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文献詳細

雑誌文献

精神医学56巻6号

2014年06月発行

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

病識と病態

著者: 西園昌久12

所属機関: 1心理社会的精神医学研究所 2福岡大学

ページ範囲:P.549 - P.551

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病識の理解をめぐる今日の状況

 筆者のように,操作的診断法が開発され,一般化する以前に精神科医になった者にとっては,病識の理解は精神科診断を進めていく上できわめて重要なことであった。操作的診断法が普及した今日でも,病識という言葉が消え去ったわけではない。米国精神医学会治療ガイドライン「精神医学的評価法」(日本精神神経学会監訳)1)の中の「精神状態の検査」の項の中に,「さらに,治療方針や適切な治療場所の選択について決まったことを伝えるために,患者の病識,判断力,抽象的な思考力についての成績を得る」と記載されている。ただ,病識の定義や意味については何も論じられてはいない。

 そもそも,我々が学んだ病識の概念はJaspers K3)の説明に基づくものであった。Jaspersは,患者の疾病体験に対する態度の中で,あらゆる症状や病気全体の種類も重きも正しく理解されているのを病識と呼んだ。病の存在に対する自覚を欠くということは人格のはなはだしい歪みなしには起こらないと考えられ,病識欠如を精神病とし,病識出現を精神病の寛解とする臨床的判断がなされた。その意味で病識の統合失調症の診断上の意義は高かった。

参考文献

1) American Psychiatric Association(1995):日本精神神経学会監訳,精神医学的評価法.医学書院,2000
2) 土居健郎:病識の問題.精神経誌63:430-431,1961
3) Jaspers K(1913):内村祐之他訳:精神病理学総論,中巻.p177,岩波書店,1955
4) Mankad MV, Swart MS;Medication Compliance. Tasman A, et al(ed):Psychiatry. 2nd. ed. Wiley, Chichester, p2204, 2003
5) 西園昌久:病識の精神力動.精神医学5:111-119,1963
6) Parker G, Manicavasager V:Modelling and Managing the Depressive Disorders:A Clinical Guide. Cambridge University Press, Cambridge, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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