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雑誌目次

論文

精神医学56巻5号

2014年05月発行

雑誌目次

巻頭言

“統合失調症は精神科医があきらめない限り治りつづける”(下田,1942)は真実か

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.364 - P.365

 長い間,国の内外から厳しい批判のあるわが国の精神科医療もここにきて改革の動きが本格化したようである。それは,「精神科医療のあり方を改革すべき」という閣議決定(2010年6月)に基づくものと理解される。それを契機に,3つの団体がそれぞれ「将来ビジョン」を提言している。すなわち,こころの健康政策構想会議(2010年5月)1),日本精神保健福祉政策学会(2012年3月)3),日本精神科病院協会(2012年8月)4)からの提言である。それら提言の内容はそれぞれの団体,立場,性格を反映をあらわして特色があることは当然として,3団体とも現状のわが国の精神科医療の改革の必要性,その具体策として,1)入院中心主義からアウトリーチ(地域医療・地域生活支援)への転換,2)精神病床数の削減,3)家族支援・家族参加の強化,4)人員配置についての「精神科特例」の廃止,さらには医療費の一般診療科との同等化などでは一致する。ただ,日精協提言では多少ニュアンスが違って,「必要な人員配置ができる報酬の設定などが行われなければなりません」と主張されている。

 他の2団体の提言の中にはなく,日精協提言の中にある,「どうしても現代の医学では回復できない患者さんがいます。どのような治療や処遇が適しているのかを研究しなくてはなりません」という主張は,筆者にはわが国の統合失調症治療の実践の多くの責任を背負ってきた病院団体の慧眼によると思える。アメリカ精神医学会のリーダーであるLieberman JA(2011)2)は,統合失調症の転帰について,“初回エピソードでは多くの患者は症状の寛解をみる。しかし,やがて再発し,そのたびごとに慢性化して回復は困難になる。結果的に10人に1人は精神病症状を持ち続ける。長期経過は,完全寛解から治療困難な重症の症状と能力障害まで多様性が認められるがその原因は未だ知られていない。疾病病理の広がりと重さとが関係することは確かであろうが,疾病経過に環境要因が関係することも事実である。薬物療法をともに,治療状況とコミュニティの支持,さらには家族の支持がエピソードの転機,長期予後に関連する”と記している。妥当な見解と思われる。

特集 大学生とメンタルヘルス―保健管理センターのチャレンジ

総論

著者: 杉田義郎

ページ範囲:P.367 - P.373

はじめに

 1990年代以降,現在に至るまで日本も世界も激動の時代であり,グローバリゼーションが急速に進んでいる。それまでの近代化は近代的な理性が絶対的な位置を占めていたが,現代はこれまでの単純な近代(初期近代)とは違ったフェイズに入ったという,ポストモダン思想が生まれてきている。秩序や人間関係を規定するソリッドな枠組みがなくなったとして,社会学者のジークムント・バウマンは現代はすべてが流動化している状態として“リキッド・モダニティ”と呼んでいる6)。また,ウルリッヒ・ベックは発展した技術や経済が人間の統制下から離れ,意図せざる結果として地上の生命体をおびやかしている「環境リスク」や集団の保護機能が弱体化し,リスクは個々人に対し直接的にふりかかかるようになった「人生のリスク化」が生じる現代を“リスク社会”としている5)

 大学,そして保健管理センターといえども,現代社会の中にあってはこのような状況から免れることはできない。むしろ,このような時代であるからこそ,学生,教職員にメンタルヘルス不調者が増え,保健管理センターのメンタルヘルス・サポートの役割が期待され,実力が問われているといってもよい。

近年の動向と現状―疫学的見地

著者: 内田千代子

ページ範囲:P.375 - P.384

はじめに―大学生のメンタルヘルスと休学,退学,留年問題

 精神疾患に罹患すると社会での適応は悪くなり,勤労者では欠勤,休職,退職などの問題が生じる。大学生のメンタルヘルスの諸問題は,留年,休学,退学などの就学状況に現れやすい。それゆえ,就学状況の現状と動向を知ることは大学生のメンタルヘルスの実態を把握する一助となり,学生支援に重要な手がかりを与える。

 意欲減退学生,スチューデントアパシーの問題は,大学生のメンタルヘルスにかかわる者にとって深刻なテーマであり続けてきた。時代とともに,フリーター,ひきこもり,ニートなどの呼び名で話題となってきたが,休学,退学,留年学生の中にこのような問題を抱える学生が多くみられる。さらに自殺その他の精神疾患もこの中に認めることは稀でない。支援の必要性が最近特に注目されるようになった発達障害の学生も含まれる可能性がある。一方,休学,退学,留年は,大学運営上も無視できない問題であり,私立大学に限らず,独立行政法人化後の国立大学でも重要課題となっている。退学による授業料収入の減少は,経営面で逼迫した課題となるが,学生サービスという面からも,不健康な状態で休学,退学,留年する学生が多いことはマイナスである。

 大学への全入時代と言われるようになってから久しい。4年制以上の大学への進学率は上昇を続け,少子化による18歳人口は減少を続ける。学力低下,大学の大衆化は必然である。女子の進学率は依然として男子より低い。さらに,科学技術の目覚しい発展の結果,それを身に付けるべき修行期間が長引き,青年の遅い自立を招いた。現代の大学生は昔と比べて幼稚であると言われるのもやむを得ない。

 対人関係面での脆弱さも指摘される。自己主張できずに,指示に従わないことで反抗を示す受動攻撃性も認められる。まさにIT革命と言えるようなIT(information technology)の普及により情報収集力が高まり,それはコミュニケーションのあり方にまで変化を及ぼしている。また,景気悪化による影響は最近特に深刻である。

 このように社会変化のさまざまな要素が大学生の就学状況やメンタルヘルスに影響を与えている。

佐賀大学におけるキャンパス・ソーシャルワーカー制度―制度導入から現在までの2年間の分析

著者: 佐藤武 ,   花田陽子 ,   島ノ江千里 ,   山本あゆみ ,   南嶋里佳 ,   江口達也 ,   新地浩一

ページ範囲:P.385 - P.389

はじめに

 近年の社会環境の変化や大学進学率の上昇により,大学教育が大衆化し,資質や能力,知識,興味,関心などの面で,多様な学生が入学している状況にある。また,仲間体験を十分に経ていない学生,発達障害などの問題をかかえる学生,困難に直面した時に引きこもりがちや不登校になる学生がみられようになった。こうした学生は,従来の学生支援ネットワークからはみ出し,留年を繰り返し,休学や退学に結びつく1)。このような状況下において,適切な対応をしていくことが必要であり,大学における豊かな学生生活を実現するためのサポート体制の一貫として,学生相談や支援の充実が求められている。

 佐賀大学では,学生支援の充実を図るため,メンタルヘルスケアの拡充,対応窓口の増加,学内における連携体制,教職員の意識改革を掲げて作業を進めている2)。メンタルヘルスケアでは,非常勤の学生カウンセラーを雇用し,保健管理センターの機能の充実を図り,対応窓口として,なんでも相談窓口を設置している。しかし,学生カウンセラー,保健管理センター,学生なんでも相談窓口およびハラスメント相談員などが独立して種々の問題を解決していくことは難しく,全職員が学生の抱える問題に前向きに取り組むことが必要となってきた。そこで,2007年度よりチューター(担任)制度を導入し学生に個別的に関わるように努めてきた。その結果,現状が把握できたにもかかわらず,休学・退学者数に大きな変化はみられないという現状があった3)。さらに2011年4月よりこれまでの学習支援システムに加えてラーニングポートフォリオ制度を導入したが,「学生と連絡が取れない」,「大学に来ているのか分からない」,「修得単位が少ない」などの意見が聞かれたため,さらに個別のサポートを充実させたキャンパス・ソーシャルワーカー(以下CSWとする)制度が2011年7月より実施されている。

 本研究の目的は,CSW制度を導入した2011年7月から2013年6月までの2年間の活動で支援を行った98名の学生を分析し,その特徴を明らかにするとともに,キャンパスソーシャルワーカー制度の存在意義を明らかにしたい。

和歌山大学におけるメンタルサポートシステム

著者: 宮西照夫

ページ範囲:P.391 - P.397

はじめに

 近年,心の病や大学生活への不適応により修学に障害を来す学生は増加の一途をたどっている。これらが原因となり休学,留年,さらには退学を余儀なくされる学生も多い。特に大学生活に不適応を来し長期の不登校やひきこもる学生の増加は著しい。筆者は,1982年から2012年まで和歌山大学の保健管理センターで学生のメンタルサポートに従事し,2002年に20年間にわたり蓄積されたデータを基礎にひきこもり回復支援プログラム1)(表2)を作成し学生を支援するとともに,精神障害をかかえる学生の修学から就労までを支援するキャンパス・デイケアなどのサポート体制を構築してきた。本稿では,ひきこもり回復支援プログラムの概要とその遂行に不可欠な集団精神療法や自助グループの役割を中心に述べたい。

大学生の不登校をめぐって

著者: 小柳晴生

ページ範囲:P.399 - P.404

不登校に関連する大学生の心性について

 1960年代後半から70年安保闘争をはさんで,留年についての研究調査が盛んに行われるようになった。学生運動で激しく異議申し立てをする学生の裏に,静かに沈潜していく学生の存在があり,それが留年の増加という形で現れ始めたのである。この中には,今から見れば「不登校」とされる学生が少なからず含まれていたのかもしれない。

 こうした研究の中から,1968年丸井5)によって「意欲減退学生」が,1978年には笠原4)により「退却神経症ステューデント・アパシー」という概念が提唱された。「モラトリアム人間」10)という表現が使われたのもこの頃である。

名古屋工業大学におけるメンタルヘルス支援

著者: 粥川裕平 ,   冨田悟江 ,   早川由美 ,   中野功

ページ範囲:P.405 - P.412

はじめに

 大学保健センターの歴史は浅い。1953年にGHQ(General Headquarters)により大学生の補導支援教育が行われ,1961年に初めて新入生全員を対象に精神科医による面接が施行された1)。1970年頃,わが国独自で開発された学生の精神的健康チェック表University Personality Inventory(UPI)については,保健教育的,臨床的治療的,発見予防的という3つの有用性が指摘されている3)

 名古屋工業大学は,単科工科系大学で,中部初の官立高等教育機関として設立された高等工業学校を前身とし,100年以上の歴史を持つ。学部生は約4,200名,大学院生は約1,500名である。当校の特徴は9割を男性が占めること,大学院博士前期課程の進学率が7割と高率であること,学生の8割が東海地区出身であることである。就職率は学部生で約95%,大学院前期課程で98~99%で,大企業就職率は常に全国ランクのトップテンに入っており,創立以来8万名を超えるエンジニアを世に輩出してきた。なお,職員数は非常勤も含め800名余である。

 1972年に設立された名古屋工業大学保健センターは,精神科医1名,内科医1名,看護師2名,非常勤カウンセラー2名のスタッフしか配置されていない。大学のメンタルヘルスを取り巻く状況で特筆すべきは就職氷河期(空白の20年)と,国立大学法人化であろう。2004年の国立大学法人化の後は,教職員の業務負荷と心理的ストレスは急増し,保護者の雇用や収入も悪化し,それが相互に悪循環を形成し精神障害の発生も増加している。

大学のメンタルヘルスの諸問題―今後の展望

著者: 苗村育郎

ページ範囲:P.413 - P.421

はじめに

 本稿のテーマは大学生と大学教職員のメンタルヘルス問題の展望ということである。しかし現状をふまえた詳細な将来展望を期待されているならば,これはなかなか難しい。その訳は第1に,大学の数はすでに800校近くもあり,学生数だけで310万人を超えている5)(高等教育全体の学生・教職員を合わせると関係者の数は400万人前後になるのではないか)。それぞれが設立母体や歴史や規模や性格を異にする複雑な対象である。第2に,教育改革・大学改革とならび憲法改正やグローバル化が叫ばれているわが国の現状では,大学の使命や将来像もその細部は刻々変わっていくだろう。この状況変化に適応できる学生と不適応を生じる学生の性格や特性も変化していくに違いない。第3に,メンタルヘルスは何よりもまず個人の心の問題であるが,個性や人格は百人百様であり,これを精緻に論じることはなお困難である(性格学や人格学が成立していない)8,9)。したがってこれらの問題を限られた原稿で十分論じるのは難しく,本稿もある程度おおざっぱで,筆者の主観でまとめた見解も多いことを,あらかじめお断りしておかねばならない。

 第1の状況を補足すると,国公私立の諸大学のうち国立大学法人は85校前後であり,この部分に関しては,(国立大学法人)保健管理施設協議会で緊密な連携と情報交流があるし,休退学や自殺者の実数も把握されている3,4)。しかしさまざまな私学や公立大,さらに国立高等専門学校や各種の専門学校,また各種の予備校や資格取得のための教育期間(企業も含む)などについては,その細部を把握しきれない。引きこもりや不適応の学生を集めて支援教育活動を行っている各種施設などについても,筆者は断片的な情報しか持たない。大学という名称ではなくとも,これらも重要な高等教育機関であり,時代の中で若者達が示す同じような問題に直面していると推定される。若者のメンタルヘルスは,これらも含めて議論されるべきであるが,詳細はそれぞれの組織に身を置いて問題に取り組んでいる方から別の機会に述べていただくべきだろう。

 本稿では,中規模の国立大学を中心とした視点から問題を取り上げており,私学の経営や旧帝国大学の国際戦略などに関わる観点は抜けていることもお断りしておく。以下ではまず,(1)大学メンタルヘルスの領域拡大について述べ,次に(2)この問題を担当する学内組織の要点を述べる。さらに(3)最近重視されているいくつかの各論を簡単に解説し,最後に(4)今後の大学教育とメンタルヘルス支援の課題について述べることにしたい。

筑波大学保健管理センターにおける留年,休学対策―学生リスタートプロジェクトについて

著者: 石川正憲 ,   太刀川弘和 ,   石井映美 ,   堀孝文 ,   朝田隆

ページ範囲:P.423 - P.428

筑波大学保健管理センターの概要

 筑波大学は,学生数16,422名(学群9,790名,大学院6,632名,2014年度調べ)の総合大学で,年々大学院生,留学生が増加している。

 本学保健管理センターは,1973年10月の開学に併せて設置され,当初より学生相談(心理),内科,精神科,整形外科および歯科が開設された。現在まで日常の相談活動,診療活動から,救護活動,学生健診など大学生の保健管理に関わる幅広い業務を行っている。

研究と報告

パーキンソン病の薬物治療経過で認められた抑うつから妄想への変遷―「病いの語り」の崩壊という視点から

著者: 齋藤慎之介 ,   小林聡幸 ,   西嶋康一 ,   加藤敏

ページ範囲:P.429 - P.435

抄録

 パーキンソン病の精神症状に関しては,その病態理解は生化学的変化や神経心理学的変化からの考察が優勢である。しかしながら,パーキンソン病のように長期にわたり患者の人生や考え方に影響を与える慢性疾患の場合は,病気の進行と治療による改善がせめぎ合う体験に対する患者の主観的な理解の変化が,経過に影響を与えることがある。今回パーキンソン病発病後,自責的な抑うつ状態を呈していたが,抗パーキンソン病薬を増量しパーキンソニズムが消褪した直後から,被害的な妄想を抱くようになり,薬剤を中止した後も妄想構築が持続した初老期女性の経過を報告した。妄想主体の精神病症状に関して,抗パーキンソン病薬の影響やパーキンソン病変の進行という器質因子の関与を指摘すると同時に,慢性の病いと折り合うために紡がれた「病いの語り」が,急激な症状改善により崩壊してしまい,その代償として出現した可能性を指摘した。

短報

Blonanserin 1日1回投与が有効であった器質性幻覚症の1例

著者: 岡松彦 ,   大宮友貴 ,   高信径介 ,   渡辺晋也 ,   小川智生 ,   古堅祐行 ,   岡崎大介

ページ範囲:P.437 - P.440

抄録

 75歳男性,器質性幻覚症。転倒して後頭部を強打した後から幻聴が出現し,幻覚妄想状態を呈した。頭部MRIでは右前頭葉と右側頭葉の挫傷を認め,他に幻覚を来し得る器質因は認めなかった。Blonanserin 24mg朝夕後2回投与から就寝前1回投与として幻覚妄想状態は改善したが,錐体外路症状の増悪を認めた。Blonanserinに反応したが効果不十分であった場合,多剤併用や極量超過ではなく,用法の変更により1回量を十分にすることでさらなる症状の改善を見込める可能性があるが,副作用の増悪に注意が必要と考えられた。

私のカルテから

生体肝移植後に緊張病症状を呈したレシピエントの1例

著者: 川嶋新二 ,   河地茂行 ,   椿雅志 ,   島津元秀

ページ範囲:P.443 - P.445

はじめに

 生体肝移植後のレシピエントの20%あまりに抑うつ,不安,不眠,精神病症状,行動変化などの精神症状を呈すると言われる4)。海外では肝移植後に緊張病症候群catatoniaを呈した症例が散見されるが2,6),筆者の知る限り本邦にその報告はない。本稿では,アルコール性非ウイルス性肝硬変のために生体肝移植を受けた後に興奮と緊張病性昏迷が交代し,数日で軽快した症例を報告する。報告にあたっては本人の了解を得,症例の特定を避けるために細部に修正を加えた。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

コタール症候群

著者: 阿部隆明

ページ範囲:P.447 - P.449

はじめに

 コタール症候群は抗うつ薬や電気痙攣療法(ECT)の導入によって減少したと指摘されるが,最近では英語圏での関心の高まりを受けて,臨床報告や神経生物学的研究が相次いでいる。とはいえ,臨床的な文脈と無関係に,自分が死んでいるという妄想的信念を持つだけで,その診断がなされる傾向もある3)。これは,器官の否定,不死・巨大妄想,永罰・悪魔憑き(possession)妄想などの特徴をセットで指摘したCotardの原著からの大きな逸脱である。操作的な診断基準が存在しないので仕方ない面もあるが,筆者自身はCotardの意図を最大限尊重する立場である。ここでは原著に立ち返るとともに,その後の諸研究もまとめていくが,特に最近の文献は必ずしも古典的なコタール症候群を扱っているわけではないことを念頭に置いていただきたい。なお,本概念は日本でも繰り返し紹介されている8,9,11)ので,こちらも参照されたい。

「精神医学」への手紙

院内心理教育の導入と継続のためのひと工夫

著者: 和氣洋介 ,   河原宏幸

ページ範囲:P.450 - P.450

 「統合失調症の予後改善に向けての新たな戦略」が「精神医学」53巻2号の特集であった。特集論文中には「疾病管理とリカバリー(illness management and recovery;IMR)」についても紹介されていた1)。この様に,統合失調症の治療や再発防止に,エビデンスが認められる治療介入法の一つに心理教育がある。しかし,心理教育プログラムの立ち上げや継続が困難であることも多い2)。当院では,過去に心理教育プログラムを含めた複数の取り組みが立ち上げ後すぐに中断していた。こうした現実には,院内スタッフの継続力や職種間連携に大きな課題があった。また,現在多くの精神科病院では,患者,家族,そして医療従事者までもが高齢化しており,ステレオタイプな考え方から抜け出せない現場も多く,「あきらめ」からプログラム導入を困難にしている。たとえ院内スタッフの誰かが新しい取り組みを始めても,続かないのである。

 心理教育家族教室ネットワーク本大会の開催県となった年に,開催実行委員に当院からスタッフを派遣する機会を得ることとなった。このタイミングを導入のチャンスと考え,以下に留意し,継続実施を目標に,スタッフへの教育とプログラムの導入を併行して実践した。1)標準版家族心理教育講習会修了者の医師,精神保健福祉士1名ずつを中心メンバーとした。2)関心のある一部のスタッフではなく職種(看護師,精神保健福祉士,作業療法士)ごとにそれぞれ2名を立ち上げメンバーとした。3)立ち上げ準備の勉強会スケジュールを交代勤務である看護師に合わせた。4)勉強会はランチョン形式とし,業務時間後の負担を減らした。5)中心メンバー主導でプログラムを導入し,実践を通して立ち上げメンバーのスキルアップと学習意欲の維持を目指した。実践してみると特に2),3),4)において,現場におけるひと工夫の効果が大きく,メンバーの脱落や実践の中断となることなく,まずは当事者対象の心理教育プログラム導入に成功した。まだ課題は多いが,継続実施ができている。プログラムでは当事者からのフィードバックがメンバーの支えになるなど,良い循環が生まれつつある。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(29)(第2回)

著者: 「精神医学」編集委員会

ページ範囲:P.451 - P.467

 本学会は,失語症研究を中心にした1969年の韮山カンファレンスにはじまり,40年を超える歴史を持つ。2003年に日本失語症学会より日本高次脳機能障害学会と改称した。本学会の特徴は,学術総会,機関誌発行といった学術活動とともに,高次脳機能に関するさまざまな標準検査法の開発,年2回の教育研修活動,医療実態調査など,医学研究にとどまらず,広く医療,教育・研修活動などを行っていることである。会員もさまざまな職種が含まれ学際的な学会である。

 第37回学術総会は島根大学学長小林祥泰会長のもと,2013年11月29,30日に島根県民会館で開催された。1,600名を超える参加者があり,メインテーマ「脳器質疾患によるアパシー」のもと,292題の一般演題,会長講演(脳卒中後アパシーと血管性認知症),特別講演(やる気と脳:玉川大学脳科学研究所松元健二教授),1つのシンポジウム,7つ教育講演,3つのワークショップが行われ,活発な討論,意見の交換が行われた。東洋医学,神経心理学におけるIT活用,音楽療法の実際など新しいテーマも取り上げられた。

学会告知板

第12,13回集団認知行動療法研究会基礎研修会

ページ範囲:P.441 - P.441

第12回会期 2014年8月3日(日)

第12回会場 コラッセふくしま(福島県福島市三河南町1-20)

第13回会期 2014年11月8日(土)

第13回会場 NTT東日本関東病院(東京都品川区東五反田5-9-22)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.373 - P.373

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.442 - P.442

投稿規定

ページ範囲:P.469 - P.470

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.471 - P.471

編集後記

著者:

ページ範囲:P.472 - P.472

 本誌編集委員を長年お勤めいただいた,敬愛する臺 弘先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。本号の巻頭言を拝読し,一昨年白寿を迎えられた臺先生がその祝会で,「内村祐之先生からの宿題は統合失調症の治癒例をみることであったが,70年以上診療に携わって,治癒例をみることができて,内村先生に報告できる」と振り返られたことを思い出した。統合失調症の当事者の生活のしにくさやその回復に焦点を当てた生活療法ならびに精神科薬物療法との組み合わせによる,臺先生の人生をかけた精神科医としてのお仕事が下田先生の「統合失調症は精神科医があきらめない限り治り続ける」というお教えと共鳴し,西園先生の「慢性統合失調症に対する多職種の協働での精神療法的アプローチ」の実践とも通じ合っていると思い至り,先達の先生方の統合失調症に対する取り組みにあらためて感動した次第である。本年4月の診療報酬改定では,入院中から地域移行への過程での多職種の協働的アプローチがようやく保険点数化された。一方,治療抵抗性統合失調症外来指導管理料の新設を要望したが,保険収載は見送られた。しかし,厚生労働省は難治性精神疾患地域連携体制整備事業を平成26年度から開始した。このように先達のご努力がようやく国の施策として動き出している。

 本号の特集は「大学生のメンタルヘルス―保健管理センターのチャレンジ」である。大学の保健管理センターは大規模校でも数人の教授しかおらず,独立部局ではなく,学長などが形式的に管轄する組織であり,結核などの身体管理が中心であったが,近年,メンタルヘルスが中心的な課題となっている。文部科学省は障碍者の差別解消を図るべく,視覚障害や聴覚障害の学生への支援活動を推進し,各大学も積極的に対応しているが,精神疾患,とりわけ,うつ病や広汎性発達障害の学生への支援はどの大学も苦慮しており,精神疾患の診断のついていない休学留年生や自殺企図学生への対応を迫られている。本特集では種々のチャレンジを実施している保健管理センターからの貴重な報告をしていただいた。キャンパス・ソーシャルワーカー制度やキャンパス・精神科デイケア,ピアサポート制度などが普及して,さらに発展していってほしいと願わずにはいられない。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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