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雑誌目次

雑誌文献

精神医学56巻12号

2014年12月発行

雑誌目次

巻頭言

東日本大震災から4年目を控えて感じること

著者: 富田博秋

ページ範囲:P.994 - P.995

 2015年3月で東日本大震災から4年が経ちます。東日本大震災を受けて東北大学に新設された災害科学国際研究所と東北メディカル・メガバンク機構という2つの組織での活動を通して,特に強く感じることを何点かご紹介させていただければと思います。
 災害科学国際研究所は東日本大震災からの復興と巨大災害の被害軽減に向けた実践的な防災と災害対応に対する科学の礎を築くことを目指して人文科学,社会科学,自然科学にまたがる7部門38分野からなる組織として新設されました。その中の災害医学研究部門8分野の1つとして災害精神医学分野が設置されていますが,本研究所での学際的な災害科学への取り組みを始めて感じたことに,防災の枠組みや防災に関する科学は,工学領域を中心に発展し,その中に医学や医療・保健の領域が十分に包含されてきていないことがあります。たとえば,国内外に災害科学に関する研究施設は複数ありましたが,いずれも災害医学に関する研究部門を有しておらず,私達の研究所は世界で初めて医学研究を統合する災害研究所として,災害科学の領域で関心を集めています。2015年3月,国際的な防災の枠組みにおいて重要なイベントとして,仙台市で第3回国連防災世界会議が開催されます。阪神淡路大震災から10年の節目にあたる2005年に神戸市で第2回国連防災世界会議が開催され,災害に強い国・コミュニティを構築するための指針である兵庫行動枠組が採択されてから10年が経過し,東日本大震災をはじめその間に起こった大災害の教訓をふまえて,その見直しが行われることになります。10年前の兵庫行動枠組においても,医療・保健に関する記載はほんのわずかでした。現在,第3回国連防災会議の中で,災害医療・医学のことやメンタルヘルスのことを勘案した防災体制の充実に向けた検討がなされるよう,各国の災害精神医学関係者や国連関係者を交えて検討を行っているところです。

展望

近未来のACT(Assertive Community Treatment)

著者: 西尾雅明

ページ範囲:P.997 - P.1010

はじめに
 わが国の地域精神保健福祉施策は,入院医療中心から地域生活中心へと移行しつつある。厚生労働省「精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」が2013年10月12日に公表した「指針案中間まとめ」では,入院医療から地域生活への移行,外来医療体制の整備と充実,チーム医療(多職種連携)体制の整備などが重点事項として挙げられている。
 一方で近年,科学的根拠に基づく医学・医療を実践する必要性が強調されるようになり,重篤な精神障害を持った患者に特に有益な心理社会的アプローチとして,家族心理教育などとともに,Assertive Community Treatment(包括型地域生活支援,以下ACT)が挙げられている3)。本邦でも,脱施設化を成し遂げた先進国での援助効果が実証されているACTをわが国に導入する動きが2000年前後より高まり,モデル的な研究プロジェクト(ACT-J)が立ち上げられ,すでに10年が過ぎた。本稿では,国内外のACTの動向や課題について,将来展望もまじえて解説を加えたい。

精神神経疾患と活性化ミクログリアの多様性—ミクログリアの活性化を抑制できれば,精神神経疾患の根治的治療に応用できるか?

著者: 橋岡禎征 ,   ,   宮岡剛 ,   和氣玲 ,   堀口淳

ページ範囲:P.1011 - P.1017

はじめに
 ミクログリアの活性化は,アルツハイマー病,パーキンソン病,多発性硬化症といった幅広い神経変性疾患の病変部に共通してみられる病理学的所見の1つである。1980年代に抗MHC(major histocompatibility complex)classⅡ抗体を用いた免疫組織化学的手法を取り入れたMcGeerグループの精力的な研究により,種々の神経変性疾患の死後脳において活性化ミクログリアの存在が明らかになった23,24,25)。アルツハイマー病では老人斑の上に覆い被さるように凝集・活性化したミクログリア23,24,25),パーキンソン病においては黒質線条体のニューロンの軸索に沿うように存在する活性化ミクログリアが認められている23,24)。また多発性硬化症でも脱髄病変部位に一致して高密度の活性化ミクログリアが存在し24),筋萎縮性側索硬化症の1次運動野においても活性化ミクログリアが存在することが明らかになった24)。2000年以降,これら神経変性疾患におけるミクログリアの活性化は,末梢性ベンゾジアゼピン受容体のトレーサーPK11195を用いたPET(positron emission tomography)によって,患者の生体脳でも捉えることができるようになった8,19)。さらに近年,神経変性疾患におけるミクログリア研究の数に比べると非常に少ないものの,免疫組織化学2,27)およびPET9,33)研究によって,統合失調症,気分障害といった,これまで共通した病理学的所見が見出されておらず,機能性脳障害とされてきた内因性精神疾患においても活性化ミクログリアの存在が,明らかになりつつある。それはまさに,活性化したミクログリア/マクロファージによる自然免疫系の変調および炎症性変化が,統合失調症およびうつ病の形成プロセスに関与しているとSmithが1990年代に唱えたマクロファージ仮説30,31)を実証しているかのようにも映る。それでは病態脳におけるミクログリアの活性化を単に抑制することが,多岐にわたる精神神経疾患の根治的な治療・予防に繋がるのだろうか? 本論文では,活性化ミクリグリアの多様性の観点から,この疑問について考察していく。

研究と報告

トウレット障害を併存する強迫性障害の臨床像:第2報—その治療に関する半年間の前方視的検討

著者: 林田和久 ,   福原綾子 ,   三戸宏典 ,   山西恭輔 ,   向井馨一郎 ,   柳澤嘉伸 ,   中嶋章浩 ,   前林憲誠 ,   松永寿人

ページ範囲:P.1019 - P.1026

抄録
 トウレット症候群を併存したOCD患者(TS群)の薬物反応性について,チック症状の既往を有さないOCD患者(C群)と比較・検討した。その結果,TS群では,12週間のSSRI単剤投与に対する反応性が,C群に比し有意に低率で,SSRI抵抗性(改善率10%未満)の割合が高かった。SSRI抵抗性であった症例には非定型抗精神病薬を付加投与したが,半年後の改善率ではTS群とC群の間に有意差を認めなかった。本研究の結果は,チック関連性という新しいOCDのサブタイプが,治療反応性という側面からも特異的一群を構成することを支持するものであり,このサブタイプを特定することの臨床的有用性を支持するものと考えた。

OpenEARを用いた音声による心理的ストレス検出の試み

著者: 田口高也 ,   根本清貴 ,   太刀川弘和 ,   長野徹 ,   立花隆輝 ,   西村雅史 ,   新井哲明 ,   朝田隆

ページ範囲:P.1027 - P.1034

抄録
 オープンソースの音声解析ソフトウェアであるOpenEARを用いて,音声による心理的ストレスの検出を試みた。対象は健常者106名であり,無作為にタスク群とコントロール群に分類した。両群に状態・特性不安検査State-Trait Anxiety Inventory(STAI),血圧・脈拍測定,音声記録を行った後,タスク群にはアナグラム課題を,コントロール群には音読のみの課題を施行した。施行後にも音声記録とSTAIを実施し,施行前後のSTAI,血圧・脈拍,音声パラメーターを両群で比較した。また,被験者全員の値を用いてSTAI-Sの変化量と音響特徴量の相関を検討した。その結果,タスク群の音声パラメーターは,メル周波数ケプストラム係数(MFCC)の一部のパラメーターでコントロール群に比して有意な変化を示した。また,MFCCおよび基本周波数とSTAI-Sとの間に有意な相関を認めた。OpenEARを用いた音声パラメーターの解析により心理的ストレスの有無や程度を検出できる可能性が示唆された。

アルツハイマー病の臨床経過におけるVSRADの有用性—VSRADとFASTの相関解析

著者: 山口大介

ページ範囲:P.1035 - P.1040

抄録
 アルツハイマー病と診断された130名(男性41名,女性89名,平均年齢74.1±7.4歳,平均Zスコア2.23±0.97,平均MMSE 20.6±5.31,平均FASTステージ3.47±1.24)を対象にその臨床経過におけるVSRADの有用性についてFASTとの関連性から検討した。その結果,FASTステージにおける軽度認知障害レベルとZスコアとの間に正の相関などを認めたが,アルツハイマー病レベルにおいては関連性を認めなかった。したがって,VSRADはMCIに限れば経過観察の指標に有用であると考えられた。

短報

躁病相で錐体外路症状が軽減した双極性障害患者の1例

著者: 山本暢朋

ページ範囲:P.1041 - P.1044

はじめに
 第2世代抗精神病薬の使用が標準的となった現在においても,遅発性ジストニア(tardive dystonia:TDt)などの遅発性錐体外路症状が完全に見られなくなったわけではない。これらは,効果的な治療手段が乏しいこともあり,一度出現すれば対応に苦慮する場合も多い。今回,双極性障害患者に対して第2世代抗精神病薬を用いたところ,TDtを含む錐体外路症状(extrapyramidal symptom:EPS)が躁病相で軽減する症例を経験した。気分障害圏の患者に対し,第2世代抗精神病薬の適応が拡大されつつある現在において,このような症例を提示することは意義のあるものと考えられるため,若干の文献的考察を加えて,これを報告したい。

ミニレビュー

高齢初発の大うつ病性障害患者の在院を長期化させる因子について

著者: 松本卓也 ,   小林聡幸 ,   加藤敏

ページ範囲:P.1045 - P.1052

はじめに
 近年,わが国は世界でも類をみないほどの速度で高齢化を迎えている。精神科医療においても,高齢化は重要な懸案事項である。高齢化と関係するのは,認知症だけではない。大うつ病性障害(以下「うつ病」)の頻度は加齢とともに増加する5)ことが知られており,老年期のうつ病は重症度と致死率が高いことも指摘されている19)。また,高齢の患者は入院が長期化しやすく,わが国の医療費の増大にも拍車をかけていることが知られている。そのため,高齢者のうつ病入院患者の在院を長期化させる因子について検討することは,当該患者に対する適切な治療,および適切な医療資源の配分を考える上で重要であると考えられる。
 しかし,うつ病患者の在院日数についての研究は,意外なほど少ない。大学附属病院を中心とした研究では,大うつ病性障害の平均在院日数が64〜94日13),高齢気分障害患者の在院日数の平均が112.3日18),60歳以上の高齢気分障害患者の在院日数の平均は約70日であった14)。ドイツとアメリカでのうつ病患者(全年齢)の平均在院日数はそれぞれ51日と11日であり2),日本は諸外国に比べても入院が長期に渡っていることが分かる。この理由には,国民皆保険制度によって比較的安価な医療費負担で入院治療を継続することが可能なことが挙げられるだろう。
 うつ病入院患者の在院の長期化を規定する因子についての研究も,国内・海外ともに僅かしかみられない。Markowitzら15)は,大うつ病障害の入院患者(全年齢)に対して,ECTを施行することによって在院日数が平均13日間短縮されることを示している。国内のデータでは,当院での高齢気分障害患者(うつ病,および双極性障害を含む)について検討した玉川ら18)の研究では,65歳以上の患者は65歳未満の患者と比べて在院日数が約22日間長く,男性であること,合併症があること,および独居世帯に居住していることなどが在院の長期化の因子であった。高齢のうつ病入院患者の在院を長期化させる因子については,カナダのIsmailら11)の研究がある。彼らは2005〜2010年のうつ病入院患者についての検討から,高齢うつ病患者では,入院回数の多さ,独居世帯に居住していること,強制入院であることが長期在院を予測する因子であることを報告している。
 先行研究をこのように概観すると,次に挙げるような諸々の点が明らかではないことが分かる。
1.ライフイベントと在院日数の関係
 高齢者は,本人や近親者が重大な病気を発症したり,ときには死に至ったりすることがある。事実,一般人口を対象とした研究において,死別をはじめとしたライフイベントが高齢者に多いことが知られている9)。また,死別が高齢者のうつ病の発症の重大なリスクファクターとなることは以前から知られている7)。同居家族が死去した後に発症したうつ病の場合,患者はうつ病から回復するという課題だけでなく,家族が喪失した家庭の中で新たな生活と役割を引き受けるという課題をも背負うことになる。この場合,在院が通常より長期化することは十分に考えられる。加えて,退職を契機としてそれまでの生活が一変することも,高齢のうつ病患者が生きる社会環境に大きな変化をもたらすと考えられる。しかし,これまで高齢者のうつ病におけるライフイベントと在院日数との関係は検討されていない。
2.治療薬と在院日数の関係
 うつ病患者がもともと居住していた自宅に退院するためには,ほとんどの場合で,薬物療法の効果によってうつ病を寛解ないし回復させる必要がある。このため,治療薬と在院日数には強い相関があると想定されるが,この論点についてもこれまでの研究では検討されていない。
3.高齢初発うつ病の異種性
 Ismailらが検討しているのは入院時に60歳以上であった「高齢うつ病患者」についてである。しかし,高齢うつ病患者には,若年初発群と高齢初発群が存在し,後者の高齢初発うつ病は重症度が高く,自殺既遂率が高く,予後も悪いことが知られており,両者を病因論的に区別するべきとされている21)。そのため,在院日数の研究についても,若年初発の高齢うつ病と高齢初発うつ病を区別することが必要だと思われる。
 そこで我々は,対象を高齢初発うつ病入院患者に絞り,その在院を長期化させる因子を,患者背景や合併症,家庭環境,職歴,ライフイベント,うつ病の重症度と種類,薬物療法やECTなどの治療との関係から多角的な検討を行った16)。本稿では,以下にその研究から得られた10年分のデータを紹介することにしたい。

書評

—福田正人 監修,笠井清登,鈴木道雄,三村 將,村井俊哉 編集—精神疾患の脳画像ケースカンファレンス—診断と治療へのアプローチ

著者: 尾崎紀夫

ページ範囲:P.1054 - P.1054

 担当医が,患者さんの状態についてご本人やご家族に説明する際,検査データや画像を示すのが一般的であるが,多くの精神疾患においては,当てはまらない。
 米国国立精神保健研究所(NIMH)のDirector,Tom Inselは,DSM-5発表に際し,「従来一般的であった症状に基づく診断法は,この半世紀,他の医学領域ではすっかり置き換えられた。ところが,DSMの診断は,客観的な検査所見によらず,臨床症状に基づいてなされる状態が続いている。NIMHは診断法を改変すべく,Research Domain Criteria (RDoC) projectを開始した」と,DSM-5に対する不満を表明すると同時に,精神疾患においても検査所見により診断できることを目指すと言明している(Transforming Diagnosis:Director's Blog April 29, 2013)。

学会告知板

第14,15回集団認知行動療法研究会基礎研修会

ページ範囲:P.1056 - P.1056

第14回会期 2015年1月25日(日)
第14回会場 松藤プラザ「えきまえ」いきいき広場(JR長崎駅より徒歩1分 交通会館内)
第15回会期 2015年3月15日(日)
第15回会場 愛知県産業労働センター「ウインクあいち」
(JR名古屋駅桜通口からミッドランドスクエア方面 徒歩5分)
以下,各回共通

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.1010 - P.1010

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.1057 - P.1057

投稿規定

ページ範囲:P.1059 - P.1060

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1061 - P.1061

編集後記

著者:

ページ範囲:P.1062 - P.1062

 決まり文句になってしまうが,本誌は今年の最終号になる。まずは読者諸賢に1年間の御礼を申し上げます。
 近年はどの日本語医学原著雑誌もそうであるが,論文投稿が減少気味でしたがって1冊のヴォリュームも薄くなりがちである。そういう状況でも,本誌は質の維持に努めており,本号でも青少年から高齢者,生物学的研究から社会的研究,アルツハイマーから心理ストレスの検査法まで,幅広い領域における質の高い論文が掲載されていると(自画自賛して)思う。精神医学では,研究でも臨床でも,生物学的立場と心理社会的立場の他に,たとえばマクロとミクロ,疾病性と事例性,病像成因的と病像形成的,準備因子と結実因子,病態レベルと医師・患者関係レベルといったような,対言葉になった両端から見る視点が欠かせない。ちょうど本号では,展望欄に西尾雅明先生による「近未来のACT」と橋岡禎征先生らによる「精神神経疾患と活性化ミクログリアの多様性」が載っている。両者はいわばマクロとミクロという両端にある視点からの展望ということができようか。精神医学は臨床医学の中で疾患と社会との関連性が特に強い分野なので,ミクロの生物学的研究がいくら進んでも,マクロの患者と社会との関わりの視点を疎かにしてはならないだろう。ただ,マクロで広げすぎると,ミクロで突き詰めるのと同様に,「1人の生活者としての患者」の姿が見えなくなってしまうという点には注意したい(自殺の統計学的研究などではこうしたことが生じがちである)。

精神医学 第56巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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