icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学56巻4号

2014年04月発行

文献概要

展望

オプトジェネティクス

著者: 田中謙二1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室

ページ範囲:P.281 - P.284

文献購入ページに移動
はじめに

 オプトジェネティクスは神経科学における実験技術である。光(オプト)と遺伝子発現(ジェネティクス)を組み合わせて神経細胞の機能を操作するこの技術が神経科学の分野でどのようなインパクトをもって迎えられたか,精神医学の発展にどのような期待を込められているか,筆者の視点で述べてみたい。

 オプトジェネティクスの最初の論文は2005年で,培養神経細胞を用いた技術紹介の論文であった(Boyden, Zhangら,2005)2)。グリア研究に没頭していた筆者はこの論文の存在を知る由もなく,オプトジェネティクスという言葉を知ったのはコロンビア大学へ留学してからのことであった(筆者は2006年から2008年までニューヨークのコロンビア大学へ留学していた)。アメリカでは,オプトジェネティクスという新しい技術をどうやって使いこなすかという議論が盛んに行われており,限られた成功例が新着論文で散見される程度であった。技術そのものの潜在能力について皆が理解していたものの,成功することが容易ではなかったのである。

 帰国から6年が経過した。今現在は,オプトジェネティクスを使いこなすのは当然として,その技術を使ってどんな疑問を解くのかという段階にきている。筆者は2013年の9月に,オプトジェネティクスの創始者であるカール・ダイセロスKarl Deisserothを招き,国際シンポジウムOptogenetics 2013を主催した。彼の発表は,Nature 2013a,2013b,2013cという具合に,2013年の前半だけでNature誌に3本も掲載させたことが分かる圧巻の内容であった(Chung,Wallaceら,2013;Kim,Adhikariら,2013;Tye,Mirzabekovら,2013)3,5,10)。Natureに掲載されるからインパクトがあるという論法で読者の皆様に重要性を訴えるのではない。ダイセロスがスタンフォードの精神科研修を修了した精神科医だからという論法で重要性を説くのでもない。オプトジェネティクスの何にインパクトがあるか,神経科学の歴史からその重要性を述べてみたい。

参考文献

1) Adamantidis AR, Zhang F, Aravanis AM, et al:Neural substrates of awakening probed with optogenetic control of hypocretin neurons. Nature 450:420-424, 2007
2) Boyden ES, Zhang F, Bamberg E, et al:Millisecond-timescale, genetically targeted optical control of neural activity. Nat Neurosci 8:1263-1268, 2005
3) Chung K, Wallace J, Kim SY, et al:Structural and molecular interrogation of intact biological systems. Nature 497:332-337, 2013
4) Crick FH:Thinking about the brain. Sci Am 241:219-232, 1979
5) Kim SY, Adhikari A, Lee SY, et al:Diverging neural pathways assemble a behavioural state from separable features in anxiety. Nature 496:219-223, 2013
6) Matsuno-Yagi A, Mukohata Y:Two possible roles of bacteriorhodopsin:A comparative study of strains of Halobacterium halobium differing in pigmentation. Biochem Biophys Res Commun 78:237-243, 1977
7) Miller G:Optogenetics. Shining new light on neural circuits. Science 314:1674-1676, 2006
8) Nagel G, Ollig D, Fuhrmann M, et al:Channelrhodopsin-1:A light-gated proton channel in green algae. Science 296:2395-2398, 2002
9) Tsunematsu T, Kilduff TS, Boyden ES, et al:Acute optogenetic silencing of orexin/hypocretin neurons induces slow-wave sleep in mice. J Neurosci 31:10529-10539, 2011
10) Tye KM, Mirzabekov JJ, Warden MR, et al:Dopamine neurons modulate neural encoding and expression of depression-related behaviour. Nature 493:537-541, 2013
11) Zhang F, Wang LP, Brauner M, et al:Multimodal fast optical interrogation of neural circuitry. Nature 446:633-639, 2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら