢野諭,中川翼,武久洋三:慢性期病態別診療報酬体系策定推進事業:急性期との連携や在宅支援も視野に,望まれる報酬体系や制度の構築を提言.日本慢性期医療協会雑誌JMC 79:13-24, 2012
23) 矢野諭:「入院医療区分」による診療報酬体系の導入~「医療区分」と「慢性期病態別診療報酬体系(試案)」調査結果から.日本慢性期医療協会雑誌JMC 86:12-19-, 2013
24) 安岡章太郎:海辺の光景.新潮社,1965
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