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文献詳細

雑誌文献

精神医学56巻1号

2014年01月発行

連載 東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・12

災害支援学の立場からの中長期的支援の構想―今後同様な災害が起こった場合も含めて

著者: 高橋晶1 山下吏良1 高橋祥友1

所属機関: 1筑波大学医学医療系災害精神支援学

ページ範囲:P.79 - P.88

文献概要

はじめに

 東日本大震災後,我々の生活は大きな影響を受けている。そして我々の生活は以前の安全神話を信じることはできず,明らかに危険な現状を目の当たりにして,変化を余儀なくされている。

 福島第一原発事故による放射線の問題は現在も終結することはなく,事故後の処理が難航している。放射性物質を含む汚染水漏れのニュースを目にすることも少なくない。処理には数十年かかるとも言われている。

 現在,低線量被曝の問題や,常に被曝を意識しながら生活することによって,起こり得る慢性的な不安,そして,生活基盤としての水,魚,野菜など体内に入る食物の安全性の問題,未だに漏れ出ている第一原発の汚染水の問題など,福島県民のみならず,日本国民は揺れている。また東京でのオリンピック開催が決定したが,安倍晋三首相はオリンピック招致プレゼンテーションで,「福島第一原子力発電所の汚染水問題はコントロールされている」と発言した。この発言に批判もあり,経済復興も重要な課題であるが,原発処理問題を後回しにすることがないように願いたい。

 日本には現在50基の原子力発電所が稼働し,年間約5,000回の地震を観測している。現在のところ,原子力発電所,地震による災害を完全に防ぐ防災は難しいと思われる。震災被害を減らす減災の考え方もある。

 最近では静岡県の駿河湾から九州東方沖まで続く,深さ約4千メートルの海底のくぼみ「南海トラフ」で想定される,南海トラフ巨大地震が予見されている。トラフ沿いの太平洋沿岸を強い揺れと津波が襲い,最悪の場合,死者が約32万人に上ると見積もられている。

 もし,これが起こるとしたら,付近の原子力発電所の被害は福島第一原発以上になるであろう。今後,同様な災害が起こったことも含めて,中長期的支援の構想を考えてみたい。

参考文献

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3) 飯高季雄:次世代に伝えたい原子力重大事件&エピソード.日刊工業新聞社,pp190-220, 2011
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22) 高見幸子,佐藤吉宗:スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか.合同出版,pp8-11,2011
23) ウォールストリートジャーナル:2011年8月17日付.http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-290831.html?mg=inert-wsj

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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