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雑誌目次

雑誌文献

精神医学57巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

巻頭言

フクシマと福島—あるジレンマ

著者: 前田正治

ページ範囲:P.166 - P.167

 福島県立医科大学に赴任し,災害こころの医学講座という新しい講座を立ち上げて,もうすぐ1年と半年が過ぎる。この間,何をしたかと問われることが多いが,よく言葉に窮する。何が大変ですかともしばしば問われるが,やはり言葉に窮してしまう。患者さんをたくさん診ているわけではない。講演ばかりしているというわけでもないし,研究室にこもっているというわけでもない。沿岸部被災地めぐりで,1年間で2万5000キロを車で走ったという「エビデンス」はあるが,運送業を生業としているわけでもないので,これは自慢にならない。
 さて,具体的に講座として取り組んだ仕事は大きくは2つある。私自身学内にあっては,放射線医学県民健康管理センターにおけるメンタルへルス調査・支援の責任者を務め,学外にあっては「ふくしま心のケアセンター」の運営と人材育成に励んだ。ただ,この2つの役割をこなすことは大変なことであった。講座として取り組んだ,この2つの大きな事業について,簡単に説明したい。

特集 リエゾン精神医学の現状と今後の展望(Ⅰ)

一般身体科医療とリエゾン精神医学

著者: 宮地英雄

ページ範囲:P.169 - P.176

はじめに
 医療全体において,リエゾン精神医学とそれに携わる精神科医の役割は,医療の先進化や,患者の権利増加などとともに,年々注目度が増している。その流れの中で,いわゆる「精神科リエゾンチーム加算」が設定され,その概念やシステムが,「公的な制度」として示された。しかし,そのように注目されつつあるがゆえに,期待されているものや誤解,そして現状との乖離もみられているように思う。本稿では,一般身体科との精神科リエゾン医療の現状の一端を整理,紹介し,それをふまえた上で,考え得る今後の展望,課題について述べたい。

緩和ケアとリエゾン精神医学

著者: 奥山徹

ページ範囲:P.177 - P.184

はじめに
 わが国におけるがん患者数は増加の一途を辿っており,それとともに,患者のQOL向上を目的とする医療である緩和ケアの重要性に対する認識が高まっている。緩和ケアにおいて,患者・家族の精神心理的側面へのケアは重要な領域の1つであることから,2002年には精神科医の参加を必須とする緩和ケアチームへの緩和ケア診療加算が導入され,2007年にはがん対策基本計画の中でがん医療への精神腫瘍医の参画の重要性が盛り込まれた。これらの施策によって,わが国においても緩和ケアチームを院内に設置する施設が増加し,がん診療連携拠点病院を中心とした多くのがん診療施設から,精神科医や心療内科医のチーム医療への参加を求める声が上がっている。本稿ではまず緩和ケアについて概説した上で,リエゾン精神医学から緩和ケアへのアプローチの実際について述べる。

救急医療とリエゾン精神医学

著者: 日野耕介 ,   小田原俊成

ページ範囲:P.185 - P.193

はじめに
 救急医療は,急性に発症あるいは増悪傾向にある身体疾患に対応することが主な役割であり,一見精神科医療との関連性は低い領域のようにみえる。また,我々精神科医療従事者は,患者の病状を「身体疾患」と「精神疾患」の2つに分けて考える機会が多く,実際に「身体救急」と「精神科救急」が別々のシステムで運用されているため,救急医療と精神科医療の間に存在しているさまざまな障壁や問題点を実感することが多い。
 しかし,救急医療の実態をみると,多くの症例で精神疾患や精神症状が合併し,その結果問題が複雑化していることが分かる。そのため,救急科と精神科が併設されている医療施設では,救急科(あるいは入院後の管理を依頼された身体診療科)から精神科に対する診察依頼が相次ぎ,精神科はコンサルテーション・リエゾンにより対応するのが一般的である。逆に,精神科の診療機能を持たない医療施設では,精神症状が比較的活発な救急症例や,身体的な病状が精神疾患に関連する可能性が高い救急症例の受け入れに躊躇してしまうことが少なくないのも実情である。
 本稿では,救急医療とリエゾン精神医学の関係と具体的な対応について,また両者の連携に関する今後の展望について解説していく。

周産期医療とリエゾン精神医学

著者: 菊地紗耶 ,   小林奈津子 ,   本多奈美 ,   松岡洋夫

ページ範囲:P.195 - P.202

はじめに
 近年,周産期の精神疾患に関するエビデンスが蓄積され,疫学的な大規模調査による出現率11,15),発症に関わる心理社会的要因2),スクリーニング3)と介入方法6),向精神薬の胎児への影響7,25),母親のメンタルヘルスが児の情緒や行動に与える影響24)が明らかになってきた。
 わが国では,周産期精神医学(perinatal psychiatry)専門外来が開設されてはいるが,未だにその数は少ない。産科や地域母子保健において周産期メンタルヘルスへの関心や精神医療との連携ニーズが高まっており,周産期におけるコンサルテーション・リエゾン精神医学は新たな局面を迎えている。精神科医は周産期精神医学の知識を有し,周産期メンタルヘルスに関わる多職種連携での中心的役割を求められている。
 本稿では,周産期にみられる精神症状と精神疾患,精神疾患を有する妊産婦への対応,周産期の精神科薬物療法について概説し,周産期におけるコンサルテーション・リエゾン体制のあり方について検討を行う。

地域医療とリエゾン精神医学

著者: 山本賢司

ページ範囲:P.203 - P.210

はじめに
 2014年6月に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が成立し,公布された。この法律は複数の法律を一括して改正できる形式になっており,大きな柱の1つは,医療法改正による地域医療構想の策定である21)。その施行日は2015年4月1日であるが,そのために「地域医療策定ガイドライン等に関する検討会」が厚生労働省に設けられ,地域医療構想のガイドラインが検討されている。本稿が出版される頃にはその内容が明らかになっていると思われるが,現状では議事録や資料のみをホームページで閲覧できるにすぎない13)。しかし,この地域医療構想の主たる政策目標は構想区域における病床の機能区分(高度急性期,急性期,回復期,慢性期)ごとの将来の病床数の必要量などに基づく,当該構想区域における将来の医療提供体制に関する構想であり,これは病床機能分化の推進を意味していると考えられる21)。日本は欧米と比較して,病床数が多く,平均在院日数が長く,病床あたりの医師および看護スタッフが少ないという特徴を有している。医療の質,医療資源の問題などを鑑みても,現状は好ましい状況とは考えられず,病床の機能分化と削減,地域包括ケアや在宅医療などの拡充が今後の医療体制を考える上での柱になると思われる。この医療提供体制の変化を「コンサルテーション・リエゾン精神医学」(以下,CLPと略す)という視点からみるとどう捉えられるであろうか。
 以前から言われているCLPの概念は,一般病院(もしくは総合病院)内にとどまらずに地域医療や会社・学校などとの間でも行われ得るものとされている22)。しかし,今日までのCLPは一般病院で行われる精神医学の一端として論じられることが多く,精神医療サービスの充実や多職種を交えたチーム医療などが議論されてきた。これらの議論がすでに十分という訳ではないが,現状の医療の中では病院内にとどまらず,地域での活動をも視野に入れることを要求されている。実際,精神疾患を有する患者に身体合併症が出現した時や,内科で継続診療されている認知症患者にBPSDが出現した時,在宅の緩和ケアの患者に精神症状が出現した時にどのような体制で患者をサポートすればよいのか,など具体的にさまざまな状況の想定が可能である。今後,地域医療とCLPの関係はより密接になっていくものと考えられ,地域医療の中で行われるCLPは一般病院の精神科医のみならず,精神科病院やクリニックなどに勤務する精神科医も参入を要求されるものと思われる。
 今回の特集ではさまざまな身体疾患領域におけるリエゾン精神医学の現況が紹介されており,その中で地域医療とのかかわりが一部取り上げられているものと予想しているが,本稿では地域医療を考える上で問題として取り上げられることの多い「精神疾患患者に認められる一般的な身体合併症の問題」とCLPの関わり,および今後の展望などについて概説していきたい。

研究と報告

Aripiprazoleが有効であった小児期崩壊性障害(ICD-10)の1症例

著者: 小野和哉 ,   小豆島沙木子 ,   青木啓仁 ,   江藤亜沙美 ,   湯沢美菜 ,   杉原亮太 ,   鈴木優一 ,   山尾あゆみ ,   尾作恵理 ,   瀬戸光 ,   沖野慎治 ,   中村晃士 ,   中山和彦

ページ範囲:P.211 - P.218

抄録
 我々は,10歳まで正常発達し,その後獲得されていた言語機能と下肢の運動機能の喪失が現れ,小児期崩壊性障害の診断基準を満たした14歳の女子症例を報告する。発症後次第に言語面での著しい退行,コミュニケーション能力の著しい低下およびきわめて強いこだわり,常同反復的な激しい顔叩きが出現した。2種類のセロトニン再取り込み阻害薬などを開始するも効果を認めず,aripiprazoleを24mgまで増量したところ顕著な改善を得た。このような状態はきわめてまれな事例であり,小児期崩壊性障害へのaripiprazoleの効果について初めての報告である。

せん妄に対するブロナンセリンの有用性に関する検討

著者: 井上真一郎 ,   土山璃沙 ,   馬場華奈己 ,   大栁貴惠 ,   嶋本恵 ,   小田幸治 ,   矢野智宣 ,   川田清宏 ,   岡部伸幸 ,   内富庸介

ページ範囲:P.219 - P.224

抄録
 せん妄の薬物治療では,抗精神病薬が用いられることが多いが,近年は第2世代抗精神病薬(second generation antipsychotics;SGA)の使用頻度が増加傾向にある。
 ブロナンセリン(blonanserin;BNS)は,ドパミンD2受容体およびセロトニン5-HT2A受容体に高い親和性を持つSGAである。ドパミンD2受容体への高い親和性を有するため幻覚・妄想に対する高い効果が期待できる一方,アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリン性アセチルコリンM1受容体など,副作用に関与する各受容体への親和性が低い。本稿では,BNSのこれらの薬理学的特性や副作用プロフィールを活かしたせん妄の薬物治療について報告・考察する。

短報

たこつぼ型心筋症を併発した双極性障害の1例

著者: 高山敏樹 ,   内海雄思 ,   前嶋仁 ,   比賀雅行 ,   馬場元 ,   鈴木利人 ,   新井平伊

ページ範囲:P.225 - P.228

抄録
 たこつぼ型心筋症(TTC)は,急性ストレスを契機に発症することで知られる,特徴的な心収縮異常を呈する疾患である。TTCと気分障害との関連を示した報告は少ないが,今回我々はTTC発症に双極性障害の躁状態増悪の関与が推測された1例を経験した。症例は双極性障害の77歳女性であり,前回退院後より躁状態が急速に増悪した中で突然の胸痛が出現し,当初急性冠症候群が疑われたが,精査の結果TTCの診断に至った。TTCは重篤な心イベントに発展するリスクを有することが近年判明しつつあるため,躁状態増悪時にはTTCの合併も考慮に入れ全身状態の評価,管理が必要であると考える。

連載 精神科の戦後史・2

昭和40年精神衛生法改正とその時代

著者: 高柳功

ページ範囲:P.229 - P.235

はじめに
 どのような法にもその法が成立した時代背景があり,時代背景を読み解くと法の成立はいかにも自然なことのように思えてくる。時代背景に法がそぐわなくなると,その法は変えられるか消えていく。
 精神保健福祉法もこのような法律一般の歩みと無縁ではなく,時代背景を受けて数多くの改正を経て今日に至っている。筆者の考えでは,昭和25年成立の「精神衛生法」は精神障害者救済法としての性格を持っていた。これが昭和40年改正により治安対策に傾いた精神障害者対策法としての性格が色濃くなり,また昭和62年改正で法律の題名も「精神保健法」となって,精神障害者の人権擁護対策法としての性格が強くなった。
 本稿では第2次世界大戦敗戦後,10万余と推定された精神障害者を悲惨な放置状態から救済するために立法された精神衛生法が,どのような時代背景によって治安対策的な色彩の強い法律に変貌していったか,以下に述べてみる。

書評

—神庭重信 著—うつ病の論理と臨床

著者: 鈴木國文

ページ範囲:P.236 - P.236

「うつ」をめぐる混迷に新たな視座を
 帯に謳われているように「うつ病」に関する「第一人者の最新の到達点」である。もちろん,第一人者の論考が必ずしも面白いわけではない。が,この本は面白い。おそらく,いくつかの明確なねらいのもとに編まれているからであろう,章が進むほどに,読み手を誘う。著者のねらいは,互いに連関した以下の三つの点にあるのではないかと思う,多分…。
 一つは,進化心理学という医療実践からはいささか遠いものとも見えがちな領域について,遺伝子に関する確かな知と地道な精神医学実践をふまえ,「うつ病」という具体例を通して,精緻に論ずることである。一般に,遺伝子を巡る考察が進化論的視点にまで広げられると,医学の外へと出てしまうきらいがある。著者はそのことに十分自覚的である。著者自身が「(進化論的視点は)学問論争にこそ向けられるべきで,受診者に向けられる筋合いのものではない」という樽味の警句を挙げているように,本書では,何が臨床に役立ち,何は臨床とは関係のない議論なのか,慎重に留意しながら論が進められている。

—神庭重信 総編集,神尾陽子 編集—DSM-5を読み解く1—神経発達症群,食行動障害および摂食障害群,排泄症群,秩序破壊的・衝動制御・素行症群,自殺関連

著者: 長尾圭造

ページ範囲:P.240 - P.240

 分類学には論理的な科学性はない。したがって分類はいかに役に立つかというもっともらしさ,つまり蓋然性や妥当性が問われるので,その時の事情や背景を基に恣意的にならざるを得ない。4回目の改訂となった今回のDSMは,特に子どもの分野では,近年の疫学,分子遺伝学,脳画像,家族・双生児研究,認知精神科学,環境・文化の影響による発達精神病理の進歩の影響を受け,大幅な見直しがなされた。その結果,診断名が増え,アセスメントと尺度や面接法も示された。
 DSM-5の分類には診断名,診断的特徴,有病率,年齢による経過(症状の発展と経過),危険要因と予後要因,文化・性別に関する診断的事項,機能的結果(予後など),鑑別診断,併存症などが記されている。このそれぞれには,臨床経験と研究を基に議論を重ねた結果が書かれているため,そのコトバは重い。このため,これが作られてきた背景,その診断の意図,利用法,使い方などは,ベテランによる解説が何より望ましい。DSM-5に習熟するためにはガイドラインが必要となる。

学会告知板

第62回日本病跡学会総会

ページ範囲:P.202 - P.202

テーマ 病跡学の拡張—映像と身体に向けて
会 期 2015年6月27日(土),28日(日)
会 場 立教大学新座キャンパス(〠352-8558 埼玉県新座市北野1-2-26)

第35回日本精神科診断学会

ページ範囲:P.210 - P.210

 本年8月に札幌にて,第35回日本精神科診断学会が開催されるにあたり,下記の通りご案内させていただきます。また,本大会では事前参加登録を実施することになりました。事前参加登録には参加費割引が適用されておりますので,是非ご利用ください。皆様奮ってご参加いただけますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
会 期 2015年8月6日(木)〜7日(金)
会 場 北海道大学学術交流会館
 〠060-0808 札幌市北区北8条西5丁目

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.176 - P.176

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.239 - P.239

次号予告

ページ範囲:P.242 - P.242

投稿規定

ページ範囲:P.243 - P.244

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.245 - P.245

編集後記

著者:

ページ範囲:P.246 - P.246

 本誌の編集と直接関係することではありませんが,昨今の学会運営の切実な事情をお話しさせていただきます。今秋に参加者が1,500人規模の全国学会を主催します。学会はできるだけ全国各地で開催していくことが理想ですが,一定規模の学会になりますとどうしても大都市が中心になってしまいます。一般的に学会理事や講座担当者がいる都市を転々としながらその内の何度かを首都圏で引き受けることになります。筆者はその規模や勤務地の事情から横浜市で開催せざるを得なかったのですが,あらためて最近の5年あまりの決算書を見比べて会場費の高さに驚かされたのです。平日の3日間の運営にもかかわらず他の地方都市での開催と比較して800万円も高くつくことが分かったのです。事の重大さを自覚したのは会場を予約した3年前ですがそれからが大変です。どうしたら赤字にならないのか,慣れない算盤をはじきながら頭を悩ませる毎日が続いています。安上がりで手作りの学会と呼べば聞こえはよいですが,言葉の響きとは裏腹に,事前の準備や当日の医局員・事務方への負担を考えるとほとんどの学会が該当しません。今後当分の間は特に首都圏での主催者の多くは筆者のような悩みを抱かざるを得ない状況が続くものと予想されます。

 さて久しぶりにリエゾン精神医学を2回にわたって特集で扱っています。前半の今月号では,一般身体科医療,救急医療や地域医療にはじまり緩和ケアや周産期医療など現代的なテーマとの関連まで幅広く網羅しています。「研究と報告」には小児期崩壊性障害の女児例と,せん妄の薬物療法に関する知見,短報にもたこつぼ心筋症の高齢女性の症例報告が掲載され読み応えのある内容になっています。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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