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雑誌詳細

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

神経症性うつ病

著者: 津田均1

所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科精神健康医学

ページ範囲:P.724 - P.726

抑うつの基盤の多彩さ

 神経症性うつ病の概念を説明するためには,いくつかの前提を確認しなければならない。まず,症状としての「抑うつ」は疾患非特異的であり,ほとんどあらゆる病態に出現する可能性があるということを押えておく。次に,その抑うつに向かう気分の変動にも,心的葛藤のからまりが基盤にあると推測されるものと,内因的,あるいは器質因的な基盤が想定されるものがあるということを確認しておく。後者は,従来の内因性うつ病のみではない。自閉症スペクトラムから統合失調症,さまざまな器質疾患に伴うものに抑うつへの気分変動が生じ得る。また,後者の経過の中に,それに重畳するように,心因的な抑うつが現れることもあり得る。

 したがって「抑うつ」自体の基盤はきわめて多彩であるが,その中で主に比較対照されるのが,神経症性うつ病と内因性うつ病である。この2つが分離され得るものであるかどうかは現在でも論争点となっていて,決着はついていない。DSMのような操作診断は,この2つの概念を分離することには実証的根拠がないことを主張して出来上がっているが,これには常に国際的に反論が上がっている。なお,神経症性うつ病が心的レベルで生じるといっても,それは,神経症的な心的葛藤がからんで生じてくる抑うつを指すと考えるべきであって,単なるライフイヴェントに対する一過性の抑うつは,反応性抑うつと診断すべきであろう。

参考文献

1) Gebsattel VE:Prolegomena einer Medizinischen Anthropologie. Springer, Berlin, 1954
2) Ghaemi N:Why andidepressants are not antidepressants:STEP-BD. STAR*D, and the return of neurotic depression. Bipolar Disord 10:957-968, 2008
3) 笠原嘉,木村敏:うつ状態の臨床的分類に関する研究.精神経誌77:715-735, 1975
4) 木村敏:躁と欝.木村敏著作集3.弘文堂,pp113-164, 2001
5) McCullough JP:Treatment for Chronic Depression:Cognitive Behavioral Analysis System of Psychotherapy(CBASP). Guilford Press, New York, 2000(古川壽亮,大野裕,岡本泰昌他訳:慢性うつ病の精神療法―CBASPの理論と技法.医学書院,2005)
6) 小川豊昭,伊藤容子:慢性化する抑うつの背後に潜む人格の病理―ナルシスティック・デプレッションとスキゾイド・デプレッション.精神経誌106:999-1004, 2004
7) 津田均:気分障害は今.誠信書房,2014
8) 内海健:双極Ⅱ型障害という病.勉誠出版,2013

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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