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特集 自殺対策の現状
救急医療を起点とするエビデンスに基づく自殺未遂者ケア—ACTION-J試験の成果と課題
著者: 川島義高1 河西千秋2 衞藤暢明3 山田光彦1
所属機関: 1国立精神・神経医療研究センター精神薬理研究部 2札幌医科大学大学院医学研究科精神機能病態学 3福岡大学医学部精神医学教室
ページ範囲:P.523 - P.529
文献購入ページに移動自殺企図の既往は,その後の自殺再企図や自殺死亡の最も強力な危険因子である1,10)。英国の研究では,救急医療機関を退院した自殺未遂者の0.5%が1年以内に自殺企図により死亡すると報告されている2)。わが国では,救急医療機関を退院した自殺未遂者の2.6%が1年以内に自殺完遂に至るとされ9),自殺再企図においては20%にのぼる5)。消防庁の報告によると,自損行為による救急搬送件数は,年々増加傾向にあり,2010年には51,000件となり,1997年(28,000件)の約2倍に上昇している11)。また,日本の救急医療機関を受診した自殺未遂者を対象にした研究の系統的レビューとメタ解析の結果では,全救急受診者1,319,848人中の自殺未遂者の割合は4.7%であった8)。加えて,自殺未遂者の多くが精神疾患に罹患しており,中でも気分障害の有病割合はICDで30%,DSMで35%と最も高かった。このように,日本の救急医療機関には,自殺未遂者が多く搬送され,彼らの多くは精神疾患に罹患している。したがって,救急医療機関で命を救われた患者が再び自殺へと追い込まれることがないように,救急医療機関を起点として,精神科医療機関や地域精神保健福祉機関が連携し,適切なケアを提供することは,自殺予防対策にとって最も重要な課題のひとつといえる。
わが国では,2007年に,政府が推進すべき自殺対策の指針として,自殺総合対策大綱が閣議決定された。そこには,9つの優先課題が掲げられた。自殺未遂者対策はこの優先課題のひとつに含まれており,救急医療機関における精神科医療を充実させることにより,自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ必要性が示された。2012年に改訂された大綱でも救急医療機関における自殺未遂者対策の必要性は再掲されており,救急医療機関が自殺未遂者に対する重要な治療的介入の場であることが強調されてきた。しかし,わが国では,自殺再企図防止に効果があると科学的に確認された自殺未遂者への介入法はなかった。また諸外国でも,救急医療機関を受診した自殺未遂者を対象にしたランダム化比較試験がさまざまな介入手法を用いて行われてきたものの4),研究デザイン上に明らかな問題があったり,対象者数が不十分なために介入の有効性を明らかにできなかったり,結果の再現性が乏しいといった問題があった。このような社会状況の中,厚生労働省により自殺対策の科学的根拠(エビデンス)を創出することを目的として,「自殺対策のための戦略研究」が2005年より開始された。「自殺対策のための戦略研究」では2つの大型研究が実施されたが,そのうちの1つが「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究(通称:ACTION-J試験)」である。ACTION-J試験は,世界でも類をみない自殺対策のための大規模多施設共同ランダム化比較試験であり,研究開始当初から,諸外国において高い注目を集めてきた。そして,2014年8月に,ACTION-J試験の成果の第1報がLancet Psychiatry誌にて発表され,救急医療機関退院後の自殺未遂者において強力な自殺再企図防止効果が確認された6)。ACTION-J試験は,これまでに数多く行われてきた介入研究の問題点や課題の多くを克服した研究であり,その成果は,わが国だけでなく,国際的にも注目された。本稿では,この研究に携わってきた立場から,あらためてACTION-J試験の概要とその成果について解説を行い,さらに,その成果の活用に関する今後の課題について検討する。
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