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雑誌目次

雑誌文献

精神医学56巻1号

2014年01月発行

雑誌目次

巻頭言

児童精神医学は精神医学のサブスペシャリティーか

著者: 田中哲

ページ範囲:P.2 - P.3

 児童精神医学が専門分野として確立して,まだ歴史は浅い。出自としては精神医学に多くを負いながら,領域としてはここまで独自の地歩をたどってきた。しかしここで児童精神医学とは,どこに位置付けられるべき領域なのかをあらためて考察してみたい。

 児童精神医学が独立した分野として確立した背景には,子どもの問題の拡大がある。大まかに言って,児童精神医学は自閉症の『発見』とともに登場し,日本においては登校拒否問題の深まりとともに進展し,この10年ほどは発達障害の『増加』とともに展開してきた。

研究と報告

中学生の非行行為と攻撃性,抑うつとの関連

著者: 望月直人 ,   伊藤大幸 ,   原田新 ,   野田航 ,   松本かおり ,   髙栁伸哉 ,   中島俊思 ,   大嶽さと子 ,   田中善大 ,   辻井正次

ページ範囲:P.4 - P.11

抄録

 本研究では,中学生における非行行為(喫煙,怠学,飲酒,夜遊び,万引き,自転車盗)と抑うつ,攻撃性の関連について検討した。単一市内全校調査を行い,2,334名の中学生を対象とした。全非行行為で経験あり群と経験なし群に分け,攻撃性と抑うつの差異について検討した結果,経験あり群は全非行行為でより高い攻撃性を示し,万引き以外の5つの非行行為でより高い抑うつを示した。また,ロジスティック回帰分析の結果,攻撃性の中で,身体的攻撃は全非行行為に有意な効果を示し,抑うつは,喫煙,万引きを除く4つの非行行為に有意な効果を示した。以上により,攻撃性(身体的攻撃),抑うつが非行行為のリスクを高める可能性が示唆された。

Aripiprazoleの少量追加により,blonanserinに起因すると考えられた高プロラクチン血症と無月経が改善した高用量抗精神病薬服用中の慢性統合失調症患者の2症例

著者: 本間正教 ,   加藤秀明

ページ範囲:P.13 - P.19

抄録

 Blonanserin(BNS)とquetiapine(QTP)もしくはolanzapine(OLZ)の2剤を併用しているchlorpromazine換算1,000mg以上の高用量抗精神病薬投与中の慢性統合失調症患者に対し,抗精神病薬の減量,単剤化,高プロラクチン(PRL)血症の改善を目的にaripiprazole(APZ)へのスイッチングを試みたところ,少量からのAPZの上乗せ投与中に高PRL血症と無月経の改善がみられたので報告した。QTP,OLZは高PRL血症を来しにくいが,BNSは20~30%に高PRL血症を起こすことが報告されており,服用薬剤の組み合わせから考えて,BNSにより引き起こされた高PRL血症の可能性が高いと推測された。APZよりドパミンD2受容体親和性の強いBNSを高用量服用している患者に対し,少量のAPZの上乗せ中に改善が起こったことは興味深い現象であった。高PRL血症は患者から自発的に問題を訴えないが,性機能障害,骨密度の減少,月経異常,乳癌リスクの上昇の可能性が示唆されており,軽視できない有害事象を来しうる。BNS,APZとも非鎮静系で副作用の少ない薬剤であるが,その薬理作用から,高PRL血症に対してはAPZの使用は有用であると考えられた。なおスイッチングは順調であり,精神症状の悪化や新たな有害事象の発現はない。

統合失調症患者における自動車運転行動実態と日常的認知機能―家族調査による検討

著者: 星野貴俊 ,   松井三枝

ページ範囲:P.21 - P.27

抄録

 統合失調症は,道路交通法において免許の拒否または保留の事由に挙げられているが,安全運転を妨げる症状がない者はその限りではなく,条件付きで自動車の運転が可能である。本研究では,統合失調患者における運転行動(免許の有無,日ごろの運転機会の有無,運転頻度,事故の経験)の実態,および他者評価による認知機能の問題との関連を検討するため,まず家族調査を行った。その結果,調査対象患者74名のうち,60名(81.1%)が免許保有者であり,日ごろから運転する機会を有していることが明らかとなった。また,免許保有者のほうが非保有者よりも認知機能の問題の程度が低かった。今後に向けて,より精緻で大規模な実態調査が必要である。

精神科・心療内科における自殺実態調査

著者: 畑哲信

ページ範囲:P.29 - P.37

抄録

 福島県内の全精神科・心療内科110機関を対象として,各医療機関に通院または入院中であった患者の自殺者の調査を後方視的に行った。84機関(76.4%)が回答し,6か月の観察期間中,男性21人,女性25人の自殺者が報告された。警察庁自殺統計による同期間の自殺者数と比較して自殺者に占める受診患者の割合を求めると,男性17.5%,女性41.8%と推計され,男女で有意差が認められた(p<.00001)。患者調査や有病率調査の結果から,男性において受診患者と未受診罹患者の自殺率に大きな開きがあると考えられ,その背景について,受診によってもたらされる環境変化が寄与している可能性について考察した。

短報

インターネットの医療情報から増悪を繰り返した心気障害の1例

著者: 熊谷亮 ,   田島裕子 ,   阿部美香 ,   宮川晃一 ,   新井平伊

ページ範囲:P.39 - P.42

抄録

 症例は34歳,男性。動悸や痺れなどの自覚症状についてインターネットで調べるうちに,自身が難病であるという考えにとらわれるようになり,著しい不安・焦燥を呈し自殺企図に至った。治療により精神症状はいったん改善したものの,体部白癬による皮疹の出現に伴いインターネット検索への傾倒と不安・焦燥が再燃した。近年,インターネットで医療情報を検索することで健康への不安や心気症状が悪化する現象がcyberchondriaとよばれるようになり,問題視されてきている。本症例では不安から情報要求が高まりcyberchondriaの状態になったことに加え,心気障害の患者に生じる孤独感がインターネットの過度な利用を生じさせ,さらに病状を悪化させたと考えられた。

資料

児童養護施設入所児童の適応行動―日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度による検討

著者: 宮地菜穂子 ,   伊藤大幸 ,   村上隆 ,   辻井正次

ページ範囲:P.43 - P.52

抄録

 本研究では,児童養護施設に入所中の子どもの適応行動と不適応行動および,それらと諸属性との関連の有無を明らかにすることを目的として,東海地区のA児童養護施設に入所中の子ども45名(男子21名,女子24名)を対象に日本版Vineland-Ⅱ適応行動尺度を用いた調査を実施した。その結果,適応行動尺度では身辺自立を除くすべての下位領域で標準値を有意に下回る平均値が示された。特に日常生活スキルよりもコミュニケーションおよび社会性の領域において得点が低かった。不適応行動尺度では内在化問題,外在化問題,総合得点のいずれも標準値を有意に上回る平均値が示され,そのすべてで非行あり群が有意に高い平均値を示した。

救急医療従事者の自殺予防に関する知識と態度

著者: 戸井田真木 ,   河西千秋 ,   三宅康史 ,   岸泰宏 ,   大塚耕太郎 ,   荒川亮介 ,   河嶌讓

ページ範囲:P.53 - P.58

抄録

 日本では,自殺率が高止まりを続けていることから,自殺対策基本法と自殺総合対策大綱が施行・策定され,厚生労働省は,自殺未遂者対策に関連して救急医療従事者を対象とした自殺未遂者ケアのための研修会を実施している。筆者らは,2012年1月から2013年3月の期間に当該の研修会に参加した224名を対象に質問紙を用いた調査を行い,自殺予防対策に関する正しい知識と適切な態度を問うた。その結果,回答者の多くに,80%以上の正答率が示され,知識の設問に比して態度の設問において有意に高い正答率が得られた。また,自殺の予防可能性については97.0%が好ましい回答を示した。一方で,自殺と精神疾患の関連に関する理解の不足や自殺念慮を確認することへの躊躇などが明らかになった。今後,自殺を低減させていくためには,専門教育・専門職生涯教育における自殺予防の導入,そして効果的な自殺予防教育プログラムの開発が必要と考えられた。

紹介

被災者住民意向調査に見る福島県の精神保健面における諸課題

著者: 川岸礼佳

ページ範囲:P.59 - P.64

抄録

 東日本大震災による被害報告が多数なされている中,福島県の実態については未だ詳細に一般に知られていないことが多い。そこで,これまでに被災自治体などが主体的に実施してきた被災者などへの意向調査結果から精神保健に関連するものをまとめて提示した。その心理面での経時的な変動はあまり大きくなく,現在でも福島県は不安を抱えて生活している状態が続いていたことが分かった。さらに,福島県では被災の有無に関わらず,県民の被災者意識が強いことが示された。

個人用メタ認知トレーニング(Metacognitve Training plus;MCT+)日本語版の開発

著者: 石垣琢麿 ,   則包和也 ,   川添郁夫 ,   丹野義彦 ,   細野正人

ページ範囲:P.65 - P.74

はじめに:MCT+の概要
 認知行動理論では,さまざまな精神症状の背景には強い認知的偏り(バイアス)が存在すると仮定する。統合失調症の陽性症状に関しても,特に英国において認知心理学的メカニズムの実証的解明と介入・援助法の開発が盛んに行われている2)。その知見を利用して,ハンブルク大学のMoritzらは,妄想の認知バイアスに対する新たな心理教育・心理介入法である「メタ認知トレーニング;Metacognitive Training」(以下,MCT)を開発した6,7,8)。MCTの日本語版は筆者らが作成し,すでに紹介した4)

 MCTは基本的に少人数集団に対する介入法であり,有効性もRCTによって確認されているが,一方で,症状,性格,環境など,何らかの理由で集団に参加できない患者のために個人用メタ認知トレーニング開発の必要性が指摘されていた。そこでMoritzらは個人用ツールを開発し,MCT+(プラス)と名付けた9)。今回,筆者らは原著者の許可を得てMCT+日本語版を作成した。本稿ではそのマニュアルに沿ってMCT+を紹介する。なお,MCT+日本語版のスライドとワークシートは第1から第3筆者が,マニュアルは第1筆者と第4筆者が作成した。MCT+を実施する場合はハンブルク大学のMCTホームページ(http://www.uke.de/mkt)5)で使用者登録する必要がある。資料は同じサイトから無料ダウンロード可能だが,今後,原著者が独語版・英語版に適宜修正を加える可能性があるため,最新の日本語版についてはMCT-Jネットワーク(http://www.mct-j.net/)に入会後,会員専用のクラウドからダウンロード(無料)していただく必要がある。MCT-Jネットワークは,わが国におけるMCTの臨床と研究を発展させるために2013年1月より運営を開始した。2013年10月現在の会員数は約190人である。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

対人恐怖

著者: 山下格

ページ範囲:P.76 - P.78

はじめに

 社交恐怖はJanetの指摘(phobies du situations socials, 1903)に始まり,Kraepelinの教科書(1915)にはVerkehrsangstとしてEreuthophobie, Dysmorphophobie, Anthropopbobieなどの症例が多数記載されている。しかし,その後に欧米諸国では目立った報告がなく過ぎる一方で,わが国では森田正馬の学説と治療法が広まって,人前で恥じない態度・言動をとり,それができないことを恐れる「羞恥恐怖」がひろく対人恐怖とよばれてきた。

 しかし1960年以降,国内から従来の羞恥感情とは異なった妄想的症状構造を持つ症例が多数詳細に報告された。また1980年にDSM-Ⅲが発表されると,別の立場から類似の恐怖症状が取り上げられ,大規模な疫学的調査を経て国際的に大きな関心をよんでいる。以下,この2つの研究・調査を中心に,用語や概念の相違を含めて要点を述べる。

東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・12

災害支援学の立場からの中長期的支援の構想―今後同様な災害が起こった場合も含めて

著者: 高橋晶 ,   山下吏良 ,   高橋祥友

ページ範囲:P.79 - P.88

はじめに

 東日本大震災後,我々の生活は大きな影響を受けている。そして我々の生活は以前の安全神話を信じることはできず,明らかに危険な現状を目の当たりにして,変化を余儀なくされている。

 福島第一原発事故による放射線の問題は現在も終結することはなく,事故後の処理が難航している。放射性物質を含む汚染水漏れのニュースを目にすることも少なくない。処理には数十年かかるとも言われている。

 現在,低線量被曝の問題や,常に被曝を意識しながら生活することによって,起こり得る慢性的な不安,そして,生活基盤としての水,魚,野菜など体内に入る食物の安全性の問題,未だに漏れ出ている第一原発の汚染水の問題など,福島県民のみならず,日本国民は揺れている。また東京でのオリンピック開催が決定したが,安倍晋三首相はオリンピック招致プレゼンテーションで,「福島第一原子力発電所の汚染水問題はコントロールされている」と発言した。この発言に批判もあり,経済復興も重要な課題であるが,原発処理問題を後回しにすることがないように願いたい。

 日本には現在50基の原子力発電所が稼働し,年間約5,000回の地震を観測している。現在のところ,原子力発電所,地震による災害を完全に防ぐ防災は難しいと思われる。震災被害を減らす減災の考え方もある。

 最近では静岡県の駿河湾から九州東方沖まで続く,深さ約4千メートルの海底のくぼみ「南海トラフ」で想定される,南海トラフ巨大地震が予見されている。トラフ沿いの太平洋沿岸を強い揺れと津波が襲い,最悪の場合,死者が約32万人に上ると見積もられている。

 もし,これが起こるとしたら,付近の原子力発電所の被害は福島第一原発以上になるであろう。今後,同様な災害が起こったことも含めて,中長期的支援の構想を考えてみたい。

書評

―鹿島晴雄,古城慶子,古茶大樹,針間博彦,前田貴記 編―妄想の臨床

著者: 大宮司信

ページ範囲:P.90 - P.90

 よく言われるように幻覚と並んで妄想は精神医学の2大問題の1つであり,精神科医にとってきわめて近しいが,解決が常に先に延ばされる課題である。本書は,コンパクトな形で現代の妄想研究の到達点を示す成書である。現在活躍中の方々,またこれから活躍が期待される方々など,現在最も旬な人たちが執筆されており,これ1冊で現在の妄想論,特に妄想の精神病理について十二分に知ることができる。文化的拡がりおよび治療論についても端的で納得のいく説明が加えられている。

 妙な書き方になるのだが,焦点がはっきりして腑に落ちる項目だけでなく,ぼんやりして再度読み直す項目があることが評者には好ましい。そうした項目の筆者の責任や筆力不足ではない。もともとその項目を主張し出した者の記載自体があいまいであったり,ぼんやりしているのだ。そうした事情が分かることからも項目著者の力量がよく分かる。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.19 - P.19

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.89 - P.89

今月の書籍

ページ範囲:P.92 - P.92

投稿規定

ページ範囲:P.93 - P.94

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.95 - P.95

編集後記

著者:

ページ範囲:P.96 - P.96

 世の中には流行がある。しかし精神医学のように硬い分野でも流行廃りがあると痛感するようになった。心理学は正常心理学と異常心理学に分けることができる。私がフレッシュマンの頃は精神医学は専ら異常心理学を対象にしていた。たとえば当時から小児精神医学とか自殺の問題はあった。けれども前者なら,小児統合失調症やKanner症候群など限られた疾患論に偏っている観があった。また後者についても,今では信じがたいであろうが,精神医学が関わる現象であるという見方はとても乏しかった。つまり今なら当然の生育とか,地域のメンタルヘルスという観点はきわめて限られていた。

 そのようなフレッシュマン時代の価値観に戻ってあらためて本号を読むと,この三十余年における精神医学・医療の激変が分かる。「子どもの成長を見守る」,精神医療のみならず社会病理としての自殺,さらに大型自然災害後のメンタルヘルス等々「正常心理学」と括られるテーマが並んでいる。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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