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文献詳細

雑誌文献

精神医学56巻3号

2014年03月発行

連載 東日本大震災・福島第一原発事故と精神科医の役割・14

大震災を機とした精神科医療の再興・新生

著者: 岡崎祐士12

所属機関: 1東京都立松沢病院 2厚生連道ノ尾病院

ページ範囲:P.259 - P.267

文献概要

はじめに

 2011年3月11日午後,宮城県沖を震源とする大地震と津波は,東北・北関東の太平洋岸の多数の人々の命と生活の場を一瞬にして奪い,文字通り地域・職場・学園を壊滅させた。しかも,続く福島第一原発事故は,その範囲は今なお不透明であるが,その周辺に住む人々を追い出し,恐らく今後長年月にわたって,住民が戻れない住めない場と変貌させてしまった。

 被災のその日から悲しみの中で被災地の人々は再建のために立ち上がった。負傷した人々,服用していた治療薬を失った人々,生き延びたが孤立し寒さと飢えと愛する人々を失った悲しみの中で心身を損なった人々の,緊急の医療援助が求められた。精神科医療への要請が被災のこれほど早期から求められたことは,かつてなかった。東日本大震災は,従来の地震被害にみられた揺れによる建物の倒壊や火災による死傷被害よりも津波による被害が圧倒的に多かった。津波は町を根こそぎ呑み込み,巻き込まれた人々の命を奪った。一瞬の判断の違いが人生を変えてしまったという体験を持つ方々も多く,助かってもその運命のいたずらに納得できない被災者も多いという特徴があった。こころのケアが早期から求められた理由の1つであろうと思われる。

 この事態に精神科医療はいかに応えたのであろうか。結論から言えば,阪神淡路,中越の震災の経験を活かして,東北・北関東の被災地の人々の要請に応ええたと言えるであろう。あるいは,応えるべく変わらなければならなかった。その中で,精神科医療の新しい形や機能を生み出したところもある。しかし,それらが旧精神科医療の場の変化につながったかと問われれば,容易ではなかったと言わざるを得ないであろう。その意味では,東日本大震災(以下,大震災)と福島第一原発事故は,われわれの医療のあり方を問い,生活と保健・医療が一体となった支援を求め,何がしかの新しい形を残し,また旧精神科医療の場における課題を提起したと言えよう。本来の精神科医療の再興と新生を芽吹かせたと言えるかもしれない。

参考文献

1) 福田正人:こころの健康のサービスシステムの転換(“こころの健康政策”の構想会議から構想実現会議へ―「こころの健康を守り推進する基本法」の制定実現に向けて).2010年7月24日
2) こころの健康政策構想会議(http://www.cocoroseisaku.org/):当事者・家族・国民のニーズに添った精神保健医療改革の実現に向けた提言.2010年5月
3) こころの健康政策構想実現会議:緊急提言 東北関東大震災からの復興を支える“包括型地域生活支援アウトリーチセンター”を.2011年4月

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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