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文献詳細

雑誌文献

精神医学55巻9号

2013年09月発行

文献概要

オピニオン 精神科医にとっての精神療法の意味

日常の面接で何を聴き,話し,残すか

著者: 中尾智博1

所属機関: 1九州大学大学院医学研究院精神病態医学

ページ範囲:P.832 - P.834

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精神療法という言葉の持つ意味

 精神療法という言葉は,日常的に聴き,使う言葉なので普段意識をしていないが,精神療法の意味とは何か,という問いに正面から向かい合うとその言葉にはにわかに霞みがかかり曖昧な雰囲気がまとわりつく。そもそも精神療法には効果があるのか。1時間に5人,10人と患者を診ないとやっていけない状況でも「精神療法をしています」と胸を張れるのか。単にレセプトを飾る言葉なのか。患者や一般人からみればそのようなものは単なる“普通の”診察に過ぎず,患者が求める“カウンセリング”とは全くの別物ではないか。

 そう考えると,“系統的な”精神療法を生業にする精神科医の立ち位置は応分に恵まれたものと感じる。十分な時間をかけ,きちんとした理論の元に実践する。一定のセッションを重ね,紆余曲折を経ながら治療は展開し結末を迎える。患者はその効果に満足を得れば対価を支払う。治療者は相応の報酬と自己達成感を得る。かくいう筆者も行動療法家の端くれであるが,専門領域の患者を相手にフォーマットに基づいた治療をしている時は,たとえその治療が難渋している場合でもどこかほっとしたものを感じながら実践しているのである。精神分析療法も森田療法も家族療法も認知行動療法も,独自の信念と理論を有し,スーパービジョンを行い,学会を開催し,その専門性を高めていく。系統的精神療法はやはり我々精神科医を精神科医たらしめる絶対的アイデンティティなのである。

参考文献

1) 白波瀬丈一郎:精神療法.現代精神医学事典,弘文堂,pp606-607, 2011
2) 笠原嘉:予診・初診・初期治療.診療新社,1980

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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