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雑誌目次

雑誌文献

精神医学57巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医学の進む道

著者: 武田雅俊

ページ範囲:P.416 - P.417

 2013年5月に発表されたDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)はDSM-Ⅳから19年ぶりの大きな改訂でしたが,もちろん完成された体系ではなく,今後も手直しが必要でしょう。
 精神疾患の分類体系化の困難さはKräpelin自身が「臨床症状,経過,転帰,終末像,剖検脳所見などを考慮して精神疾患を定義しようとする試みは大変な作業であったが,現在の分類は十分なものではない。新たな方法が模索されなければならない」と述べています(Zschr Neurol 62:1920)。

研究と報告

日本版短縮感覚プロフィールの標準化—標準値および信頼性・妥当性の検討

著者: 谷伊織 ,   伊藤大幸 ,   平島太郎 ,   岩永竜一郎 ,   萩原拓 ,   行廣隆次 ,   内山登紀夫 ,   小笠原恵 ,   黒田美保 ,   稲田尚子 ,   原幸一 ,   井上雅彦 ,   村上隆 ,   染木史緒 ,   中村和彦 ,   杉山登志郎 ,   内田裕之 ,   市川宏伸 ,   辻井正次

ページ範囲:P.419 - P.429

抄録
 本研究では,感覚刺激への反応異常のアセスメントツールとして国際的に広く用いられている短縮感覚プロフィールの日本版の標準化に関する研究の一環として,1,441名の標準化サンプルと317名の臨床サンプルのデータに基づき,日本版短縮感覚プロフィール(SSP-J)の信頼性および妥当性,標準値の検討を行った。分析の結果,SSP-Jを構成する質問項目は全般的に高い修正済み項目全体間相関を示し,α係数を検討した結果,十分な内的整合性を有していた。また,臨床サンプルにおけるSSP-Jの各セクションの得点と知能,ASD症状,適応行動との相関より,基準関連妥当性が示された。

インターフェロンによる精神症状発現の予測:気質・性格特性の関与

著者: 直野慶子 ,   安部博史 ,   武田龍一郎 ,   岩切久芳 ,   蓮池悟 ,   永田賢治 ,   下田和哉 ,   石田康

ページ範囲:P.431 - P.441

抄録
 インターフェロン(IFN)は,身体的な副作用のほか,時として不眠・抑うつ状態・躁状態・幻覚妄想・意識障害などの精神症状を生じ得ることが報告され,コンサルテーション・リエゾン精神医学の領域で重要な課題となっている。IFN療法が一般化するに伴い,臨床上問題化する精神症状は,自殺などの重要な問題につながることもある。IFNによる精神症状の発現には,患者の精神疾患の既往歴が密接に関連していることが報告されているが,既往歴のない患者におけるリスク要因の検討は十分ではない。そこで,精神疾患の既往歴・家族歴,年齢,性別に加え,気質・性格検査の下位尺度得点を説明変数,IFNによる精神症状の発現を目的変数とするロジスティック回帰分析を行い,精神症状の発現に関連する因子の検討を行った。2009年6月29日〜2014年6月30日までの調査期間に,宮崎大学医学部附属病院第二内科の医師の判断でIFN治療の導入が予定されている患者を対象とし,Temperament and Character Inventory(TCI)を用いて患者の気質・性格を検査した。合計114症例の患者のうち,IFNによる精神症状が出現した症例は30症例であり,症状の重複を含む内訳は不眠が17例,気分障害が8例,神経症症状が4例,妄想症が2例であり,そのうち精神科へ入院を要した患者は3例であった。IFNによる精神症状の出現と深く関連する因子は,精神疾患の既往歴(オッズ比6.632,95%信頼区間2.088-21.064,p<.005)とTCIにおける「損害回避」の尺度得点(オッズ比1.204,95%信頼区間1.049-1.380,p<0.01)であった。さらに,Receiver Operating-Characteristic(ROC)曲線を用いた検討により,「損害回避」のカットオフ値は15.5点(20点満点)であり,精神疾患の既往歴だけでなく,TCIにおける「損害回避」尺度の得点が高いことでIFNによる精神症状の出現を予測し得ることが示唆された。

紹介

統合失調症患者の就学支援デイケアの実際

著者: 武田隆綱

ページ範囲:P.443 - P.449

はじめに
 青年期発病統合失調症は予後不良例が多い4〜6)とされているが,筆者は高校や専門学校や大学などの高等教育への未就学や中途退学による患者の学歴に対する劣等感が意欲や発動性に影響を与え,予後を不良にしている要因の一部であると考えている。筆者はこの仮説に基づき1985年から4年間にわたって群馬大学精神科デイケアで就学問題を有する青年期発病統合失調症患者の就学支援に集中的に取り組んだ。その後も統合失調症患者の就学支援に継続して取り組んでおり,これまでに就学支援により改善した症例をいくつか報告し7〜11,13〜17),就学支援の適応,有効性,患者や家族への働きかけ,学校との連携,勉強指導方法について述べてきた12,18〜20)。今回は,筆者らが群馬大学精神科デイケアで行った就学支援の実際について紹介する。

試論

「脆弱性ストレス-情報伝達障害モデル」による統合失調症発症機序解明の試み

著者: 中西伸介 ,   山中康裕

ページ範囲:P.451 - P.459

抄録
 統合失調症の発症機序について種々の仮説はあるもの,いまだ不明なところが多い。そこでこれまでの多くの研究に基づいて,従来の「脆弱性ストレスモデル」を発展させた新たなモデル「脆弱性ストレス-情報伝達障害モデル」を提案した。本モデルは「脳の情報処理過程において,ストレス情報の情動ネットワーク思考ネットワークへの伝達が障害されることにより,ストレスから個体が保護される一方で,情報伝達障害および情報伝達障害による情報統合の破綻により統合失調症が発症する」という仮説を基本とする。このモデルによって統合失調症の臨床症状を論理的に説明できるか否かが,生物学的方法では困難な本モデルの信頼性検証の一方法となる。

連載 精神科の戦後史・5

大学紛争と精神病院を巡る不祥事件

著者: 新谷周三

ページ範囲:P.461 - P.468

はじめに
 筆者は,1973年(昭和48年)入学の大学紛争の最盛期には少し遅れてきた世代で,高校1年の冬に,東大の安田講堂攻防戦を下宿のテレビで見ていた世代です。しかし大学に入り,翌年,全日本医学生連合(医学連)主催の第13回全国医学生ゼミナールに出席,翌1975年(昭和50年)の第21回医学連定期大会,防衛医大解体闘争(図)1)への参加から,第19回日本医学会総会(京都,平沢興会長)粉砕闘争,在日韓国人政治犯救援運動へとのめり込んでいきました。

書評

—ジャック・ラカン著,新宮一成 訳—精神分析における話と言語活動の機能と領野—ローマ大学心理学研究所において行われたローマ会議での報告 1953年9月26日・27日

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.486 - P.486

 大学の授業でも新刊の紹介でもあらゆるところでいかに分かりやすいかが称揚されている。しかし本当に価値あるものを獲得するために応分の労苦を代価として支払わずに済むということがあり得るだろうか。本書はその訳注をみれば分かるように,この困難な著書のできる限りの周到な道案内を提供してくれてはいる。つまり本書を読むのに必要とされる古今東西の古典やさらには当時最新の動物生態学などの博識がたとえなくても読み進めることができるように簡潔に,膨大な量の背景知識が訳注として周到に用意されている。つまりは可能な限りはラカンという険しい道のりを不必要に迷わないよう配慮はされているが,しかしそれはあくまでもこの険しい山道を登ろうと決意した登山者に対する道しるべであることに変わりない。
 いくぶん挑発的なものいいかもしれないが,精神分析への一般精神科医の関心は今や死滅しつつあるといってよいのではないか。ある雑誌で認知行動療法と精神分析的精神療法の棲み分けといったテーマで特集を組んだ時に,認知行動療法を専門とする臨床心理士の大家の方から,「認知行動療法は,精神分析を歴史的に止揚して次の段階に進んだ次世代の技法なのだから,棲み分けなどと言うのは全くの時代錯誤だ」という抗議をいただいたことが記憶に新しい。今世紀に入り根本的なパラダイムシフトを来した精神医学にとって,脳科学と接続可能で,エビデンスの蓄積可能な認知行動療法が精神分析的精神療法を駆逐しつつあるのはある意味必然的な成り行きとも言える。

—石郷岡純,加藤 敏 責任編集—精神医学の基盤(1)—薬物療法を精神病理学的視点から考える

著者: 仙波純一

ページ範囲:P.489 - P.489

 「精神医学の基盤」と名付けられたB5判238ページからなるムックの第1巻である。この巻では「薬物療法を精神病理学的視点から考える」というテーマが特集として取り上げられている。編集にあたっているのが,それぞれ精神科薬物療法と精神病理学において,わが国で主導的な立場にいるお2人である。そそっかしい読者は表紙を見て「精神療法と薬物療法」という精神医学における恒例のテーマについて論じたものと勘違いしてしまいそうであるが,そうではない。そもそも精神病理学と薬物療法とでは目指す方向が異なっている。精神病理学はそれが治療に直接役立つかどうかは本来問題とされない。一方,薬物療法は治療に役立たなければ存在意味がない。しかし,患者の精神病理が薬物の効果にしばしば大きな影響を与えることを我々は知っている。一例として薬物療法におけるプラセボ効果が挙げられるであろう。プラセボ効果は真の薬物効果とはいえないが,患者の精神病理によって治療に対してポジティブに働くこともあれば,逆にノセボ効果としてネガティブに働くこともある。本書では精神病理学の側から薬物療法をどう考えるべきかを,多くの研究者に問いかけ,それに対するさまざまな回答が集められている。
 全体は,編者2人による「薬物療法の進歩と精神病理学の展開」と題された対談に始まる。この対談では2人のエキスパートが,なれ合いの議論ではなく,対立すべきところは対立して論じ合っている。緊張感を持った対談で,両者の真剣さが印象的である。これに続く部分は大きく2つに分かれている。第Ⅰ部は「薬物療法の精神病理学的意義」とされ,10編の論文が含まれている。精神病理学と薬物療法について正面から論じた論文が4編あり,残りの6編は各精神疾患における薬物療法の精神病理学的な意義について論じられている。後半の第Ⅱ部は「精神科治療のメカニズムと精神病理学」と題され,6編の論文が含まれている。しかし,本書のテーマは,それぞれの執筆者にとっても容易な仕事ではなかったように思われる。真正面からこの問題を取り上げて論じる著者もいれば,一見それとは関係のない議論に始まり,最後にこの問題に答えるという著者もいる。一部には,精神病理学的視点を症状論的な視点と解釈して論じている著者もいる。しかし,全員がこの問題に対して真摯に取り組んでいる姿勢は明らかである。

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.429 - P.429

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。
ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.487 - P.487

次号予告

ページ範囲:P.490 - P.490

編集後記

著者:

ページ範囲:P.494 - P.494

 「科学は分類に始まり分類に終わる」といわれるが,精神疾患の分類ほど難しいものもないだろう。だが,そもそも「狂気」の起源は「神」と同様,人類の歴史とともにあり,その「分類は精神医学が学問として成立する以前から存在しており,事実,精神医学それ自体が分類から生じたのである」(Stefanis, N. C.)。こんな大仰なことから書き始めたのは,巻頭言で武田雅俊先生がDSM-5の話題から入り,精神疾患の分類の変遷とそれを医療でどう生かしたらよいのかについて正鵠を射た意見を簡潔にまとめられていたからである。DSM-5でも妥当性と信頼性が議論になったが,生物学的知見がいかに蓄積されようが,また統計学的処理がいかに科学的であろうが,illnessとcasenessの問題,その症状がpathogenetischなものに由来するのか,それとも時代や文化の色彩を帯びたpathoplastischなものにすぎないのかといった根本的問題はいつもつきまとう。
 折しも,連載『精神科の戦後史』も5回目に入り,団塊の世代の精神科医には懐かしい思いがするが,その当時は分類も簡単だった。Laingの反精神医学の影響がまだ色濃く残り,疾患それ自体(illness)よりも疾患とされるものを取り巻く環境の反応(caseness)のほうを重視する姿勢が強かった。統合失調症が主対象だったが,その患者を周囲がいかにcaseにしないで支えていくかということに目がいったのである。そんな時代には分類など大した問題ではなかったのである。今回の連載には「宇都宮病院事件」も載っているが,最近某大学で起こった精神保健指定医レポート捏造事件の当事者たちは,賛否はあったが指定医制度ができたきっかけにこの事件があり,その背後には「社会的入院」というまさにcasenessの問題があったということを知っていたのであろうか。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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