icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学56巻7号

2014年07月発行

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

偽神経症性統合失調症

著者: 中安信夫1

所属機関: 1医療法人原会原病院

ページ範囲:P.636 - P.638

文献購入ページに移動
原典紹介:統合失調症の1亜型

 Hoch PHらは1949年に「偽神経症型の統合失調症」1)を,次いで10年後の1959年に「偽神経症性統合失調症の診断」2)を,さらに1962年には「偽神経症性統合失調症の経過と転帰」3)という論文を発表した。これらのうち,第1論文はその概念を提唱した,原典中の原典であり,第2論文は診断を,第3論文は経過と転帰を論じたものである。

 この偽神経症性統合失調症は,その当時統合失調症と神経症の境界に位置するものとされていた境界例borderline caseの中からある一群を,その名称にあるように表面的には神経症の形をとっているがその実,統合失調症の1亜型であるとして取り出し,提唱されたものである。統合失調症であるとの根拠を確実にすべく,第2論文ではE Bleulerの基本症状に沿う形で思考と連想の障害,情動制御の障害,感覚運動機能の障害と自律神経機能の障害が1次臨床症状として挙げられ,また統合失調症であることを実証すべく,第3論文では109症例の5~20年の追跡調査において20%の患者が短期間の精神病的エピソード(小精神病micro-psychosis)を示し,かつそのうちの半数が定型的な慢性統合失調症に陥ったことが述べられている。上記のように疾患論的には統合失調症であり,また診断に際しては統合失調症の基本機制すなわち1次臨床症状の存在を明らかにすることが必要とされているものの,Hochらが「診断学的に最も重要な症状は,筆者らが汎不安,汎神経症と呼んでいるものである」と述べて診断上最も重視したのは,第2論文では2次臨床症状とされている汎不安pan-anxietyと汎神経症pan-neurosisである。以下,この2種の症状についてのHochらの原記載を第1論文から引用する(訳文は清水1)による)。

参考文献

1) Hoch PH, Polatin P:Pseudoneurotic forms of schizophrenia. Psychiat Quart 23:248-276, 1949(清水將之訳:偽神経症型の分裂病.思春期青年期精神医学1:197-216, 1991)
2) Hoch PH, Cattell JP:The diagnosis of pseudoneurotic schizophrenia. Psychiat Quart 33:17-43, 1959
3) Hoch PH, Cattell JP, Strahl MO, et al:The course and outcome of pseudoneurotic schizophrenia. Am J Psychiatry 118:106-115, 1962
4) 中安信夫,関由賀子:自己危急反応の症状スペクトラム―運動暴発,擬死反射,転換症,解離症,離人症の統合的理解.精神科治療学10:143-148, 1995
5) 中安信夫:解離症の症候学―精神危急時における〈葛藤主体の隠蔽〉の諸相.中谷陽二編:精神医学レビュー22―解離性障害.ライフ・サイエンス,pp22-31, 1997
6) 中安信夫:統合失調症の顕在発症に抗する防御症状―症状布置を把握するための一視点.精神科治療学26:483-498, 2011
7) 関由賀子:初期.中安信夫編:統合失調症とその関連病態 ベッドサイド・プラクティス.星和書店,pp35-104, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?