精神神経疾患と活性化ミクログリアの多様性—ミクログリアの活性化を抑制できれば,精神神経疾患の根治的治療に応用できるか?
著者:
橋岡禎征
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宮岡剛
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和氣玲
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堀口淳
ページ範囲:P.1011 - P.1017
はじめに
ミクログリアの活性化は,アルツハイマー病,パーキンソン病,多発性硬化症といった幅広い神経変性疾患の病変部に共通してみられる病理学的所見の1つである。1980年代に抗MHC(major histocompatibility complex)classⅡ抗体を用いた免疫組織化学的手法を取り入れたMcGeerグループの精力的な研究により,種々の神経変性疾患の死後脳において活性化ミクログリアの存在が明らかになった23,24,25)。アルツハイマー病では老人斑の上に覆い被さるように凝集・活性化したミクログリア23,24,25),パーキンソン病においては黒質線条体のニューロンの軸索に沿うように存在する活性化ミクログリアが認められている23,24)。また多発性硬化症でも脱髄病変部位に一致して高密度の活性化ミクログリアが存在し24),筋萎縮性側索硬化症の1次運動野においても活性化ミクログリアが存在することが明らかになった24)。2000年以降,これら神経変性疾患におけるミクログリアの活性化は,末梢性ベンゾジアゼピン受容体のトレーサーPK11195を用いたPET(positron emission tomography)によって,患者の生体脳でも捉えることができるようになった8,19)。さらに近年,神経変性疾患におけるミクログリア研究の数に比べると非常に少ないものの,免疫組織化学2,27)およびPET9,33)研究によって,統合失調症,気分障害といった,これまで共通した病理学的所見が見出されておらず,機能性脳障害とされてきた内因性精神疾患においても活性化ミクログリアの存在が,明らかになりつつある。それはまさに,活性化したミクログリア/マクロファージによる自然免疫系の変調および炎症性変化が,統合失調症およびうつ病の形成プロセスに関与しているとSmithが1990年代に唱えたマクロファージ仮説30,31)を実証しているかのようにも映る。それでは病態脳におけるミクログリアの活性化を単に抑制することが,多岐にわたる精神神経疾患の根治的な治療・予防に繋がるのだろうか? 本論文では,活性化ミクリグリアの多様性の観点から,この疑問について考察していく。