ミニレビュー
摂食障害の転帰調査に関する研究—日本と欧米との比較
著者:
中井義勝
,
任和子
,
野間俊一
,
浜垣誠司
,
高木隆郎
ページ範囲:P.881 - P.886
はじめに
摂食障害の転帰に関する研究は,欧米では数多くの原著3,7,10)や総説4,6,8,19)がある。転帰調査の研究で重要な課題のひとつに転帰の判定基準4,6,10)がある。神経性食欲不振症anorexia nervosa(AN)の制限型(AN-R)が治療対象の中心であった1970年代には,MorganとRussellの転帰判定基準10)がよく用いられた。評価項目は身体面,心理面,社会面と多岐にわたっていたが,実際の判定には体重減少率と月経の回復,すなわち身体面の回復が用いられた。
1980年代後半から,ANのむちゃ食い/排出型(AN-BP)や,神経性大食症bulimia nervosa(BN)の患者数が増えてくると,食行動異常の回復を評価項目とする転帰判定基準が提唱された11,17,18)。その後,肥満恐怖や身体イメージ障害など心理面の異常の回復も評価項目に取り上げられた4,7,18)。1993年Herzogら7)は,ANとBNに共通した転帰判定基準を提唱し,今日でもよく用いられている。一方,2002年Kordyら9)は,回復した状態をどれくらいの期間維持できているかが,転帰の判定には重要であると指摘した。最近では,摂食障害の転帰判定に,学校や職場での社会活動,対人関係,家族関係など社会面での評価も重要であることが指摘されるようになっている3,20)。
欧米に比し日本における摂食障害の転帰調査の報告はきわめて少ない。1985年Suematsuら21)は,ANの転帰調査結果を報告したが,転帰の判定基準は明確でなく,判定は主治医が独自の基準で行った。その後も日本では,ANの転帰調査がいくつか報告されているが,判定基準は,Ratnasuriyaらの転帰判定基準17)など,身体面と食行動異常の回復が用いられている22,23)。一方,わが国ではBNや特定不能の摂食障害eating disorder not otherwise specified(EDNOS)の転帰調査の報告はなかった。
筆者らは,厚生省精神・神経疾患研究委託費「摂食障害の治療状況・予後等に関する調査研究班」(主任研究者:石川俊男)の予後調査グループで作成した転帰調査表に基づいて,ANのみならずBNやEDNOSを含めた摂食障害の転帰調査結果を報告してきた13,14)。この転帰調査表は,身体面,食行動,心理面のみでなく,社会面の評価も行える。そこで,この転帰調査表を欧米の先行研究10)に習って点数化した。その上で,社会面に焦点をおいた摂食障害の転帰について検討し,European Eating Disorders Reviewに発表した15)。そこで,筆者の発表した論文をもとに摂食障害の転帰の判定基準について考察したので報告する。
なお,転帰に関する用語をKordyら9)は次のように整理している。Recovery回復とは完全に無症状の続いている期間がX日以上で,full remission完全寛解とは無症状の続いている期間がY日以上Z日以下,partial remission部分寛解とは症状が部分的に残っている期間をいう。再発には英語では2つの意味があり,relapseは寛解の期間中に全症状が再発することで再燃と訳される。一方,recurrenceは回復の後,病気のエピソードが新たに出現することである。