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特集 職場のメンタルヘルスと復職支援─その効果的な利用のために
パーソナリティ障害とその周辺のリワーク
著者: 牛島定信1 徳永雄一郎2 武田龍太郎3 平島奈津子4
所属機関: 1三田精神療法研究所 2不知火病院 3武田病院 4国際医療福祉大学三田病院
ページ範囲:P.729 - P.734
文献購入ページに移動パーソナリティ障害といえば,周囲を巻き込んでは何かとトラブルを起こす困った人という印象があり,サイコパスという有り難くない名称をいただいてきた歴史がある。そのため,日本精神神経学会(1974)5)は,その存在を精神疾患から追放した経緯があるほどである。これとともに,犯罪者やマリリン・モンローなどの歴史的人物をモデルにして説明するパーソナリティ障害学は終わりを告げたということができる。
代わって,アメリカ精神医学会は,新しいパーソナリティ障害概念(DSM-Ⅲ,1980)を提示した。パーソナリティ障害を精神疾患のひとつのカテゴリーとして収載されたのである。この収載の前駆的役割を果たしたのは,Kernberg(1967)3)の「境界性パーソナリティ構造」といってよいだろう。彼は,不安耐性が低く,衝動コントロールが脆弱で,些細なことで激しい退行を起こす,低い水準で機能するパーソナリティのあることを描写したのであった。DSM-Ⅲ,Ⅳの,認知,感情,自己像に偏位があって,社会的活動から退いてしまっているというパーソナリティ障害全体の定義は,この概念を記述精神医学的用語で記載し直したものということができる。そして,この描写に最もよく当てはまるのが境界性パーソナリティ障害であることもまたよく知られている。
一方,Kohut(1971)4)が展開した自己愛性パーソナリティ障害という自己愛の病理に根ざす人格構造論もまた現代のパーソナリティ障害論に小さくない影響を与えた。日頃は控え目にしているが,治療を進めると誇大自己が表在化してくるパーソナリティ障害の存在である。従来の尊大で他を見下すような自己愛者とは若干異なるだけに,さまざまな議論を呼ぶことになった。この議論に決着がついたわけではないが,いくつかの経緯を経て,周囲を気にしない傲岸不遜なタイプの自己愛性パーソナリティ障害と周囲を気にしてひきこもりがちな回避性パーソナリティ障害とにまとめられたといってよいだろう。
この2つの概念を基盤に,DSM-Ⅲには,境界性,自己愛性,回避性といった冠辞を付したパーソナリティ障害が新しい装いをもって登場することになった。筆者(牛島)は,この3つのタイプを現代型パーソナリティ障害と呼んでよいと考えている。
注目すべきは,これらのパーソナリティ障害が精神分析的実践のなかで像を結んできたものだけに,教育的可塑性を持っていると考えられたことである。古典的なサイコパスは遺伝素質的な基盤を持っているがゆえに治療の可能性はないとされたが,新しいパーソナリティ障害は遺伝素質的な要因を持ちながらも,文化社会的,成育環境的要因をも考慮に入れた概念なのである。
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