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雑誌目次

雑誌文献

精神医学55巻8号

2013年08月発行

雑誌目次

巻頭言

「精神科専門医制度」はどこに行くのか

著者: 山内俊雄

ページ範囲:P.712 - P.713

精神科専門医制度施行の意義

 日本精神神経学会(以下,学会)の下に「学会専門医制に関する委員会」が設置されたのが1961年,その後多くの議論を経て,紆余曲折の結果,33年目の1994年にいわゆる「山内答申」が出され,制度が実際に運用されたのは,それから10年を経た2004年のことである。精神科専門医制の設立に,実に40有余年を要したことになる。

 しかし,この期間は学会にとって意義ある時間であったといえよう。この間に,教育の在り方や教育の場の議論から,教育を受けるものの身分保障の問題にいたる広範な事柄が議論され,そこから,いわゆる医局講座制の在り方,大学院の問題,広くは精神医療の在り方や国が行っていた精神保健法(当時)の指定医制度との関係も論じられた。このような議論は学会の在り方,進むべき方向性,ひいては精神医学・医療の在るべき姿について,深化した議論が行われたという意味では,まことに有意義なものであり,そのような流れが「学会の基本理念」に結び付いたともいえよう1)

特集 職場のメンタルヘルスと復職支援─その効果的な利用のために

安全な復職(リワーク)のための支援とは

著者: 五十嵐良雄

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに

 職場のメンタルヘルスは,日本の社会において注目を浴びている分野の一つである。いわゆる公衆衛生学的対策のみでは職場における精神衛生の常態を保つことができない事態に至っており,精神医学や精神科医療の英知の発揮が強く期待されている。とりわけ,休職している社員が復職しようとする際に復職がうまく進まないことや,復職後に再休職する社員が多いことは,企業のみならず厚生労働省も認識しているものの,事態は一向に収まる気配がない。

 このようなことから,復職(リワーク)を支援するプログラム(リワークプログラム)も上記のような背景を持って生まれてきており,その広がりも目覚ましい。本特集は,職場のメンタルヘルスを向上させるうえで精神医学や精神医療が蓄えてきた見立て方,治療論やその技術を上手に使う必要があるとの認識のもと,精神医療や精神科医がどのようなことが可能かを考えていく方向性が探れる内容としたいと考え,広い範囲からの論客に執筆をお願いした。

グローバル化の中で多様な病態を呈する職場の気分障碍―リワークに向けて

著者: 加藤敏

ページ範囲:P.719 - P.727

はじめに

 グローバル化が加速度的に進む現代の高度資本主義は,就労者にとって大きな試練になっている。多くの職場はコンピュータ管理を通し,就労者に対し間違いを許さない厳密性と完全主義を徹底し,消費者,あるいは顧客に落ち度がないよう細やかな気遣いを徹底する他者配慮性を前面に打ち出す。つまり,職場自体が完全主義で他者配慮,良心性を旨とするようになっている。このような規範は,職場の「(偽性)メランコリー親和型化」と特徴付けることができるだろう。それは確かに正しいものだが,平均的な人が従うには心身の限界を超える危険を内包し,生きる意味を剝奪しかねない点で,「過剰正常性」あるいは「病的規範」という性格を帯びている。このハードルの高い課題に応える途上で,うつ病,ないし双極障碍の発症を来す事例が増えているのは由々しき事態である。

 筆者は,このような問題意識のもとに,気分障碍の一亜型として「職場結合性気分障碍」(職場結合性うつ病,および職場結合性双極障碍)を提唱している2)。暫定的な診断指標の概略を挙げる。①発病の主な誘因が職場での過重労働にある。過重労働の判断は,労災認定の判断基準において定められた,1か月あたり100時間を超える時間外労働をしているという基準を目安にしている。②対人関係や自己同一性の双方でのパーソナリティ機能の上で問題を来す明らかなパーソナリティ障碍はなく,基本的にはもともと安定した社会機能を持っている。③伝統的診断で内因性うつ病,ないし躁うつ病と診断される。

 職場における気分障碍のなかには,DSMやICDの公認の診断体系では,うつ病や双極障碍とすぐに診断するのが難しい病態を呈する事例が少なくない。そこで,本稿ではこの種の病態の代表例をいくつか挙げながら,職場における気分障碍の臨床的特徴を浮き彫りにし,その上で,職場連携を含む治療の要点を述べたい。

パーソナリティ障害とその周辺のリワーク

著者: 牛島定信 ,   徳永雄一郎 ,   武田龍太郎 ,   平島奈津子

ページ範囲:P.729 - P.734

はじめに―現代型パーソナリティ障害

 パーソナリティ障害といえば,周囲を巻き込んでは何かとトラブルを起こす困った人という印象があり,サイコパスという有り難くない名称をいただいてきた歴史がある。そのため,日本精神神経学会(1974)5)は,その存在を精神疾患から追放した経緯があるほどである。これとともに,犯罪者やマリリン・モンローなどの歴史的人物をモデルにして説明するパーソナリティ障害学は終わりを告げたということができる。

 代わって,アメリカ精神医学会は,新しいパーソナリティ障害概念(DSM-Ⅲ,1980)を提示した。パーソナリティ障害を精神疾患のひとつのカテゴリーとして収載されたのである。この収載の前駆的役割を果たしたのは,Kernberg(1967)3)の「境界性パーソナリティ構造」といってよいだろう。彼は,不安耐性が低く,衝動コントロールが脆弱で,些細なことで激しい退行を起こす,低い水準で機能するパーソナリティのあることを描写したのであった。DSM-Ⅲ,Ⅳの,認知,感情,自己像に偏位があって,社会的活動から退いてしまっているというパーソナリティ障害全体の定義は,この概念を記述精神医学的用語で記載し直したものということができる。そして,この描写に最もよく当てはまるのが境界性パーソナリティ障害であることもまたよく知られている。

 一方,Kohut(1971)4)が展開した自己愛性パーソナリティ障害という自己愛の病理に根ざす人格構造論もまた現代のパーソナリティ障害論に小さくない影響を与えた。日頃は控え目にしているが,治療を進めると誇大自己が表在化してくるパーソナリティ障害の存在である。従来の尊大で他を見下すような自己愛者とは若干異なるだけに,さまざまな議論を呼ぶことになった。この議論に決着がついたわけではないが,いくつかの経緯を経て,周囲を気にしない傲岸不遜なタイプの自己愛性パーソナリティ障害と周囲を気にしてひきこもりがちな回避性パーソナリティ障害とにまとめられたといってよいだろう。

 この2つの概念を基盤に,DSM-Ⅲには,境界性,自己愛性,回避性といった冠辞を付したパーソナリティ障害が新しい装いをもって登場することになった。筆者(牛島)は,この3つのタイプを現代型パーソナリティ障害と呼んでよいと考えている。

 注目すべきは,これらのパーソナリティ障害が精神分析的実践のなかで像を結んできたものだけに,教育的可塑性を持っていると考えられたことである。古典的なサイコパスは遺伝素質的な基盤を持っているがゆえに治療の可能性はないとされたが,新しいパーソナリティ障害は遺伝素質的な要因を持ちながらも,文化社会的,成育環境的要因をも考慮に入れた概念なのである。

高機能発達障害者のリワーク

著者: 市川宏伸

ページ範囲:P.735 - P.740

はじめに

 発達障害者支援法が成立して8年経過し,世間で“発達障害”という言葉は知られるようになったが,その内容までについて十分に理解されているとは言い難い。このような中で,発達障害者は就労・定着・リワークすべての面で苦戦を強いられていると言ってもよいと思われる。「発達障害の存在が十分に知られていない」,「発達障害について誤解がある」などがその原因と思われる。逆に上司や同僚の理解を得て,落ち着いて職場で働らいている方もいる。発達障害者はその独特の特性により,他人が真似のできない素晴らしい仕事をすることもある一方,置かれる環境やなされる対応に影響を受けやすい。会社内で不適応を生じて,休んだ場合を考えると,発達障害者のリワークシステムが確立されていることは,発達障害者にとっても,会社にとっても,本来持っている能力を発揮するという観点で,意味のあることと考えられる。

気分障害の心理療法とリワーク―認知行動療法の活用

著者: 田島美幸

ページ範囲:P.741 - P.745

はじめに

 認知行動療法(cognitive behavior therapy;CBT)には,臨床場面でも一般的に行われている1対1の精神療法として行われる高強度認知行動療法(High-intensity CBT)と,書籍やインターネットを介した支援などを行ったり,心理教育や認知行動療法をグループの形態で実施する低強度認知行動療法(Low-intensity CBT)とがある。うつ病休職者の復職支援においては,支援を行うさまざまな領域において低強度および高強度の認知行動療法を展開していくことが可能である。本稿では,うつ病休職者の復職支援に携わる外来診療,リワークプログラム,企業の産業保健スタッフによる支援の各場面において,認知行動療法をどのように活用することができるかについて考察する。

精神疾患の社会的コストとリワーク

著者: 佐渡充洋

ページ範囲:P.747 - P.752

疾患による社会的コスト

 ある疾患によってもたらされる社会的コストを計測する方法のひとつに疾病費用研究がある。これは,もしその疾病がなければ,回避できたであろう経済的負荷の値をコストという形で推計する研究である。具体的には,医療費などの直接費用と,罹病費用,死亡費用などの間接費用を合計することで,その疾病の社会的な負荷を明らかにしていく。表1に示したように,直接費用には,保険,保険外も含めた医療費や,社会的なサービス費用などが含まれる。間接費用には,罹病費用や死亡費用といった生産性損失が含まれる。罹病費用は,さらに,欠勤によってもたらされる生産性の損失であるabsenteeism,出勤はしているが集中力の低下などによってもたらされる生産性の損失であるpresenteeism,そもそも病気のために就職ができていないことによる生産性の損失である失業費用などに分類することができる。死亡費用とは,患者がその疾病によって早期に死亡したことによってもたらされる生産性の損失であるが,これは遺失賃金で計算されることが多い。間接費用には,その他にも,家族などが患者をケアすることで生じる生産性損失であるインフォーマルケア費用,痛みや苦悩などを費用に換算したインタンジブル費用なども含まれることになる。

産業医からみたリワークの現状と課題

著者: 廣尚典

ページ範囲:P.753 - P.759

メンタルヘルス不調による休業者の増加と復職の困難性

 数多くの大規模調査が,労働者あるいは就労年齢層において,メンタルヘルス不調が増加していることを報告している。

 厚生労働省の患者調査によると,気分障害圏の患者が2008年には104.1万人となった。2011年の調査結果では95.8万人とやや減少傾向に転じているが,特に男性においては,働き盛りの30~50歳代で他の年代よりも多くなっている。

メンタルクリニックにおけるリワークプログラムの治療構造とアウトカム

著者: 大木洋子 ,   五十嵐良雄 ,   山内慶太

ページ範囲:P.761 - P.767

はじめに

 うつ病など気分障害などによる抑うつ状態を理由とした休職の長期化,また休職と復職を繰り返すといった問題が取り上げられるようになって久しい。その背景には,近年増加している非定型的な病像1,10,18)が指摘されており,比較的若い年代の「抑うつ状態」に関していえば,①双極Ⅱ型障害の可能性10),②背景にごく軽度な高機能発達障害の要素の存在12),③就労以前の児童青年期に発症した気分障害や不安障害3),により「抑うつ状態」を呈した結果,出社不能な状態になり,休職する症例も少なくないことも考えられる。また,外来での限られた診療時間内に得られる情報だけで,復職しても業務が行えるかどうかの復職準備性を確認することは,臨床経験豊かな精神科医でも困難な作業であることは,繰り返し指摘してきた5~8)

 医療機関で行うリワークプログラムとは,診療報酬上の精神科デイケアなどの枠組みを利用して行う,治療の一環としてのリハビリテーションであり,その目的は,復職準備性の確認,そして最終的な目的は再休職の予防である。リワークプログラムを実施する医療機関の集まりである,うつ病リワーク研究会19)によると,2008年の当会発足時に30足らずであった実施施設数は,2013年現在156施設であり,この6年間に約5倍と急速に増加している。また,現在の156施設のうち,99施設(63.5%)が診療所である。入院施設を持たない精神科医にとって,リワークプログラムを実施する精神科デイケアというフィールドにおいて,臨床的観察を行うことができることから,重要な診断の場ともなっている。

 リワークプログラムの治療的要素は,次の4要素に集約できる8)。第1の要素は,集団で行われるところにある。戻るべき職場で,コミュニケーションが上手に取れるようになることである。第2の要素は,主には気分障害圏で復職を目的としている利用対象者を限定して,均一な集団で凝集性を高めている点であり,「抑うつ状態」で「休職中」という共通性のある仲間であることも治療的に働く。第3の治療的要素は,医学的リハビリテーションという点で,病状の安定性を確認しながら段階的に負荷をかけ,復職準備性を確認して復職となる。復職後は,フォローアップにより再休職の予防がより確実になり,家族への支援も可能である。第4は,プログラムの内容が心理社会療法である点である。自分が休職するに至った原因や誘因を考え,自らの内面に潜む課題に気付くことが重要であり,その課題を認識した上で心理療法や集団療法を用いたプログラムが提供される。

 本稿では,メンタルクリニックで行われるリワークプログラムとして,2005年からプログラムを導入しているメディカルケア虎ノ門(以下,当院)を例に,その治療構造と実際を取り上げ,またそのアウトカムを筆者らの研究を参照しながら述べることとしたい。

精神科病院におけるリワークプログラム―ストレスケア病棟やクリニックとの連携のあり方について

著者: 松原六郎 ,   黒田優希 ,   小林真実

ページ範囲:P.769 - P.775

はじめに

 現在,うつ病患者の復職支援の取り組みとして外来デイケアにおけるリワークプログラム(以下リワーク)が広まってきている。また,リワークによる復職に向けての治療効果を最大限に発揮させ,適切な復職支援を行っていくためには,リワークを利用する前の準備段階やリワーク終了後のフォローアップが非常に重要となってくる。

 筆者らが所属する松原病院(以下,当院)では,これまで自殺企図など重篤なケースを他の精神疾患のケースと同じ閉鎖病棟に入院させ,鎮静を図りながら抗うつ剤を使用し,回復すればすぐに外来通院に切り替えていた。主として安全確保と精神療法,薬物療法を提供してきたといえる。また当院のような比較的歴史の古い単科の精神科病院の宿命でもあるが,病院名や疾患がある種の偏見の対象となっているため,うつ病の患者に対して必要な保護や治療を,それを必要としているケースであっても提供できないというジレンマに陥っていた。

 2000年4月,徳永雄一郎医師の呼びかけに,いくつかの単科の精神科病院が応え,日本ストレス病棟研究会(現:日本ストレスケア病棟研究会)が立ち上げられた10)。研究会では,うつ病を中心としたストレス関連疾患に特化した病棟の必要性や有用性を検証するとともに,入院治療が外来治療よりも安全で,迅速で,しかも再発の少ない治療手段であることを,社会に発信していくこととなった。図1は,復職へのプロセスにおけるストレスケア病棟の位置付けを示したものである。

 当院も1997年にストレスケア病棟を開設し,心理療法,生活リハビリテーション(以下,リハビリ)(作業療法など)を充実させながら,2009年にデイケアでのリワークを開設といったように,徐々に体制を整えてきた。以下,当院の復職支援の状況と課題を中心に述べてみたい。

地域障害者職業センターのリワーク支援

著者: 加賀信寛

ページ範囲:P.777 - P.784

地域障害者職業センターの概要

 地域障害者職業センター(以下,「地域職業センター」)は,「障害者の雇用の促進等に関する法律」において,独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が全国47都道府県に設置・運営している施設であり,公共職業安定所(ハローワーク)と密接に連携しながら,職業相談から就職・復職支援および職場適応までの一貫した職業リハビリテーションサービスを提供している。

 現在,地域職業センターが実施しているリワーク支援は,地域職業センターの運営を統括している障害者職業総合センター(千葉市)の臨床研究部門が,民間企業に在職するメンタルヘルス不全休職者(以下,休職者)の職場復帰とその後の職場適応および雇用事業主を支援していくための職業リハビリテーションプログラムとして,2002~2003年度にかけて開発した支援技法である。

研究と報告

日本版乳幼児感覚プロフィールの標準化―信頼性および標準値の検討

著者: 平島太郎 ,   伊藤大幸 ,   岩永竜一郎 ,   萩原拓 ,   谷伊織 ,   行廣隆次 ,   松本かおり ,   内山登紀夫 ,   小笠原恵 ,   黒田美保 ,   稲田尚子 ,   原幸一 ,   井上雅彦 ,   村上隆 ,   染木史緒 ,   中村和彦 ,   杉山登志郎 ,   内田裕之 ,   市川宏伸 ,   辻井正次

ページ範囲:P.785 - P.795

抄録

 本研究では,感覚刺激への反応異常のアセスメントツールとして国際的に広く用いられている感覚プロフィールの日本版の標準化に関する研究の一環として,乳幼児306名のデータをもとに,日本版乳幼児感覚プロフィール(ITSP-J)の信頼性と標準値を検討した。分析の結果,ITSP-Jを構成する質問項目は全般的に高い修正済みItem-Total相関を示し,各項目はそれぞれの下位尺度において有効に機能していた。月齢帯ごとにα係数を検討した結果,ITSP-Jは尺度として十分な内的整合性を有していた。また,パーセンタイルに基づきカットオフ値を設定し,感覚刺激への反応の特徴の判定を行えるようにした。

短報

双極性障害のリチウム感受性におけるGSK-3β遺伝子多型のハプロタイプ解析

著者: 岩橋和彦 ,   西澤大輔 ,   深間内文彦 ,   沼尻真貴 ,   池田和隆 ,   石郷岡純

ページ範囲:P.797 - P.801

抄録

 外来通院にてリチウム製剤による治療を受けている双極性障害患者(ICD-10 F31)で,ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や抗うつ薬を服用している患者を除外し,書面にてインフォームド・コンセントの得られた患者29人(平均年齢35.5±6.4歳)を対象とし,GSK-3βの遺伝子多型のハプロタイプ解析を行った。GSK-3β遺伝子(GSK-3B)の5'-flanking領域の一塩基多型(SNP)のうち,先行研究でリチウムの薬理効果の個人差との関連が報告されている-50T/Cを含めた2個のSNP(-50T/C,-1727A/T)を対象とした解析の結果,同SNPの組み合わせからなるハプロタイプは3種類が存在し,ハプロタイプ1(T-A)はリチウムのレスポンダーに有意に高頻度に存在し(p=0.001),ハプロタイプ2(C-A)はノンレスポンダーに有意に高頻度に存在(p=0.008)した。このことから,遺伝子検査によるリチウムの薬理効果予想において,同一染色体上の-50T/CのSNPのT alleleを持ち,かつ-1727A/TのSNPのA alleleを持つハプロタイプ1(T-A)が,薬理効果の高い組み合わせである可能性が高いことが示唆された。なお,GSK-3βの上記の2多型間の連鎖不平衡の指標値はD'=1,r2=0.076で,相関は低かった。

異なる機序の抗うつ薬3剤でSIADHを呈した反復性うつ病性障害の1例

著者: 坂本新介 ,   森垣洋子 ,   伊賀淳一 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.803 - P.806

抄録

 今回我々は,異なる機序の抗うつ薬3剤で抗利尿ホルモン不適合分泌症候群syndrome of inappropriate antidiuretic hormone(SIADH)が生じた1例を経験したので報告する。症例は78歳,女性。反復性うつ病性障害,現在中等症エピソードの診断でX年6月に入院となった。入院中,Na濃度がmirtazapine 7.5mg/日内服下で128mEq/l,escitalopram 15mg/日内服下で128mEq/l,duloxetine 40mg/日内服下で119mEq/lと低Na血症を来しSIADHと診断された。抗うつ薬投与を中止するとNa 135mEq/l前後で経過した。異なる機序の抗うつ薬3剤でSIADHを来した症例は,海外も含めてこれまでに報告がない。高齢者に抗うつ薬を投与する際には作用機序に関わらず低Na血症に注意しながら投与する必要があると考えられた。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

分別もうろう状態

著者: 原田憲一

ページ範囲:P.807 - P.809

はじめに

 「分別もうろう状態」という特殊な意識状態を説明するには,まず医学領域で用いられる「意識障害」について,次いで今日の「せん妄」概念について述べる必要がある。

書評

―神庭重信 監・編集―難治性気分障害の治療エビデンスレビュー2013

著者: 樋口輝彦

ページ範囲:P.811 - P.811

 今日ほど国民の医師に対する評価が厳しい時代はないであろう。「パターナリズム」の時代はすでに過去のものであり,最近は患者さんの「自己決定」あるいは患者と治療者の「治療同盟」が一般的になりつつある。自己決定をするにせよ,治療同盟で治療法を選択するにせよ,十分な情報の提供が求められる。その情報の中には,その医師の長年の「経験」が含まれるが,今日ではその「経験」だけでは情報としての信頼度が確保されない。「経験」のみではA医師の治療方針とB医師のそれとが異なることになり,患者は戸惑うことになる。最近ではセカンドオピニオンのシステムが広がりつつあり,複数の医師の意見をもとに判断するケースが増えてきたのも,このような背景があるからである。

 「エビデンスに基づく治療の選択」は何故,その治療法が第一選択なのかがエビデンスをもとに説明されるため,患者さんにとっても判断する材料として有用である。また,治療者にとっても,個人の経験には限界があるため,治療の選択に関する情報は有用である。このことは特に精神科医療に携わって日が浅いレジデントや若手の医師にあてはまる。長く臨床を経験するとエビデンスを基盤にして,経験による個別医療の視点が加えられることは当然であり,しばしば批判される処方のマクドナルド化は避けられるであろう。

学会告知板

第1回精神障害者スポーツ国際シンポジウム

ページ範囲:P.759 - P.759

 障害者のスポーツといえば,身体障害者を主体としたパラリンピック,知的障害を主体としたスペシャル・オリンピックスが有名ですが,それに比する精神障害者の国際スポーツ大会は存在しません。その実現を日本から目指そうと,海外での精神障害者スポーツ関係者(イタリア,イギリス,デンマーク,ドイツ,アルゼンチン,ペルー,韓国)を招いて国際シンポジウムを開催します。多文化共生社会を考える絶好の機会ですので,多くの参加をお待ちしてます。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.727 - P.727

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.796 - P.796

次号予告

ページ範囲:P.812 - P.812

投稿規定

ページ範囲:P.813 - P.814

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.815 - P.815

編集後記

著者:

ページ範囲:P.816 - P.816

 本年の5月にアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)からDSM-5が発表されました。DSM-Ⅳの刊行が1994年ですので,DSM-Ⅳ-TRをはさんだとはいっても実に19年振りの改訂ということになります。筆者はDSM-5のなかの専門分野の翻訳作業に携わってきましたが,作業が進むにつれて次第に憂うつになってきました。用語の問題もさることながら,今まで我々が行ってきた臨床とどのように整合性を図るのかということが課題にならざるを得ないからです。日本の精神医学も以前のような熱狂的とも言えるDSM信仰は下火になり比較的冷静な態度でDSMに対峙することができるようになりましたが,今回のような大きな改訂を迎えて当分の間は翻訳や解説などの動きが続くことが予想されます。診断基準の専門家ではない一般の臨床家は,やや複雑な改訂が行われた診断項目については急なハンドルを切らずに,改訂版をよく理解した後に徐々に移行していくというのが賢明な臨床的な姿勢であると考えています。

 さて,本号は特集で「職場のメンタルヘルスと復職支援」が企画されています。五十嵐良雄氏が最初に総括されているように,気分障害,パーソナリティ障害,発達障害,気分障害の心理療法に焦点づけた精神医学からみたリワーク,医療経済的な立場や精神科産業医からみたリワーク,最後に精神科クリニック,精神科病院,地域障害者職業センター,などのさまざまな形態のリワークに適切に分類され,それぞれの分野において第一線で活躍されている専門家が執筆を担当され,読み応えのある内容に仕上がっています。精神科臨床にとってリワークは不可分の領域ですので,是非本特集をリワークについて見直す良い機会にしていただきたいと思います。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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