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雑誌目次

雑誌文献

精神医学57巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

巻頭言

精神科救急医療が目指す地平—内的災害難民の救援から精神科医療の構造改革へ

著者: 平田豊明

ページ範囲:P.328 - P.329

 救急に無縁の臨床なし
 わが国における精神科救急の萌芽は,1950年代の半ば頃,精神衛生法が施行され,クロルプロマジンが普及し始めた時代に遡る。この頃から在宅患者が増え始め,救急診療を要するケースも出てきたためである。患者を病院に収容し続ける限り,救急医療のニードは発生しない。逆に,在宅患者がいる限り,救急に無縁の臨床はない。
 現代の精神科医療では,在宅医療と救急医療は車の両輪である。どちらが欠けても車は進まない。そして,救急医療の守備範囲は拡大しつつある。かつて精神科救急とは措置入院の円滑な執行にほぼ同義であったが,現在では,受診前の電話相談に始まって,救急外来や急性期入院治療の技術論,合併症治療などでの病院間連携,それに在宅医療支援サービスへのリンケージに至るまで,精神科救急の守備範囲は広がっている。この意味でも,救急に無縁の臨床はない。

研究と報告

抗精神病薬服用中の統合失調症患者におけるラクトスクロースによる排便回数および便性状の改善効果

著者: 井戸由美子 ,   中村友紀 ,   新川優 ,   佐谷誠司 ,   岡村武彦 ,   米田博 ,   福尾惠介

ページ範囲:P.331 - P.339

抄録
 統合失調症患者は,薬剤の抗コリン作用による便秘などの消化器症状が大きな問題である。ラクトスクロースは,腸内環境を改善する作用を有するが,統合失調症患者における有用性については明らかではない。本研究は,入院中の統合失調症患者を対象にラクトスクロースが排便回数および便性状の改善効果に有用であるかを検討した。その結果,ラクトスクロース摂取期間では,非摂取期に比し,抗コリン作用の強い薬剤の使用の有無に関わらず,排便回数の増加や臨時下剤使用量の減少,排便状態の改善がみられた。以上より,ラクトスクロースは,統合失調症において,排便回数および便性状の改善効果に有用であることが推察された。

統合失調症患者における属性要因と認知機能の関連性—入院患者と入院歴のある外来患者についての調査

著者: 紅林佑介 ,   大瀧純一

ページ範囲:P.341 - P.348

抄録
 統合失調症患者の属性要因と認知機能との関連性の特徴を,外来患者と入院患者で比較し,その異同を検討した。
 入院歴のある外来患者(以降外来群)60名と入院患者(以降入院群)66名を対象に,属性要因の調査と,Positive And Negative Syndrome Scale (PANSS)による精神症状の調査,Cog Healthによる認知機能の調査をした。
 両群とも,健常者より注意分散の反応速度が遅延し,また罹病期間と作動記憶の正確さが負の相関を示した。注意分散の反応速度は,入院群は罹病期間や入院期間と負の相関をしたが,外来群では属性要因と関連しなかった。
 罹病期間とともに作動記憶の正確さが低下することと,注意分散の反応速度の遅延が,統合失調症の特徴であり,また入院患者は作動記憶や注意分散が低下しやすいと考えられた。

短報

言語性幻聴の重症度を定量的に測定する自己報告式尺度の開発—Hamilton Program for Schizophrenia Voices Questionnaire日本語版の信頼性と妥当性

著者: 古村健 ,   石垣琢麿

ページ範囲:P.349 - P.352

抄録
 本研究では言語性幻聴の重症度を定量的に測定する自己報告式尺度であるハミルトン統合失調症プログラム幻聴尺度(Hamilton Program for Schizophrenia Voices Questionnaire)日本語版を開発した。調査は2か所の精神科施設において33名の統合失調症患者を対象に実施した。尺度の内的信頼性が高く(α=.73),外的妥当性に関しては陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の幻覚尺度(P3)と正の相関が認められた(r=.393)。本尺度は,質問内容が平易で,重度の幻聴や中程度の病識欠如がある統合失調症患者においても実施可能であった。さまざまな臨床的利点を有しており,臨床実践および臨床研究において幅広く活用されることが期待される。

資料

自我異和性尺度日本語版(EDQ-J)作成の試み

著者: 荒木剛 ,   佐藤拓 ,   菊地史倫 ,   池田和浩

ページ範囲:P.353 - P.358

抄録
 本研究は,侵入思考に対する自我異和性の評価について測定する尺度(EDQ)の日本語版を作成し,内的整合性および妥当性の一部について検討することを目的とするものである。大学生413名分のデータをもとに,自我異和性尺度項目の因子分析を行ったところ,原版とほぼ対応する4因子構造が得られた(「困惑・不合理感」「道徳観への脅威」「自己理解の混乱」「思考内容の拒絶」)。また,侵入思考に対する対処方略との関連について分析した結果,EDQ全体および各下位尺度とさまざまな対処方略との間に一定の関連性が認められ,特に思考抑制を反映する方略である「罰」との間に最も大きい関連を示した。一連の結果は,EDQ日本語版が侵入思考に対する自我異和性の評価の程度を測定するツールとして有用である可能性を示すものである。

私のカルテから

術後せん妄の既往があるせん妄ハイリスク患者に対する術前からのラメルテオン投与の試み

著者: 松原敏郎 ,   芳原輝之 ,   渡邉義文

ページ範囲:P.359 - P.362

抄録
 総合病院において入院患者のせん妄は,患者の身体的安全や治療に対する意思決定の妨げになり,入院生活に支障を来す。特に術後せん妄の発症は手術後の安静保持やルートの確保を困難にし,早期の回復が妨げられる。せん妄発症後は薬物療法や環境調整によって対応されるが,せん妄に対する最も望ましい対応策はせん妄そのものの出現を予防することである。今回,術後せん妄の既往があり整形外科の手術が予定されていた高齢患者に手術前日からラメルテオンを予防的に投与したところ,術後せん妄の出現をみなかった1例を経験した。ラメルテオンのせん妄予防効果が確認されたとともに,せん妄のハイリスク患者への対策の一つとなると思われた。

連載 精神科の戦後史・4

「あの時代の記録・金沢学会」

著者: 伊崎公徳

ページ範囲:P.363 - P.377

はじめに
 「金沢学会」の解説から始める。
 わが国の精神科医療・医学の拠り所である「日本精神神経学会」の学会誌「精神経誌」には,毎号巻末に必ず次のような学会の基本理念が記されている。
 「公益社団法人日本精神神経学会は明治35年(1902年)に創立され,『精神医学と神経学の研究を進め,会員相互の連絡提携を図り,もって学問,文化の発展に寄与する』ことを目的として,学術研究のみならず,精神科神経科臨床に関する広範な現実的課題とも取り組んできた。特に第66回総会(金沢,1969年)以来,学会が日本の精神医療・医学の反省と今後の進むべき道を基本テーマに真摯に検討して来た経緯に鑑み,各学会員は常に下に掲げる学会基本理念を堅持することを求められる。(以下の1,2,3,の条項は略)」
 この「特に第66回総会(金沢,1969年)」の様子を明らかにすることが,筆者への課題と思う。上記の「金沢学会」とは,昭和44年(1969年)5月20〜22日,金沢市で行われた第66回日本精神神経学会総会(会長:島薗安雄,副会長:大塚良作)のことである。それはわが国の精神科医療・医学の大きな転換点となった歴史的な学会のため,その後は「金沢学会」と固有名詞化された。
 学会は異例の経過で終始した。学術講演のすべてを中止して,3日間のわが国の精神科医療・医学の問題点,特に「医局講座制」について討議された。そして,「理事会不信任・評議員の解散決議・総会の運営については,従来の製薬資本や関連病院などからの寄付慣習を反省して総会は学会員の負担によって運営される」ことが学会総会で決議されたのである。
 学会の文字による記録は,精神経誌71巻第11号(1969年)に詳細な3日間の「学会議事記録」として残されている。しかし当時のこと,そこには1枚の写真もない。百聞は一見に如かずとか。
 約半世紀前の「金沢学会」当時,筆者は学会運営を務めた裏方のひとりだった。
 以前他誌に写真や資料を集めて書いたことがある。学会の基本理念は変わらないが,約半世紀を経た現在の「こころの医学・医療」は大きく変貌しているように思う。そこで本稿では時計を逆まわりさせ,「あの時代の記録・金沢学会」の資料を中心に歴史的に記録してみた。

動き

精神医学関連学会の最近の活動—国内学会関連(30)(第1回)

ページ範囲:P.379 - P.400

 本欄「精神医学関連学会の最近の活動」は,1987年に当時日本学術会議の会員であった島薗安雄先生の発案により掲載がスタートいたしました。当時の学術会議には精神医学研究連絡委員会が設置され,そこで取り上げられた重要課題が学術会議から提言されることがありました。島薗先生は,そのような背景から学会間のコミュニケーションが重要であると認識され,この企画がスタートいたしました。以来,掲載は継続し,今回で第30回となりました。この間,本企画は島薗安雄先生,大熊輝雄先生,高橋清久先生,樋口輝彦先生と代々の学術会議会員の先生に監修をお願いして参りました。
 日本学術会議は第20期(2006年)から大きく変わり,会員は会員推薦となり関連学会の代表者による構成ではなくなりました。研究連絡委員会も廃止されました。本欄の当初の意義は薄れましたが,関連学会間の連携や学会のあるべき姿の議論は今も重要です。掲載スタート時の序文において島薗先生は「専門領域の細分化による視野の矮小化を防ぎ,ひいては精神医学の健全な発展に資したい」と述べておられます。本誌編集委員会は,以上の認識から本欄の継続を決定し現在に至っています。
 本欄が精神医学関連学会の連携,相互理解の一助となれば幸いです。

書評

—Abraham M. Nussbaum 原著,高橋三郎 監訳,染矢俊幸,北村秀明 訳—DSM-5診断面接ポケットマニュアル

著者: 大森哲郎

ページ範囲:P.402 - P.402

 「私と同じような人っているのでしょうか」と心配そうに質問されることがよくある。患者からみれば,自分一人の固有の体験に苦しんでいるのだ。「同じようなことで困っている人はいますよ」と答えると,ほっとしたような表情を浮かべられることが多い。そして「そういう人たちはどうしているのでしょうか」という問いに,「はい,それはですね」と,やりとりが続いていく。こうして得体のしれない体験に症状ないし病名という既知の名称が与えられ,そこから診療が進んでゆく。
 このとき私たちの念頭にある症状や病名の基準を提供しているのがDSMである。私たちは2013年に改訂されたその最新版になじんでおく必要がある。DSM-5に新たに導入ないし改訂された疾患概念のいくつかは,導入当初は知る人も少なかったパニック障害(DSM-Ⅲ,1980年)や双極Ⅱ型障害(DSM-Ⅳ,1994年)が今では臨床家の常識となったように,今後の臨床に不可欠となっていくだろう。

—日本精神神経学会小児精神医療委員会 監修 齊藤万比古,小平雅基 編—臨床医のための小児精神医療入門

著者: 黒木俊秀

ページ範囲:P.404 - P.404

 今日,一般の精神科診療においても発達障害の比重が増えつつあることから,児童精神医学に対する関心と期待がかつてないほど高まっている。ところが,初めて児童精神医学を学ぼうとする者が戸惑うのは,その基本となるパラダイムが複数あり,統合されていないことである。まず,わが国では,従来から,力動精神医学の立場から子どもの精神発達を理解しようとする児童精神科医が少なくない。一方では,小児心身医学や小児神経学など,小児科領域から児童精神科医になった人たちもいる。さらに,近年の自閉症スペクトラムの病態の理解や支援には,TEACCHに代表される臨床実践の背景があるし,発達に関する認知心理学の進歩も目覚ましい。果たして,どこに基軸を置くことが最も適切に児童精神医学の基本を学ぶことになるのだろうか。Mahlerの分離-固体化理論を理解することと子どもの神経発達を理解することと,どちらが児童精神医学の基本であろうか。
 本書は,こうした児童精神医学の初心者の悩みに対して最良のガイドブックとなってくれるだろう。もともとは国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科において実施されてきた小児精神医療の専門家養成のための研修コースのテキストを資料としている。内容は総論と各論に分かれ,総論では子どもの精神発達や神経発達,母子関係など,児童精神医学の基本概念を扱い,各論は子どもの精神疾患や特有の臨床的問題(虐待や不登校など),検査,ケース・フォーミュレーション,治療介入技法,連携機関などを網羅している。特筆すべきは,各項目は,要約,理解度を点検するためのチェックリスト,視覚的な自由ノート,初級・中級・上級からなる研修の達成目標,および引用文献と推薦図書という決まったフォーマットにより構成されている点である。きわめて簡潔ながら児童精神医学を学ぼうとする者に必要なマイルストーンが明確に示されている。

学会告知板

第2回児童思春期精神医学夏期セミナー北海道大会

ページ範囲:P.358 - P.358

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.339 - P.339

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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編集委員会からのお知らせ

ページ範囲:P.413 - P.413

 本誌『精神医学』第57巻2号(2015年2月号)に掲載しました「〈講演録〉私の脳幹論」に関して,日本児童青年精神医学会ホームページに「戸塚宏氏ほか『私の脳幹論』に関する理事会声明」が掲載されました。本誌編集委員会ではこの指摘を真摯に受け止め,以下の見解を申し述べます。
 本講演録は,2014年11月28日,29日に,つくば国際会議場にて開催された第27回日本総合病院精神医学会総会の「特別講演1」をもとに,講演内容をダイジェストして報じたものです。もとより過去における戸塚氏の行いを風化させてはならないと考えますが,現代の青年が抱える心の問題に対する支援を考える上で少しでも参考になるものがないであろうかという意見もあり,精神医学を取り巻くさまざまな情報を提供するのが本誌の役割と考え取り上げました。しかし,編集室において講演録をダイジェストする過程で表現が不適切となったり,それを含めた内容の吟味が不十分であったことなどにより,読者から批判を受ける部分が少なからずありましたことは,大変遺憾に思います。今後はこれまで以上に注意を払い,慎重を期して編集発行する所存です。

次号予告

ページ範囲:P.406 - P.406

今月の書籍

ページ範囲:P.407 - P.407

編集後記

著者:

ページ範囲:P.414 - P.414

 57巻2号掲載「〈講演録〉私の脳幹論」に関する編集委員会からのお知らせを誌上に掲載しなければならない事態となり,読者の皆様にこころからお詫び申し上げます。今後はこれまで以上に慎重を期して編集する所存であります。
 さて,本誌の理念は原著論文を中心に編集することでありますが,本号においても統合失調症の日常診療に直結すると期待される玉稿を研究と報告,短報,資料欄に掲載することができ,ご投稿いただいた先生方に感謝申し上げます。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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