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雑誌目次

雑誌文献

精神医学56巻7号

2014年07月発行

雑誌目次

巻頭言

精神疾患と心理学

著者: 福田祐典

ページ範囲:P.564 - P.565

 表題は,ミシェル・フーコーの著作1)から拝借した。

 ミシェル・フーコーはフランスの高等師範学校出身の著名な哲学者である。ぼくは,日本の高等師範学校を母体とした新構想大学で医学を学んだので,何となく親しみを覚え,比較的分かりやすいとされる彼の処女作を数年前に厚生労働省の精神担当課長になった時に読んだ。結局分からなかったので,出版元である「みすず書房」による解説から内容を引用する。ちなみに,心理士の国家資格化に向けた議論の現在に続く第4回目のうねりが始まったときでもあった。

研究と報告

数学モデルによる精神的ストレス処理過程の解析

著者: 中西伸介 ,   山中康裕

ページ範囲:P.567 - P.573

抄録

 主な精神疾患はその発症過程で精神的ストレス(以下,ストレス)が一因とされている。しかし,同様のストレスがかかっても発症する,しないの個人差が存在し,その差は個人の持つストレス脆弱性,つまりストレス処理能力に起因すると考えられる。一方,近年ストレス測定技術が進歩しており,ストレスの数値化が可能になった。それに伴い,測定結果を解析,予測するための数学モデルの必要性が高まってきた。これを踏まえ,ストレス処理過程における数学モデルを作成し,ストレス処理過程のシミュレーションを試みた。その結果,ストレス処理能力の違いによりストレスの回復に差ができること,およびストレス処理能力の低下により,ストレスが残存することが予測できた。

地域における中学生への自殺予防対策の取り組み―愛媛県久万高原町メンタルヘルス実態調査

著者: 河邉憲太郎 ,   堀内史枝 ,   妹尾香苗 ,   近藤静香 ,   竹之内美希 ,   上野修一

ページ範囲:P.575 - P.584

抄録

 自殺に関する意識の高い愛媛県久万高原町において,若年者の自殺予防対策の一環として,中学生のメンタルヘルスの実態を明らかにすることを目的に,日本語版Profile of Mood States-Brief Formと日本版精神健康調査質問票を用いて調査を行った。町内全生徒220名から回答を得た。全体の傾向として,中学2,3年で精神的不調の訴えが多かったが,女子で特にその傾向が強かった。抑うつ感情は中学2,3年の女子が男子に比し有意に高く,自殺しようと考えたことがあると回答した生徒は男子9名,女子12名で計21名(9.5%)であった。自殺予防の観点から,特に中学2,3年女子に一定の配慮が必要であると思われた。今後,縦断的な自殺対策活動と支援体制の確立が必要である。

短報

糖尿病入院治療中の減塩食によりlithium中毒を発症した双極性障害の1例

著者: 塩飽裕紀 ,   光定博生 ,   武田充弘 ,   車地暁生 ,   西川徹

ページ範囲:P.585 - P.589

はじめに

 Lithiumは双極性障害をはじめ,多くの精神疾患に使用される薬物である。Lithiumの血中濃度の治療域と中毒域は近接するため,投薬量の調整とともに,lithiumの血中濃度を上昇させる要因を認識することは重要である。減塩食がlithiumの血中濃度を上昇させることは古くから知られているが,具体的にどの程度の減塩食で,どの程度のリチウム中毒が起こり得るかはほとんど報告されていない。我々は,糖尿病内科入院中に塩分5.9g/日の減塩食でリチウム中毒を発症した症例を経験したので報告する。

Risperidoneからpaliperidoneへ切替え後,糖尿病が増悪した統合失調症の1症例

著者: 木村佳代 ,   武田龍一郎 ,   橘宣祥 ,   倉山茂樹 ,   石田康

ページ範囲:P.591 - P.594

抄録

 今回,risperidone(以下RIS)4mg/日からpaliperidone(以下PAL)12mg/日に切替え後に糖尿病が増悪した統合失調症の1症例を経験した。糖尿病増悪時の体重増加は軽度で,insulin療法を要した。PAL 3mg/日に減量後も4か月間はinsulin 11単位/日以上を要し,PALを中止してRIS 4mg/日を再開したところ,insulin必要量は減少し4か月後には不要となった。両薬剤の力価の差による影響も否定できないが,PALがinsulin必要量を増大させ,その回復が遷延した可能性が考えられた。RISとPALの糖代謝異常に関する詳細な検討が必要と考えた。

レベチラセタムの追加投与が著効した若年ミオクロニーてんかんの1例

著者: 石川俊介 ,   西本武史 ,   後藤嵩志 ,   升谷泰裕 ,   岡崎玲子 ,   小坂浩隆 ,   高橋哲也 ,   東間正人 ,   和田有司

ページ範囲:P.595 - P.600

抄録

 若年ミオクロニーてんかん(JME)は,バルプロ酸(VPA)による治療反応が良好とされる。今回,VPAでは発作コントロールが困難であった症例に対してレベチラセタム(LEV)の追加投与が有効であった1例を経験したので報告する。症例は,17歳,男性。全般性強直間代発作,ミオクロニー発作を認め当科初診し脳波所見も含めて,JMEと診断。VPA漸増したが発作コントロールに難渋した。入院後,LEVを追加したところ,臨床発作は消失し,脳波上も著明に改善した。加えて,睡眠覚醒リズムも是正されるなど,QOLも向上した。LEVの持つ効果・忍容性の高さからJMEの第1選択薬にもなり得る可能性が示唆された。

資料

精神科看護師がいだく入院患者の攻撃性への態度と対処手法への臨床姿勢の関連

著者: 野田寿恵 ,   佐藤真希子 ,   杉山直也 ,   吉浜文洋 ,   伊藤弘人

ページ範囲:P.601 - P.607

抄録

 精神科患者の示す攻撃性,およびそれに対処する抑制手法への看護師の臨床的な認識を,「攻撃に対する態度尺度」(ATAS)と「抑制手法への臨床姿勢質問票」(ACMQ)を用いて,全国23病院の看護師による回答646件(有効回答率82.9%)から検討した。ATASの因子分析から,攻撃性をよくないものと捉えるネガティブ因子と治療の契機など前向きに捉えるポジティブ因子が明らかにされた。次に,ACMQの精神科集中治療,身体拘束などの制限性の強い手法がネガティブ因子と,タイムアウトなどの制限性の低い手法がポジティブ因子と正の相関を示した。攻撃性を共感的・前向きに捉える看護師は制限性の低い手法を好む傾向があった。

呉医療センター小児科における心理療法士の役割―精神科と小児科との連携の模索

著者: 南花枝 ,   永嶋美幸 ,   田辺紗矢佳 ,   宮河真一郎 ,   竹林実

ページ範囲:P.609 - P.616

抄録

 小児の心理的問題へのサポートは重要な問題であるが,小児を対象とした精神科専門機関は限られている。そのため多くは,成人を対象とした精神科や小児科で対応することとなる。総合病院である当センターを小児が心理的問題で受診した際の対応と心理療法士の業務の概要を報告し,精神科と小児科が連携して小児の心理的問題の治療にあたった症例を報告した。連携の際に生じた問題点から,より適切な連携のためには両科の役割分担を明確にすること,互いの文化の違いを理解することが重要であると考えられた。また,心理療法士には,両科の橋渡しを行うことでよりよい連携を促す役割が求められていると考えられた。

紹介

韓国ソウルの3精神科施設を訪ねて―現代韓国の精神医療事情

著者: 森山成彬 ,   藤原洋子 ,   三箇栄司

ページ範囲:P.617 - P.624

抄録

 わが国にも縁の深い李鎬榮先生の案内で,小倉金曜会の会員8名が韓国の精神科領域3施設を訪れた。まず金成洙司祭によって創設された知的障害者が暮らす「江華わが村」,ついでトラウマに悩む患者を主にEMDRで治療する金崚基先生の精神科診療所,最後に訪れたソウルのサムソン病院では,精神科の他に院内の葬儀部門も見学した。あわせて韓国の精神科医療の歴史も略述した。

試論

病的ギャンブリングに対する治療目標は「断ギャンブル」しかないのか?―「嗜癖モデル」から「欲動モデル」へ

著者: 河本泰信 ,   佐藤拓

ページ範囲:P.625 - P.635

抄録

 「嗜癖モデル」の限界を踏まえ,病的ギャンブリングに対する「欲動モデル」を考案した。これはギャンブルコントロール障害を「ギャンブリングに対して複数の欲望(名誉欲,現実逃避欲,金銭欲など)の充足を期待したことによる戦略の破綻」と考えたモデルであり,適切な欲望充足法の探索が主たる初期介入である。そしてこのモデルに基づき介入した19例に関してその特徴と介入後3か月間の転帰を報告した。この介入法は羞恥心や否認などの回復阻害因子を生じさせることなく,回復動機を高めるものであった。また介入時の断ギャンブル動機の強弱と転帰との関連性はみられなかった。以上を踏まえて治療戦略を提案した。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

偽神経症性統合失調症

著者: 中安信夫

ページ範囲:P.636 - P.638

原典紹介:統合失調症の1亜型

 Hoch PHらは1949年に「偽神経症型の統合失調症」1)を,次いで10年後の1959年に「偽神経症性統合失調症の診断」2)を,さらに1962年には「偽神経症性統合失調症の経過と転帰」3)という論文を発表した。これらのうち,第1論文はその概念を提唱した,原典中の原典であり,第2論文は診断を,第3論文は経過と転帰を論じたものである。

 この偽神経症性統合失調症は,その当時統合失調症と神経症の境界に位置するものとされていた境界例borderline caseの中からある一群を,その名称にあるように表面的には神経症の形をとっているがその実,統合失調症の1亜型であるとして取り出し,提唱されたものである。統合失調症であるとの根拠を確実にすべく,第2論文ではE Bleulerの基本症状に沿う形で思考と連想の障害,情動制御の障害,感覚運動機能の障害と自律神経機能の障害が1次臨床症状として挙げられ,また統合失調症であることを実証すべく,第3論文では109症例の5~20年の追跡調査において20%の患者が短期間の精神病的エピソード(小精神病micro-psychosis)を示し,かつそのうちの半数が定型的な慢性統合失調症に陥ったことが述べられている。上記のように疾患論的には統合失調症であり,また診断に際しては統合失調症の基本機制すなわち1次臨床症状の存在を明らかにすることが必要とされているものの,Hochらが「診断学的に最も重要な症状は,筆者らが汎不安,汎神経症と呼んでいるものである」と述べて診断上最も重視したのは,第2論文では2次臨床症状とされている汎不安pan-anxietyと汎神経症pan-neurosisである。以下,この2種の症状についてのHochらの原記載を第1論文から引用する(訳文は清水1)による)。

「精神医学」への手紙

アメリカ児童精神科医療の一端にふれて―ジョンズホプキンス大学附属病院

著者: 高柳みずほ

ページ範囲:P.640 - P.642

はじめに

 2012年から2013年にかけ計5か月間,ジョンズホプキンス大学(Johns Hopkins University)附属病院の児童精神科とケネディークリーガー研究所(Kennedy Krieger Institute)でオブザーバーとして臨床見学をする機会を得ました。限られた体験からではありますが,米国の児童精神科の一端をご紹介できればと考え筆を執りました。

 ジョンズホプキンス大学は,アメリカ合衆国の東海岸メリーランド州ボルチモアにある総合大学で,附属病院は1889年に創立されました。過去20年以上にわたり全米病院ランキングの1位を(新病院開設のためにいくつかの課題で評価を下げた2012年の2位を除いて)常に維持している全米トップの病院です。

 精神科はその正式名称を精神行動科学(The Department of Psychiatry and Behavioral Science)とし,精神生物学説を唱え米国精神医学の祖として有名なAdolf Meyerを初代教授に迎え1913年に開かれました。その中の児童精神医学部門はLeo Kannerを初代教授として1930年に開講されました。Kannerもまた米国児童精神医学の父と呼ばれ,早期幼児自閉症の研究は日本でもよく知られているところです。

書評

村井俊哉 著―精神医学の実在と虚構

著者: 加藤忠史

ページ範囲:P.644 - P.644

 その内容のみならず,構成の斬新さにも驚かされる,大変興味深い書物である。

 村井俊哉氏は,ここで紹介するまでもなく,京都大学精神医学教室の教授として,精神医学の中でも中心的存在として活躍され,論文だけでなく,多くの著書や訳書も出版されている。中でも,最近のナシア・ガミー氏の『現代精神医学原論』,『現代精神医学のゆくえ―バイオサイコソーシャル折衷主義からの脱却』の翻訳は,大きなインパクトを与えた。

神庭重信 編―私の臨床精神医学―九大精神科講演録

著者: 山下格

ページ範囲:P.645 - P.645

 本書の“私”は,稲永和豊,前田重治,西園昌久,神田橋條治,村田豊久,内村英幸,三山吉夫,山上敏子,牛島定信,田代信維,前田久雄,森山成#0495005;(帚木蓬生),神庭重信,池田数好の諸先生である。みな誰もが知る,わが国の精神医学界を代表する方々である。

 講演内容に一言ずつふれると,精神薬理と創薬,精神分析と芸能に通ずるもの,精神分析と精神医学教育,双極性障害と発達障害の直観的な診断と治療,子どものうつ病と症状評価スケール,森田療法の基本と適用拡大,高齢者のうつ病と認知症,摂食障害の行動療法実践例,社会の構造変遷とパーソナリティ障害,マズロー理論と精神病理,統合失調症者の表情認知と脳内反応,精神科医と作家・良い文章の書き方,ストレスと情動の神経生理と免疫機能,森田療法の特徴と発展,と言えようか。

学会告知板

日本精神病理学会第37回大会

ページ範囲:P.600 - P.600

会 期 2014年10月4日(土),5日(日)

会 場 東京藝術大学(東京都台東区上野公園12-8)

第7回(2014年度)関西森田療法セミナー(入門コース)

ページ範囲:P.638 - P.638

会 期 2014年9月~2015年2月(全6回)日曜日 10:00~12:00

会 場 大阪産業創造館 他大阪市内の会場(予定)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.584 - P.584

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.643 - P.643

次号予告

ページ範囲:P.646 - P.646

投稿規定

ページ範囲:P.647 - P.648

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.649 - P.649

編集後記

著者:

ページ範囲:P.650 - P.650

 今月号も多岐にわたる精神医学・医療の研究論文がバランス良く並んだ。今月号では特に私自身が査読させていただいた論文がいくつもあった。なんだか懐かしく印刷された文章を読みつつ,初稿を思い出して「かなり腕を上げられましたね」という思いも抱いた。査読と改訂の行き来の中では,査読者が元気ならぬ新知識や新たな着想法をもらっているという気持ちになる。

 ところで大学病院精神科に勤務するとその所在地県の地域精神医療に関してさまざまな活動に参加することになる。医療はともかく福祉,保健という必ずしも得意ではない事柄にも関与するが,なんとなく馴染まない感じがして,このことがいつも不全感になっていた。それだけに本誌の巻頭言を面白く拝読させていただいた。福田祐典先生のこの記述は,医療者として,行政官として,そして研究所の責任者として多眼的な視座から今後の精神医療の課題についてどう臨むかについての意思表示である。キーワードは,「多機能垂直統合型」であり「適切な医療を提供できるビジネスモデル」である。そしてテイクホームメッセージは,「同一の法人が地域に責任を持つ」にある。その理念と具体的戦略にバランスの優れたお考えが読み取れる。これを拝読して私の不全感の一原因が,「政策医療」という発想の乏しさに起因するのではないかと思った。今後の卒前と卒後教育において心すべき点だろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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