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雑誌目次

論文

精神医学57巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学と神経学の境界領域

著者: 川勝忍

ページ範囲:P.86 - P.87

 ここ数年,精神医学と神経学の境界領域にまたがる疾患が注目されるようになってきている。いくつかの例を挙げてみよう。脳炎と緊張病の鑑別は古くからの重要なテーマだが,2005年Dalmauらの抗NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体脳炎の抗体を発見したとの報告は画期的なものであった。筆者らも経験があるが,この疾患は思春期から20歳台の女性に多く,前駆期の精神症状は統合失調症と区別が難しい。しかも抗精神病薬を投与されてしまうと,その後の緊張病症状は悪性症候群とも区別が困難になる。身体管理を十分にしなければ死に至ることもあり得るが,それを過ぎれば予後は良好である。この疾患は昔言われた致死性緊張病に相当するものではないかと思われる。
 レビー小体型認知症は,昨年からドネペジルが保険適応になるとともに,MIBG心筋シンチグラフィに加えてドーパミントランスポーターによる核医学的診断が高い精度でできるようになってきた。以前は,幻視があるからとすぐにハロペリドールなどを投与されて悪化する例もよくみられたが,最近は少なくなっているようである。それでもレビー小体型認知症をアルツハイマー型認知症と診断して加療し,パーキンソン症状が出現した際に,抗コリン剤を投与して,幻視が悪化して紹介される例はまだみかける。より難しい問題としては,レビー小型型認知症では,前駆状態としてうつ病がみられ,途中から誤認や幻視などが明らかになる例も多い。いわゆる,うつ病性仮性認知症もレビー小体型認知症が多く含まれている可能性があり再検討が必要である。また,緩和ケアや一般科でも,レビー小体型認知症がせん妄として,ハロペリドールを投与され,悪性症候群に陥っているが見逃されている例もあり得るだろう。

展望

地域ケアの時代における精神疾患—早期発見・早期支援の課題と可能性

著者: 水野雅文 ,   鈴木道雄 ,   松本和紀 ,   中込和幸 ,   下寺信次 ,   盛本翼 ,   岸本年史 ,   川﨑康弘 ,   舩渡川智之 ,   根本隆洋 ,   藤井千代

ページ範囲:P.89 - P.103

はじめに
 わが国の精神科医療サービス体制は,これまでの入院中心型から地域ケア中心型へと大きく姿を変えつつある。その中で,重症化,慢性化させず,地域の中で社会包摂しながら支える早期介入の重要性が次第に認識されてきている。2014年11月に「To the New Horizon」をテーマに東京で開催された第9回国際早期精神病学会では,統合失調症モデルを脱し,双極性障害,不安障害なども含めたさまざまなより早期の病態研究と臨床実践の重要性,さらにその方法論が議論された。長期追跡研究などのエビデンスの蓄積により,早期介入の確かな有効性の検証を受けて,世界では,メンタルヘルス・プロモーションの地域における広がりに向けて,大きな力が注がれようとしている。
 一方,医療供給体制の違いや精神疾患に対するスティグマなど,早期介入体制の実現のために乗り越えるべき課題は多い。本稿では,わが国における精神疾患の早期発見・早期支援体制の確立に向けて,まずはこれまでの中心的課題であった統合失調症とその閾値下の状態に関する概念整理と治療方針についての検証を行う。さらに早期介入に必要な新たなサービス体制,医療経済効果,学校教育,またそれらに必要な準備について海外の成功例も参考としながら検討を加え,これからの精神科領域における早期介入の可能性を探る。
 (水野雅文)

危険ドラッグをめぐる諸問題

著者: 谷渕由布子 ,   松本俊彦

ページ範囲:P.105 - P.117

はじめに
 最近数年のうちに,薬物乱用・依存の領域に新たな現象が起きている。元来,薬物乱用・依存の問題といえば,覚せい剤や大麻などの違法薬物が代表的であったが,最近では,違法ではない,あるいは違法性の不明瞭な薬物の問題が深刻である。その中には,すでに睡眠薬・抗不安薬や鎮痛薬などの医療機関で処方される薬剤,あるいは市販の鎮咳薬・感冒薬といったものがあるが,特に深刻な社会問題を引き起こしているものが,本稿の主題である「危険ドラッグ」である。
 危険ドラッグとは,既存の規制薬物の化学構造式を一部変更することで法規制を回避した薬物の総称であり,規制薬物と同様に,高揚感や多幸感などの効果,あるいは中毒症状や依存性といった有害性を持っている。これまでこうした薬物は,薬物検出検査では検出されず検挙困難であることを理由に,「脱法ドラッグ」と通称されていた。しかし,この名称ではそれらの物質に内在する深刻な健康被害が十分に伝わらないという判断のもと,厚生労働省は2014年より,公募結果を参照した上で「危険ドラッグ」という呼称に変更した経緯がある。
 現在,わが国では,危険ドラッグ使用に関連するさまざまな健康被害や社会問題がメディアを賑わせており,国や自治体はその対応に追われている状況にある。臨床現場の混乱も深刻である。そもそも,含有成分はもとより,危険ドラッグ使用による健康被害や精神症状の詳細についても未知な部分も多く,医療関係者は文字通り「徒手空拳」での戦いを強いられている。また,度重なる法規制の追加が,かえって「何が違法で,何が違法でないのか」の判別を難しくしている点も,混乱を深める一因となっているように思われる。
 そこで本稿では,今後,危険ドラッグに関して求められる研究や施策上の課題を明確にする一助とすべく,これまで危険ドラッグに関して国内外で分かっていることを整理してみたい。

研究と報告

精神科救急病棟に危険ドラッグ(脱法ドラッグ)使用で入院した患者の臨床的特徴—統合失調症との比較

著者: 吉田晴久 ,   茨木丈博 ,   森脇久視 ,   伊津野拓司 ,   小田隆之 ,   菊地蔵乃介 ,   横山琢也 ,   和田直樹 ,   礒﨑仁太郎 ,   岩井一正

ページ範囲:P.119 - P.126

抄録
 危険ドラッグ(脱法ドラッグ)使用に関連した精神障害で2011年から2013年に当院へ入院した19例(危険ドラッグ群)と,統合失調症で同時期に入院したもののうち年齢と男女比をマッチさせ抽出した20例(統合失調症群)との間で,患者背景,症状,転帰等を後方視的に比較検討した。危険ドラッグ群は,入院既往が少なく就労面で高適応だったものの犯罪歴が高く,入院時のAMDP症状群プロフィールは統合失調症群と近似した。一方薬物療法は低容量で済んだ。本研究は,単科病院における急性期のみの治療関与であることなどの限界があるほか,現状では危険ドラッグ使用の長期的影響なども不明であり,今後さらなる経過研究が望まれる。

短報

柔道授業中の事故後に記銘力障害,心的外傷後ストレス障害を発症したがその因果関係の証明に難渋した1例

著者: 猪股良之 ,   神林崇 ,   竹島正浩 ,   成田恵理子 ,   菊池結花 ,   安倍俊一郎 ,   草薙宏明 ,   筒井幸 ,   鈴木稔 ,   清水徹男

ページ範囲:P.127 - P.130

はじめに
 2012年4月から中学校において柔道を含む武道が必修化された。しかしながらその他の各競技と比較し,柔道の死亡事故発生率は突出して高く,中学校,高校における学校管理下での死亡事故は1983〜2011年の29年間で118件発生している。またその大半は絞め技や投げ技といった柔道固有の動作に起因する死亡である4)
 今後,武道の必修化に伴い後遺障害を伴う事故ないし死亡事故が増加してくることが予想され,その際問題となるのは被害者の賠償の問題である。特に前者において,事故とその後遺障害の因果関係の証明が重要となるが,それについて最高裁は1975年判決で,「訴訟上の因果関係の立証は,1点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつそれで足りるものである」と判示している。すなわち,因果関係とは,法的評価を経た因果関係であり,厳密な自然科学的因果関係の証明とは必ずしも同義ではないということである。しかし自然科学的因果関係の証明が不要という意味ではない。たとえば頭部外傷ないしそれに類似する原因によりに高次脳機能障害などの後遺障害を来した例においては,頭部画像検査が重要視されるのも事実である。
 今回我々は柔道授業中の事故後に虚血性脳症に起因すると考えられる記銘力障害,心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder;PTSD)を発症した症例を経験した。
 PTSDは,安全が著しく脅かされるような強い外傷的体験をした時に生じる,再体験症状,回避/精神麻痺症状,過覚醒症状を中核症状とする症候群である。正確な診断のためには原則として構造化面接が行われ,米国のNational Center for PTSDの研究グループによって開発されたPTSD臨床診断面接尺度(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-Ⅳ;CAPS)が国際的に最も用いられている2)
 虚血性脳症は,心肺停止などの循環不全により脳へ生じる機能障害の総称であり,記憶障害などの認知機能障害を呈する。画像検査では,頭部MRIで急性期の脳浮腫所見,T2強調像での大脳白質びまん性高信号域,慢性期の大脳皮質萎縮,白質の脱髄による高信号域などがみられる1)
 本症例はPTSD,虚血性脳症の存否,および事故との因果関係が民事訴訟で争われ,その証明に難渋した症例であり,若干の文献的考察を加えて報告する。なお,本報告の投稿に際し,患者本人から口頭で同意を得ている。

資料

大学新入生の精神的健康が学習への取り組みと友人関係に及ぼす影響

著者: 渡邉賢二 ,   渡邉恵子

ページ範囲:P.133 - P.142

抄録
【目的】本研究は,大学新入生の精神的健康が,前期と後期の学習の取り組みと友人関係に及ぼす影響を検討した。
【方法】大学1年生467名を対象に,2013年4月にUPI学生精神的健康調査,2013年7月と2014年1月に学習への取り組み尺度と友人関係尺度を実施した。
【結果】4月に抑うつ傾向の高い学生は,前期と後期の自主的学習,積極的主張,勤勉的学習,友人関係の満足度,友人との深い付き合いに負の影響を及ぼしていた。心身の快調さは,前期の積極的主張,勤勉的学習,友人関係の満足度,友人との深い付き合い,後期の積極的主張,友人との深い付き合いに正の影響を及ぼしていた。またUPI得点の低群は高群より学習への取り組みが高く,友人関係が良好であった。
【結論】大学入学時の精神的健康は,前後期の学習の取り組みや友人関係に影響を及ぼしていることが示された。

私のカルテから

ある震災被害者の回復過程の報告—トラウマ関連症状を焦点化しないアプローチ

著者: 藤平和吉 ,   福田正人

ページ範囲:P.143 - P.145

はじめに
 東日本大震災後の心のケアが話題になって久しい。今回,トラウマ関連症状を焦点化せず,徹底した「苦しみの受容」と「当事者個別的なコーピングスタイル」を治療構造に反映させることで症状安定を見た,ある震災被害者のケースを経験したので報告する。なお「医療者や他の被災者のお役に立つのなら」と本報告を快諾くださった当事者に感謝と敬意を表すとともに,プライバシー保護のため論旨を損なわない程度に若干の修正を行ったことを付言する。

講演録

私の脳幹論

著者: 戸塚宏 ,   朝田隆

ページ範囲:P.147 - P.152

 2014年11月28,29日につくば国際会議場にて第27回日本総合病院精神医学会総会(テーマ:こころの科学と脳科学の融合)が,朝田隆会長のもと開催された。
 今回「精神医学」誌では同会にて「特別講演1」として行われた戸塚宏氏の講演を再録する。
 「精神医学」編集室

連載 精神科の戦後史・1【新連載】

精神衛生法(昭和25年)

著者: 松下正明

ページ範囲:P.153 - P.157

はじめに
 日本は,1945年(昭和20)8月15日の太平洋戦争終結後の1947年(昭和22)5月3日,日本国憲法発布によって,立憲主義国家,軍国主義・ファシズム国家から曲がりなりにも民主国家へと変貌を遂げることになった。その社会の変化とともに,精神科医療においても,1950年(昭和25)5月1日,精神衛生法が公布施行され,同時に,戦前からの精神病者監護法,精神病院法は廃止されることになった。
 爾来,精神科医療を規制する基本法として,精神衛生法は,ライシャワー事件をきっかけとした1965年(昭和40)6月改正を含めた数次にわたる一部改正,1987年(昭和62)9月の名称変更による精神保健法公布,1993年(平成5)6月の一部改正,さらに,名称変更による1995年(平成7)精神保健及び精神障害者福祉に関する法施行,といったいくつかの主要な変遷を経て,現在に至っている。
 精神衛生法については,すでに数多くの論考がなされ,今さら新たに論じることはないが,戦後の精神科医療の歴史70年を迎えるにあたって,その出発点となった精神衛生法の意義をあらためて振り返ってみることは,これからの精神科医療のあり方を考える上でも多くの示唆を受けるのではないだろうかというのが本稿の意図である。

書評

—宮岡 等 著—こころを診る技術—精神科面接と初診時対応の基本

著者: 伊藤絵美

ページ範囲:P.131 - P.131

 宮岡等先生著『こころを診る技術』の書評を依頼され,ちょうど本書を読みたいと考えていたところなので軽い気持ちで引き受けたが,コンパクトながら多面的な内容が凝縮された本書を一気に読了したところ,若干の戸惑いを覚えた。「なぜ私が依頼されたのか?」「どの立場の人間として,私はこの書評を書けばいいのか」。というのも,本書は副題が「精神科面接と初診時対応の基本」とあるように,明らかに精神科の臨床医に向けて書かれたものであるからである。評者は精神科医ではない。認知行動療法を専門とする民間カウンセリング機関を開業する臨床心理士である。本書には,昨今の「認知行動療法ブーム」に対する批判も複数書かれていた。
 ところが戸惑いながらあとがきを読んだところ,本書で最も感銘を受けることになる以下の文章に出会った。「最初は『どのようにすれば面接をうまく進めることができるか』についての工夫を中心に,本書を書こうと思っていた。しかし,書いているうちに,『どのような患者観をもっているか』,『どのような患者-医者関係がよいと考えているのか』に関するきちんとした考えのないところに面接法は生まれないという,ごく当たり前のことを強く感じるようになった」(p 206)。

—福永篤志 著,稲葉一人 法律監修—トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 宝金清博

ページ範囲:P.158 - P.158

 メディアを見ると,医療と法の絡んだ問題が目に入らない日はないと言っても過言ではない。当然である。私たちの行う医療は,「法」によって規定されている。本来,私たち医師は必須学習事項として「法」を学ぶべきである。しかし,医学部での系統的な教育を全く受けないまま,real worldに放り出されるのが現実である。多くの医師が,実際に医療現場に出て,突然,深刻な問題に遭遇し,ぼうぜんとするのが現状である。その意味で,全ての医師の方に,本書を推薦したい。このような本は,日本にはこの1冊しかないと確信する。
 先日,若い裁判官の勉強会で講演と情報交換をさせてもらった。その際,医療と裁判の世界の違いをあらためて痛感させられた。教育課程における履修科目も全く異なる。生物学,数学は言うまでもなく,統計学や文学も若い法律家には必須科目ではないのである。統計学の知識は,今日の裁判で必須ではないかという確信があった私には少々ショックであった。その席で,いわゆるエビデンスとかビッグデータを用いた,コンピューターによる診断精度が医師の診断を上回る時代になりつつあることが話題になった。同様に,スーパーコンピューターなどの力を借りて,数理学的,統計学的手法を導入し,自然科学的な判断論理を,法の裁きの場に持ち込むことはできないかと若い法律家に聞いたが,ほぼ全員が無理だと答えた。法律は「文言主義」ではあるが,1例1例が複雑系のようなもので,判例を数理的に処理されたデータベースはおそらく何の役にも立たないというのが彼らの一致した意見であった。法律の世界での論理性と医療の世界での論理性は,どちらが正しいという以前に,出自の異なる論理体系を持っているのではないかと思うときがある。医師と法律家の間には,細部の違いではなく,乗り越えられない深い次元の違う溝が存在するのではというある種の絶望感が残った。

—福武敏夫 著—神経症状の診かた・考えかた—General Neurologyのすすめ

著者: 河村満

ページ範囲:P.159 - P.159

 福武敏夫先生ご執筆の『神経症状の診かた・考えかた——General Neurologyのすすめ』が出版されました。福武先生でなくては書くことができないユニークな内容です。神経内科医であれば初心者から上級医まで,広い範囲の先生方に太鼓判を押してお薦めできます。一般内科の先生方や,リハビリテーション医,メディカル・スタッフにも有益な本であると思います。本来難しいことが分かりやすく表現されているのがこの本の最も大きな特徴です。
 全体は3つの部分から構成されています。すなわち,第Ⅰ編「日常診療で遭遇する患者」,第Ⅱ編「緊急処置が必要な患者」,第Ⅲ編「神経診察のポイントと画像診断のピットフォール」からなっており,第Ⅰ編の第7章はなんと「『奇妙』な症状」とされています。その前の第6章は,神経内科医があまり得意ではない「精神症状,高次脳機能障害」です。第Ⅰ編の第1章・2章・3章が,「頭痛」「めまい」「しびれ」で,いわゆるコモン・ディジーズであり,この本では奇妙な症状もコモンな病態も同等に扱われて,平等に並んでいるのです。第Ⅱ編の第3章は「急性球麻痺」そして第4章が「急性四肢麻痺」であり,その組み立ての特異さが際立っています。さらに,それぞれの章に多くの具体的症例が,病歴・診察内容・検査や診断の過程とともに掲載されていて,分かりやすい読み物をめざして執筆された著者の気持ちが伝わってきます。

学会告知板

第18回(2015年度)森田療法セミナー

ページ範囲:P.130 - P.130

会 期 2015年5月〜11月(全12回)隔週木曜19:00〜21:00
会 場 家庭クラブ会館(東京都渋谷区代々木3-20-6,JR新宿駅南口より徒歩8分,都営地下鉄新宿線・大江戸線新宿駅より徒歩4分)

日本精神分析的精神医学会第13回大会

ページ範囲:P.132 - P.132

会 期 2015年3月13日(金)〜3月15日(日)
会 場 高知市文化プラザ「かるぽーと」内 高知市立中央公民館
 〠780-8529 高知市九反田2番1号

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.103 - P.103

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.160 - P.160

投稿規定

ページ範囲:P.161 - P.162

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.163 - P.163

編集後記

著者:

ページ範囲:P.164 - P.164

 近年,精神病の早期介入研究は飛躍的に進展しました。そして,今回のDSM改訂では,精神病の前駆状態としての「減弱精神病症候群」が活発に議論され,結果としてそれは公式の診断(第Ⅱ章)ではなく「今後の研究のための病態」(第Ⅲ章)で扱われることになりました。これは主にこの診断に関する一般臨床での信頼性が確立されていないためで,DSM-5精神病作業グループ自体も,さらに多くの早期精神病研究者も歓迎する結果でした。
 DSM-5精神病作業グループは,当初の「精神病リスク症候群」から「減弱精神病症候群」へと名称を変更し,重大な概念シフトを行っています。元々,精神病の“発症危険状態”や“超ハイリスク”の研究は,精神病の前駆期研究から始まり,当然,精神病への移行をいかに防ぐかが最重要課題でした。その結果,精神病に移行しない“偽陽性”群への無用な介入への批判とつながり,批判者の中には介入研究自体をすべて否定する者までいました。DSM-5精神病作業グループは,他の精神疾患の定義と同じように“リスク”ではなく“疾病性”(減弱精神病症候群は苦痛や能力障害のために何らかの支援を求めてくる患者群であるため,DSMの疾患定義に合致)を重視する方向にシフトしました。ところで,この偽陽性問題の背景には,クレペリンやブロイラーの統合失調症概念とは相反するような,近代の精神科診断学における精神病症状偏重の問題があります。このことは,精神病性障害概念の脱構築,つまり精神病症状では疾患を構成できないという議論にまで発展しています。早期介入の議論は,まさにこうした精神科診断学の本質的問題が表面化したものと言えます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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