精神医学57巻11号

2015年11月発行

研究と報告

新聞報道におけるいじめと自殺の関係—「大津いじめ自殺」事件記事の時系列内容分析

著者： 岡本雄太¹ 太刀川弘和² 相羽美幸³ 志賀弘幸⁴ 朝田隆⁵

所属機関： ¹筑波大学医学群医学類 ²筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学 ³東洋学園大学人間科学部 ⁴日立渚会大原神経科病院 ⁵創治会メモリークリニックお茶の水

ページ範囲：P.899 - P.907

抄録
　「いじめ自殺」報道の特徴と影響を検討するため，大津いじめ自殺事件報道の時系列内容分析を行った。新聞データベースより抽出した報道記事362件を対象とし，作成基準で記事を評価し時期ごとに分類・比較した。また本件報道と自殺者数・いじめ認知件数の関連を検討した。その結果，報道過熱時はいじめの手段・場所が自殺よりも詳細に報じられていた。報道過熱年の未成年自殺者は前年とほぼ同数であった一方，同年のいじめ認知件数は前年比2.8倍に急増した。「いじめ自殺」の事件報道では，いじめの詳細が強調され，報道による群発自殺増加（ウェルテル効果）よりも，事件の責任者追及（スケープゴーティング現象）が顕著に観察されることが分かった。

参考文献

1) 朝日新聞社：聞蔵Ⅱビジュアル　朝日新聞記事データベース．(https://database.asahi.com/library2/)

2) Chen YY, Chen F, Gunnell D, et al：The impact of media reporting on the emergence of charcoal burning suicide in Taiwan. PLoS One 8：e55000, 2013

3) Chatfield C：The Analysis of Time Series：An Introduction, 6th Ed. CRC Press, Boca Raton, 2013

4) 伊藤茂樹：「子どもの自殺」の社会学—「いじめ自殺」はどう語られてきたのか．青土社，2014

5) Ju JN, Young LW, Seok NM, et al：The impact of indiscriminate media coverage of a celebrity suicide on a society with a high suicide rate：Epidemiological findings on copycat suicides from South Korea. J Affect Disord 156：56-61, 2014

6) 北澤毅，間山広朗，稲葉浩一，他：いじめ問題の諸相(1)：「大津いじめ自殺」事件にみる「社会問題」の構築．日本教育社会学会大会発表要旨集録：pp28-31, 2013

7) 北澤毅，間山広朗，稲葉浩一，他：いじめ問題の諸相(2)：「大津いじめ自殺」事件のテレビ番組分析の可能性．日本教育社会学会大会発表要旨集録：pp276-279, 2013

8) 釘原直樹：スケープゴーティング現象の定義とメカニズム．対人社会心理学研究14：1-15, 2014

9) 共同通信大阪社会部：大津中2いじめ自殺：学校はなぜ目を背けたのか．PHP研究所，2013

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11) 文部科学省初等中等教育局児童生徒課：児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査．(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm)

12) 長尾英彦：いじめ問題に関する覚書．中京法学 48：223-245, 2014

13) 内閣府：自殺の統計．(http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/toukei/)

14) 中塚健一：いわゆる「いじめ自殺」といじめ問題の論点区分の試み—いじめ自殺対策といじめ対策の基礎づけ．太成学院大学紀要 16：195-202, 2014

15) 日本経済新聞デジタルメディア：日経テレコン：データベース検索サービス．(http//t21.nikkei.co.jp/index.html)

16) Phillips DP：The influence of suggestion on suicide：Substantive and theoretical implications of the werther effect. Am Sociol Rev 39：340-354, 1974

17) 坂本真士，田中江里子，影山隆之：自殺の新聞報道の現状と問題点—「ネット自殺」以降の新聞報道の内容分析を通して．こころの健康 21：44-53, 2006

18) Sisask M, Värnik A：Media roles in suicide prevention：A systematic review. Int J Environ Res Public Health 9：123-138, 2012

19) 高橋祥友：自殺の心理学．講談社，1997

20) World Health Organization：Preventing suicide：A resource for media professionals. Geneva, 2008(河西千秋訳：自殺予防メディア関係者のための手引き：2008改訂版日本語版，2009)