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文献詳細

雑誌文献

精神医学55巻9号

2013年09月発行

文献概要

連載 東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・8

放射線災害への不安と精神科医

著者: 丹羽真一1 金吉晴2 秋山剛3

所属機関: 1福島県立医科大学会津医療センター精神医学講座 2国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部 3NTT東日本関東病院精神科

ページ範囲:P.899 - P.908

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はじめに

 本稿では放射線災害への精神科医の対応に焦点を当てて述べるので,特に福島県の状況について述べることとする。また,本稿は一般県民についての報告であるので,原発従事者・原発事故処理従事者のことには触れない。

 放射線災害についての精神科医の取り組みとしてわが国で知られているのは,長崎の原爆被ばくのあとの中根ら8,9),Kimら4)の調査研究報告である。また,原子力災害への対策を記したものとして,吉川らが作成にかかわった「原子力災害時における心のケア対応の手引き」(原子力安全研究協会編)2)がある。原爆ではない原子力の利用の際の放射線災害に関しては東海村におけるJCO臨界事故についての蓑下らの報告3,7)がある。しかし,福島第一原発事故による放射線災害は1986年のチェルノブイリ原発事故に次ぐ規模の災害であり,わが国では未曾有の事態であって,こうした災害への精神科医の取り組みとしては初めての経験であった。

 チェルノブイリ原発事故の後20年を機として開催された国際原子力機関IAEAが中心となって開かれたチェルノブイリ・フォーラム5)あるいはLagonovskyらの研究報告6)では,精神的な影響が大きな問題であることが述べられている。2011年の福島第一原発事故の後の経緯をみても,メンタルヘルスへの影響が大きな問題となってきた。原発事故の後の放射線災害への不安がもたらしたメンタルヘルスへの精神科医の取り組みをまとめておくことは,わが国の歴史上経験のない事態であるだけに重要であると考えられる。なお,福島県における震災・原発事故後の精神保健に関する支援は,被災全体に対する支援ではあるが,原発事故に伴う避難者の数が圧倒的に多いので,実質的には放射能汚染への不安についてのものとなっていると考えられることから,本稿では放射線災害への不安に対する精神科医のかかわりを福島県における精神保健に関する支援全体として広くとってまとめておきたい。

参考文献

1) 秋山剛:被災地支援と災害対策における学術団体の役割.精神障害とリハビリテーション16(2):140-145, 2012
2) 原子力安全研究協会編:原子力災害時における心のケア対応の手引き―周辺住民にどう応えるか.文部科学省平成20年度委託事業「緊急時対策総合技術調査」,2009
3) 井口藤子,蓑下成子,西表美智代,他:東海村臨界事故が学生の精神健康に及ぼす影響―事故現場からの距離効果.武蔵野女子大学大学院紀要1:11-19, 2002
4) Kim Y, Tsutsumi A, Izutsu T, et al:Persistent distress after psychological exposure to the Nagasaki atomic bomb explosion. Br J Psychiatry 199:411-416, 2011
5) 国連チェルノブイリ・フォーラム報告書『チェルノブイリ20年:原発事故の環境への影響とその対策』(Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and Their Remediation:Twenty Years of Experience),日本学術会議,2006
6) Lagonovsky K, Havenaar J, Tintle N, et al:The mental health of clean-up workers 18 years after the Chernobyl accident Psychol Med 38:481-488, 2008
7) 蓑下成子,井口藤子,西表美智代,他:東海村臨界事故による学生の精神健康への影響と特徴.精神保健研究48:11-21, 2002
8) 中根允文,畑田けい子,本田純久,他:原爆被災の精神健康に及ぼす影響.長崎医学会雑誌71:161-171, 1996
9) Nakane Y, Honda S, Mine M, et al:The mental health of atomic bomb survivors. In:Nagataki S, Yamashita S, ed. Nagasaki Symposium Radiation and Human Health:Proposal from Nagasaki. pp239-249, Elsevier, Tokyo, 1996
10) 日本精神神経学会:東日本大震災に対するこころのケア支援と復興支援対策ワークショップ.精神経誌113:748-772, 825-844, 2011
11) 日本精神神経学会:特集;東日本大震災の復興計画と中長期的支援.精神経誌114:209-248, 2012
12) 日本精神神経学会:特集;支援者の支援――東日本大震災後の社会的課題――.精神経誌114:1267-1296, 2012
13) 日本精神神経学会:特集;東日本大震災,および福島原発事故による精神疾患の初発,増悪事例の検討.精神経誌115:485-504, 2013
14) 日本精神神経学会:特集;多職種協働による災害支援.精神経誌115:505-538, 2013
15) Ψ21Planプランナー会議:精神科医療従事者への提言―21世紀に相応しい福島の精神科医療サービスシステムの構築を目指して.pp42-43, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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