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文献詳細

雑誌文献

精神医学55巻8号

2013年08月発行

文献概要

特集 職場のメンタルヘルスと復職支援─その効果的な利用のために

グローバル化の中で多様な病態を呈する職場の気分障碍―リワークに向けて

著者: 加藤敏1

所属機関: 1自治医科大学精神医学教室

ページ範囲:P.719 - P.727

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はじめに

 グローバル化が加速度的に進む現代の高度資本主義は,就労者にとって大きな試練になっている。多くの職場はコンピュータ管理を通し,就労者に対し間違いを許さない厳密性と完全主義を徹底し,消費者,あるいは顧客に落ち度がないよう細やかな気遣いを徹底する他者配慮性を前面に打ち出す。つまり,職場自体が完全主義で他者配慮,良心性を旨とするようになっている。このような規範は,職場の「(偽性)メランコリー親和型化」と特徴付けることができるだろう。それは確かに正しいものだが,平均的な人が従うには心身の限界を超える危険を内包し,生きる意味を剝奪しかねない点で,「過剰正常性」あるいは「病的規範」という性格を帯びている。このハードルの高い課題に応える途上で,うつ病,ないし双極障碍の発症を来す事例が増えているのは由々しき事態である。

 筆者は,このような問題意識のもとに,気分障碍の一亜型として「職場結合性気分障碍」(職場結合性うつ病,および職場結合性双極障碍)を提唱している2)。暫定的な診断指標の概略を挙げる。①発病の主な誘因が職場での過重労働にある。過重労働の判断は,労災認定の判断基準において定められた,1か月あたり100時間を超える時間外労働をしているという基準を目安にしている。②対人関係や自己同一性の双方でのパーソナリティ機能の上で問題を来す明らかなパーソナリティ障碍はなく,基本的にはもともと安定した社会機能を持っている。③伝統的診断で内因性うつ病,ないし躁うつ病と診断される。

 職場における気分障碍のなかには,DSMやICDの公認の診断体系では,うつ病や双極障碍とすぐに診断するのが難しい病態を呈する事例が少なくない。そこで,本稿ではこの種の病態の代表例をいくつか挙げながら,職場における気分障碍の臨床的特徴を浮き彫りにし,その上で,職場連携を含む治療の要点を述べたい。

参考文献

1) Alpert JE, Uebelacker LA, McLeam NE, et al:Social phobia, avoidant personality and atypical depression:Co-occurrence and clinical implications. Psychol Med 27:627-633, 1997
2) Chabot P:Attention, ça brüle. Phisosophie Magazine 68:46-50, 2013
3) Fava GA:The concept of recovery in affective disorders. Psychother Psychosom 65:2-13, 1996
4) 加藤敏:職場結合性うつ病.金原出版,2013
5) 加藤敏:うつ病の寛解―精神病理学の見地から.精神科治療学 23:331-340,2008
6) 加藤敏:職場結合性うつ病の病態と治療.精神療法 32:284-292,2006
7) Kessler RC, Stang P, Wittchen HU, et al:Lifetime co-morbidities between social phobia and mood disorders in the US National Comorbidity Survey. Psychol Med 29:555-567, 1999

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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