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文献詳細

雑誌文献

精神医学57巻11号

2015年11月発行

文献概要

シンポジウム 家族と当事者からみた精神科医療・精神医学

精神科医として,科学者として,子どもとして

著者: 糸川昌成12

所属機関: 1東京都医学総合研究所病院等連携研究センター統合失調症プロジェクト 2都立松沢病院精神科

ページ範囲:P.973 - P.980

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精神疾患のゲノム研究
 精神疾患のゲノム研究は,神経疾患研究を成功モデルとして踏襲した。すなわち,Huntington舞踏病など神経疾患の臨床所見が責任遺伝子の配列変化に還元できたのだから,精神疾患のさまざまな状態像も遺伝子配列で説明できるはずだと考えたのである。統合失調症で初めての連鎖解析は,1988年にLondon大学のRobin SherringtonらによってNatureに発表された11)。彼らは,英国とアイスランドの7つの多発家系を用いて,5番染色体長腕に疾患と連鎖する2つのDNAマーカー(配列の個人差)を同定した。ところが,2003年までに報告された統合失調症の連鎖研究では,報告者によって連鎖領域(疾患と関連する染色体の部位)が食い違い,それらはほぼすべての染色体に広がり19か所にもわたったため,原因遺伝子を絞り込むことができなかった。
 そこで,連鎖研究と並行して,候補遺伝子の関連研究も取り組まれた。筆者らも,ドパミン仮説に基づいてドパミンD2受容体遺伝子を解析し,多型(遺伝子配列の個人差)を初めて同定し1994年に関連を報告した2)。以後2011年までに1,008遺伝子において8,788多型が報告され,287のメタ解析が行われた。しかし,ほとんどの遺伝子多型で関連のオッズ比は1.5以下だったのである13)。統合失調症は,およそ100人に1人が罹患するとされている。これは,通行人を無作為に100人集めてくると1人は統合失調症の経験者という意味に等しい。オッズ比1.5とは,関連有りと報告された遺伝子多型を持った人ばかりを100人集めてくると,1.5人が当事者ということである。すなわち,遺伝子多型の発症への影響とは,わずか0.5人分の違いに過ぎなかったのである。

参考文献

1) Arai M, Yuzawa H, Nohara I, et al:Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arch Gen Psychiatry 67:589-597, 2010
receptor molecular variant with schizophrenia. Lancet 343:703-704, 1994
3) 糸川昌成:科学者として,精神科医として,そして子供として.統合失調症のひろば 2:69-74, 2013
4) 兼本浩祐:心はどこまで脳なのだろうか.医学書院,2011
5) 北中淳子:ライフサイクルの精神医療化.現代思想 5:164-172, 2014
6) 古茶大樹,針間博彦:病の「種」と「類型」,「階層原則」.臨床精神病理 31:7-17, 2010
7) 中村ユキ:わが家の母はビョーキです.サンマーク出版,2008
8) 夏苅郁子:「人が回復する」ということについて—著者と中村ユキさんのレジリエンスの獲得を通しての検討.精神経誌 113:845-852, 2011
9) 夏苅郁子,糸川昌成,中村ユキ,他:母の物語を紡ぐ出会いの瞬間.統合失調症のひろば 5:90-112, 2015
10) 岡崎祐士:松沢病院最終講義.2012
11) Sherrington R, Brynjolfsson J, Petursson H, et al:Localization of a susceptibility locus for schizophrenia on chromosome 5. Nature 336:164-167, 1988
12) Stefansson H, Rujescu D, Cichon S, et al:Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia. Nature 455:232-236, 2008
13) SZGene(SchizophreniaGene)Field Synopsis of Genetic Association Studies in SZ. http://www.szgene.org/

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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