文献詳細
資料
情緒不安定性パーソナリティ障害境界型患者の入院治療の特徴—症例対照研究
著者: 林直樹1 今井淳司2
所属機関: 1帝京大学医学部附属病院メンタルヘルス科 2都立松沢病院精神科
ページ範囲:P.927 - P.934
文献概要
ICD-10の情緒不安定性パーソナリティ障害境界型(emotionally unstable personality disorder, borderline type;EUPDBT),もしくはDSM-Ⅲ,Ⅳ,5の境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder;BPD)は,精神科入院の事由となる問題行動を生じることの多い精神障害である。本研究では,診療録の調査に基づいて,退院時にEUPDBTもしくはBPDと診断された入院患者57人(EUPDBT-BPD患者)と,その症例それぞれに年齢と性別が同じで最も退院日が近接している非パーソナリティ障害患者(対照患者)とを比較することによって,EUPDBT-BPD患者の入院治療の特徴を明らかにすることを試みた。両患者群の比較では,条件付きロジスティック回帰分析などを用いた。その結果は,EUPDBT-BPD患者では対照患者と比べて自殺関連行動や衝動行為が入院前に多いこと,入院日数が少ないこと,入院中の家族の治療協力が少ないこと,退院後の衝動行為が多いことなどであった。また,退院後の治療・援助の構成,退院1年後の治療状況,退院後1年間の経過中の問題行動・事象,生活機能,通院定期性の変化・改善には両群の相違が認められなかった。これらの特徴から,入院治療の課題は,家族協力の意義の検討や退院後の問題行動の再発防止であると考えることができる。これらのEUPDBT-BPDの入院治療の特徴は,わが国におけるBPD患者の治療方針の策定や治療プログラムの開発を進める際に考慮されるべきものである。
参考文献
掲載誌情報