精神医学57巻3号

2015年03月発行

連載 精神科の戦後史・2

昭和40年精神衛生法改正とその時代

著者： 高柳功¹

所属機関： ¹医療社団法人四方会有沢橋病院

ページ範囲：P.229 - P.235

はじめに
　どのような法にもその法が成立した時代背景があり，時代背景を読み解くと法の成立はいかにも自然なことのように思えてくる。時代背景に法がそぐわなくなると，その法は変えられるか消えていく。
　精神保健福祉法もこのような法律一般の歩みと無縁ではなく，時代背景を受けて数多くの改正を経て今日に至っている。筆者の考えでは，昭和25年成立の「精神衛生法」は精神障害者救済法としての性格を持っていた。これが昭和40年改正により治安対策に傾いた精神障害者対策法としての性格が色濃くなり，また昭和62年改正で法律の題名も「精神保健法」となって，精神障害者の人権擁護対策法としての性格が強くなった。
　本稿では第2次世界大戦敗戦後，10万余と推定された精神障害者を悲惨な放置状態から救済するために立法された精神衛生法が，どのような時代背景によって治安対策的な色彩の強い法律に変貌していったか，以下に述べてみる。

参考文献

1) 秋元波留夫，武村信義：ライシャワー大使刺傷事件．福島章，中田修，小木貞孝編，日本の精神鑑定．みすず書房，pp486-529, 1973

2) 秋元波留夫：声明書：雑報．精神経誌67：307, 1965

3) 藤田藤太郎議員発言：精神衛生法改正案国会審議資料，その2．精神経誌67：719-741, 1965

4) 福島章：解説．福島章，中田修，小木貞孝編，日本の精神鑑定．みすず書房，pp489-494, 1973

5) 金子準二：序．社団法人日精神病院協会二十年史．日本精神病院協会，pp8-10, 1971

6) 吉川武彦，竹内龍雄：精神衛生統計．懸田克躬，大熊輝雄，島薗安雄，他編，現代精神医学大系23C, 社会精神医学と精神衛生Ⅲ．中山書店，pp93, 1980

7) 日本精神科病院協会：精神衛生法の一部を改正する法律案要網(金子私案)．社団法人日精神病院協会二十年史．日本精神病院協会，pp129-131, 1971

8) 日本精神科病院協会：精神衛生法一部改正の協会案．社団法人日精神病院協会二十年史．日本精神病院協会，pp246-248, 1971

9) 日本精神神経学会：刑法改正問題研究委員会意見書(案)．精神経誌67：1052-1055, 1965

10) 日本精神神経学会：雑報．精神衛生法一部改正に対する反対の動き．精神経誌66：427, 1964

11) 西尾友三郎，菅修，元吉功，他：戦中戦後の精神病院の歩み(第2部)．精神医学14：784-795, 1972

12) 岡田靖雄：日本精神科医療史．医学書院，pp220-221, 2002

13) 岡田靖雄：日本精神科医療史．医学書院，p223, 2002

14) 岡田靖雄：日本精神科医療史．医学書院，p227, 2002

15) 岡田靖雄：精神衛生法．懸田克躬，大熊輝雄，島薗安雄，他編，現代精神医学大系第5巻C, 精神科治療学．中山書店，pp364-365, 1977

16) 岡田靖雄：精神衛生法．懸田克躬，大熊輝雄，島薗安雄，他編，現代精神医学大系第5巻C, 精神科治療学．中山書店，pp361, 1977

17) 岡田靖雄：精神衛生法．懸田克躬，大熊輝雄，島薗安雄，他編，現代精神医学大系第5巻C, 精神科治療学．中山書店，pp366, 1977

18) 大熊一夫：精神病院を捨てたイタリア捨てない日本．岩波書店，pp427-249, 2009

19) 高柳功：触法精神障害者と処遇困難患者の問題—刑事政策と精神科医療のはざまで．町野朔編，精神医療と心神喪失者等医療観察法．ジュリスト増刊：174-178, 2004

20) 内村祐之：精神衛生審議会答申書．精神経誌67：172-176, 1965

21) 内村祐之：精神衛生法一部改正に対する精神衛生審議会の意見書．精神経誌67：395, 1965

22) 渡辺栄一：序．社団法人日精神病院協会二十年史．日本精神病院協会，pp1-3, 1971