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雑誌目次

雑誌文献

精神医学57巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

巻頭言

大学でのResearchとCommon sense

著者: 𠮷村玲児

ページ範囲:P.896 - P.897

 Universityはラテン語のuniversitas(全体・宇宙・世界)が語源である。uni=1つに,vursus=向きを変えた,転じて1つの目的を持った共同体という意味である。医学部の場合は医学(基礎医学および臨床医学)を行う目的を持った共同体ということになろう。しかし,昨今の臨床偏重主義の弊害も影響し,近年の若い医師のリサーチへのモチベーションの低下が臨床医学を支える基礎医学の質の低下を招いている。専門医になることや高度な手技を身に付けることばかりに関心が行き(これも確かに重要なことであるが),じっくりと科学と向き合うことに魅力を感じない医師が増えていると感じるのは単に私の杞憂であろうか。この原因は医学部学生や医学部出身者の意識の問題のみに帰結できない。医学部の6年間は,医師国家試験合格が当面の課題であり,そのための勉強に忙しく,研究に関する勉強まで手が回らないのが実状である。研修医になってからも,臨床現場の対応に追われ,若手医師が研究に携わる十分な余裕はない。たとえ基礎研究医を目指しても,ポストは限定されており,待遇も満足とはいえないことも問題である。
 しかし,基礎研究の充実なくして医学・医療の高度化の実現はない。国もこの事態に対応すべく,基礎研究者の増加を促進しようという方針を打ち出した。文部科学省では「基礎・臨床を両輪としたグローバルな医師養成推進委員会」を設置し,2012年4月に,大学改革推進等補助金による助成を行う22件のプログラムを選定したが,そのうち10件は,「医学・医療の高度化の基盤を担う基礎研究医の養成」を目指すプログラムである。

研究と報告

新聞報道におけるいじめと自殺の関係—「大津いじめ自殺」事件記事の時系列内容分析

著者: 岡本雄太 ,   太刀川弘和 ,   相羽美幸 ,   志賀弘幸 ,   朝田隆

ページ範囲:P.899 - P.907

抄録
 「いじめ自殺」報道の特徴と影響を検討するため,大津いじめ自殺事件報道の時系列内容分析を行った。新聞データベースより抽出した報道記事362件を対象とし,作成基準で記事を評価し時期ごとに分類・比較した。また本件報道と自殺者数・いじめ認知件数の関連を検討した。その結果,報道過熱時はいじめの手段・場所が自殺よりも詳細に報じられていた。報道過熱年の未成年自殺者は前年とほぼ同数であった一方,同年のいじめ認知件数は前年比2.8倍に急増した。「いじめ自殺」の事件報道では,いじめの詳細が強調され,報道による群発自殺増加(ウェルテル効果)よりも,事件の責任者追及(スケープゴーティング現象)が顕著に観察されることが分かった。

メンタルヘルスリテラシー10年後研究—インターネット調査を活用した検討

著者: 吉岡久美子 ,   中根允文

ページ範囲:P.909 - P.917

抄録
 本研究では,「精神保健の知識と理解に関する日豪共同研究」(平成15-17年度厚生労働省科学研究費)の10年後調査を実施し,その結果についてオリジナル研究と比較検討することを目的とした。方法として,インターネット調査を活用した。主な結果として,今回の調査では(1)うつ病仮想事例・統合失調症仮想事例とも,5割前後の回答者が事例を適切に認識していた。(2)支援の有用性について,親友や家族などインフォーマルな支援については5割前後であった,(3)精神疾患になりやすいと考えられる背景要因について,神経質な人であるとか個人的に弱点があるといった個人に帰する要因は,5割程であった。今後もこうした検証を引き続き行いながら,メンタルヘルスリテラシーの観点から,社会全体でメンタルヘルスの維持・増進に取り組むための普及啓発活動のさらなる充実について,検討を重ねたい。

成人高機能自閉症スペクトラム障害におけるWechsler式知能検査と自閉症スペクトラム指数との関連

著者: 武田知也 ,   住谷さつき ,   濱谷沙世 ,   横瀬洋輔 ,   四方めぐみ ,   大森哲郎

ページ範囲:P.919 - P.926

抄録
 知能水準が平均域の成人自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder;ASD)患者30人を対象に,Wechsler式知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale Ⅲ;WAIS-Ⅲ)と自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient;AQ)の関連を検討した。ASD患者のWAIS-Ⅲでは言語に関する認知機能が他の認知機能に比べて高かった。さらにWAIS-Ⅲの動作性IQや絵画配列とAQの注意の切り替えやコミュニケーションの間に正の相関がみられた。すなわち予想されるのとは逆に,動作性IQや絵画配列の能力が高いほど主観的には困難を強く自覚していることが示唆された。ASD診断の補助ツールとして臨床でよく用いられるWAIS-ⅢとAQの結果は慎重に解釈されるべきである。

資料

情緒不安定性パーソナリティ障害境界型患者の入院治療の特徴—症例対照研究

著者: 林直樹 ,   今井淳司

ページ範囲:P.927 - P.934

抄録
 ICD-10の情緒不安定性パーソナリティ障害境界型(emotionally unstable personality disorder, borderline type;EUPDBT),もしくはDSM-Ⅲ,Ⅳ,5の境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder;BPD)は,精神科入院の事由となる問題行動を生じることの多い精神障害である。本研究では,診療録の調査に基づいて,退院時にEUPDBTもしくはBPDと診断された入院患者57人(EUPDBT-BPD患者)と,その症例それぞれに年齢と性別が同じで最も退院日が近接している非パーソナリティ障害患者(対照患者)とを比較することによって,EUPDBT-BPD患者の入院治療の特徴を明らかにすることを試みた。両患者群の比較では,条件付きロジスティック回帰分析などを用いた。その結果は,EUPDBT-BPD患者では対照患者と比べて自殺関連行動や衝動行為が入院前に多いこと,入院日数が少ないこと,入院中の家族の治療協力が少ないこと,退院後の衝動行為が多いことなどであった。また,退院後の治療・援助の構成,退院1年後の治療状況,退院後1年間の経過中の問題行動・事象,生活機能,通院定期性の変化・改善には両群の相違が認められなかった。これらの特徴から,入院治療の課題は,家族協力の意義の検討や退院後の問題行動の再発防止であると考えることができる。これらのEUPDBT-BPDの入院治療の特徴は,わが国におけるBPD患者の治療方針の策定や治療プログラムの開発を進める際に考慮されるべきものである。

ミニレビュー

精神疾患におけるバイオマーカー研究—毛根細胞を用いた例

著者: 前川素子 ,   吉川武男

ページ範囲:P.935 - P.942

抄録
 精神疾患のバイオマーカー探索の新たな生体試料として,発生学的に脳の細胞と同じ外胚葉由来である頭皮の毛根細胞に着目し,解析を行った。その結果,脳だけで発現していると考えられていた遺伝子の多くが毛根細胞でも発現していること,統合失調症患者の毛根細胞では脂肪酸結合タンパク質(FABP)の1つをコードするFABP4遺伝子の発現量が約40%低下していること,FABP4遺伝子の発現量低下は,年齢や性別,服薬,罹病期間などに影響されないことが判明した。また,成人の自閉症スペクトラム症の毛根細胞では,神経系の細胞同士の結合に関与するCNTNAP2遺伝子の発現が低下していることを見出した。

シンポジウム 家族と当事者からみた精神科医療・精神医学

都医学研シンポジウム掲載にあたって

著者: 糸川昌成

ページ範囲:P.943 - P.944

 疾病を感染症や外傷のような急性疾患と,がんや精神疾患のような慢性疾患に分けると,前者では病因が外来的に規定されることが多い1)。たとえば,感染症における病原体の侵入や,交通外傷における物理的破砕力は「外」からの影響と考えられる。一方,がんは臓器の一部細胞の無限増殖が原因であり,また精神疾患では体質に環境因子からの影響が加わって生じるなど,後者では病因の内在性が高まる。したがって,前者の治療は後者のそれより,当事者の意向が生かされる要因は小さく,たとえば抗生物質の選択や外傷処置などは標準化・マニュアル化されやすい。それに対して後者では,がん治療における手術・抗がん剤・放射線の選択・組み合わせ,部分切除か全摘出かなどを決める際,当事者の意思は大きな要因となる。したがって,標準的治療はあっても,個別化が望まれる。
 かつては,当事者の決定権を小さく見積もる,いわゆる専門家がパターナリスティックに患者へ告げる医療が主流だった。1980年代になると,慢性疾患の治療において長期のQOLに影響する治療方針を選択する際,当事者の決定権を重要視する流れが世界的に広まった。たとえば,米国では,1986年に全米がん経験者連合(National Coalition for Cancer Survivorship;NCCS)が発足し,1995に米国がん経験者学会が開催された。1998年には米国がん研究所(National Cancer Institute;NCI)内に,がん生存者室(Office of Cancer Survivorship)が設置された。

家族・当事者・精神科医の「トライアスロン」をやって,思うこと

著者: 夏苅郁子

ページ範囲:P.945 - P.953

はじめに
 表題の「トライアスロン」は,「かめちゃん」というニックネームの統合失調症当事者の方から「夏苅さんは,家族・当事者・精神科医のトライアスロンをやってきたのですね」と言われたことに由来する。確かに本物のトライアスロンのように,家族としても当事者としても,そして医師としても私にとっては迷いの多い苦しい道のりだった。
 津田ホールの会場に立つのは,2012年の「みんなねっと」フォーラム以来である。当時の私は,母が統合失調症であったこと・自身も精神科に通院していた当事者でもあったことを前年に公表したばかりだった。公表は,さしたる決意や信念があったわけではない。漫画家の中村ユキさんが書いた『わが家の母はビョーキです』3)を読んで,居てもたってもいられなくなったのだ。
 それまで私の中で澱のように沈殿していた「隠している」ことへの罪悪感・精神科医でありながら抱えていた病気への嫌悪感や偏見が,この本を読んだことで一気に表に現れ出てしまった。「本を読む前には,もう戻れない」半ば悲壮とも言える覚悟を持って,私は中村ユキさんに会いに行った。
 後日,中村さんから「初めて会った時あまりに夏苅さんが弱々しいので,私は遠慮して大人しくしていたのよ」と打ち明けられた。「まだ病気について受容できていない人にいろいろ言っても,辛くさせるだけだからね」と言われ,彼女から気遣ってもらっていたのを知った。その時の私は精神科医になって30年以上経っていたが,そんな臨床経験よりも中村さんの受容する力のほうが強かったのだ。逃げずに(逃げることもできずに)母親と38年間共に暮らした歳月が,彼女の強い気持ちを作ったのだと思う。
 トライアスロンであることを認識して再び津田ホールのステージに立った私は,2年前とは家族・当事者としても精神科医としても考え方が大きく変わっていた。本稿では,その変化について述べてみたい。

家族としての体験から学んだことと,精神医療保健福祉に望むこと

著者: 中村ユキ

ページ範囲:P.955 - P.962

はじめに
 母が2013年9月8日に63歳で亡くなりました2)。その時のことについては,後半でお話したいと思います。
 糸川先生,夏苅先生とは,統合失調症の母親を持つ「子ども」という繋がりで交流があり,お2人の話から気付かされたり,考えさせられることが多いのですが,夏苅先生の御著書『心病む母が遺してくれたもの』5)の中で「30年前の“私”との再会」という内容があり,そこにはしょんぼりと座っている30年前の私に「大丈夫! 今はつらいだろうけれど,きっと“人生って素晴らしい”って思えるときがくるから頑張れ!」と夏苅先生が過去の自分に声をかける描写が記されていました。それを読み,ふと疑問が沸きました。自分だったら,どのタイミングでどんなことを伝えるだろう? と。そこで昔のことを想い出しながら考えてみました。

当事者として自己を見つめる。そして仲間の存在

著者: 松本ハウス

ページ範囲:P.963 - P.971

はじめに
 お笑い芸人・ハウス加賀谷は,自らが統合失調症であることをカミングアウト,現在も芸能の世界で活動を続けている。私は,加賀谷とお笑いコンビ『松本ハウス』を結成し,24年という歳月を仲間としてともに歩んできた2)
 今回は,加賀谷の発症から現在に至るまでを,私たちの歩みと照らし合わせながら記していく。私たちが経験し感じてきたことが,何かの役に立てば幸いである。

精神科医として,科学者として,子どもとして

著者: 糸川昌成

ページ範囲:P.973 - P.980

精神疾患のゲノム研究
 精神疾患のゲノム研究は,神経疾患研究を成功モデルとして踏襲した。すなわち,Huntington舞踏病など神経疾患の臨床所見が責任遺伝子の配列変化に還元できたのだから,精神疾患のさまざまな状態像も遺伝子配列で説明できるはずだと考えたのである。統合失調症で初めての連鎖解析は,1988年にLondon大学のRobin SherringtonらによってNatureに発表された11)。彼らは,英国とアイスランドの7つの多発家系を用いて,5番染色体長腕に疾患と連鎖する2つのDNAマーカー(配列の個人差)を同定した。ところが,2003年までに報告された統合失調症の連鎖研究では,報告者によって連鎖領域(疾患と関連する染色体の部位)が食い違い,それらはほぼすべての染色体に広がり19か所にもわたったため,原因遺伝子を絞り込むことができなかった。
 そこで,連鎖研究と並行して,候補遺伝子の関連研究も取り組まれた。筆者らも,ドパミン仮説に基づいてドパミンD2受容体遺伝子を解析し,多型(遺伝子配列の個人差)を初めて同定し1994年に関連を報告した2)。以後2011年までに1,008遺伝子において8,788多型が報告され,287のメタ解析が行われた。しかし,ほとんどの遺伝子多型で関連のオッズ比は1.5以下だったのである13)。統合失調症は,およそ100人に1人が罹患するとされている。これは,通行人を無作為に100人集めてくると1人は統合失調症の経験者という意味に等しい。オッズ比1.5とは,関連有りと報告された遺伝子多型を持った人ばかりを100人集めてくると,1.5人が当事者ということである。すなわち,遺伝子多型の発症への影響とは,わずか0.5人分の違いに過ぎなかったのである。

追悼

山下 格先生のご逝去を悼んで

著者: 三國雅彦

ページ範囲:P.982 - P.985

 北海道大学医学部精神医学教室第五代教授を務められた山下格名誉教授が2014年12月1日にご逝去されました。先生は本誌の編集委員を1985年から12年以上お務めになり,ご退任後も「継往開来」シリーズなどにたびたび玉稿をお寄せいただきました。「追悼文を精神医学に掲載するなんて,恥ずかしいから,いいよ」とおっしゃっておられるご尊顔とともに,お声が聞こえてくるようであり,奥様も同じことをおっしゃっておられました。何かあればいつでもご相談に乗っていただいた先生が亡くなられたと伝えられても,いつでもご相談できるような気がしていましたが,本年4月に札幌市中央区の閑静な住宅街にあるご自宅を弔問させていただき,ご遺影に接し,先生のご逝去を実感せざるを得ませんでした。先生は1929年(昭和4年)に札幌医大近くの官舎でお生まれになり,小学2年生からこのお宅で生活されたそうで,ご留学の2年間以外のご生涯の大半をこのお宅で過ごされて85歳のご生涯を閉じられました。北大精神科教授となられてからは,毎年正月に教室員をこのご自宅に招いてくださり,わたくしどもは,奥様やお母様の手料理のご接待をうけ,先生が国際学会やWHOの会議出席後に,海外で集めて来られた貴重なワインを堪能させていただいたものでありました。
 山下先生は旧制高等学校にあたる北大予科入学時から精神分析の本を愛読され,1953年3月に北大医学部医学科をご卒業になられ,精神科医となられた後にも,ご自身で教育分析を受けられ,精神分析や精神療法に関心の重心がおありであったと伺っております。しかし,諏訪望教授の伝統的ドイツ精神病理学を学ばれて,重心が次第に移動し,当時の北大精神医学教室(以下,北大教室)の研究のメインテーマであった情動の精神内分泌学的な研究に従事され,抗精神病薬や抗うつ薬療法が及ぼす自律神経・内分泌機能への影響についても研究されました。1963年からの2年間,Psychoendocrinology(Grune & Stratton, London, 1958)の著者である,ニューヨーク州立ウイローブルック神経内分泌研究所のM. Reiss先生のもとに留学されましたが,コロンビア大学の精神分析研究所などに通って精神療法の研鑽を積む生活もしておられました。これらのご経歴からも,伝統的な精神医学を守りながら精神分析のよいところを取り入れられる一方,最先端の生物学的精神医学に絶えず目を向け,その成果を心理教育として分かりやすく伝える診療を,生涯究めてこられた先生の学問的基盤を窺い知ることができるかと存じます。

書評

—野村総一郎,中村 純,青木省三,朝田 隆,水野雅文 シリーズ編集 中村 純 編——《精神科臨床エキスパート》—他科からの依頼患者の診方と対応

著者: 保坂隆

ページ範囲:P.981 - P.981

 本書は医学書院の『精神科臨床エキスパートシリーズ』の最新刊である。精神疾患は2011年にいわゆる「5大疾患」のひとつに捉えられ,社会の中での精神医学の重要性が改めて指摘され,高い医療水準が求められている中で,「教科書やガイドラインなどから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノウハウや情報を得るにはなかなか容易ではない」(精神科臨床エキスパートシリーズ「刊行にあたって」より)。
 そのような背景からこのエキスパートシリーズは生まれた。「読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい」と「刊行にあたって」に書かれている。そのため,本書も随所にこのような工夫が施されているように感じた。

—Barnhill JW 原書編集,髙橋三郎 監訳,塩入俊樹,市川直樹 訳—DSM-5®ケースファイル

著者: 寺尾岳

ページ範囲:P.986 - P.986

 この本は,コーネル大学医学部性精神科のBarnhill教授による『DSM-5®RClinical Cases』(2014)の日本語版である。岐阜大学大学院精神病理学分野の塩入俊樹教授や市川直樹先生など10数名の先生方が翻訳され,髙橋三郎先生が監訳をされた。
 この本を読み終わった時に,訳者の先生方の翻訳に対する情熱と惜しみないご尽力に感服した。それは本書には訳のぎこちなさも訳文の分かりにくさもほとんどないからである。そもそも原本で取り上げられた症例が素直な定型例ばかりではなく,そうでないものが結構含まれている。しかもそれぞれの症例は,診断を確定するためのすべての情報を含んでいるとは限らない。これらの変化球をなんとか,ストライクゾーンへ持っていく訳者の苦労は大変なものであったと推察する。それぞれの先生方は日常診療にお忙しい中で,相当な労力と時間を費やされたに違いない。それに加えて,訳者の心優しい配慮も随所にみられる。たとえば,マーサズ・ヴィニヤードや聖杯など,日本人になじみの薄い言葉にわかりやすい訳注が付けられている。以下に,読後感として印象に残ったことをいくつか挙げたい。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.907 - P.907

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.987 - P.987

次号予告

ページ範囲:P.988 - P.988

編集後記

著者:

ページ範囲:P.992 - P.992

 これを記している時季,東京でも朝夕は冷気が肌に触れるようになった。「夏は前からじわじわとやって来るが,秋は後から不意にやって来る」と毎年感じてはいたが,今年の夏は猛暑続きだっただけに,秋の訪れはことさら不意だったような気がする。読者諸賢はいかがであろうか。
 さて本号も,バイオマーカーから家族・当事者の思いと体験に至るまで多彩な内容になった。いじめ自殺をめぐる新聞報道に関するものもあり,まさにbio-psycho-socioが揃った。しかも,こうした内容に合わせたかのように,𠮷村玲児先生による巻頭言『大学でのResearchとCommon sense』があらためて精神科医の基本姿勢を説いていて,やや熱い湯で洗われたような感じがした。特に,主治医が時代の流れの中で自分の「立ち位置(患者さんを俯瞰する視点)を常に意識すべき」との指摘は大切であろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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