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雑誌目次

論文

精神医学56巻10号

2014年10月発行

雑誌目次

巻頭言

一般病床における精神科医療

著者: 木村真人

ページ範囲:P.834 - P.835

 精神疾患の医療は特殊なものとして他の一般診療科とは異なった法律や施策の下で取り扱われてきた。その中で精神科特例(医師は一般科の3分の1,看護師については3分の2で可)については一部是正され,特に大学附属病院および内科,外科,産婦人科,眼科および耳鼻咽喉科を有する100床以上の病院(以下,旧総合病院)の精神病床については,合併症を持つ患者に対する医療を提供する機能や,地域において単科の精神病院との連携による一体的な精神医療の提供が求められていることなども考慮されて,一般病床と同じ人員配置基準が定められた。しかし,同様な人的医療資源を投入しているにもかかわらず,一般診療科に比較して入院収入が低いため,今日に至っても旧総合病院の精神病床の減少や廃止が続いている。また,精神疾患患者の一般病床での入院治療の阻害要因として指摘されている医療法施行規則10条第3号による「精神病患者又は感染症患者をそれぞれ精神病室又は感染症病室でない病室に入院させないこと(身体合併症は臨時応急の場合に含まれるとして除外)」が挙げられる。当然,感染症は他者への感染を防ぐ目的であると考えられ,その後感染症は細分化とその対策が詳細に決められている。一方,精神疾患患者については,おそらく自傷他害の可能性や興奮などを示すような限定された患者が想定されたものと考えたいが,実際には精神疾患全般を現していると捉えられ精神疾患への偏見を助長させているように思われる。

 もちろん一部の精神疾患患者の治療環境として,特殊な管理を要する精神病床での治療が必要であることは言を俟たない。しかし,それ以外の多くの精神疾患患者は,一般病床での治療が可能であり,特に精神病床の確保が困難になっている旧総合病院においては,一般病床による精神科医療を推進していくことは,1つの選択肢であるように思われる。

特集 良質かつ適切な医療の提供—改正精神保健福祉法41条の具体化

精神保健福祉法41条にある厚生労働大臣の指針に基づく,わが国の精神医療改革を具体化していくために

著者: 三國雅彦

ページ範囲:P.837 - P.838

 2009年11月,都立松沢病院創立130周年記念祝賀会で,当時の岡崎祐士院長の呼びかけに集った精神科七者懇談会(精神神経学会,精神科病院協会,精神科診療所協会,精神医学講座担当者会議,自治体病院協議会,総合病院精神医学会,国立精神医療施設長会議)の代表メンバーにより「七者懇松沢宣言」がまとめられた。この共同宣言は,がん,循環器疾患とともに精神疾患がわが国の三大疾病であるにも関わらず,医療法で定める医療計画を作成すべき4疾病に精神疾患が含まれていないことを指摘し,わが国の医療政策の中心に据えるように求めるとともに,がん対策基本法にならって精神疾患対策基本法(仮称)の制定の必要性を訴えた。筆者は2008年1月に対策基本法の制定を目指すべきであることを提言していたので1),七者懇がこの宣言をまとめた意義はきわめて大きいと考えていたが,その後,紆余曲折があって対策基本法の制定作業は頓挫し,精神医療界からの精神科医療改革の推進力が鈍ってしまったことははなはだ残念であった。

 ところが,2012年3月の厚生労働大臣告示で,医療法で定める医療計画を作成すべき疾患としてがん,脳卒中,心筋梗塞,糖尿病の4疾病に加えて,精神疾患を加えた5疾病とするわが国の医療施策の方針が明確化された。2002年12月に可決された医療観察法の附則には一般精神医療の質の向上を図ることが明記されており,2004年に精神保健医療福祉の改革グランドデザインが策定され,「入院医療中心から地域医療福祉中心へ」の転換の流れが示されていたが,この医療法に基づく医療計画は病床規制が基本にあるので,この改革の流れに沿ったものと考えられ,感慨深いものがあった。本誌は各都道府県での医療計画作成の取り組みに少しでも役立てようと特集,「医療法に基づく精神疾患の地域医療計画策定」を企画し,筆者も小論を発表した2)。しかし,各都道府県は各地域の医師会と協議して厚生労働省医政局指導課の指針に沿った医療計画を作成したものの,それらが画期的な事業展開となったという報告は寡聞にして聞かない。ところで,病床数規制という点では成果を挙げている例もある。大学病院にしか総合病院の精神病床がない県が全国に5つもあり,筆者の地元もその1つであるが,精神病床が約800床オーバーのため,総合病院に精神病床を新設することが長年できなかった。この医療計画策定が千載一隅の機会であるので,県精神保健福祉審議会で精神科医療計画を作成するにあたって,総合病院に精神病床を設置し,精神疾患患者の身体合併症医療を充実させる医療計画をまとめて知事に意見具申した。その後,県と地元の赤十字病院の努力と,厚生労働省との協議の結果,精神病床の増床の承認が得られて,改築にあわせて22床が新設されることになった。

精神保健福祉法第41条に基づく精神障害者の医療の提供を確保するための指針と精神科医療改革に向けた政策課題について

著者: 江副聡

ページ範囲:P.839 - P.849

はじめに

 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正法」)11)が2013年6月13日に成立し,原則2014年4月1日に施行された。改正の要点は,精神障害者の地域生活への移行を促進するために,1) 精神障害者の医療の提供を確保するための指針10)の策定,2) 保護者制度の廃止,3) 医療保護入院の見直し,4) 精神医療審査会に関する見直しなどを行うことである(図1)。本稿では,このうち1点目の「精神障害者の医療の提供を確保するための指針(本稿では,以下「本指針」)」に焦点を当て,その概要と今後の方向性を紹介する。なお,「保護者制度の廃止」や「医療保護入院の見直し」を含む改正法の概要については別稿1)を参照されたい。

精神保健福祉法41条に関する指針とその事業化の行方

著者: 佐藤茂樹

ページ範囲:P.851 - P.858

はじめに

 2013年に改正された精神保健福祉法の第41条には,「厚生労働大臣は,精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針を定めなければならない」と記されており,その指針の内容は「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」(以下,「指針等に関する検討会」とする)での検討を経て,2014年3月7日に「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」(以下,「指針」とする)して公表された。

 「指針」の前文には「入院医療中心の精神医療から精神障害者の地域生活を支えるための精神医療への改革の実現に向け精神障害者に対する保健・医療・福祉に携わる全ての関係者(国,地方公共団体,精神障害者本人及びその家族,医療機関,保健医療サービス及び福祉サービスの従事者その他の精神障害者を支援する者をいう)が目指すべき方向性を定める」と記されており,この「指針」の目的が,現在のわが国における入院医療中心の精神医療からの転換を目指したものであることが明記されている。

 欧米の大部分の国は,精神医療における脱施設化を20世紀のうちに終了しているのに反し,わが国においては依然として長期入院中心の精神医療が続いていることは誰もが認める現実であり,こうした入院中心の精神医療システムを欧米型の地域精神医療を中心としたシステムに転換していくことの必要性は,2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」ですでに打ち出されている。しかし,私自身は「精神保健医療福祉の改革ビジョン」のもとになった「精神病床等に関する検討会」,その5年後の見直しのための「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」,そして今回の「指針等に関する検討会」に参加し,この間一貫して第一線の精神科臨床に携わっているが,10年経過しても「精神障害者の地域生活を支えるための精神医療への改革」の気配を全く感ずることはできない。筆者に与えられた仮のテーマは「精神保健福祉法41条に関する指針と県での事業化」であったが,わが国においては何故に精神保健福祉法の第41条の意図する「精神保健医療福祉の改革」が進まないのか,改革を進めるためには何が必要かという趣旨でこの文章を書き進めたい。

精神科病院における16対1精神科急性期医療の実践と今後の病床転換構想

著者: 藤田潔

ページ範囲:P.859 - P.867

はじめに

 2012年6月28日の「精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会」1)において提示されたように,精神科医療においては,新規入院患者は毎年約50万人でそのうち3か月で6割,1年で9割が退院する。したがって1年以上の長期入院患者はその1割に相当する5万人が毎年増加している。一方,現在1年以上の長期入院精神障害者は20万人以上で,そのうち5万人は毎年退院するが新たに前述した5万人が加わるため,結果的に長期入院患者は減少しない。

 そこで,3か月未満の入院患者病床に対しては医師・看護職員は一般病床と同等の配置とし,精神保健福祉士などの退院支援に関わる従事者を規定すること,3か月から1年未満の患者病床については,医師は現在の精神科病床と同等の配置,看護職員は3対1の配置を基本としつつ,その内一定割合は精神保健福祉士などの退院支援に関する配置を規定することとしている。これはやむを得ず長期入院を必要とする重度かつ慢性の患者は存在するが,その基準を満たさない新規患者は1年以内に退院させることともとれる。さらに地域移行の取組を推進するため,1年以上の長期在院者が入院している病床は,医師は現在の精神病床の基準よりも少ない配置基準とし,看護師,精神保健福祉士,作業療法士,理学療法士,看護補助(介護職員)などの多職種で3対1の人員配置基準とすることとしている。さらに,解放的な環境を確保し外部の支援者との関係を作りやすい環境にすることで,地域生活に近い療養環境にすることとしている。以上の内容が,2014年4月の診療報酬改定に一部盛り込まれた結果となった。これにより精神科医療における入院期間の短縮と長期入院患者の退院促進を明確化された訳である。

病床機能分化,精神病床削減と地域医療の質の向上

著者: 松原三郎

ページ範囲:P.869 - P.877

はじめに

 わが国では,多くの精神障害者が地域で生活する権利を奪われてきた。もちろん,すべての精神障害者が地域で生活ができるのではない。しかし,地域内での居住施設や生活支援などが整えば退院が可能な人達はおよそ10万人に達するものと見込まれているにもかかわらず,地域精神科医療・生活支援体制の整備は遅々として進んでいない。

 長期在院者を生み出してきた要因は,①戦後の精神科病床不足の状況から脱するために,精神科特例が認められ,これによって低基準の精神科病床が多数出現した。②多数の入院病床が整備された結果,精神科病院は施設的な機能を併せ持つようになった。③医療保険制度が整備された結果,安価で安心できる長期入院が許容され,それに代わる地域施設が少数にとどまった。④財源不足のために福祉施策が立ち遅れたが,それだけでなく,医療保険施策が入院中心に偏り過ぎて,在宅の精神科医療に目が向けられなかった。⑤家族同意による医療保護入院が,安易な強制入院を許してきた。

 このように,長期入院を許してきた要因は多岐にわたっており,精神科医療の改革は,地域精神科医療・生活支援体制の整備だけにとどまることなく,精神科医療の中心を担う精神科病床の改革や入院に関わる法の整備にまでも及ぶ必要がある。精神科医療では,入院医療と地域医療・生活支援が一体となって,あるいは医療と福祉が一連のものとなって改革が進められるべきである。

精神科医療機関と地域の支援機関との地域連携—精神障害者の地域生活への移行を促進するために

著者: 山下俊幸

ページ範囲:P.879 - P.889

はじめに

 「精神障害者の地域生活への移行を促進するため」に,2013年6月13日,精神保健福祉法(以下,法)が改正され,一部を除き2014年4月1日に施行された。主な改正点は,1)精神障害者の医療の提供を確保するための指針(以下,「指針」)の策定,2)保護者制度の廃止,3)医療保護入院の見直し,4)精神医療審査会に関する見直し,の4点である。改正法41条には「厚生労働大臣は,精神障害者の障害の特性その他の心身の状態に応じた良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針を定めなければならない」と定められた。そこで,「指針」について「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」において検討され,2014年3月7日に厚生労働大臣告示として公表された。

 今後この「指針」を具体化していくことは,「精神障害者に対する保健医療福祉に携わるすべての関係者」にとって大きな課題であるが,筆者に与えられた役割は,地域連携である。地域連携と一言で言っても多種多様な連携が考えられるが,本稿では,今回の法改正の趣旨である「精神障害者の地域生活への移行を促進するため」の地域連携を中心に論じることとしたい。筆者は現在精神科医療機関に勤務しているが,それまで精神保健福祉センターに勤務していたこともあり,地域での経験,病院での経験をもとに考えてみたい。

研究と報告

慢性化した摂食障害はどこまで回復するか

著者: 鈴木健二 ,   武田綾

ページ範囲:P.891 - P.899

抄録

 摂食障害のリハビリテーション施設ミモザに通所経験のある摂食障害76名を対象として,慢性化した摂食障害の回復について調査を行った。対象は平均35歳で,発症から17年が経過していた。摂食障害の症状が消失した症状消失群34名を,ED/NOSの状態にある18名,いまだに症状がある24名と比較し,症状消失群は,併存症のうつ病,社交不安障害,強迫性障害などのチェックリストの平均スコアは有意に低く,回復についてのスケールでも有意に回復を示していた。しかし,症状消失群も52.9%が精神科併存症の治療を受けていて他の群との差がなく,再発経験も32%持っていた。慢性化した摂食障害は緩やかに回復するが,十分な健康状態にまで回復することは困難と考えられる。

短報

ひきこもり大学生支援における精神保健福祉士の役割の1考察—和歌山大学「ひきこもり支援プログラム」で支援した1事例を振り返って

著者: 川乗賀也 ,   山本朗 ,   宮西照夫

ページ範囲:P.901 - P.905

抄録

 和歌山大学保健センターでは長年にわたり大学生の「ひきこもり」や「不登校」を支援してきた。2010年にはキャンパス内に集団活動や集団精神療法を提供できる場所として「キャンパス・デイケア室」を設置し,ひきこもり状態から回復するためのケアを4ステージに分類し,各ステージに対応した支援サービスを提供している。本報はこのキャンパス・デイケアで支援した1事例を振り返り,この分析においては,ソーシャルワークのみならず精神医学の知識を持つ精神保健福祉士が有する強みを検討し,ひきこもり大学生の支援において精神保健福祉士が果たしうる役割に考察を加えた。

「精神医学」への手紙

リスペリドン服用中に視力低下を来した症例

著者: 大原由久

ページ範囲:P.907 - P.907

 リスペリドン1mgを1か月処方したところ,視力が1.2から0.6に低下した症例を経験したので報告する。

 症例は40代,女性,うつ病であった。X−3年3月より通院。当初より抑うつ,意欲低下,疲労感,不安,頭痛,めまい,不眠などを訴えていた。X年6月以降,アミトリプチリン,エスゾピクロン,クエチアピンを主剤として経過を見ていた。不眠を訴えるため,X年11月Y日からクエチアピン50mgをリスペリドン1mgに変更したところ,12月Y+4日,視力が低下したという訴えがあった。患者によれば,裸眼視力は0.1だった。9月に眼鏡を新しくして視力が1.2だったのが,12月に測ったら0.6に低下していた。眼鏡を作り直したところ両眼とも速やかに1.2に回復した。薬剤の変更以外,思い当たる原因がない。

動き

「第11回日本うつ病学会総会」印象記

著者: 大野裕

ページ範囲:P.908 - P.908

 第11回日本うつ病学会総会は,山脇成人会長(広島大学大学院医歯薬保健学研究院精神神経医科学教授)のもと,広島県広島市の広島国際会議場で,7月18,19日の2日間にわたり「うつ病治療の再考〜脳科学からメンタルヘルスまで」というメインテーマで行われた。「うつ病医療はどこまで国民のニーズにこたえられるか?」と題した会長講演は非常に示唆に富んだ内容で,地元のテレビのニュースでも取り上げられた。

 教育講演は,東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の川上憲人先生「社会疫学からみたうつ病の社会格差」,自然科学研究機構生理学研究所大脳皮質機能研究系心理生理学研究部門の定藤規弘先生の「社会脳:共感と向社会行動の神経基盤:脳機能画像法によるアプローチ」,早稲田大学人間科学学術院の熊野宏昭先生の「うつ病と新世代の認知行動療法」,高知大学医学部神経精神科学講座の森信繁先生の「養育環境によるストレスレジリエンス形成のエピジェネティック・メカニズム」の4セッションが行われた。

書評

福武敏夫 著—神経症状の診かた・考えかた—General Neurologyのすすめ

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.906 - P.906

 私はこれまで,walk-inから救急車までいろいろな経路でERを受診した方の救急診療を研修医とともに行ってきました。神経疾患の比率としては脳血管障害,つまり画像で“答え合わせ”ができる疾患に非常に多く遭遇します。救急医を志した当初は,時間があるかぎり自分で診察して,病歴をとって,「この部位に病変があるのかな」と考えてから画像を撮り,神経内科医を呼んだときに,自分が行った診察と彼らがとりたい所見とがどう違うのかを見ながら勉強するように,心がけてきたつもりです。

 しかし,神経内科医によっても所見のとり方が微妙に異なっていたり,神経内科の先生に笑われないように勉強しようと思って本を買っても,まるで所見のカタログではないかと思うくらいたくさんの所見が載っていて,「神経診察を勉強するのも難しいものだなあ……」と途方に暮れ,いつしか「患者多数でER混雑」を言い訳に,ついつい「画像検査を行って,必要があれば髄液検査を行って…,(結果がどうであっても)神経内科医に相談して……」という流れ作業のような診療になってきたことに気付きます。

日本精神神経学会小児精神医療委員会 監修 齊藤万比古,小平雅基 編—臨床医のための小児精神医療入門

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.910 - P.910

 一般の精神科医にもある程度の子どもの精神医学の素養と経験は必要である。大人を診ていても症状発現が発達期にさかのぼることや前駆症状が児童期にあることはまれではないし,一般精神科外来で10歳代の子どもを診療する機会はよくある。にもかかわらず,子どもの精神科診療を学べる研修施設は必ずしも多くはない。学ぶ機会を求めている,あるいはもう少し専門性を高めたいと願っている研修医は各地にたくさんいるに違いない。

 編者らはそのような研修医を集めて,国府台病院において2部構成計4日間にわたる充実した研修コースを開催していた。各項目原則30分のコンパクトな系統講義が基本単位であったという。ここで講師を務めた方々がそのまま本書の執筆者となっているとのことである。簡にして要を得た内容となったのは当然である。

野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集 水野雅文 編——《精神科臨床エキスパート》—重症化させないための—精神疾患の診方と対応

著者: 樋口輝彦

ページ範囲:P.911 - P.911

 国は「健康寿命の延伸」を健康日本21の目的の一つとし,さまざまな施策を展開している。健康長寿を実現するために最も大切なことは「病気の予防」であり「早期発見・早期治療」であろう。これは身体疾患だけでなく精神疾患にも当てはまる。病気の予防がいかに重要かについては,これまでにも保健の観点からさまざまなメッセージが発信されてきた。しかし,メンタルヘルスの領域では,予防医学は概念的には受け入れられても,具体的に何をどうすれば予防につながるのか,早期発見に至るのか,その道筋が見えないところがあった。最近,早期介入をすることが病気の予後を改善すること,治療に至るまでの時間が短ければ短いほど治療効果が高いことなどに関するエビデンスが集積されてきたことから,漠然としていた「予防」が中身を伴って語られるようになってきた。

 本書は以上のような今日的時代背景の中でまとめられた時宜にかなった書籍である。病気は突然始まるいわゆる急性の疾患(代表例は感染症)と,発症する前一定期間,前駆状態と呼ばれる非特異的な症状を示し,そのうちその疾患の本来の症状を呈する疾患に分かれるが,精神疾患の多くは後者に属する。この前駆状態は疾患特異的でないため,注意が向きにくく早期介入が困難であった。しかし,本書ではこの時期(前駆期)に焦点を絞り,これまで積み重ねられてきたエビデンスを総説することで早期介入のプロセスを明示した。

学会告知板

第9回国際早期精神病学会—To the New Horizon

ページ範囲:P.900 - P.900

会 期 2014年11月17日(月)〜19日(水)

会 場 京王プラザホテル(東京・新宿)

第8回レビー小体型認知症研究会

ページ範囲:P.905 - P.905

開催日 2014年11月1日(土)

場所 新横浜プリンスホテル(神奈川県横浜市港北区新横浜3-4 新横浜駅徒歩5分)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.858 - P.858

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.909 - P.909

次号予告

ページ範囲:P.912 - P.912

投稿規定

ページ範囲:P.913 - P.914

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.915 - P.915

編集後記

著者:

ページ範囲:P.916 - P.916

 欧米で脱施設化の運動がはじまり,入院治療から地域での治療へとシフトするようになって早くも半世紀が経つ。当初脱施設化,脱病院化は社会思想の影響を受けた様相があったが,次第に医学としてのエビデンスが集まり,いまや地域精神医療は精神科医療の主流になっている。わが国でも精神科病床数はここ十数年徐々に減少しているが,人口減のために人口当たり病床数はほとんど変化なく,いまだ入院中心の医療であることが内外から批判されている。昨年「精神障害者の地域生活への移行を促進するために」精神保健福祉法が改正された。いくつかの重要な改正に加えて今後の医療を展望するための指針作成がうたわれ検討会が設けられた。今月号の特集「良質かつ適切な医療の提供—改正精神保健福祉法41条の具体化」では,検討会での議論やそれぞれの立場での見解などを識者に執筆いただいている。

 諸論文を通読して,重要な問題が深く議論されていると思われた。特に病床の機能分化,重度慢性患者の扱い,病床転換構想など今後の医療の基本を決定するような諸問題が多方面から検討されており興味深かった。もちろん結論の出ていないところもあるが,かえっていろいろと考えることができる利点があった。脱施設化という歴史的事態を迎えて久しくなるが,漸進的な改革がわが国の特徴であろう。地域中心の医療やケアがいつ本格化するのかと気がもめることもあるが,本特集はこれからの動きを想像できるもので大変有意義であった。執筆者はいずれも非常にお忙しい方々ばかりであり,その労に深く感謝したい。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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